転生したので反則技で魔法少女のお手伝い/敵することにした 作:絶也
考える。
考える。
考える。
元々俺の考えていたやり方はどうだった。
何事もなく日々を過ごす、ではない。何事もないように日々をやり過ごす、だ。似ているが、この2つには大きな差がある。
前者であれば、そもそも魔法なんて必要としないのだ。そして、それによって起きる影響も考える必要がない。
一方、元々考えていた後者は、『未来をなるべく変えることなく、必要な時まで行動を起こさないこと』を目的とする。
つまり、俺は今まですぐに動かなければいけないとは全く考えていなかった。
状況が変わったのは、もう1人の転生者と思しきあの女の子が出てきてからだ。
条件が強い未練を遺して死んだとかいう中々キツいものであることを踏まえてもこの世界に転生してきたのが俺以外ではあの女1人とは限らないが、まずは目下の問題であるあの女を考慮しよう。
高町なのはから手を引け、という言葉からして、俺がなのは達と関わることを良しとはしていない。
気持ちはわかる。関わってる俺自身そう思うくらいだ。
問題なのはその良しとしていない、が下手すると死にかねないほどのものだということだ。
それも、事故に遭う瞬間の見間違いでなければ、向こうも確かに何らかの転生による恩恵を受けている。転生した者同士である以上どっちが上とかは流石に予想がつけられないが、ひとまず互角と考えよう。
時期が時期であることと、向こうがそもそもなのは達に関わることを良しとしないなら、恐らく実戦経験もほとんどない。お互い様だが、それだけでも一方的にやられる要素は1つ減った。
ただし、向こうは道路に蹴り出すくらいだから、なんなら俺が死んでもいいと考えている。
出来ることなら、そんな躊躇いのないおかしい奴は直接戦う以外の方法で遠ざけるべきだ。
そんな手段が、
「思いつかねー…………」
思わずベッドに身を投げ出す。
アリサとすずか、2人の迎えが来て帰ったのを見送ってすぐ、俺は自宅に帰ってきていた。
手段、手段か…正確に言うといくつかは思いついている。どれもこれも当初の思想と食い違うが。
しかし、俺自身命が懸かっていることを考えるともうそこは多少なり変えてしまった方がいいのかもしれない。目的を変えてしまう訳ではないし。
現時点で既に、俺は手をひけという言葉を無視してみんなと過ごしている。これだけでもきっと許し難いことだろう。つまり、1人で行動する時の俺の安全地帯はもはやほぼないと考えるべきだ。尾行されて家特定なんてされようものなら家までそうなる。
「……直接戦ってねじ伏せる、かぁ…?」
いまいち閃がなく、ボヤきながら持っていたなのはノートを閉じると同時に、脳が揺れるような感覚が来る。魔力を感じ取っている感覚、が多分これだ。そしてタイミングとしても間違いはない。ジュエルシードだ。
あのキーパー君が持っていた、今度は間違いなく、たくさんの人を危険に晒すジュエルシード。
「………。クロッカス。」
《Yes,master》
着替えていなかった服もそのままに、飛んでくるクロッカスを掴んで起き上がる。
同時に全身が、いいや近隣全てが揺れる。巨大な何かが身を起こそうとしているかのようだ。
得た者の願いを叶える力、ジュエルシード。
その叶える形は様々で、きっと使い方を間違えなければ本当に幸せを運ぶ宝石になり得るのだろう。
が、これは違う。こんな暴力的な振動が、キーパー君の願うものであるはずがない。
窓の外を見ようとすると、既になのはが走っていくのが見えた。
あの方向に向かうとなのはとぶつかるな…
階段を駆け下り、家を飛び出す。
まずは事態を一望するために、ひと目でわかる高い場所。
まあなのはが向かったのが1番大きなそれなのだが、俺は俺で別の所を目指す。
適当な建物を見繕い、その屋上に来てみれば事態はすぐに把握出来た。
というか、今まで把握出来なかったのが不思議なくらいだ。
その全貌は、一言で言えば歪んだ樹木。街で1番大きなビル、それを容易く凌駕するほど巨大で、歪んだ形のそれがそびえ立っている。街に根を張るような破壊を起こしながら。
つい飛び出してしまったが、確かこの先に犠牲らしい犠牲はなかったはずだ。
だから手を貸すようなことは特にない。
とはいえ…画面越しの脅威だったものを、今初めて現実のものとして認識した。
人が手にしたジュエルシードは、その力を使うつもりがなくともこれ程の力を発揮するのか。
「……ユーノが早く回収したがる訳だ…」
こんなもの、少しだって長く野放しにしておくべきものじゃない。
