俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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A面04

 その日の放課後、眠くてしかたがなかったが、俺は奉仕部へ行った。ボケッとイスに座っていると、メンバーがチラホラと入ってきた。大志や小町とか由比ヶ浜、それに雪ノ下が入ってくるのは当然として、今日だけは大入り満員だった。心配顔の三浦や海老名さんのほか、入れ替わりの話を聞いたらしい葉山と戸部も入ってきた。

 葉山は三浦の話を聞いて驚き、もっと詳しく知りたいらしい。それぞれが部室の奥に積み上がっているイスを持ち出して長机の周りに座った。

 

「君たちは変な霊にとり憑かれたんだって?」と葉山が切りだすと、「私も平塚先生にとり憑いたふうせんかずらの話を、その場で聞いていたんだけど、あれは霊というよりも物の怪のような気がする」と海老名さんが応える。

 

「ふうせんかずらが何者なのかさっぱりわからん。自分は人間じゃないとか言ってた。それに人格を入れ替わらせるのも自由自在。たぶん、他のことも自由にできるんだろう」

 

「だったら、先生とか警察とかに話をするのはどうかな。これ以上変なことが起こったら、みんな耐えられないんじゃないかな」と葉山が提案すると、

 

 

「それはやめたほうがいいかもしれないわね。大人たちは入れ替わりなんて信用しない。高校生が集団催眠状態になったと判断されて精神科医が出てくるのが目に見えている。私も入れ替わったから、あれは現実と断言できる」と雪ノ下。

 

 そのとき、扉がガラガラと開いて、一色いろはが入ってきた。こいつは完全に部外者だ。

 

「葉山せんぱ~い。こんなとこにいたんですね~。みんな探しているんですよ。戸部先輩までいるし~」

 

「ああ、悪い悪い。そのうち行くから」

 

「で、みなさん深刻な顔して何しているんですか~ 私も混ぜてください。何か問題ですか。これでも私、生徒会長です~」

 

「いろは。あまりかかわらないほうがいいんじゃね~。さっきから、めっさ恐ろしいでしょう~」

 

「ええ~。いったい何ですか?」

 

「しょうがないな。いろはは生徒会長だし、一応知らせておくか」

 

 葉山がいろはに耳打ちするように事の経緯を話し始めた。時々「え~?」とか「うそ~!」とか甲高い声を上げて相槌を打つ。まるで楽しい話でも聞いているようだ。まったく警戒していない。

 

「うーむ。俺たちは弄ばれるばかりで、反撃するチャンスもないのか」

 

 俺が葉山たちを横目でそういうと、

 

「ヒキタニ君、よく反撃なんて発想するね。物の怪なんかに勝てるわけないよ。昔の人は効きもしない結界張ったり、お札を貼りまくったりするだけで、ひたすら怪異が去るのを待つだけだったんだよ」

 

と海老名さんが答える。

 

「問題は、ふうせんかずらの目的だな」

 

 いろはに説明し終えた葉山が問いかけると、全員沈黙する。しばらくすると、海老名さんが少し声のトーンを落としてボソリボソリと話始めた。どうして今度は海老名さんなんだ。海老名さんは霊媒体質なのか。

 

「目的ですか……そんなことを気にするのですね。…みなさんはあまりに人間的です。あるいは生物的というべきか。そうした人間的思考の枠内にいるかぎり、私のことは理解できなません」

 

「おい、姫菜、どうした?」

と葉山が隣りの海老名さんの肩をゆする。しかし、海老名さんは半眼で顔色がどす黒くなっている。海老名さんの体だけ、光が避けて通っているように陰影が濃い。………ふうせんかずらの光臨だ。員が固唾をのんでその話に感覚を集中させる。

 

「……いいですか、雪が降るのに目的がありますか。火山が噴火するのに目的がありますか。津波が発生することに目的はありますか。太陽の中心で核融合が起こっていることに何か目的がありますか。太陽系が二億年かけて銀河系の中心を公転することに目的がありますか。この宇宙が無限であることに目的がありますか。……私には目的なんてものはありません。ただの自然現象です」

 

「しかし、あなたが自然現象だというのだったら、どうして人間の言葉を話して、人間の目的を理解できているのかしら」

 

「確かに……あなたの問いかけに対して……私は答えています。しかし、実は、知性が介在していないとしたらどうしますか。信じられますか。たとえば、円周率を知っていますね。円周率は割り切れず、延々と無限にランダムな数字が続きます。この中に、あなたの生年月日が含まれているとしたら? ……いえ、実際含まれているのです。ここにいる全員の生年月日。……あるいは適当に思い浮かんだ数列。すべてが含まれているんです。…ランダムな数列が無限に存在するということはそういうことです。…ここに知性が存在しますか。

