俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き 作:taka2992
韮崎の駅に到着すると、雨は土砂降りになっていた。ふだんは人が疎らなはずの駅構内には人があふれていた。そして、駅員が拡声器で何事かを説明している。
「本日午後3時過ぎに、中央本線笹子駅近辺で崖崩れが発生しました。中央本線は大月と小淵沢間で運転を見合わせています。現在のところ、復旧の目処は立っていません。なお、中央高速も笹子トンネル入り口で側壁の崩落があったという情報が入っています」
俺と雪ノ下は思わず顔を見合わせた。
「なんだと?帰れない?」
「そのようね」
俺はスマホの地図を呼び出した。現在いる韮崎は、もちろん大月と小淵沢の区間に含まれている。笹子トンネルといえば、天井崩落事故のあったところだ。
「どうしましょうか」
「お前んちのあの車呼び出したら?」
「うちにはもうあんな車も運転手もいないわね。それに高速も使えないみたいだから車も無理ね」
「そうか。甲府まで行ければ身延線とかで迂回できるんだが。ま、電車が動き出すのを待ってみるか。まだ四時過ぎだし、そのうち動くだろ」
俺たちは駅前の古めかしい喫茶店に入った。同じく途方に暮れている人たちで混んでいた。一時間たっても状況は変わらない。二時間目になると俺はだんだんイライラしてきた。スマホで情報収集したいが電池が20%を切っている。まさか足止めを食うとは思わなかったので充電器を持って来ていない。
雪ノ下といえば、さっきから雑誌をパラパラめくって落ち着いている。そうだ。陽乃さんなら免許持っているよな。でも・・・そんなこと考えているとまた雪ノ下と目が合った。
「なにか?」
「その、なにか?はよせ」
「じゃあ、どうしたの?」
「お前の姉さんは免許持っているよな?」
「ええ。運転手がいなくなってからは車買ったみたい。でも姉さんに助けてもらうのはお断りよ。少し落ち着いたら? なるようにしかならないでしょ」
「そうですか」
その落ち着き方がうらやましかった。傍若無人というよりこの場合は泰然自若か。喫茶店の一部を占拠すること三時間以上になると、さすがにいたたまれなくなった。俺はナポリタン、雪ノ下はピラフを注文した。
食べ終わると俺は一人で駅へ偵察に出た。やはり電車は動いていない。復旧の見込みもたっていないようだ。とっくにあたりは暗く、人もほとんどいなくなっていた。タクシー乗り場にはタクシーがいない。一台止まっているバスも知らない行先を表示している。
俺は寂れた観光案内所に入った。デスクの向こうにいるおじさんにたずねると、甲府行きのバスはあるという。それから、この辺のビジネスホテルや旅館についてたずねると、すでにどこも満室だった。ただ、歩いて10分くらいのところにラブホテルが3軒ほどあるので、そこなら空いている可能性があるとか。
時計を見ると8時近い。身延線で迂回すると東京まで3~4時間かかる。甲府までの移動時間を加えるとそろそろ出発しなければならない時間だ。もし東京駅までたどりつけなかったら、タクシー代がかかる。タクシー代を出す余裕はない。そう考えるとすでにギリギリの時間だった。
俺はまずラブホだったら空いていることを最初に雪ノ下に伝えて、拒否られたら身延線で迂回することに決めた。
「やべぇ。ビジネスホテルとか満室だ」
「そう」
「お前、よく落ち着いていられるな。この喫茶店だって9時に閉店て書いてあるぞ。どうすんべ」
「どうしましょうか」
「何も考えてないのかよ!落ち着きまくっているから何かプランがあると思ってたぞ」
雪ノ下のキョトンとした顔を見て、俺はおかしくなった。どっかぬけている。変わっているといえば変わっている。俺が腹に手を当てて笑っているのを見て雪ノ下が「楽しそうね」という。
「あのさ、お前には似つかわしくないところだったら空いているってさ」
「どういうこと?意味がわからないのだけれど」
「いかがわしいラブホテルだったら空いているかも知れないって、オッサンが言ってた」
「じゃあ、そこに行くしかないじゃない。そう言われると興味が湧いてくるわね」
