転生したので反則技で魔法少女のお手伝い/敵することにした   作:絶也

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前話に追記編集入れたので、まだ見てない方はそっちからどうぞ。


4話 街の危険に向かうことにした・前

日曜日の朝。

閉じた視界を光に埋め尽くされ、否が応でも目が覚める。意識はいまいち覚めないが、考えてれば覚めてくることだろう。

カーテンの隙間から差す朝日が煩わしく、閉じるか開くか悩んでから結局開いてなるべく意識を覚醒に向かわせることにする。ついでだから思考も回して起きるとしよう。

 

結局、事故に遭った、というか遭わされたあの日から、何事も起きず平和そのもので日常は過ぎていった。

殺されかけたことで少し印象が弱くなったが、早くもなのはと別行動になって今どうしているのかがわからなくなっている。そのうえ、アリサと仲良くなってしまった。

それ自体は嬉しいけど、そうなるのがこうも早いとこれから先の影響がないか不安なところだ。

 

机に置いてあるなのはノートを開き見る。

事実と照らし合わせるに、幸いなのはの行動はまだ把握してる範囲であり、アリサはそもそもまだなのはの秘密を知らないからどのみち簡単に歴史に踏み込むことはなさそうなことか。後者は希望的観測が多分に含まれてるが。

 

休みに入る前に、なのはとすずかにも一応事故に遭った話くらいはした。半分以上は注意喚起、というか同じことをさせないために軽く広めておくのが目的だ。次は見逃さないぞ、と。

だから、その相手がアリサのとこの車だったこと、そして悪意を持って遭わされたことは言っていない。

言えなかった、というのもある。

知っていればわかる、という前提がつく程度のものではあるが、ここ数日のなのはは傍目に見ても疲れているように思えたから、自己解決できることで心配をかけたくなかった。

昼は小学生、夜は魔法少女、夜の活動は休みなしとなれば、そりゃあ子供にはきついんだろう。

 

窓の外を見て、青空にはあまり似つかわしくない俺のデバイス、クロッカスを見て思う。

転校してきて…転生してきて大体1週間。未だに正体の掴めないイレギュラーな相手こそあったものの、それなりに馴染んできたんじゃないかと自己評価する。一方で、ストーリーに沿うようにしているのはあっても、馴染め過ぎているのではないかという危惧がないでもない。

もしこのまま、気づかないほど自然に未来が変わってしまったらどうしようかと常に考えてしまうのだ。

 

「はぁ…」

 

それでも願う未来があるのならやるしかない、とわかっていても大きな溜息が漏れる。

なのは達と一緒に過ごす日々それ自体は楽しいのが救いだ。今日も誘われてはいるしな。

友達として一緒にいることは苦じゃないし、眠気覚ましに欠伸をかみ殺して今日も行くかと身を伸ばす。

さて。

今日も1日頑張ろう。

 

 

 

 

 

なんかもう頑張りたくない。

朝の意気込みから即落ちもいいところだが、もうダウンしてしまった。

 

「どうしたの帝翔君?」

 

不思議そうに声をかけてくるなのはに大丈夫とサインを送りつつ、原因君なんですよと敬語で言いそうになる。

今日の約束はサッカー観戦。といってもプロの試合を観に行くとかそんな仰々しいものではなく、なのはの父親、高町士郎さんがコーチ、とオーナーもだったか。兼任で務めるサッカーチームの試合の日。

…名前が出てこない。なんだったか、確か…

 

「にしても、強いわよね翠屋JFC。」

「ね~、今日も勝ったらいいなぁ。」

「サンキューアリサ、すずか。」

「え?なんで帝翔がお礼?」

「?」

 

翠屋JFCだ。なのはの家が経営するお店、喫茶翠屋のチームか何かなのかもしれないが俺はよく知らない。

で、その試合を見に来ただけでどうしてこうも俺の気力が奪われているのかというと…

 

 

『お父さーん!』

『んー?おーなのは、それにみんなも、よく来てくれたね。…ん?知らない子が居るな。』

『あ、初めまして。天坂帝翔(あまさかていと)といいます。よろしくお願いします。』

『おや、これはご丁寧な挨拶をどうも。なのはの父の士郎と言う。なのはと仲良くしてやってくれ。』

 

 

丁寧に挨拶しつつも、可愛い娘にできた初めての男友達ということで軽い威圧が入った気がする。そんなことはないだろうとは思いつつもこの身体でガタイのいい大人と話すのって思ってたより疲れる。

自分でも信じられないことに、たったそれだけでめちゃくちゃ気力が持っていかれた。確かなのはの兄が凄まじい実力者だったはずだから、その系譜で本当に脅かされてたりしたらこうなるのも…いや、それならもっと酷いか。