 また、こんな説明はどうでしょうか。……アルファベットをランダムに無限に並べていくと、……その中には必ずシェイクスピアのハムレットがあり、メルビルの白鯨があり、……マーク・トウェインのハックルベリー・フィンの冒険が含まれているというのは」

 

「確かにそんな話は聞いたことがある。すべての数列が円周率の中に含まれる。それも偶然。そこに知性なんてない」

 

 雪ノ下がそう応えると、ふうせんかずらは納得したようにうなずく。

 

「さすが、雪ノ下さんは察しがいいようです。そうした計算を宇宙に存在するからみあった素粒子が重ね合わせの状態で計算していたとしたら、ほぼ瞬間的にあなたの発した言葉に対応すべき言葉の列を作れる」

 

「要するに量子コンピュータのことね」

 

「人間の世界ではそう呼ばれているようですね」

 

「ただ、人間の言語をコード化する、つまり計算する前提が必要になると思うのだけれど」

 

「それは昔から無線とか放送電波が飛び交っているじゃないですか。そんなことは簡単にアーカイブ可能です。都合がよいことに、電磁場は光子による波動です。その波動はからみ合った粒子にダイレクトに相互作用する。それを翻訳する必要もないわけです」

 

「しかし、そういった断片的な情報をインテグレーションする組織的なものというか、あなたの言うアーカイブはどこにあるのかしら」

 

「そんなものは宇宙空間に大量にあるじゃないですか。宇宙が始ったときから、無限に存在する素粒子は無限の空間に散らばりながら、からみ合いを保っている。もっとも、人間に理解可能な次元でからみ合っているわけではありませんが」

 

「なるほど、最近では3次元プラス時間の4次元ではなく、空間は10次元ないし11次元とする学説がある。その7次元か8次元のどこかで、物質のすべてがからみ合いを保っているというわけ? とても信じられないわね」

 

「信じる信じないはもちろん、あなたの自由です。しかし、無限にある平行宇宙のどこかには、私の言うことを信じるあなたもいるに違いありません。ああ、無限というのは恐ろしいものですね。無限には何でも含まれる。無限は何でも可能にしてしまう。私のような物の怪も可能にしてしまうのですよ。そして、話しは元に戻りますが、私には目的なんてありません」

 

「その、物の怪が人間の意識を乗っ取れるというのはどうしてなんだ?」

 

 俺は一番の疑問を訊ねた。すると、海老名(ふうせんかずら)さんは俺のほうを向いて笑った。地獄の底に引き込まれそうな笑顔だった。

 

「脳は物質でできていますね? そこにはからみ合った素粒子も含まれていますね? 答えはこれでわかるはずです」

 

 俺が手を広げてわからんと身振りをしようとすると、雪ノ下がさえぎるように、「ええ、なんとなく。私たちの意識の源に量子的なプロセスがかかわっていると主張する学者もいるし」と答えた。

 

「以上で私の説明を終わります。今日はみなさん、大勢にお集まりいただいて恐縮です。仲がよろしいようで私もうれしいです。では、みなさんに座興としてちょっとしたイベントをしてもらいましょうか」

 

 そういうと、海老名(ふうせんかずら)は傍らに置いたカバンから紙を取り出して、9人全員に配った。手にとってみても、ただの紙だった。

 

「ではみなさん、そこにあなたがいま一番知りたいことを書いてください。その紙を見ていると、やがて知りたいことが映像で見えるはずです。あ、もちろん。書かなくてもかまいません。参加自由です。それに、そろそろ派手なイベントに移行しましょうかね。たとえばバトロワとか……」

 

「なんか罠臭いな。やっぱりバトロワやらされるのか。そういえば海老名さんがそう言ってたな……」

 

 俺がそういうと、ふうせんかずらは「罠だと思うところも、バトロワにすぐ反応するのもあなたらしいですね」とこっちを見た。

 全員がテーブルの上の紙を見て思案を始めた。俺はもちろん「ふうせんかずらが何者かを知りたい」と書いた。先ほどの説明がチンプンカンプンだったので、映像で見ることができれば、多少は理解できるかもしれないと思った。

 

 俺は紙をみつめていた。するとしばらくして、紙を透過するようにして、うっすらと映像が見えてきた。そこには、材木座のアニメポスターだらけの部屋があり、フィギュアだらけの机があり、キーボードを打ち込む材木座の姿があった。小説を書いているらしい。

 俺はふうせんかずらが何者かと問うたはずだ。それなのに材木座? 

