俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き 作:taka2992
年が明けた。昨晩はリビングでTVを見ていたら眠くなったので、年越しソバを早めに食べて部屋で本を読んでいたら寝落ちしていた。午前10時に目覚めると電気スタンドが点灯したまま。かたわらのスマホのメール着信ランプも点滅していた。
由比ヶ浜からの新年あけおめメール、材木座からは「謹賀新年の寿ぎを賜って進ぜよう」とウザいメール。それぞれに適当に返事を書く。雪ノ下は俺のメアド知らないし、俺も知らないのでそんなメールを出しようがない。まあ、いつもどおりの正月だな。
コーヒーでも入れようとリビングに下りていくと、小町と家族三人が初詣に出ていた。「行かねぇ」という返事が返ってくるのがわかっているので俺を無視して出かけたようだ。
ソファでコーヒーをズルズルと啜っていると携帯が鳴った。
「ヒッキー?あけましておめでとう」
「ああ」
「何してんの?」
「まあ、別に」
「あのね、ゆきのんの誕生日が3日で、その日お祝いしたかったんだけど、ダメみたい。いろいろ忙しいんだって。家があんな状態だから。私の誕生日もみんなで集まってくれたからやりたかったんだけどね」
そういえば、昨年の6月に由比ヶ浜の誕生日会をカラオケボックスでやったっけ。あの時は戸塚も来て、楽しかったなぁ。戸塚はいまごろ何やってんだろ。最近戸塚エキスを吸収していないから、心が干からびてきている。
雪ノ下の誕生日が1月3日だって? なにそれ。俺と同じじゃん。休み期間中の誕生日って学校の友達になかなか祝ってもらえないんだよな。
元旦の夕方、帰宅した小町が俺の部屋に入ってきた。
「すごいよお兄ちゃん、検察の人たちって大晦日とか今日も取り調べてして働いているんだって。正月どころじゃないよ。雪乃さんのお父さん、毎日取り調べられているんだって」
「って、お前なんでそんなこと知ってんの?」
「ん?陽乃さんとメールしているから。陽乃さんも弁護士や会社の関係者と打ち合わせしたり大変みたい。それを雪乃さんも手伝っているみたいだよ」
さすが小町、こいつのコミュニケーション能力はすごい。ひょっとして由比ヶ浜より優れてる? しかし小町と陽乃コンビは危険ではないか? 俺の知らないところでとんでもない情報がやり取りされているみたいで。でも、雪ノ下家の内情は小町経由でまるわかりだな。
「お前、メールしているヒマがあったら勉強しとけ」
「息抜きにやってるだけだも~ん」
「なあ、小町、お前はどうして雪ノ下が母親を嫌っているのか知りたくないか?」
「そういえばそうだね。知りたいかも」
「なら、そのへんを探ってくれないか」
「え?うん。わかった。小町におまかせ~」
小町はニコリと笑った。俺がどのような意図で指示したのかすぐに察したようだ。何かと物分りが早い。少し怖い気もするけど。
「今までにわかっていることもあるよ。どうやら雪乃さんのお母さんは京都の芸者さんだったらしいんだ。若かったころの雪乃さんのお父さんに見初められて、っていうよくあるパターンだったらしい」
小町の話を総合すると、雪ノ下の母は、二人の娘を苦労した自分とは同じようにはさせないと、厳しく育てたらしい。
水商売に身を置きながらも、祖父や父親に幼少のころから言い聞かせられた高貴な出自を信じて、矜持だけはしっかりと持っていたという。
一説によると天皇家や公家が姻戚関係をごちゃ混ぜにしていた時代から、ひとすじの血縁を引いているそうだ。高貴な血筋、そんな雰囲気が、一瞬、雪ノ下の面影に重なって見えた。
過去からの怨念混じりの反動。それが母親を通して二人の娘に津波のように押し寄せてきている。そんな構図が脳裏に浮かんだ。
波間に浮かんで顔を出し、立ち泳ぎを続けてアップアップしていたのが雪ノ下なのだ。
そりゃあ苦しかっただろう。よくグレなかったものだ。俺だったらすぐに家出しちゃうよ。我慢を重ねてあんな性格になってしまったのも理解できそうな気がする。
それにひきかえ、姉のほうはうまく立ち回って波をやり過ごし、サーファーのように乗りこなすことができていたのだろう。あの姉妹の差はそこだ。
それにしても小町がそんな情報までつかんでいるとは。お兄ちゃんやっぱり怖いよ。
その後、小町が引き出した情報によると、雪ノ下の住んでいるマンションも売却リストに含まれているらしいことがわかった。
となると、雪ノ下の独立は確定的になる。母親のいる実家にはもどらず、あのマンションもなくなるとすれば、部屋を借りるしかない。
で、どうするか。やはり雪ノ下の独立騒動をうまく治めるには母親の説得が欠かせない。母親の過干渉を解消して、あわよくばあのマンションの売却も断念させる。それ以外に方法はないように思えた。