「マジかよ。拒否られると思っていたけど。それでいいなら早く行ったほうがいいかもしれない。満室だったらそれこそ野宿だろ。この雨の中」
「じゃあ、行きましょう」
俺たちは喫茶店を出て、駅前の観光案内所に再び入り、ラブホテルの場所を聞いた。
スマホの地図を見ながら、幹線道路をしばらく歩き、わだちのついた田舎道に入ると、竹やぶの陰に隠れて安っぽい窓枠が並ぶ三階建てのホテルが見えてきた。一階は垂れ幕の奥に車が隠れるような駐車場になっていて、入り口はその奥にあった。
受け付けは顔が見えないようになっている。俺は最後の一個だけ空いていた部屋のボタンを押した。すると、小さな窓からオバサンの声が「お泊りでしたら7800円です」
という。支払いを済ませると大きなプラスチック製のタグが付いたカギを渡された。203と書いてある。
「そのエレベータで行ってください」という声を聞いて雪ノ下がボタンを押す。するとすぐに扉が開いた。
「こんなところ来るの初めてね」
「あたりまえだろ。来たことないないわ」
「どうかしらね。窓口でずいぶん慣れているように見えたのだけれど」
「アホか。俺の過去は全部知ってるだろが。こういう知識だけはあるんだよ」
部屋は建物の外観を裏切って、小奇麗だった。だが狭い。ソファーとテーブルと液晶テレビがあるだけ。他には備え付けのポットと、お茶やコーヒーセットがあった。
壁のハンガーを見つけて雪ノ下がコートをかける。俺はソファに座ってぐったりと脱力した。
「疲れた」
その傍らで、雪ノ下が冷蔵庫を開けている。小さな仕切りがたくさんあり、透明で小さな扉が塞いでいた。その奥、一つ一つの仕切りに飲み物が横に入っていた。
「どうするのかしらね、これ」
雪ノ下が小さな扉を一つ開けた。すると、ガッチャンと音がした。引っ張り出したのはワンカップ大関だった。
「こんなの飲めないじゃない。未成年なのに」
「あ、それってたぶん料金が発生するぞ」
「え? あなた飲んでよ。日本酒くらい男だったら飲めるでしょ」
「おお、サンキュウ、寝酒にもってこいだ・・・ってなるわけないだろ!」
「じゃあどうするのよこれ」
雪ノ下がテーブルの上にそれを置いた。しばらく二人で呆然とワンカップ大関を眺めていると、無性におかしくなってきた。
「クククククク、あはははははは」と俺がこらえきれずに爆笑すると、雪ノ下も手の甲を口に当てて「ンフッフフンッフフ」と笑いをこらえていた。
「やめてよ、笑うの。おなかが痛い」
なぜか知らないが笑いが止まらない。雪ノ下もベッドに横に転がって、まるで嗚咽を漏らすように痙攣を続けている。
「これはちょっと・・・クククク・・・雪ノ下・・・ククッククク・・・雪ノ下ワンカップ事件・・・ククッ・・・として語り継がれるべきだな・・・おかしい・・・おかしすぎる、止めてくれ・・・おまえ・・・おまえアホだろ・・・アハハハハハハハ」
雪ノ下が起き上がる。上気した顔が赤い。
「アホとかひどくない?・・・フッフフフ・・・人を伝説扱いしないでよ・・・フフフッ・・」
そう言ってテーブルの上に屹立するワンカップ大関に目を戻すと、再びベッドに横たわって痙攣を続けた。
笑いが冷めてくると、俺は冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して飲んだ。
「あ、そうだ、携帯貸してくれ。俺のは電池切れ。家に電話しないと」
「小町さんにかければいいのね」
そういうと雪ノ下はバッグから携帯を取り出してボタンを押した。
「小町さん?・・・そう・・・そう・・・今お兄さんに代わるから」
差し出された携帯を耳に当てる。
「小町? 今日の中央線の崖崩れ知ってる? 帰れないんだよ。それでこっちで今日泊まるから」
「お兄ちゃん。私、今感動しているんだよ? わかる? 雪乃さんから電話と思ったらお兄ちゃんが出るし。とうとう一心同体だね」
「俺の携帯が電池切れしたから借りているだけだろ」
「それで、どこ泊まってんの? 雪乃さんと同じ部屋?」
「お前は余計な詮索するな。そういうことだから」
「あ、お兄ちゃ・・・プープープー」
俺は強引に切った。