俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き 作:taka2992
雪ノ下が陽乃さんから聞き出した住所に行くと、小奇麗なアパートがあった。俺たちはあたりをキョロキョロしながらそこに到着した。制服姿の高校生が三人かたまっていれば目立つ。平塚先生が窓から外を見ただけで一発アウトだ。
アパートから死角になる通りの角に身を潜めたとたん、平塚先生が外付けの階段を下りてきた。その格好は、茶色い革ジャンにうす青の短めのワンピース。黒いストッキングに茶色のブーツ。もともとスタイルもいいのでかなり決まっている。
通りの向こうへ歩いていくのを見て、俺たちは無言で尾行を開始した。
途中、大志が大げさに物陰に隠れたり走ったりしたため、余計に目立ってしまった以外は問題なかった。
平塚先生は電車に乗り、幕張新都心に立つ、高層ホテルを目指しているようだった。
ホテルのラウンジは広く、恣意的にソファやイスが配置されていた。その一つに平塚先生が座るのを見届け、俺たちは植物でさえぎられる死角に座った。
「なんか、人のプライバシーを覗いているのはあまりいい気分じゃないわね」
「まあな」
「自分はこんなことするの初めてっす。ちょっと怖いっす」
「あたりまえだろ。尾行なんて普通の人がするもんじゃない」
しばらくして、平塚先生が立ち上がり、腰のあたりで小さく手を振った。その視線をたどると、右手のほうから一人の男が歩いてきた。
色黒で髪型は短髪。しかし整髪剤で毛を立てている。サッカー選手のベッカムみたいな髪型といったらイメージが湧くだろうか。そして、白いTシャツにダークブルーの革ジャンにジーンズといったいでたち。遠目にもなかなかのイケメンだった。その立ち居振る舞いは爽やかで、不自然な感じがない。並ぶとほとんど同じ背の高さの、よくお似合いのカップルに見える。
「大志、おまえ視力はいいか?顔は判別できるか?」
「見えますよ。はっきりと」
「雪ノ下は?」
「私も視力は悪くないし、ちゃんと見えてるわ」
「よし、顔を覚えろ。街中で見つけてすぐ判別できるようにな」
しばらく三人は、その美男美女のカップルを見つめた。楽しそうに談笑する先生の姿を見て、これが詐欺ではないことを願わずにいられなかった。先生は笑顔を見せているが、その内心は焦りに満ちているのかも知れない。
やがて二人はエレベータの方向へ歩いていった。おそらく最上階のバーにでも行くのだろう。
「今日はここまでのようね。これ以上やることはないと思う。帰りましょうか」
「顔見ただけだぞ。もっと張るべきだと思うが。少なくとも会話くらいは聞きたい。そこにヒントがあると思う。カメラが欲しいな」
「この制服姿じゃ限界があるでしょ。ほら、行くわよ。私たち決して品のいい行いをしているわけじゃないし」
「品とかの問題じゃないだろ。目的のためには・・・」
「また変なことするつもり? 絶対そういうことさせないから」
「俺は違法行為をしたことはない」
雪ノ下が両手でおれの両袖を引っ張る。そのおかげで上半身が揺さぶられる。俺は仕方なくエントランスに向った。大志もついてくる。
「先輩たちってやっぱり仲いいんですね」
後からそんな声が聞こえた。
★ ★ ★
翌日の奉仕部で、俺は由比ヶ浜と小町に昨日のことを話した。といってもネタは相手を目撃したこと以外に何もなかった。
平塚先生の春ラララ問題が発覚してから、奉仕部には暗い雰囲気がたちこめていた。
それでも問題を解決しなければならない。次は、平塚先生の相手の名前と住所、および勤務先の情報が欲しかった。これを入手するにはやはり先生のデートが終わったときに相手を尾行するしかなかった。
その男は車で移動しているはずで、そうなると俺たち高校生には尾行は無理。どうすればいい?
