とある【お題】 作:白黒患者
陽光が沈み、真っ黒な衣服に身を包んだ二人の男女がコソコソと移動する。
向かう先は大きな三角形の建物、王族の墓として建てられた巨大なソレには金銀財宝が一緒に埋められている。
「………よし、いくぞ」
「ん」
先に侵入した男の声に従い、女が背後の確認をしつつ扉を閉める。
彼らは墓の洗浄をしに来た掃除業者!……とかではなく、勿論ただの墓荒らしだ。
格好良く言えばトレジャーハンター、格好悪く言えば泥棒。
今日も今日とて、慣れた様子で奥へと進んでいく。
「っと、あっぶな!?」
時折罠にかかりそうになるが、互いをカバーし合いながら墓の中を探索していく。
ちなみに男の方が罠にかかり易い、偶に自分から飛び込んでいく狂人である。
いやホント、なんでこんなのと組んでいるんだろうか?
女はよく考えるが、未だに答えは出ない。ただまぁ、この男は観ていると面白いというのが大きな理由な気はしている。
「ハッハッハ、古代の罠などオレに効くかぁ!!」
「……刺さってる刺さってる」
「え? うわマジだ……えぇ、かっこわりぃ」
しょぼーんと落ち込む男の治療をするが、テンションの落差が激し過ぎて時折ずっと落ち込んでいる。
そういう時は頭を撫でてやると復帰するのだから、チョロい。
「よしよし」
「うぅ、ありがとなぁ!」
「わっ」
元気が戻ったと思ったら、今度は抱き着いて感謝を述べて止まらなくなってしまった。
彼女からすると、どうしてこんなに感情の浮き沈みが激しいのかよく分からない。
無表情で何を考えているのか分からないのが彼女で、ポーカーフェイスの欠片も無い程わかりやすいのが彼だ。
「あ、悪い悪い。そろそろ行くか」
「ん」
しかしこの差がカチっと嵌まり、意外とするする進んで行ける。
調子のいい日はその日の内に墓を出ることが出来るが、そんな日は早々ない。
今日は特に墓が巨大で罠も豊富、これは時間がかかるだろう。
落とし穴や毒矢、落下してくる天井に転がってくる大岩。
体感で3日ほど掛けながらポピュラーなものを攻略していくと、今度はあまり見かけないモノが出てきた。
「アァ゛ー……」
包帯塗れで腐敗臭のする人型――所謂、ゾンビ。
血を抜かれて居る筈なのに動き、侵入者を襲う。
攻略法は簡単で、聖水と呼ばれる水をぶっかけるか、腐って脆い首を吹っ飛ばすこと。
聖水は希少な水分でもあるから、なるべく首を切り裂いていく。
動きは鈍く単調ということもあり、あっという間に処理して進む。
「……気持ち悪い」
「だなー、ホンットあれは相手にしたくねぇ」
臭いしグロいし金目の物も無いが、漁らないという選択肢も無い。
疲れるだけの木偶の坊だが、こいつらはたまーに先に進むのに必要な鍵とかを持っていたりする。
何でそんな奴が居るのか色々考察されているが、よく分かっていない。
ただ、その『鍵』は大抵呪いが掛けられている。
今回見つけたそれも、毒々しい色をしており、触りたくない雰囲気を漂わせている。
絶対ヤバイと分かりきっているのに、彼は物怖じせず掴んで見せた。
「あったぁああ!!!」
「……うるさい」
「あ、
直ぐに大人しくなる彼だが、握りしめた手に変な呪詛が浮かんでいる。
どう考えても異常事態だが、冷静に聖水をぶっかけながら次への扉を探す。
聖水で呪詛は少し薄まり、少し動き辛そうにしながら扉を開ける。
彼はいつもこうだ、冷静に行動できる癖に彼女が躊躇するような状況になると、臆せず身体を張って突き進む。
有り難いが、どう考えても危ない行動にいつも心配になる。どうしてこんなことを繰り返せるのか、不思議で仕方なかった。
彼はいつも通り笑顔で財宝のある部屋まで進み、彼女はその後を付いていく。
王の死体がある場所に辿り着くまでに幾つか罠があったが、問題なく進んで財宝を鞄一杯に押し込んでその場を後にした。
外に出れば日の光が差し込んでいる。何日目かはよく分からないが、朝の様だ。
「っと、このままじゃ目立つな」
「ん……後ろ向いて」
「あ、悪ぃ」
黒い衣服は裏返すことで真っ白い服に代わる。
外にでると、堂々と移動する。深夜と違いどうしても人目に付くため、こそこそしていると逆に怪しまれるためだ。
道中待機していた『運び屋』によって移動し、同時に財宝を少し与える。これが口止めと仕事料となっている。
そこからはまた歩き、二人のアジトへと辿り着く。
アジトは幾つかあるが、この日は少し遠めの場所を選んだ。
理由は、あることを相談するためだった。
「……ねぇ、もう止めよ?」
「………ファ!?」