 ふうせんかずらの正体が材木座だというのか?

 

「おい、ふうせんかずら、俺の紙にはお前の正体が材木座になっているぞ。どういうわけだ」

 

「その解釈はあなたがご自由になさってください」

 

 海老名(ふうせんかずら)の向こうでは、三浦といろはがなぜかこそこそと相談をしていた。こいつらも水と油の関係だったはずだが、何か共通の利益に気がついたらしい。

 まず、いろはが紙に何か書いた。映像を見て目を丸くしたいろはが三浦に耳打ちする。すると、三浦も歯ぎしりして顔つきが険しくなった。その憎しみの目を雪ノ下に向ける。

 

 次は、三浦が紙に何か書いた。映像を見た三浦がいろはに耳打ちする。今度は二人して安堵感に満ちた表情を浮かべた。そして、意外そうな顔をして二人で俺を見つめる。

 

「なにか?どうしたん?」

 

俺が三浦といろはに問いかけると、「へぇ~、そういうことになっていたんですか。比企谷先輩も隅におけないですねぇ~」といろはがニコニコしてくる。劣化版小町というか、劣化版陽乃さんのような腹黒さを知っているだけに、なんか気持ち悪い。

 

 そこへ小町が俺の隣りに来て、耳打ちする。

 

「あの二人、葉山先輩と雪乃さんの好きな人を知りたいと紙に書いてたんだよ」

 

 こんなときにアホか。こいつら。ということは、葉山の好きな人というのは? 雪ノ下なの? そんなことがあるか? まあ、この問題は今は保留だ。

 

 小町は、紙に、俺たちが今後どうなるのか知りたいと書いたらしい。

 

「バトロワの結果が知りたいと書いたんですけど、10人全員が次々に銃のようなもので撃たれて死んでいくみたいです。これって本当なんですか」

 

「あ、自分も同じ質問を書いたんですけど、10人全員が勝利して喜んでいるみたいです。誰も死んでいません」

 

「あ? どういうことだ? 全員が負けて、全員が勝つ? 勝者が一人ではない? そんなことありえんが」

 

「へぇ。そんな映像が見えましたか。それも真逆の結果が。それは面白いですね。そんな結果が可能になる仕組みを真剣に考えてみてください。自分たちの未来にかかわることですからね」

 

「同時に勝って、同時に負ける。私たちが勝者でもあり、敗者でもある。まるであなたがさきほど説明した粒子の重ね合わせのようね」

 

「まぁ、重ね合わせという現象は、素粒子のものですから、あなたたちのようなマクロの物体には適用されません。なんでそうなるか考えて、解き明かしてみてください。正解に達したら、何か特典を用意してもいいですねぇ」

 

 そういうと、海老名(ふうせんかずら)はガクッとうなだれた。しばらくするとビクッと体を震わせて、顔を上げた。元の海老名さんだ。

 

「私、どうしてたの?」

 

「ふうせんだよ。あいつに体を乗っ取られたんだ」

 

葉山がそういうと、海老名さんは両腕で自分の体を抱くようにしてうつむいた。

 

「実は、私、ときどき幽霊を見てたんだ。そういう体質だったのかも」

 

「もう、終わったさ、安心しなよ」

 

「あ~! 私も質問書こうと思ったのに、ふうせんかずらいなくなっちゃったんだね」

 

 沈黙していた由比ヶ浜がくやしがっている。

 

「何を知りたかったんだ?」と俺が問いかけると「うん。いつふうせんかずらがいなくなるか。やっぱりこれが一番知りたい。ゆきのんと隼人君も質問しなかったね」と由比ヶ浜が答える。確かにそれは重要な質問だった。

 

「しかし、俺と小町と大志が得た答えで、何かとてつもなく重要なことのヒントがわかったような気がする」

 

「ちょっと、あーし、隼人を見損なったし」

 

 葉山の向こうで三浦が怖い顔をしている。

 

「三浦先輩! そこから先はいいっこ無しですよ!」

 

「あーし、やっぱり雪ノ下さんとは仲良くできないし。こんなんに巻き込まれてこんなとこ来ているけど。早く終わらせてくれないと、あーし我慢できない!」

 

「優美子、何で怒り出したかしらないけど、落ち着いてみんなで切り抜けよう」

 

 葉山がそういうと、三浦は「だって、あんたが……まだ引きずっているし………」と涙目になった。

 

 その後、数日間、ふうせんかずらは出現しなかった。そして、ヘンチクリンなイベントも発生しなかった。俺は、ほんのつかの間、心身ともに安らいだ。しかし、その安堵はすぐに破られた。


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