これからのことを知らなければ、俺だってなりふり構わなくなっていたかもしれない、そういうものだ。
とはいえ、やはり今回はわざわざ出てこなくても良かったな。
脅威の認識は大事ではあるが、危険と天秤にするほどじゃない。
空を駆ける薄桃の閃光を見ながらそう思う。
今のはサーチ、つまりこの街を囲むほど巨大なこの樹木の元となる部分を探していたのだろう。
程なくして、事態は収束する。
それを示すように、向かい側の1番大きなビルから、同じような色の光が見えた。閃光が樹木の一部分を掠めると、まるで街に破壊の爪痕を残したそれはまるで夢だったかのように霧散する。
空は夕暮れ。一日が終わりに向かうには、少しばかり街に瓦礫が多いように思える。
なのはは今回のジュエルシードがキーパー君であることに勘づいていた。
いずれにしろこれを未然に防ぐなんて、魔法少女であること以外はあくまで普通の小学3年生のなのはに出来たとは思えないのだが、それはそれ。自分がそれを出来る立場にいた、というだけでも罪悪感は覚えるだろう。
あまり引きずりこそしないが、今回の件で少し落ち込むことを知っている。どれくらいかは知っているが、今はちゃんとした友達である以上ちょっとだから良いかとはならない。
「……なのはの責任じゃないんだから、あんまり落ち込まなきゃいいんだけどな…」
「それはお前の気にすることじゃない。」
独り言のつもりで放たれた言葉に応える声。
話したことがある訳ではない。だが、鮮烈に印象に残る、それだけのことをしてきた主の声。
噂をすれば影が差す、とは聞くが、考え事の議題にしていただけでそうなるとは恐れ入る。
「……なんなんだ、殺したいほど俺が憎いのか、お前。」
振り返れば奴がいる。
逃げも隠れもせず、堂々と歩いてくる姿。学校がないからか今日は動きやすそうな私服らしい。やはり推察される歳は俺達、なのは達よりも2つほど上だろうか?
黒く長い髪を風に揺らし、大人びた表情に冷たい瞳を湛えながらじっとこちらを見つめている。
「憎い?お前が私に何かをした?」
いっそ無邪気に、不思議そうに聞き返してくる。
だからこそますます疑問だ。引き剥がそうとすることはあっても、初っ端から殺しに来られる謂れがない。
「…何もしてないよ。だからわからない。なんなんだお前。」
「私は警告した。一度目はどうせ生き残るだろうと踏んでいたし、死んでいたらそれはそれで構わなかった。」
質問には答えられない。代わりのように、あの事故の際の奴の意図を淡々と話してくる。
酷く、危うい。無表情で話すそいつを見て、俺が抱いたのはそんな感想だった。
「だというのに、お前は聞かなかった。なら直接手を下す。明日からの学校で、お前が席に着くことは無い。」
ただ一つ明確に伝わってきたことは、交渉だとか説得だとか、命乞いすらも聞き届ける気は毛頭ない、という強い意志だけ。そして、俺が感じたそれを裏付けるかのように懐から取り出したそれを見せつけてくる。
「…ベルカの魔法陣…?いや、それを模ったデバイスか。」
「そう、名前はエクスギアース。もう気づいてるんだろうけど、転生で私が手にした、私のデバイス。お前も聞いてるし、持ってるんでしょ?あの転生のシステムと、デバイスを。」
「……」
こんなことになるとは思っていなかったとはいえ、自分に関わることだ。ちゃんと聞いている。
確か、この転生は───
『バランスぅ?』
『はい、バランスです。』
期待していたような俺TUEEEEはありませんよ、と目の前の女神とやらは付け加える。
別にそこまでの期待はしていなかったのだが、そうはっきり言われると異世界転生に転生したらやりたい放題チートし放題、みたいなイメージを持っていた俺としては落胆する気持ちも否定できない。
『はー…で、それじゃあ転生って何ももらえずただ生きる世界が変わるだけなのか?』
『まさか。あなたみたいな人の未練が解消できないでしょうそれじゃ。』
『ごもっとも。じゃあどうするんだよ。』
『だから、バランスって言ってるじゃないですかばーか。』
『は?』
『転生者っていうのはいわば神様からの直接の使いです。その恩恵を自ら選んで授かれるんですから。では、仮にそれで転生して君臨したとしましょう。そこで元々生きて、己を研鑽していた人にとって、その存在はどうなんでしょうね?』
『……なんでそこまで強いのかわからないのに、そいつの努力全部無に帰すクソチート野郎、だな…』
