kiss & trance   作:九店直下

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一応これで完結です
なんか短編っていうよりもショートショート三連チャンみたいな感じになった気が……。
ま、いっか。


緊急事態だから仕方ない

「復旧、進んでますね」

 

 寮のベランダに出るとそこかしこに伺える、工事の景色。異世界からの侵攻によって壊された家々や施設を少しずつ、着実に元に戻していく。

 そんな景色をぼんやりと眺めていたら、何か感じいるものがあって、ぽつりと心の声が思わず漏れた。

 

「……見りゃ分かんじゃない。何当たり前のこと言ってんの?」

「いや、なんか感慨深くて」

 

 隣にいる大精霊様が呆れたように返さなければ、もうちょっとそんな余韻みたいなものに浸れたんじゃないかと思うけど。しみじみするくらい別にいいじゃんか。

 

「ふーん……アンタ、まさか自分が守った街が復興してくのが嬉しい、なんて思っちゃってるワケ?」

「何さ。なんか言いたげだけど」

「さぁね。そう思えるんだったら、キス一つくらいどうってことないハズなんだけどなーなんて思っただけですけど?」

「……それとこれとはまた別だよ」

 

 自分の住んでる街が再生していくのを喜ぶのは当たり前なはずなんだよなぁ。

 確かに街の被害に比べたらキス一つするくらい些細なことだと言われてしまえばそれまでだけども。

 なんかこう、自分の中で無意識的に一瞬ためらってしまうものがあるというか。個人の問題なんだから仕方がないだろう。

 

「……それこそ、力の譲渡だって何か別の方法だってあるはずなのに、何で口移しにこだわるのか……」

「話をそらすなっての。私自身がやり方これしか知らないんだからしょうがないでしょ?」

「いやそこは頑張って探してよ……。僕も手伝うからさ」

 

 やり方知らないなら模索するくらいはしようよ。そんな目を細めて非難するように訴えるだけじゃなくて。

 ただでさえこっちは女の子に対する免疫なんてない性格してるのに、いろいろすっ飛ばして「キス」なんて正直たまったものじゃない。

 

 親に「女の子は好きな人のみと付き合うものだ」なんて口が酸っぱくなるくらいまで言われてたのもあって、今まで女の子と関わり合いになることなんて一切なかったのに。

 

 すぐ慣れなきゃいけない状況なのは頭じゃわかっちゃいるけど、じゃあ本能がその通りに動いてくれるかって言ったら全く違う。

 

「ったく、前途多難ね。ま、今に始まったことじゃないけど。ってお腹空いたわね。ポテチ2袋くらい買ってきてよ」

「あの、ほんのちょっと前にご飯食べてませんでした? しかもチョイスがポテチ2袋て」

「火の精霊だから体で消費される熱量ってのがあんたたちとは桁違いなの。それに、ポテチは簡単にその熱量が補えるのよ。考えりゃわかることでしょ?」

 

 いや言われなきゃわからないよ。当然でしょみたいな顔しないで。

 

 道理でやたら早食いかつ大食な割にはスタイルが良いわけだ。それはイコール代謝の良さが過剰って事だから苦労しそうではあるけど、それと同時に羨ましくもある、と思う。

 

「……まぁ、代謝がいいっていうのは羨ましいよ。それとは別にポテチは結構買い置きしてあるけどさ」

「あら、本当? あんたにしては結構気がきくじゃないの。どこにあるのよ」

「僕の寝室」

「りょーかい。じゃ、遠慮なく頂くわね♪」

 

 彼女は朗らかに笑って即座に寝室に駆け込みポテチを3袋抱え込んで出てくると、テーブルに座って黙々と食べ始めた。

 

 この間15秒かかってないと思う。早いな。

 

 全く、可愛い、スタイル良し、髪綺麗といいところてんこ盛りなのに食生活は残念極まりない事この上ない。今度健康的かつ美味しいもの食べさせてあげないと僕の気が済まないな。

 

 でも幸い彼女の意識は食事に向いてくれたし、また暫くは感傷に浸ってるか、なんて思いながら再び外の景色に目を向ける。

 

 すると、遠くにナニカが見えた。

 街の外れにある裏山に、微かに見えたもの。

 それは、あの異世界と繋がる穴だった。

 

 また、やってきたのだ。

 こりもしないでやってくる、異界軍団と愉快な仲間たちが。

 

 ここでいつもの僕なら、ああ、またキスしなきゃいけないのか、早く覚悟決めなきゃって思うところだ。

 でも、今日はそれよりもこの街並みが目に飛び込んできた。

 

 前を向いて街を直してる人。街を歩いてる人。僕の学校に通う生徒達–––––––––––。

 

 それらがひとしきり脳裏をよぎった後、僕は。

 いつの間にか飛び出していた。どこかは決まってる。ポテチ食んでる彼女の元だ。そして、

 

「ん? どうしたの血相変えて。もしかして敵––––––––––ッ!!??」

 

