俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き 作:taka2992
イスに座っているのは由比ヶ浜の姿をした俺、俺の姿をした由比ヶ浜、三浦に宿った雪ノ下、雪ノ下に宿った三浦、大志に宿った海老名さん、海老名さんに宿った大志、そしてそのまんま小町。あ~いちいち姿と心を考えるのがすげぇ面倒だ。こうしよう。
不可視なゴースト(目視して確認できる固体の識別名)、つまり、心(体)だ。俺はいままでゴーストの名前で相手を呼んだり識別していることに気がついた。ゴーストを宿している肉体の名前で呼んだことはない。
つまり俺の場合だったら、
比企谷(由比ヶ浜)……これで行こう。
「さて、これからのことだが。他人の家に帰って、他人を演じることが可能だと思う奴はいるか? 俺は由比ヶ浜の家に帰る自信はない」
俺がそういうと、小町を除いて全員が考え込んだ。無言が続く。答えはわかっている。
「自分が一番きついっす。海老名先輩のことほとんど知らなくて、演技する手がかりもないっす」
大志(海老名)が海老名(大志)に話しかける。
「そうだよねぇ。大志君の姿をした私がいきなりサキサキにBL布教し始めたら驚くだろうね。うふ」
海老名(大志)は何か楽しそうだ。しかし、川崎沙希だったらこの状況を話して協力してもらえるかもしれない。
「問題なのは明後日にある模擬試験かしらね。日本全国の高校が対象で、今回からうちの高校も参加することになったのだけれど、その成績が進路相談の資料になったりするから、重要だと思う人も多い。だけれど、三年のこの時期ではあまり力を入れる必要もないような気もするし……」
雪ノ下(三浦)がそういうと、三浦(雪ノ下)がハタと気づく。
「あーし、このままだといい大学行けるってこと? 内申点アゲアゲで推薦もらったり、ハブられ優等生に大学受験してもらって合格して、そのあとで元に戻れば、いいとこ行けるし」
「そううまく行くわけないでしょ。ビッチそのものね」
「いつ元に戻るかわからないって言ってたからね~。私もゆきのんと試験のときだけ入れ替わりたい。期末試験とかも」
「ばかね。そんなことでしたって、あとで苦労するだけでしょ」
「それは言えてますねぇ。元に戻ったら、結局同じですからねぇ。それと、逆に考えれば雪乃さんの成績が下がっちゃいますよね。それも問題あるかもしれませんね」
小町がそういうと、三浦(雪ノ下)が悔しそうな顔をして「クッ」と毒づいた。
「俺は提案したい。そういった問題をすべて解決するには、雪ノ下の家でしばらく合宿するしかない。ふうせんかずらが変なイベントを止めるまで。一人暮らしは雪ノ下だけだし、2DKと広い。そこで雪ノ下が三浦に勉強を教えて少しでも成績を上げればいい」
「ちょっと、ヒキオ、あーしがハブられ優等生と一緒に泊まって、勉強まで教えてもらう? ありえないし。まったく悪い冗談だし」
「まあまあ、優美子、このさいしかたがないよ。しばらく我慢だよ」
「私も我慢できるかどうか自信がないわ。悪態つきまくるビッチと一緒じゃ」
「あ? またビッチ言ったし。小賢しいちっぱい女が!」
雪ノ下(三浦)が立ち上がろうとするが、由比ヶ浜(比企谷)がその肩を必死で抑える。
「まあまあ、二人とも落ち着いて……」
「由比ヶ浜、三浦と雪ノ下の調停役はお前に任せる。なんとかしてくれ」
「ええ~? この二人が暴れたら、私じゃどうにもならないよ? あ、でも今の私は男の体だね。多少は強いかも」
「はぁ~。しかたないわね。今のところ、私の家で合宿する以外になさそうね」
そう三浦(雪ノ下)がいったところで下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。
★ ★ ★
雪ノ下宅には入れ替わった6人と、そのまんま小町も泊まることになった。小町が大志と同じ家に泊まることは許せないが、危険な大志の体には今海老名さんが入っている。それに、大志の心を宿しているのは海老名さんの体だ。間違いは起こりえない。
雪ノ下の2DKは、以前の豪華億ションと比較するとつつましかった。それでもダイニングルームはリビングルームといえるほど広い。
ダイニングルームの窓際にあるソファの背中には、パンダのパンさんのぬいぐるみがおびただしく並んでいる。それを見て三浦(雪ノ下)が「なにこれ。あんた、こんなの好きなの? ふ~ん」と鼻を鳴らす。
「あなたには関係ないでしょ。くだらないこと言ってないで食事くらい作りなさい」
「あーしに料理しろと? 無理だし」
「じゃあ、私がやるよ」と由比ヶ浜(比企谷)がいうとみんな「え?」と叫ぶ。
「はぁ。結局私がやることになるのね」と、雪ノ下(三浦)がため息をつく。
