とある【お題】   作:白黒患者

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 音読してくれると聞いて(難聴)書きました。



『お題』 神話&地下室&恩讐

 神が君臨し、悪魔が蹂躙し、魔が闊歩する。

そんなのはもう数えるのも馬鹿らしいほど昔の話。

 

――呪い(まじない)はただの言葉へ、魔法の本は妄想を綴った紙の束、終いに神など居ないのだ!

 

 技術は酷く進んだ。神の御業とされていた事柄が悉く否定され、只の現象に過ぎないと公表される。

それは一般教養にも及び、今となっては小っちゃい子供ですら幻想を否定する始末。

 

「うわぁー……」

 

 所謂、『過去の遺物』。

そんな物を保管している彼の家は、それはもう酷い有様だ。

動物の様な剥製やら人が入りそうな大きめの壷だとか、その他にも色々と。

何が何なのやら、あちこち眉唾物な代物が転がっている。

 

 宝石でも転がっていてくれればいいのだが、生憎そんな良いものは無い。

全部使えないガラクタばかり、売ったところで二束三文にすらならないだろう。

 

「こんなもん、よく集めたよなぁ……」

 

 足元で「ニャー」と、一声鳴く一匹の黒猫を抱き抱え、少し埃を被った部屋を散策する。

此処は彼の祖父が亡くなった際、遺言に則って受け取ることになった一軒家だった。

一軒家とは言っても、広さはそんなにあるわけではない。2階建ての和風な木造建築物だ。

 

「ハァ……これ、どうしろってんだよ」

 

 彼に渡されたのは此の家と、それなりの遺産。

しかし肝心の家の中はガラクタの山、宝のタの字もない。

完全にゴミ置き場だろ、コレ。そう内心毒づきながら、少しずつ整理を続けていく。

 

「コレは粗大ごみ、こっちは燃えるゴミ……」

「ミャ~」

「あー、はいはい、噛むな噛むな。俺も腹減ってるけど我慢してんの」

 

 せめて一部屋位はスッキリさせておきたい。

無理矢理渡されたとはいえ、親元離れた念願の一人暮らしが出来るのだ。

それも周りを気にしなくていい環境ときた。呑み明かして大声上げ、暴れまわっても全然問題なし。

 まぁ、それも部屋を片付けてからの話となるが。

 

「…………?」

 

 片付けていると、ようやく姿が見えてきた畳に違和感を感じた。

踏みつけると反発力があるというか、浮かんでいる……?

 

「畳の下に、なんか……ぇ」

 

 もしかしたら紙切れでも挟まってあるのかも、そう思い畳を捲る。

そこには確かに紙切れがあった。読めないミミズのような走り書きされた、小さな紙がいくつもいくつも……『ソレ』に張り付けられていた。

 

「とびら?え、なにこれ??」

 

 思いもよらない物が目に入り、少し動きが止まった。

昨今では見る筈もない、畳二つ分ほどの大きく古めかしい鉄の扉。そこに張り付けられている数多の紙切れ。

 今まで見たことない、在り来たりでありながら想像した事が無い。

しかし確かに一見しただけではっきり分かる、『封印された扉』がそこにあった。

 

「は?え、ハァ??」

 

 張り付けられている紙、恐らくは御札だろう。

こんなものがあるなんて聞いていない。誰もこんな散らかった部屋を片付けて、畳の下まで確認なんてしようとは思わなかったのだろう。

 

「えぇ……封印、ってやつだよなこれ?」

 

 というかこんな紙切れで、一体何を封じているつもりなんだろうか?

せめて錠前の一つでもつけておけばいいだろうに。あぁいや、扉だけでも畳が浮くのだから、そもそも錠前なんて付けられなかったのかもしれない。

 

「たく、面倒くせぇなぁ」

 

 誰に尋ね様にも、元の家主はこの世に居ない。だからと言って放って置くわけにもいかない。

中を確かめるために、仕方なくびりびりと札を破き、紙ごみの袋へと乱暴に突っ込んでいく。

紙切れは幾つもあって、全部引き剥がすのに数分かかってしまった。

 

「ふぅ。床下収納ってやつか?」

「フゥゥ……」

「? どうした?」

 

 扉をマジマジと見つめていると、何やら黒猫が低く唸りだした。

日頃は大人しい猫であるため、こんな姿は珍しい。

背を撫でてやるが大人しくなることは無い。

 

「――ぅ――ぅ…――」

「へ?」

 

 そういえば腹減ってるんだっけ、とスーパーで買ってきた猫缶でも開けるかと動こうとしたその時……何か、聞こえた。

か細く小さな音だったが、確かにそれは―――この、扉から聞こえた気がした。

 