 彼女の口を、自分の口で思い切り塞いだ。

 彼女の驚愕している表情が目の前にある。完全に不意をつかれたみたいだ。

 いつもはトランスまでの時間がやたら長く感じるけど、今回は逆。即座に彼女がトランスする感覚が体を包む。

 

 眩く僕を包む光が収束した。トランス完了。

 無言で窓から飛び出して、裏山まで半ば突っ込む様に飛行する。

 

『ちょっと、一体どうしたっていうのよ……! 緊急事態なのはわかるけど!』

 

 彼女が後ろから何やら叫んでるけど、全然頭に入ってこない。

 裏山から見えるもの、それはでっかい二足歩行の牛やら、お馴染みのスライムもどきやら、様々。

 そいつらを視界で捉えた時、掌をかざして炎を纏う。その炎を大玉にして、

 

「帰れ!!!!」

 

 焼いた。

 

 間話休憩《それから5分後》

 

「……やり過ぎた」

 

 辺り一面、半径10メートルくらい木々が焼けた後に、僕はポツンと座っている。

 派手にやり過ぎた。オーバーキル。辺り一面真っ黒。

 

 あの火の球を行列の先頭部分に喰らわせた途端に、奴らはまるでビデオの逆再生のように黒い穴に戻っていったから、街の被害は少なくて済んだ。

 

 でも、それをきっかけに僕も正気に戻ったわけで、その瞬間からこの派手にやらかした後とか、彼女とキスした時の事とかが一気に頭に流れ込んできて。

 

 顔を真っ赤にして蹲ってるわけだ。

 めちゃくちゃ恥ずかしいのとなんか罪悪感。

 

『ま、まぁまだ羞恥はあれど多少はこの仕事に慣れてくれた、ってことかしら? 感心感心、ね!』

 

 そして後ろではかの大精霊様がいつものように色々言ってるけど、態度がいつもと明らかに違う。

 なんか狼狽えてるしこの人も顔紅い。

 

「慣れてるわけないでしょ。非常事態だったからあれこれ考えてる暇がなかっただけだよ。そういう貴方だって、なんか顔がリンゴみたいだけど?」

『んなっ!? 別にそんなんじゃないわよ! ちょっと急だったから不意を突かれただけで……!』

「……僕の事色々言ってくるくせに」

『んがっ……! うるっさいわねぇ……! なことよりもあれ、どうにかしたほうがいいんじゃないかしら?』

 

 話を逸らすな、と思いつつも、ぴっと彼女が指を刺した先を見る。すると。

 

 カメラを持って、なんかペンと紙を持って、逆になんも持ってない人々の群れ。

 俗に言う『野次馬』だ。

 

 それでハッとなって自分の姿を見る。

 スカート履いて、真っ直ぐに伸ばした艶のある髪が流れてて、女性らしくなった体つき。

 

 そうだ僕女の子の体になってるの忘れてた!

 

「退散!!」

『あ、やっぱりそうなるのね』

 

 可愛らしくなった声でそう言うと、全速力でその場を離脱する。大精霊様。「そうなる」んじゃなくて「そうするしかない」んです。

 

「逃げたぞ! 追え!」

「今日こそはお話聞かせてもらいますよ!」

「サインくださいサインくださいサインください」

 

 最後の怖いな!? タチ悪いストーカーかよ!

 まぁ身体能力は強化されてるから、撒くのは案外造作もないことだ。野次馬軍団はどんどん小さくなっていく。

 

『……あ、そうだ。ちょっとあんた』

 

 やっと群衆が小さくなって見えなくなろうというところで、彼女がポツリと語りかける。

 

「ん、何?」

『私のこと、名前で呼びなさいよ』

「……ねぇ、どうしたのいきなり」

 

 何を話すかと思えば唐突すぎやしませんか?

 それに今までなんも違和感持ってる様子なんてなかったのに。熱でも出たのかな。

 

『あのね、一応前から気にはなってたんだから。私にはクリムソンって名前があんのよ。いっつも「あなた」としか呼ばないし、なんかイラっとすんのよ』

「……それを言うならあなただってそうなくせに?」

『うっさい! いいから名前で呼びなさいっての。

ほら、は・や・く!』

 

 唐突な上に強引だなぁ。そんなに二人称で呼ばれるのが嫌なのかな。何かを振り払うような声してたけど。

 仕方ないな、全く。有無を言わさない口調だし、逆らったら後がめんどくさい。

 

「わかったよ。じゃあ改めてよろしく。クリムソン、さん」

 

 なんか、やっぱり恥ずかしくて、顔が真っ赤になってしまう。名前を呼ぶって、思ったよりハードル高いんだな。

 でも、ふと目に入った彼女の顔を見ると、そんなこと、どうでも良くなった。

 

「うん、よろしくね。弥生」

 

 だって、彼女も顔を赤らめてたから。

 

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