なるほど、この女神の言いたいバランスって言葉の意味がわかってきた。チートを手にやりたい放題する異物、ではなくその世界に生きる人の一人になれ、ってことか。王ではなく民から始めて、欲しいこと、やりたいことは自分の力でつかみ取れ、と。
『いいな、理不尽は抑え目って感じで。』
『かといってあっけなく死んでも意図した未練解消できなくて本末転倒なので、転生先の世界においてバランスを崩して個人でめちゃくちゃにしたりはできないくらいのギリギリ「うーん、チート?か?」みたいなラインがあなたの貰える恩恵になります。』
『筋は通ってるな。神様のくせに。』
『神様なので、えらいのです。』
えっへん、と胸を張る女神はどうでもいいのでスルーして、肝心の内容を聞きたいところだ。
『で?俺はなのは世界でのどれくらいまでもらえる?』
『ご自分で好きな恩恵を選んで、上限まで授かれます。』
『上限?』
『装備スロットって知ってます?』
俗世に染まりすぎだろ神様。
考えるにアホな記憶が出てくるばかりだが、確かに転生上のシステムは説明されていた。決められたスロットの数に、総合的に受ける恩恵が5以下ならいい、とかそんなだったはずだ。
つまり、一応サイズ5まで恩恵を受けてる俺と、何をどれだけ貰ったかわからないあいつも、持っている力は互角な訳だ。
「一応聞きたいんだけど、和解の道は?俺にはお前と戦う理由全然ないんだけど。」
「ない。お前がなのはと関わり続ける限り、私はお前を敵と認識し続ける。嫌なら手を切りなさい。」
「………どんな信念、いや、未練を持ってここに転生してきたかは知らない。けど、お前がそれを理念に俺を殺そうとしてるなら、やっぱり俺には受け入れられない。」
もう隠す意味もない。というより、本気で殺しかねない相手の前でそんな余裕はない。ポケットから羽を携えて飛び出したクロッカスを掴み取り、見せつけるように突き出す。
「お前がそう行動するように、俺にも転生するだけの未練と、心底からやりたいと思うことがあるんだ。だから、ここは退いてやらないぞ。」
俺の言葉が、どれだけ受け止めてもらえたのかはわからない。それに、正直もう説得なんて諦めてる。だって、俺だったらどれだけ言葉を尽くして説得されてもきっとこれを止めたりなんかしないから。
同じように転生してきたあいつが、お互いのことを何も知らないのに口先で止まるはずがない。
ここから先はガチバトル。
初陣だ。
「………エクスギアース。」
「クロッカス!」
「「セットアップ!」」
転身、というのはどういった感覚なのか、気になってはいた。アニメなんかではよく長く変身バンクが入るが、実際にはどうなのか。自分で経験した時、本当にあれだけの時間が掛かるのか、それとも一瞬なのか。
答えは両方だった。
着ていた衣服はすでになく、代わりに俺が纏うのは紫紺のローブ。それに腕まで覆う左手のみの手甲、シュテルをイメージしたものだ。自分の姿は見えないが、今の俺は黒と紫紺の混じるダークカラーの魔導士になってるはずだ。この手に握る槍のような杖、転身に合わせて変化したクロッカスがそれを示す。
一つ一つの服が、転身したものに変わっていく感覚。体感的には長く思えたが、なんとなくわかる。これはほんの一瞬なんだ。
そして一瞬で済んだのは向こうも同じ。
彩やかな、夕陽の落ちていく今の時間によく似合い黄色く光るサイバーライン、ベースとなるスーツはパッと見ると薄黄色のセーターのような印象を受けるが、所々に見られる近未来的な装備と、何よりも手に持った剣…ヴァリアントザッパーがそんな平和な思考を吹き飛ばす。
車とぶつかる瞬間、確かに見えた光の線。間違いなんかじゃなかった。
疑う余地はない。
「システム、フォーミュラ…!」
元々存在するなのは世界の人間や管理局の人間の中で、未だ誰も経験したことのないテクノロジー。
しかし、あれが凄まじいものであり、気の抜けないものであると知っている。
「ええそう、魔法はあんまり使える機会も多くなさそうだったし、そもそも私はお前のような奴を殺そうと思ってここに居るから、もっと物理的に、確実に殺れる物が良かった。だからこそのこれ。」
「…確かにそれなら、練習とかなくても普通に剣とかで殺せるもんな…!」
迂闊だった。さあどうする、向こうは普通の喧嘩のようなやり方で充分俺を仕留められる一方で、俺は全く魔法の練習なんか出来てない。不思議と怖さはあまりないが、あまりにも単純に技術が足りない。
互いの間合いを測りかね、俺も奴も、1歩進んでは退く、といった探り合いが続く。
が、俺にとってこれは都合がいい。動かないうちは、まだ練習だ!