 

応援席となるベンチには残念ながら(助かった)いつもの3人が座れる程度の大きさしかなかったので、仕方なく(本当に助かった)その横に立つ。行き場のない腕を組みながらもさっきのことを思い出し、また気力を吸われる気分で項垂れていると、我らがなのはのお父さんこと士郎さんと、相手チームのコーチらしき人の会話が聞こえてくる。

 

「さて、応援の席も埋まってきたようですし、そろそろ試合を始めますか。」

「ですな。」

 

サッカーねぇ…見に来ておいてなんだが、俺はこの手のスポーツはあまり好かない。

退屈な時間になりそうだ。

 

 

試合開始のホイッスルが鳴りフィールドのボールが転がると、外からの声援も入り始める。もちろん、こういう時3人の中でも一際強く楽しむのはアリサだ。かといって、ぱっと見内気そうに見えるすずかも声を出さない訳じゃない。二人とも同じくらいの声量で、楽しそうに声援を送っている。一瞬、このサッカーチームに入れば俺も応援してもらえるだろうかと真剣に検討してしまうくらいには。

 

ちなみになのははあんまり声を出していない。膝の上のユーノと話しているのだろう。

フィールドで鎬を削る2チームの試合も熱くなり、翠屋JFCが点を入れるとこっち側の応援席が大いに盛り上がる。向こうのシュートを止めた時なんて俺まで感心した。

…。

……。

…………。

 

 

 

試合は2-0で翠屋JFCの勝利。

試合が終われば歓声が上がり、思い思いの声が吐き出される。今日の俺は勝った方を応援していたからか、たくさんの嬉しい声がよく聞こえ、マネージャーの女の子がキーパー君とグッドサインをするのまで見えた。

かなり見入ってしまった…面白いわサッカー…思わず拍手しちゃうしいつもなら爆ぜろと思うグッドサインも見逃すくらいよかったわ…

そんなわけで試合も終わり士郎さんがチームを呼び集めていた。

 

「よーし、みんな良かったぞ!練習通りだ!」

「「「はい!」」」

「じゃ、勝ったお祝いに飯でも食うか!」

 

用意はいいかとばかりに腕を掲げ言われた台詞に、子供たちが歓喜の声を上げる。

よく運動した後は腹も減るよな、たくさん食べろよ子供たち。

 

 

 

ところ変わって、喫茶翠屋。

なのはの家、つまり高町家が営む喫茶店だ。内装もお洒落で、ケーキが美味しいとの評判は俺でも聞いたことがあるような地元で評判のお店というやつだが、今日は同じ服を着た少年たちで席を埋め尽くされていた。飯でも食うかとはここだったようだ。

 

で、俺たち4人はそんな喫茶翠屋の外でお茶していた。

 

「こう来たかー…」

「?」

 

ケーキを前にしたすずかがちょっと不思議そうな顔をしていたが、そんなものはすぐに消えてしまった。

差し当たっては、もっと別に気になることがあったのである。

テーブルの真ん中には小さく長い胴体。ご存知ユーノ君がアリサとすずかの視線を受け、なんとも言えない顔をしていた。

だからなんでなのはも同じ顔してるんだよ面白いな。

 

「それにしても、改めて見るとこの子フェレットとちょっと違わない?」

 

ぉおっと初っ端からアリサが核心ついてきた!

なのはからギクッ!という擬音が聞こえてくるかのようだ。

 

「そういえばそうかなぁ、動物病院の院長先生も変わった子だねって言ってたし。」

 

これはヤバい、みたいな感情がなのはの顔からかんたんに見て取れる。

今だけは笑うのが苦手な自分に感謝しよう。でなければここで爆笑した可能性も否定できない。

 

「あーええと、まあちょっと変わったフェレットってことで…ほらユーノ君、お手っ。」

「キュッ」

 

なんとか笑いと勢いで乗り切り、芸を見せたユーノにアリサが心底感嘆した声をあげる。

すずかに至ってはもうメロメロになってkawaiibotと化している。俺も正体知らなかったらアリサみたいな反応をしただろうな。

左右から挟み込まれ、撫でまわされるユーノがちょっと不憫だった。

 

と、そんな風にもみくちゃにされているユーノを眺めていた時だった。なのはがハッとこっちを見てくる。正確には、俺の背後。

お茶を飲みつつ横目で確認すると、サッカー組はもう解散だったようでさっきの試合で活躍していたキーパー君が歩いているのを見ている。

 

