俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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B面04

 

 

 入れ替わった雪ノ下と由比ヶ浜、そしてテーブルに突っ伏している平塚先生。その様子を眺めながら、俺はオレンジジュースを飲んだ。

 

 俺は左隣に座る雪ノ下を見た。姿は雪ノ下そのもの。しかしさっきからの口調は由比ヶ浜のもの。ただ、雪ノ下の声だから、由比ヶ浜の口調で喋っても違和感ありまくり。にわかには信じられなかった。

 

「お前は由比ヶ浜だよな」と、由比ヶ浜(雪ノ下)に話しかける。

 

「そうだよ。ヒッキー。ヒッキーの知恵でこの状況なんとかしてよ」

 

 テーブル上で向かい合う形になる雪ノ下(由比ヶ浜)も俺になんとかして欲しそうな顔をしている。

 

「陽乃さんだったらこんなときどうしますか?」

 

「ええ~。こんな状況どうしたらいいかわかるわけないよ。やっぱり救急車呼んだほうがいいんじゃないかな。お手上げだよ」

 

「姉さんそれはよして。頭がおかしくなったと思われるだけよ」

 

 雪ノ下(由比ヶ浜)が由比ヶ浜の声で言う。

 

俺は左隣の由比ヶ浜(雪ノ下)に質問した。

 

「本当に由比ヶ浜なのか? 聞いていいか? 去年の文化祭のとき、教室の前で俺と一緒に昼飯に何か食べたよな。何を食べたんだっけ?」

 

「え?」と由比ヶ浜(雪ノ下)は言葉に詰まった。

 

「あれでしょ? あれ、言葉が出てこない。ひきが、ヒッキー、なんでそんなこと聞くの?」

 

「ひきが? 何か変だな。さあ、何を食べたか答えてもらおうか」

 

 向かいで由比ヶ浜がニコニコし始めた。

 

「もう、バレてしまっては仕方がないわね。比企谷君、さすがに鋭いわね」

 

「もしかして、雪乃ちゃん、演技してたの? へぇ~。でも一瞬焦ったじゃない。やられたね~」

 

 陽乃さんが呆れたように雪ノ下を眺める。

 

「先生、バレました。もういいですよ。座興は終了です」

 

 雪ノ下がそう言うと「なんだ、すごく早かったな。入れ替わったままお開きにしたかったのだが」

 

 顔を上げた平塚先生もニヤケ顔だった。それに、まったく酔っていない。こういうのをザルというのだろうか。

 

「雪ノ下と由比ヶ浜、お前ら演技が下手だぞ。でも一本取られたわ。戸塚~、よかったな、ちっとも怖くなくて」

 

「本当だよ。僕は信じちゃったもん。どうしようか考えていたんだよ。ひどいな~」

 

「ごめんごめん、さいちゃん」

 

 そう言う由比ヶ浜の後ろに陽乃さんが立って、由比ヶ浜の両肩を揉む。

 

「ガハマちゃんがそういうことするのってわかるけど、雪乃ちゃんが演技するなんて初めて見たよ~。ふうせんかずらよりもそっちのほうが驚きだね~」

 

「あは~、雪乃さん、最近大勝利ですからね~」

 

「なるほどね~、そうだ小町ちゃん何か歌おうよ」

 

「賛成~!」

 

 小町がカラオケセットをいじってマイクのスイッチを入れる。すると、キーンと大音響のハウリングが起こった。

 陽乃さんが一番手で絢香の「number one」を歌った。つい最近のオリンピックのテーマ曲らしい。こんな歌唱力を要求される曲をノリノリで歌うその姿に、俺は思わず見とれてしまった。

 大人っぽい色気が、身振り手振りのたびに周囲へ残像のように振りまかれる。見ると戸塚も小町も見とれている。

 

 そのまま陽乃さんの独占ステージになって欲しかったが、どうせ歌わされる。俺は最近80年代の曲がお気に入りで、YouTubeで漁っていた。松田聖子、中森明菜、小泉今日子、中山美穂、南野陽子、工藤静香、工藤由貴、浅香唯、石川ひとみなんかの曲を聴きまくった。