無表情の彼女が淡々と言ったことに、財宝を漁っていた男は驚きのあまり飛びあがって天井に頭をぶつけていた。
この身長差も含め、凸凹コンビと裏の業界では呼ばれているが、勿論彼女にとってはあまりうれしくはなかった。
小柄なコトは罠を潜り抜けられるし、便利がいいのだが、時折親子にすら間違われるのは遺憾だった。
「な、何かしたかオレ?」
「……違う。かなり集まったから、もういいと思う」
命懸けの冒険のおかげで、かなりの財宝が集まった。
少しずつ換金しているが、どう計算してもこれ以上は目立ちすぎる。
それに……。
「……これ以上は、死んじゃうよ」
ギュッと彼の服を掴み、寄りかかる。
鍛え上げられた身体は傷だらけ、呪詛も少し浮かんでいるのがより一層不安を掻き立てる。
「……財宝はいつも通り分けて、さ」
回収した財宝は等分し、また次の
もう今日で廃業するということは、会うことは無いだろう。
しかしこのままでは、どう考えても彼が先に死ぬだろう。女一人で墓荒らしは出来ないし、ここまで良い奴と組めることは二度とないだろう。
こんな生業だ、基本的に性根が腐っているか、何かしらの欠陥、問題があるやつしかいない。
ツーマンセルでやってこれたお陰で、等分にしても十分な蓄えとなった。
「……だからっ」
ここで別れだと自覚すると、言葉が詰まった。
無表情で感情が表に出にくい彼女でも、『相棒』と離れるのは堪えるようだった。
「あーもぉ。ほらほら、泣くなよ」
「……泣いてない」
ポンポンっと頭を撫でてくる彼の武骨な手と温かな言葉に、いつもの調子で返事を返す。
しかし、彼はいつも通りとはいかないらしい。
「いつも言ってることだが、オレはこれくらいじゃ死なねぇよ」
「嘘つき」
「いや、マジマジ。ほらめっちゃ元気」
力こぶを見せられても、その腕は傷だらけだし呪詛浮かんでるし、どう考えても無事じゃない。
「……絶対嘘」
「ホントだよ。これからもお前より先に死なねぇし――ずっと傍にいさせてくれよ」
「ぁ」
すっと左手に宝石が散りばめられた、七色に輝く指輪が嵌められた。
場所は薬指で、つまり、これは。
「ぅ、ぁ、ぇぅ」
「ハハ、お前もそんな顔すんだな」
「~~~~っ」
口元が歓喜で緩み、頬が真っ赤になっているのが自覚出来た。
照れ隠しの代わりにポスッと弱弱しい拳を当てるが、鍛えている彼の身体には何のダメージもない。
珍しく自分が攻勢だと分かって嬉しいのか、鬱陶しい笑顔を浮かべながら彼は屈むと、目線を合わせた。
「それで、返事は?」
「…………………っ」
「んー?聞こえねーぞ~?」
「ぅぅ………んっ!」
恥ずかしさのあまり声が出ない。
どうしようかとてんぱった彼女は、屈んでいた彼に跳び付き、唇を合わせることで返事とした。
お互い顔を真っ赤にさせ、幸せそうに微笑み合う二人の先行きは、幸福に満ち溢れているだろう。
「あれ、なんかコレ変な文字が浮かんで……アレェー???」
「………呪われてるじゃん」
「あ、アハハ……スマン」
「もぉ、しょーがないなぁ」
死後も外れなかった指輪を互いに付けた二人は、来世のその後も永遠一緒だったという。
『要素』
・偽りの不死者
途中出てきたゾンビ、自称「オレは死なねぇ男」、呪いによる来世やその後の繋がり。
ゾンビは動く死体だし、自称は勿論死ぬし、来世ということはやっぱり死んでるので問題ないはず!
・有料フレンド
トレジャーハンター、墓荒らしである二人は本来仕事をする時だけ集まり、財宝を分けた後は基本別々に暮らしていて、一緒に居ませんでした。最終的には一緒になりましたが、カップルでありフレンドではないです。(それと時代は考えて)ないです。
・虹
様々な金銀財宝、結婚指輪(呪)、中々ない彼女の笑顔、二人にとっての幸福の未来。
物理的に虹を出そうと思ったけど無理があった。これでいいですよ、ね。ね?
『裏話』
サイコロの奇数でバッドエンド、偶数でハッピーエンドとしました。後者が出ました。リア充爆発しろ。ケッ(小さな殺意)
ここ2週間めっちゃ忙しかったので、急ごしらえとなりました。ユルシテ。アーカイブ助かる。
男女は名無しですし外見も決めてませんが、ピラミッドあるし異世界じゃないなら砂漠暮らしだし多分褐色。身長差は結構ある感じです。男175の女155くらいのイメージ。
なお、来世やその後でもくっ付く二人ですが、基本呪われてるので山あり谷あり、傍から見れば絶対ヤバい奴らです。どこぞの名探偵コ〇ンくんくらいに色々巻き込まれてはイチャイチャしながら乗り越えたり一緒にくたばったり……バクハツシロ。