これが色恋の視線だったなら悪態をついていたところだが、知っている。次のジュエルシードはここだ。魔力でも感じ取ったか、それに僅かながらも勘づいているのだろう。

走ってきたマネージャーと話しながら去る二人を見ながら、俺が見てわかるくらいには表情が険しくなっている。確信よりは不安といった様相だが、それこそ俺よりわかりそうな仲良し勢はというと、

 

「はー面白かった、はいなのは。」

 

ユーノが目を回すまで延々と可愛がっていた。

気持ちはわかるけど手加減してやれよユーノダメになってるし差し出されたなのは困ってるじゃん。

 

「さて、じゃあアタシたちも解散?」

「うん、そうだね~」

 

下に置いていた手荷物を持つアリサに同じようにすずかも乗る。

 

「ん、今日は早いんだな。いつもこれくらい?」

 

「今日は二人とも、午後から用事あるんだよ。」

 

「そうなの、わたしはお姉ちゃんとお出かけ。」

 

「パパとお買い物!」

 

「いいね、月曜日にお話し聞かせてね?」

 

「なのはのついでに俺にも聞かせてくれると嬉しいです。」

 

「なにその口調…」

 

「お、みんなも解散か?」

 

そうこう話していると、俺達より…いや、男は俺だけなんだから俺よりか。一回りも二回りも低い声で話に入ってきたのは士郎さんだ。キーパー君が帰っていて、恐らくサッカー部の方は解散しているのだから娘の様子を見に来るのは当たり前の流れだ。

 

「あっ、お父さん!」

 

「今日はお誘いいただきまして、ありがとうございました!」

 

「今日の試合、かっこよかったです。」

 

アリサ、すずかと丁寧な挨拶をしている。

先に2人に挨拶とかしたいだろうし、一度流そう。俺と2人とじゃ親密さ全然違うからな。

というか士郎さん、流石に翠屋ではお客さんとして振る舞わないからエプロン着けて店側の人になってるな…

 

「ああ、アリサちゃんもすずかちゃんも、ありがとなー応援してくれて。」

 

「…凄く練習してるんですね、それに楽しそうでした。」

 

「お、そうかそうか。サッカーは楽しいぞー?えー…」

 

「天坂帝翔君、だよ?お父さん。」

 

「天坂帝翔君か、ごめんなー、すぐに覚えてやれなくて。」

 

「いえ、初対面ですし気にしてません。改めてよろしくお願いします。」

 

「しっかりしてるなぁ…はい、よろしく頼むよ。それで、皆帰るなら送っていこうか?」

 

頭を下げて挨拶すると少し感嘆したように返してくれる。こっちは第一印象のせいか正直今も緊張しっぱなしなのだが、そんなこと士郎さんに関係ないのでにこやかに俺…というよりはアリサとすずかに話しかけてくる。

 

「いえ、迎えに来てもらいますので。」

「同じくです!」

「近いので大丈夫です。」

 

「そっか。なのははどうするんだ?」

 

「んー…おうちに帰って、のんびりする!」

 

「そっか、父さんもうちに戻って一風呂浴びて、お仕事再開だ。一緒に帰るか?」

 

「うん!」

 

嬉しそうに返事するなのはを微笑んで見返す士郎さん。お姉さんとお出かけすることになってるすずかも、お父さんと買い物に行くらしいアリサも、3人揃って家族仲が良好なのを見ると少しばかりの寂しさを覚えないでもない。

 

転生モノではあまり見たことないような感覚だから忘れていた。この世界、今の俺に家族が居ないのは覚えていても、それに対し寂しさを覚えることになろうとは。だからといってどうにもならないし、どうにかしたいとも思わないが。

 

「(……そうなっても、やりたい事があるんじゃしょうがないよなぁ…)」

 

3人が席を立とうとしていたので、考え事を切り捨てて俺も立つ。どうにもならないことよりも、今からしなきゃならないことを考えよう。1つ目に考えておくべき動きは、多分ここからだからな。

 

「「じゃーねー!」」

「それじゃ。」

 

「またあした〜!」

 

アリサとすずかと一緒の帰路につき、手を振りあう3人を微笑ましく見守る。

 

いつものことだからかそれはすぐに終わり、俺だけがなのはと士郎さんを見ていると、2人もまた何か話しているようだった。距離と声の大きさで何も聞こえないが、和やかなそれはやはり家族故か。

 

一抹の寂しさは感じるが、それもすぐに気にならなくなる。

きっと、こんな感情よりも未練が大きかったから転生なんてしたのだろう。

だとすれば、なのはも、アリサもすずかも家族が大好きなのに対して、俺だけがどこか狂っているのかもしれなかった。




なんかしっくり来ないけど投稿するよ。

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