俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き 作:taka2992
第一話
♪春という字は 三人の日と書きます。あなたと私とそして誰の日?♪
♪あなたが好きになる前に
♪ちょっと愛した彼かしら
♪会ってみたいな久しぶり
♪あなたも話が合うでしょう
♪三人そろって 春の日に
♪三人そろって 春ラ・ラ・ラ~
♪何かはじまるこの季節
♪三人そろって 春ラ!・ラ!・ラ!
-----歌・石野真子/『春ラ!ラ!ラ!』作詞:伊藤アキラ/作曲:森田公一------
ちょっと古い曲だが、ラジオを聴いていたらノリのよい爽やかな曲だったのでネットで検索してみた。すると、冒頭の歌詞が出てきた。昔はこんなような、記憶に残るテンポの良い可愛らしい曲があったんだな。今の曲はほとんど記憶に残らない。それは俺が古臭いものにも違和感を感じない特異な人間だからなのだろうか。
そんな曲をラジオが流したのは今が春たけなわで、新しい環境にウキウキしている人も多いからだろう。
俺も春になると陽気のせいで、柄にも泣く無根拠にウキウキすることがある。この高校に入るとき、うかれて早く家を出て交通事故に会ったくらいだ。これを、春ラララ病と名づけたい。
突然こんなことを言い出したのは、重症の春ラララ病にかかっている人が身近にいたからだ。その名を平塚静という。
奉仕部のプレゼンをやっても、結局誰も入部希望者がいなかった。ま、やっと固まってきたこの部の人間関係が新入りのために引っ掻き回されたりするのもいやだし、俺としてはひっそりと放置され、誰にも発見されずに一部の人間だけが知っている穴場の店みたいな秘密結社にあこがれている。
例によって部長の雪ノ下雪乃を筆頭に、由比ヶ浜結衣、比企谷八幡、比企谷小町、川崎大志の五人で、放課後に適当にダベっていると、鼻歌を高らかに響かせて平塚先生が入ってきた。その鼻歌に聞き覚えがある。え?先生の鼻歌ってもしかすると春ラララだった?
「おお、みんないるな。青春しているか、青少年たちよ!」
バチンと竹刀を鳴らすものの、春ラララな心が滲み出ている先生の雰囲気を察して、俺は質問しないわけにいかなかった。
「平塚先生、今日は一段と楽しそうですね。どうかしました?」
「ん?そう見えるか。いや~やっぱり春が来ると顔に出るみたいだな~」
ちょっと思案顔の雪ノ下がティーカップをコツンと置きながら言う。
「昨年の春はそれほど楽しそうではなかったようですが」
由比ヶ浜がひらめいたように握りこぶしを平手でポンと受け、平塚先生を直撃する。
「あ!先生、ひょっとして彼氏できたでしょう?」
「え?ああ、ま、まあそんなところだ」
「ええ~!やりましたね先生、小町はそろそろやってくれると思ってましたよ!先生の年ごろだと結婚と直結ですよね。それでいつです?いつごろ入籍するんですか?」
「まあ、早まるな、まだそんな話にはなってない。その可能性は高いといえるのだが」
突然の暴露に奉仕部の一同は驚くばかりだったが、平塚先生の上機嫌はおさまらず、聞かれてもないことを喋る喋る。
その内容を要約すると、相手は元パイロットで当時の年収は1500万円。で、現在はパイロットを辞めて、国際線の乗務中に知り合った外資系ファンドのボスに引き抜かれ、投資顧問会社の雇われ社長をしているという。
現在の年収は2000万円。千葉県浦安市の、ディズニーランドに程近い新興住宅地に住んでいるという。年齢が36歳。葛西の臨海部に小型クルーザーを所有し、冬でもマリンスポーツを楽しんでいるそうだ。
そんなことを嬉々と喋ったあと、先生は「これは君たちだから話したんで、あまり他言無用だ」と念を押した。