 やはり、その中で断トツなのは松田聖子でしょう。俺は赤いスイートピーを歌うつもりでいた。

 

 次は由比ヶ浜の番だった。しかし、一人でステージに立つのが恥ずかしいらしく「コマちゃん一緒に歌おうよ」と小町を誘う。それで、一緒に歌ったのがMISIAの「僕はペガサス 君はボラリス」だった。知らない曲だが、そういった情報がわかるのは、大きな液晶画面にタイトルや歌詞が出るからだ。

 この曲も歌唱力が要求される。二人で一生懸命に声を張りあげて合わせようとするが、追いつかない。

 

「じゃあ、次はさいちゃんだよ~」と由比ヶ浜が催促する。だが、戸塚も恥ずかしがって立とうとしない。俺か?俺が一緒に歌うの? そう思った瞬間、小町に睨みつけられた。

 

「戸塚さんは私が一緒に歌ってあげますよ~」と小町が手を振ったので、戸塚はようやく席を立った。

 

 この二人が歌ったのは、なんとアニメ俺修羅のオープニング「Girlish Lover」だった。ガーリッ修羅場。なんでそんなの歌うんだよ! 思い出しちまうだろ。メインヒロインの真涼が可愛くてよく見てたな。女子力高いくせに(料理は由比ヶ浜並みにせよ)ぶっ壊れているところがかつての雪ノ下と似ているが、向こうのほうがエロかったな。だが、あーちゃんのおバカ系ツンデレも可愛すぎて捨てがたい。あ、小町のやつ、さっき大勝利とか言ってたな。まあ、そんなのはどうでもいい。

 戸塚と小町が歌い終わると、やはり俺の番か……。

 と思っていると、小町が俺の手を引っ張る。隣の雪ノ下は陽乃さんが連れ出してステージに。そして流れてきた曲が(何十年前の曲だよ)デュエット曲の定番、ロンリーチャップリンだった。

 困った。恥ずかしい。顔が火照ってきた。ステージに向けられた照明のために目がかすむし熱いし。BOSEのスピーカーがすぐ後にあってうるさいし。

 でも、メロディが単純なので、歌詞を見ていれば歌えた。隣の雪ノ下も顔が結構赤く染まっている。それを見てみんな手拍子ではやし立てる。くそ。必ずリベンジしてやる。

 歌い終わると緊張のためかフラフラした。息があがっている。それは雪ノ下も同じようだった。

 そんなこんなで楽しい時間が過ぎていった。こうした集まりが楽しいと感じるようになっている自分に驚いたりもした。

 だが、宴会がお開きになって高層ビルを下り、駅に向かって歩いているときに、俺はシビアな問題に気がついた。

 あの3人が入れ替わりの座興をしたが、先生と雪ノ下、あるいは先生と由比ヶ浜が座興の打ち合わせをする時間はなかったはずだ。先生が今日宴会やると言い出してから、雪ノ下と由比ヶ浜は俺と一緒にいた。仮に、俺の目を盗んで先生とメールのやり取りをしていたとしても、ふうせんかずらのことなんかを詳細に伝えることが可能だったか。先生のセリフは完璧だった。材木座の小説に書いてあるとおりに再現されていた。

 俺は隣りを歩いていた雪ノ下に聞いてみた。

 

「なあ、雪ノ下、先生と座興の打ち合わせをいつやったんだ?」

 

「ん? いつだったかしらね。覚えていないわ。ねえ、由比ヶ浜さん、先生と打ち合わせした?」

 

「私も覚えてないなぁ。いつしたんだろう」

 

 由比ヶ浜が眉を細めて思い出そうとしているが、心当たりがないようだ。

 

「それっておかしいと思わないか。あれだけ息を合わせて演技するってのは、結構打ち合わせが必要だぞ」

 

「そういえばそうよね。なんでうち合わせした記憶がないのかしら」

 