「あ、私も料理は多少できるよ」と海老名(大志)が冷蔵庫を開ける。すると、綺麗に並んだ調味料が見えた。
「では、手伝って。これだけ人数がいて、簡単にできるものは、やっぱりカレーかしらね」
「なんだ、簡単じゃん」
「小町はごはん炊きま~す。この炊飯器5合炊きですよね。すると、一人一合としても足りないか。5合を二回炊きましょう。明日の朝もあるし」
海老名(大志)が野菜室からじゃがいもやニンジン、タマネギを取り出す。さっそくまな板の上で包丁を使い、皮をむき始めた。はたから見ると、三浦と大志がダイニングに並んで一緒に料理をしている。なんともシュールな光景だった。
夕食後、信じられないことに三浦(雪ノ下)が素直に雪ノ下(三浦)に、ダイニングテーブルで勉強を教えてもらっていた。その横には由比ヶ浜(俺)が座り、雪ノ下の講義を聞いている。その光景は、事情を知らない人間が見れば、三浦が雪ノ下と俺に勉強を教えているように見えるはずだ。なんとも不思議な光景。
俺とか大志はぼんやりテレビを見ていた。そのまんま小町は洗い物をした。
午後10時になると眠くなった。問題は部屋割り。しかし俺と大志はリビングのソファで適当に寝ることにした。
いったん勉強会を中止して、押入れから布団や毛布やシーツといった布類を引っ張り出し始めたのは三浦と雪ノ下だった。
そのとき、三浦が見てはいけないものを見てしまったらしい。押入れの奥に積んであった古いアルバムを持って、テーブルにいた雪ノ下のところへ戻ってきた。
「あんた、ここに写っているの隼人でしょ? これなんだし?」
「勝手にそんなもの見ないでくれるかしら。他人のプライベートを覗くなんて、やはり趣味が悪いわね。その写真に何か問題でも?」
「これ、小学生時代のゆきのんと隼人君だよね。そっか、幼馴染だったよね。こんな写真があっても不思議じゃないんじゃないの?」
三浦の隣りで由比ヶ浜がアルバムを覗き込む。
おそらくその写真には、幼いころに家に遊びに来た葉山が雪ノ下や陽乃さんとかと撮影したものだろう。しかし、あまり見られたくない人にそんな写真が直撃してしまったことになる。
「何かあると思っていたら、やっぱりそうだし。雪ノ下さん、あんた隼人のことどう思ってんの?」
「どうとは? 別に何も思っていないのだけれど」
「くっ。なんか悔しいし。あーし、絶対あんたに負けたくないし」
「優美子、ゆきのんは確かに隼人君のことは何とも思ってないよ。それは保証するよ」
「そ、そう。わかった。じゃあ、さっそく勉強開始!」
なんか三浦がすごく勉強やる気になったみたいだ。
「あーし、絶対あんたに追いついてやる!」
「そう。私に接して自分を高めようとする人も珍しいわね。もしかするとあなたが初めてかもしれないわね。本気なら協力しないこともないわよ」
「さすがゆきのん!」
「では、一~二年の内容で、必ず試験に出ると思われるところをリストにしてあげるわ。それを見て復習すれば効率が上がるはずよ」
「………ありがとう。あーし頑張っから」
一体なに?…この光景…そんな会話を横目で、いや横耳で聞きながら俺はソファに寝転んで、シーツ一枚かぶりながら寝入っていた。
朝、目が覚めると、俺は雪ノ下の寝室と思しき部屋の床に、絨毯を並べて横たわっていた。体には毛布がかかっている。体を起こすと、すぐ横のベッドには雪ノ下(三浦)がまだ寝ていた。
俺は確かリビングのソファで寝ていたはずだ。もしかすると戻ったのか?
俺は三浦の体をゆすって起こした。すると、そのゴーストは三浦本人だった。
「ん? あーし、元の体に戻ったみたいだし。あんた結衣じゃないの?あんまりジロジロ見ないでくれる?」
眠そうに目をこすりながらパジャマ姿の三浦も起き上がる。俺は露骨なその姿から目を逸らした。俺の隣りでは小町も目覚めた。「ふわぁ~」とあくびをする。
俺は、リビングに行ってみた。すると、そこにはソファでシーツにくるまっている由比ヶ浜の体があった。近くの床にはあられもない寝姿の海老名さんの体。
もう一つある部屋からは、雪ノ下と大志が出てきた。そのどちらも元の体に戻っているようだ。
「どうやら元の体に戻ったみたいね。全員そうなのかしら」
「そうみたいだな。ふうせんかずらの魔法も一晩限りか」
リビングに全員が起きてきた。全員が元の体に戻り、自分の体を懐かしむように確かめていた。しかし、このイベントに何の意味があったんだ?
俺たちに何かの変化があったとすれば、三浦と雪ノ下がなんとなく仲良くなったような兆しが見られることぐらいだろう。
その証拠に、三浦が雪ノ下のマンションを出るとき、「勉強教えてくれてありがとう。一応、お礼いっとく」と、どことなく恥ずかしそうに学校へ向かった。