「今日はこれからデートなので、私はこれで帰る。あとはよろしく頼む。雪ノ下、君がカギを持ち帰ってくれ。職員室のカギ保管ボードにかけておいてくれてもいい」
平塚先生はそういって足取りも軽やかに出て行った。あとに残った五人のうち、俺と雪ノ下が表情を曇らせていた。あとの三人はまだ平塚先生の春ラララの残響を振り切れていない。
「おいおい、今の話、どう思ったよ」
「そうね。少しよくでき過ぎているかしらね。まさかとは思うけど」
由比ヶ浜がなにげなく問いかける。
「ん?まさかって何?」
「由比ヶ浜、おまえなあ、街でアンケート調査についていったことないか?」
「ないけど。あ、もしかして?」
「お兄ちゃん、まさか平塚先生がそんな脇甘いとは思えないけど」
やっと話が見えてきた大志が口を開いた。
「それって結婚詐欺ということですか。まさかそんなのにいまどき引っかかる人いないでしょう」
ため息混じりに雪ノ下が口を開く。
「そうだといいのだけれど、万が一ってこともあるかもしれないわね。元パイロットっていうのが一番怪しい。これって典型的なキーワードじゃなかったかしら。それに、パイロット辞めてすぐに会社の社長になれるだけのスキルがあるとは思えないのよ。よほどの才人らともかく」
「俺も同意見だ。とにかく怪しすぎる」
いつの間にか春ラララな雰囲気が吹き飛んでしまっていた。みんな深刻な顔だ。
「で、ヒッキーどうする?」
「どうするって・・・今は様子見るしかないだろ。結婚詐欺は結婚を仄めかして付き合っているだけじゃ詐欺とはいえないはずだ。もし平塚先生が詐欺に会っているんだったら、そのうち金を要求されるはずだ。なんらかの理由で金が急きょ必要になって、すぐ返すから貸してくれって。金を渡したら音信不通。それが典型的な手口だろうな」
「私、許せない! そいつ。警察に突き出してやりたい! ヒッキーとゆきのん、どうしたらいいの?」
「そうね。今のところ、平塚先生に言ったところで相手にしてもらえなさそうね。あの調子じゃ。だから、心の被害というよりも、金銭的な被害を食い止めるのが先のような気がするのだけれど」
みんなの目が俺に集中する。みんなの目がどうするの?と訴えている。何で俺だけこういう目で見られる?これって俺のせいなの?
「なんだよ。また俺に陰謀を働けっていうのか?」
「やっぱりこういうときに頼りになるのはお兄ちゃん以外にいないよ。恩師のピンチを見て見ぬふりはできないでしょ。陰謀っていっても雪乃さんを心配させるようなことはもうしないでしょ?」
小町がニヤニヤしてそういうが、俺は目をそらして無視した。
「では、みなさん異議がなければ平塚先生が詐欺に巻き込まれているのかどうか確かめましょう」
「異議なし!」
一同がそれぞれうなずきながら賛成した。
「平塚先生はこれからデートだと言っていたので、まず相手を確認したほうがいいと思うのだけれど、どうかしらね」
はあ、と俺はため息をついた。平塚先生の相手を見るってことは先生を尾行してデート現場を目撃するということだ。そんなことが奉仕部の連中にできるとは思えなかった。
「5人で行くと目立つので、俺が一人で行くわ。後は邪魔だな」
「私も行くわ。あなたが勝手なことをやらないように監視する必要もあるし。それに平塚先生は一回家に帰っておめかしして出るはずよ。先生の自宅住所は姉さんが知っていると思うわ」
「また・・・信用ないのな。じゃあ、何かあったときの連絡要員として大志、お前も来い。いざとなったら男のほうが頼りになる。いいか?」
「わかりました。なんかすごく緊張しますけど、頑張ります!」
「では、今日の部活動はこれにて終わります」
雪ノ下がそういうとみんな立ち上がって部室を出た。これが平塚先生救出作戦の発端だった。