「おまえら、ひょっとすると。ふうせんかずらに操られていたんじゃないのか」

 

「まさかね。でも、入れ替わりの余興をするという予定が頭に入っていたことは確かね。それがいつ入ったのかわからないのだけれど」

 

「うーむ」

 

 俺は材木座に電話をした。ちょうど家でメシを食っているところだった。小説の原稿を持ってすぐ出て来て欲しいと頼むと「宴会に出るのはいやだ」という。

 

「材木座、宴会はもう終わった。駅前にすぐ来てくれ」

 

「はちえもんがそういうのであれば、応えないわけにはいかんな。了解した」

 

 俺は小町と由比ヶ浜、そして雪ノ下を誘ってファミレスに入った。他のメンバーとは駅前で別れた。ファミレスに入って落ち着くと、10分くらいで材木座が現れた。心なしかその顔が青ざめている。メシ食ってエネルギーチャージしているはずなのに。席につくなり材木座が、焦りを隠さずに切り出した。

 

「八幡、驚いた。我の書いた小説が勝手に変わっているのだ」

 

「なんだって?」

 

「書いた覚えのないストーリーに改変されているのだ」

 

 俺たちの会話を聞いていた3人の女も顔をしかめている。

 

「ここだ。ちょっと見てくれ。ふうせんかずらが登場して、みんなと議論のようなことをしたあと、知りたい質問を紙に書くイベントがあるはずだ。由比ヶ浜どのが自分の知りたいことを紙に書く前にふうせんかずらが消えている。

 そこがおかしい。我の記憶では、由比ヶ浜どのや葉山某の質問にも紙が映像で答えていたはずだ。

 それから、まだまだふうせんかずらとの会話が延々と続く。そこまで確かに書いたのだ。

 だが、ここにある小説ではその部分が消えている。その後、ふうせんかずらが現れないことになってしまって、みんな安心してイオンモールに出かけている。こんなこと書いた記憶はない。これはどうしたことなのだ。怪奇現象としか思えん」

 

 材木座がまくしたてる。その顔はさっきよりも青ざめている。

 

「要するに、自分は小説の中でふうせんかずらを登場させ続けたはずなのに、原稿が勝手に改変されてふうせんかずらも消えていたということね。原稿を変えた記憶がないということ?」

 

 雪ノ下がそう訊くと、材木座は珍しく雪ノ下をしっかりと見た。

 

「そのとおりだ。我、こんなことは初めてだ」

 

「うーむ。そのふうせんかずらが、この現実世界に移動してきて、お前ら3人を操った? まさかな」

 

「ゆきのんとヒッキー、私、なんか怖いよ。なんか操られたような気がする。絶対3人で打ち合わせしてないもん」

 

「お兄ちゃん、ふうせんかずらがこっち来たら、やっぱり変なことが色々起こるの? それは勘弁して欲しいな。なんとかしてよ」

 

「俺に何ができると? そうだ、材木座、原稿を24時間監視して、変わっていたら直せ。小説の中にふうせんかずらを登場させ続けろ。そうしないとまた、俺たちの誰かが何かされるかもしれない」

 

「そ、そんな。第一、ふうせんかずらなんぞ空想の産物。それが現実世界に現れることが信じられん」

 

「とはいっても、お前の小説の変化、それもふうせんが消滅したのは事実だ。そして消滅した時刻と雪ノ下たちが操られた時刻がおおむね一致している」

 

「確かに、だが、このプリントアウトは改ざんの証拠として打ち出したもので、すでにPCのメモリに記録されているものは、本来の原稿に直してある」

 

「もしかすると、中二さんがすぐ直したから、ふうせんがちょっと現れただけなんじゃない?」

 

「その可能性が高いと思えてきた」

 

「そんなことあり得るのかしら」

 

「とにかく、材木座、原稿を随時見直して、改ざんがあったら校正しまくってくれ」

 

「了解した」

 

 夜もかなり遅くなっていた。俺たちは不安感にさいなまれながらもそれぞれの帰途についた。

 

 

 

 

 


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