俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き 作:taka2992
材木座の小説は、俺と由比ヶ浜がトイレから帰ってきたら、部室に対立が発生していたところで終わっていた。ここで俺はあることに気がついた。
「どうして海老名さんはこれからバトロワが始ることを知っているんだ? ふうせんかずらはそんなことひと言も言っていないぞ」
「お兄ちゃん、そういえばそうだよね」
小町がプリントアウトをめくり始める。
俺は材木座に「すぐ来い」とメールした。すると、扉の外で小さな着信音が聞こえ、すぐに扉が開いた。もしかするとこいつ、俺たちの会話を盗聴していた?
「ぶおっほおぅん。呼ばれて飛び出てなんとやら。八幡、なに用かな?」
「おい、小説の終わりで、どうして海老名さんがバトロワが始まること知ってんだ?」
「うむ、……それはだな…海老名さんがそういうアニメの世界に親和性が高く、簡単にそうなることが予想できたことと、ふうせんかずらとテレパシーを通じておるという設定なのだ」
「本当かよ。安易だけどそういうことなら」
「そうともそうとも。いまどき、量子テレポテーションが科学的に証明されていることなど常識であろう。だったらテレパシーが実在しないわけがない。そのうち、物体の瞬間移動も実現するに決まっておる! 小説の想像力は偉大よのう」
「それは違うわね。材木座君。量子テレポテーションを誤解しているようね。量子テレポテーションは物質の瞬間移動を決して実現しない。そんなことも知らないでよくそんな大言壮語を吐けるものね」
雪ノ下が冷厳な声で指摘し始めた。ちょっと目つきが怖いです。
「量子テレポテーションというのは、二つの素粒子に因果関係を持たせて、一方を観測すると、もう一方の状態を観測しなくても決定できるということに過ぎないの」
「はぁ? もう少しわかりやすくご教授願えるかな?」
材木座が体を30%ほど縮小させておそるおそる訊ねる。すると、雪ノ下は黒板に図を描き始めた。
「いい? 二つの素粒子、たとえば電子をエンタングルさせる、つまり絡み合わせるということは、たとえばスピンで考えると、必ず逆の性質が双方に現れるの。それをA電子が↑、B電子が↓、になっていると表現します。Aを観測したとき、↑と判明すると、Bは必ず↓になっているというに過ぎないわけ。
Aの電子が瞬間的にBのいる場所に移動するわけでは決してないの。ただ、AとBが何万キロ、何億光年離れていても、Aを観測してデコヒーレンス、つまり収束させたとき、同時にBも収束してAとは逆の絡み合った性質を明らかにする。これはアインシュタインの、物体や情報が伝播する速度は光速を超えない、という法則に違反するように見える。つまり、情報が光速を超えて伝わっているように見える。だから、テレポテーションなんて呼び方が定着しているだけ。わかった?」
「っすっすっすぅっご。わからないけどわかりますた」
「いま、ゆきのん何言ってたの? 無理っぽいよ、私には。ゆきのん何者? 先生?」
由比ヶ浜の顔が青ざめている。小町も口をあんぐり開けて無言だ。部室が凍りついた。やはり氷の女王は健在だった。
「で、小説の設定でそうなっているんだったら私も別に文句はないのだけれど、非科学的な発言があったものだからつい指摘したくなっただけよ」
雪ノ下がイスに戻る。すると、材木座が30%拡大して元に戻った。体から湯気が立ち昇っている。
「あのぅ、もう一つ小説内の設定の参考にしたいことがあるのだが………」
「なにかしら?」
「つい最近、ヒッグス粒子というのが発見されて大騒ぎになったではないか。この小説とは別で、SF小説を考えているのだが……宇宙空間に充満しているヒッグス粒子を集めて放出するヒッグス砲というのは可能であるかな?」
「無理ね。だいたい、ヒッグス粒子なんて宇宙に充満していないし。当時、ヒッグス粒子が空間に充満していて、それに物質粒子が当たって抵抗が生まれる。それが質量の発生するメカニズムみたいに言われていたけど、これはとんだ間違いね。質量は物質粒子がヒッグス場と相互作用して発生するの。ヒッグス場というのは真空期待値がゼロではない。どうしてゼロではないのかは謎なのだけれど、ゼロではないから相互作用が起こることになる。
ヒッグス粒子というのはヒッグス場が極めて高いエネルギーをもらって、ヒッグス場が励起して発生するものよ。別の言い方をすれば、宇宙空間が4000兆℃になったときに相転移が起こって出現する。太陽の中心温度が1600万℃と考えられているのに、そんなエネルギーをどこから調達するのかしら。
この前CERNで発見されたヒッグス粒子も微細な点に高エネルギーを集中させてやっとヒッグス粒子が現れたに過ぎない。そんな粒子を大量に集めて放出するなんて子供の妄想ね」
「ぶひぃ~。わかりますた。もうすこし勉強してきます………」
今度は体を40%縮小した材木座がトボトボと部室を出て行った。やれやれ。見回すと、由比ヶ浜も小町も大志もポカンとしていた。
しかし、海老名さんがバトロワを知っている件はどうなるんだよ。俺は材木座に「このあともあの小説書き続けるのか?」とメールした。すると、「もちろんだ。あれしきのことで挫ける我ではない!」と返事が来た。こいつ。酷評されたら死ぬといかいいつつ、意外にメンタル強いのな。