珍しく由比ヶ浜がひらめいたようだ。
「確か、平塚先生ってスポーツクラブのボクササイズやってて、そこでその人と知り合ったって言ってたよね。だったらそこに行けばその人いるかも」
俺は思わず叫んでしまった。
「それだ!」
男の顔を見ているのは俺と雪ノ下と大志だけ。そうなると接近遭遇して個人情報を引き出せるのは雪ノ下しかいない。なぜならそのスポーツクラブへ行って、男である俺とか大志が36歳の男と話すきっかけはないからだ。
「雪ノ下、頼みたいことがある。スポーツクラブへ行ってそいつから名刺でももらってくれないか」
俺の意図をすぐに察した小町が反対した。
「お兄ちゃん、それはどうかな~。少し危険だと思うよ」
由比ヶ浜も小町に賛同する。
「それってナンパされるってことだよね。ゆきのんだったらきっと成功するけど、あまりお勧めできない手だよね」
「わかったわ。やってみる。直接会話してみることも重要だと思うから。それに、クラブの中だけだったら安全でしょ」
「え~大丈夫かな~」と小町。
「やってくれるか。うまく携帯の情報交換にまで持ち込んで欲しい。俺のスマホを持って行って、それで交換してくれ。その後出なくても嫌われたと思うはずだ。それから、平塚先生も来る可能性がある。注意が必要だな」
雪ノ下は4月の頭から週に4日、学習塾でのバイトを始めていた。その合い間をぬって、最初の一回だけ、俺も一緒にそのスポーツクラブへ行った。
ビジターで2000円という出費が俺みたいな高校生には痛かった。しかし、雪ノ下が一人で行った2回目にその男をみかけ、携帯情報の交換と名刺を見事ゲットすることに成功したそうだ。
話によると、ランニングマシンに並んでチラチラとその男に興味ありげな視線を送っていたら、あっさりと話しかけてきたという。
その夜、小町が俺の部屋に入ってきて、雪ノ下から電話だと携帯を差し出した。雪ノ下の声は心なしか怒りを含んでいた。
「やっぱり、あの男、怪しいわね。私の感覚が間違っていなければの話なのだけれど、彼女のいる人があんなに気安く話しかけてくるかしらね。もう、このことを先生に話したほうがいいのではないかしら」
「いや、話をするのはまだだろう。もう少し証拠を集めたほうがいいと思う。先生は俺たちよりも人生経験が豊富だろ。他の女性に声をかけた程度じゃ説得できないかもしれない。それに、まだ騙しているという決定的な証拠がない」
「じゃあ、この名刺に書かれている会社に確認して、存在していなかったら、それが証拠になるわね」
「間違いなく証拠になるな」
「それは私がやってみる」
「ああ、よろしくたのむ」
「名前は、佐川明彦。明朝電話してみるわ」
★ ★ ★
次の日、佐川明彦がそもそも詐欺師ではないのではないかという意見が強くなっていた。というのも、雪ノ下が電話すると、最初に受けつけが出て、本人につながったという。名乗っていなかったので慌てて電話を切ったそうだ。
それから、自宅の固定電話もかけてみたところ、やはり同じ声が出た。
「ということは、会社と自宅の電話番号は本物ということだな、でもペーパーカンパニーの受け付けや電話の取り次ぎを代行してくれる業者もいる」
「ヒッキー、それって疑いすぎかもよ。疑えばキリがないよね。このまま私たちの取り越し苦労だったらいいんだけどなあ」
由比ヶ浜がそう言ったあとにしばらく沈黙が続いた。
「自分も人を疑うのは性に合わないっす。そもそも結婚詐欺師って自分は働かないで女から金引っ張って暮らしているわけでしょ? 投資顧問会社に実際に働いているんだったら違うんじゃないですかね」
「あの、関係ないことかも知れないですけど、先生、以前にヒモみたいなダメ男と付き合ってたんですって。ギャンブルはやるわ、酒は飲むわ、浮気はするわ、仕事はクビになるわで、先生はそんな彼を見限って追い出したんですって。あ、これは陽乃さん情報なんですけど。別れたあと、先生はかなり落ち込んで、生徒数人で慰めたことがあるようです」
小町がそう言うあいだ、みんな俺をチラチラ見る。
「あのな、一応言っておくが、俺はギャンブルも酒もやらない。浮気もクビもまだ経験したことがない」
「もしかすると平塚先生が比企谷君を特に気にかけているのはそれが理由なのかもしれないわね」
「おい。まだ俺はそこまで落ちぶれていないだろうが」
「さあどうかしらね。今のままじゃヒモは確定みたいなところがあるわね。品行方正なヒモができるのはあなただけでしょうね」
「まあまあ。ゆきのん。その話からすると、先生はまだその人に未練があるのかも」
「先生がもしそのヒモ男にまだ未練があるなら、面白いシナリオが閃いたのだが」
「うん? どんな? ヒッキーって今回マジメだけど、とうとう陰謀が動き出しちゃうの? ちょっと興味アリかも」
「アホか。俺はいつでもマジメだ。ついつい石野真子の「春ラララ」を思い出しただけだ」
「何それ?お兄ちゃん。オタガヤ君時代の曲?」
「1980年発売の、れっきとした歌謡曲だ。ちょっと古いが」
俺はスマホにダウンロードしてあった春ラララを再生した。小さいスピーカーなので音質は悪いが、小気味よいメロディに乗せて歌詞が聞き取れた。
「なるほどね。あなたが好きになる前に、ちょっと愛した彼に久しぶりに会ってみたいというわけね。でも三人揃うことはありえないと思うけれど」
「そこなんだな。面白いのは。まあ、これは佐川明彦が詐欺師という前提でのシナリオだからな。まだ発表する段階じゃない。そうだ、由比ヶ浜と小町と大志、お前たちは平塚先生の昔のヒモ男を捜してみてくれないかな。陽乃さんの手を借りれば簡単だろ」
「比企谷君、姉さんを巻き込むのは賛成できないのだけれど」
「もうすでに先生の住所とか聞いてるだろ」
「あ、雪乃さん、ごめんなさい。陽乃さんには今回のこと全部喋ってます。陽乃さんも『静ちゃん、そんなヤバイ目に会ってるの?私も協力するよ~』って言ってました。心配しているみたいです」
「本当に心配しているのかしらね」
「由比ヶ浜と小町はヒモ男が現在何やってるのか、連絡先とかを調べておいてくれ。利用するものをちゃんと利用すれば、おそらくあまり苦労しないと思うぞ」
由比ヶ浜と小町と大志はさっそく動き出したようだった。