「………」

 

 第六感とでもいうのだろうか、何だか嫌な予感がした。

科学が進んだ日常の中、オカシイ出来事。

開けてはいけないという警鐘と、視てみたいという願望。

 

「――っ」

 

 彼はまだ若く、親元を離れ一人暮らしをしたい程度には、刺激を求めていた。

黒猫の唸り声も無視して、その手が扉へ伸びるのは、当たり前とも言うべきで。

 

 

 きっとそれは、一つの運命だった。

 

 

 異なる者達が居ない者とされ、否定され、拒絶された。

よくある話だが、神だろうがなんだろうが、『在る』者は死ぬ。

 それは偶然だったり必然だったり、押し付けられたり受け入れたり。

所謂、宿命というものが、あらゆる存在に紐づけられているのだ。

 

 そして、『彼女』の様な、神や魔と云われてきた者たちは、意外と脆い。

天候を操り、運命を弄び、世界を混沌に堕とす存在であっても、彼らは否定されきれば、消滅してしまうのだ。

 

 人が神を敬い、神は人を見守る。

 

 そんな理想的な関係はあっさり無くなって、今はもうこんな薄暗い場所に押し込められるだけ。

存在が消えないように、態々こんな『器』を用意して、定着させるために特別な札の力に中てられて。

そうやって生き残った『(ひとつ)』が、彼女だった。

 

 だが、それだけ。

他に同胞は亡く、孤独が約束されている。

自分は一人なのだと暗闇の中で自覚してしまう。

 

「な、んで……なんで、我は……我が、なにを」

 

 力を得た代わりに人々は信仰を失った。

超常の存在は格を落とされ、存在を否定された。

 たった一人の理解者も、当の昔に死に絶えているだろう。

連綿と『器』を受け継ぎ、保管してくれた彼らの信仰心が薄れきっていることがその証明だ。

命が亡くなり、繋がっていた意思が消えていく。

 

「………ぅ、うぅぅッ」

 

 札の力もあり、空間が歪んでいるこの場所では正確な時間が測れないが、永い時が流れたのだろうことは容易に想像がついた。

ようやく『器』に定着したというのに、全てが手遅れなのだろう。

 何も出来ないであろう自身を想像し、落胆し、絶望し……気づけば涙が零れていた。

 

 もうずっとこの場所に居続けてしまおうか。その方が、楽かもしれない。

 

 約束も何もかも既に昔のことなのならば、きっといいだろう。彼も許してくれる。

そんなことを思っていた『器』に入った何者かだったが、その真っ暗な目の前へ文字通り光が差した。

 

「……女の、子?」

「………ぐすっ」

 

 古ぼけた扉を開けたのは呆けた表情の、純朴そうな青年。

闇の中から青年を見上げるのは、涙を流し続ける白髪の少女。

 

 

 

 もうあり得ない『力』を持った少女と、何の『意思』も無い青年。

彼女の『奇跡』と彼の『手腕』が世界に新たな信仰を起こ(叛逆)し、一柱の女神を復活させることとなるのは、未だ遠い話。




『要素』
・神話
 特に意識せず、考えなかった。続きを書くのならば、オリジナルでもいいし、どっからか引っ張ってくるのもあり。
・地下室
 『器』という名の『少女』を安全に保管しておくための亜空間。真っ暗闇の中、手足を伸ばして寝っ転がってゴロゴロしても問題ない。その気になればどこまでも行ける空間、何処にも行けない場所。もはや地下室じゃない。
・恩讐
 恩讐というには、ちょっと足りなかったかもしれない。『少女』達を否定した人間への怨念、『少女』と約束した人である彼や受け継いできた者達への恩。
それと絶望し諦めて泣くことしか出来ない『少女』に手を差し伸べることになるであろう『青年』に関するアレコレ。

お題達成としては不十分だったかもしれない。深夜テンションと寝不足も相まって怪文書となってない事を祈りながら反省。
でもテンション高くてちょっとアレな方が進むので、万歳も忘れない。
夜更かし最高!

『小ネタ』
 動物の様な剥製―なんの剥製なんだろうナー??
 壷―世の中には空高い場所から、人が嵌まったまま落下しても無事な『壷』があるらしい。極めた者の壺は金色に輝くとか。きっと神造物。
 運命―f〇teな話題が配信で噴出していたので入れた単語。とある菌糸類は神だと思ってます。
 黒猫―不幸や幸福、女神や悪魔とかとも関係を持ち、色々な逸話を持つ生物(なまもの)

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