槍のような形状となった杖のクロッカスを薙ぐように振り、こうするのだろうと半ば確信して、己の意思で魔法を使う。
そして、それは俺の考えから寸分の狂いもなく複数の魔法の弾となって現れた。それは俺のすぐ傍を滞空し、
「俺を殺したいんだろ、だったらここは精々落ちるのを祈れ!」
それらで牽制しながら…それなりに高い、少なくとも人が落ちれば死は避けられない程度の建物から跳ぶ。
視界は別段変化してないはずなのだが、やや目まぐるしい変化を起こしているように思えるのは高い所から落ちようとしている為か。
「行け!」
重力に従い落下が始まる中、滞空させた弾を飛び降りる俺を追えずにいるあの女へと放つ。数は5つ、当たれば上々、止めれば目的通りだ。
だが、それを見送ってはいられない。既に物理法則によって加速し、地上へと近づくこの身体をどうにかしなければならないのだから。
《Master》
「わかってる!飛ぶ、飛ぶ──翔ぶ!」
力を得た絵空事は、現実へと変わる。
世界中、何の乗り物もなければ誰もが従う当たり前の引力を振り切ったような感覚。
新しい世界が拓けたとさえ錯覚するほどに、自由を感じた。
落ちるどころか昇っていく。俺は、空を飛んだ。
……後ろから普通にあの女飛んで追っかけてきてるな。
「俺の感動返せこの野郎!」
杖の矛先を追ってくる女に向けて、今度は少し強い光線をイメージする。
が、これはまずい。防がれるとか避けられるとかではなく、まずい。
そもそもの前提条件からして無理がある。あっちも素人とはいえこっちも素人、得ている恩恵は総合的には(恐らく)互角。つまり単純な強弱の舞台において、俺と奴は同等といえる。
だから、まずいのはそこじゃない。
「フォトンバスター!」
イメージを解き放つ。クロッカスの応える声を聞きながら、穂先をあの女へと。
大した威力ではないが、向こうは素人。追いかけては来ても、そこまで自由自在な空戦技術はないはずだ。当たれば勿論、避けられても僅かな時間は稼げるだろう。その間に少しでも早く、遠くに逃げてやり過ごさないと。
「アクセラレイター、オルタ。」
放った光が奴に届こうかという刹那───その姿が消失する。
そして、困惑している暇もなかった。どころか考えてもいない。
全身が総毛立つような危機感、ただの直感に全てを委ね、お辞儀するような体勢で背を丸める。
その直後に空を裂く鋭い一閃が俺の首があった箇所を通り過ぎる。いや、それ死ぬだろ!?
丸めた背筋を伸ばすこともできないうちに、剣が外れた合間を埋めるように思い切り蹴り飛ばされ叩き落される。
クロッカスの防護がちゃんと働いてくれたので墜落させられても大きなダメージは受けずに済んだ。
が、普通に蹴られた痛みはあるので、ズキズキ痛む背中を堪え立ち上がり空から睥睨するあの女を見上げる。
これだ、本当にまずいのは。
他の要素が互角である以上、俺達を分けるのは戦意、あるいは殺意と言っていい。
俺は奴を殺せない。奴は俺を殺しに来る。
俺がするのは撤退戦だが、奴がするのは正面からの殺人だ。まして互いに魔法を使っているのだから警察になど駆け込めるわけもない。
「……いっつ…手の内を隠している場合じゃなさそうだな…」
《I agree》
「しょうがない、一瞬だけやるぞクロッカス。」
《All right》
流石にあんなものまで持ち出されてはもう魔法を隠してはいられない。
「カウントショット。」
纏うローブによく似た色の小さな弾を生成する。質よりも量を。あのスピードを打ち崩す為の数を求めて。常に生成する弾は全て周りに滞空させ、奴を見ながらも心は研ぐ。
脅威的なのは、パワー以上に視界から消失するほどのスピード。あれをどうにかしないと、一回避けても二回斬られて二度目の人生おしまいだ。
「一度かわせるのか…けど、あれなら二回目で切り殺せる。アクセラレイターオルタ!」
何かを言っていたようだが、離れすぎて内容は聞き取れない。
だが、その全身から明るい光が噴き出ているのは見えた。剣が夕日に煌めくを見て、ゾッとする。
消失する。音すらも置き去りにして。
、斬
《Anticipation》