俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き 作:taka2992
ふうせんかずらが去ってから、いつ再び人格入れ替わりが発生するか心配だったが、模擬試験は無事にオリジナルな体で受けることができた。その結果は一ヶ月後くらいに出るそうだ。偏差値という差別的な指標と一緒に。
俺たちは試験が終わった放課後にまた部室に集まった。このときも葉山や戸部、三浦、海老名、一色いろはも参加した。そして、ふうせんかずらが何なのかを話し合った。
とりあえず、一番ふうせんかずらの話についていけたのは雪ノ下だった。その意見を小町が黒板に箇条書きする。
「ふうせんかずらは、自分を自然現象と言っていた。そして、ビッグバンからインフレーションを経て、私たちおなじみの物質ができたわけだけれど、その物質粒子すべてが、相転移した現在の宇宙空間に偏在しつつ、いまだに因果関係を持っているそうよ。
無限のキュービットが無限回の相互作用を行い、あたかも量子コンピュータのように知性が介在しない状態で情報をやりとりしているというの。全宇宙で行われている情報の相互作用と言っていいのかしら。そして、私たちの脳にとも相互作用が可能。
自然現象というのだから、台風が過ぎるのを我慢するように、私たちも大人しくふうせんかずらが去るのを待つしかない。私が4日前に理解したことといったら、こんな感じかしら」
由比ヶ浜や俺、小町なんかはもう、ユキペディアには慣れていたが、三浦といろはが口をあんぐり空けていた。何を話しているのかわからないらしい。
小町は話を聞いて、黒板に
①ふうせんは自然現象
②ふうせんは自然に発生した量子コンピュータ
③自然現象なので過ぎるのを待つしかない
と書いた。
「あのさ~、隼人も頭いいんだから、何かわかったことあったんじゃない」
三浦がそういうと、葉山は頭をかきながら答える。
「正直言って、ふうせんかずらと雪ノ下さんの会話はあまり理解できなかったな。量子なんて言葉は高校の物理じゃ出てこないしね。さっぱりだよ」
「それよりも、俺はふうせんかずらの正体が材木座として映像に現れたことが気になる」
「それは、ふうせんかずらが、実は材木座君にとり憑いているってこと?」
俺の思っていることを葉山が図星で突いてくる。
「わからん。しかし、そうでなかったらあそこで材木座の姿が映る理由がない。材木座をここに呼んでみるぞ」
俺は材木座に電話してすぐ来いと伝えた。すると、校門を出てすぐだから引き返すという。
ドアを開けて入ってきた材木座は、奉仕部に10人もいることに目を回していた。相変わらず汗を滴らせている。
「いったい何用かな? はちえもん。こんな大人数から糾弾の矢を浴びたら、我は秒死するぞ」
「ああ、別にお前を糾弾なんてしない。だが、聞きたいことがある。お前は今、小説を書いているか?」
「もちろんだとも。創作こそ我の生きる証。かつての中二病を克服するリアリティの香り溢れる芳醇な小説を書いておる。おほん」
「それは、俺たちが出てくるのか? そしてふせんかずらも出てくる?」
材木座が驚愕の表情に変わった。
「なぜだ。なぜそれを知っているのだ? さては、八幡、お主は……」
「大丈夫だ、安心しろ。俺はハッキングも魔法もできないし、超能力もない。で、今、原稿持っていたら見せてくれないか」
材木座はカバンから紙の束を取り出した。まだ20~30枚程度しかないようだ。
さっそく原稿を受け取って読み始める。
小説の中には俺たち奉仕部のメンバーや材木座自身も登場していた。材木座が俺に書き始めた小説を託し、例によって奉仕部で回し読みされ、材木座が呼び出される。そして、量子テレポテーションとか、ヒッグス粒子について不理解があったために、雪ノ下にコテンパンにやられていた。
そのあと、平塚先生の誘いで高層ビルのカラオケルームで宴会。平塚先生と雪ノ下と由比ヶ浜が、座興で人格入れ替わりの演技をしていた。俺の指摘によってその演技がバレている。
小説の梗概はこんな感じだった。確かに材木座お得意の魔法やら剣やら異界の戦士などが出てこない。登場するアノマリーといえばふうせんかずらのみだ。
「材木座、俺たちは実際にふうせんかずらに遭遇して、人格入れ替わりを体験しているんだ」
「なんだって? ふうせんかずらなんてアニメや小説だけの話ではないか。この世に存在するわけがなかろう」
「しかし、雪ノ下、三浦、由比ヶ浜、俺、海老名、大志の6人が実際に体験している。それで1日大変だったんだ。なんでお前の小説に出てくるんだ」
「実際に入れ替わったというのか。信じられん。我の小説の中ではフェイクだ」
「それで、ふうせんかずらの正体を知りたいと紙に書いたら、お前の姿が見えた。俺はてっきりお前の書いた小説どおりに現実が動いているのではないかと疑った」
「では、我が犯人ではないな。我は実際の入れ替わりなど書いておらぬ。見てわかるとおり我はふうせん某ではない」
「そのようだな。この小説は今まで俺たちが体験したこととは違っている」
材木座の書きかけの小説は10人が回し読みしていた。読み終わった人間から、「関係ないみたいね」「そうだね」
「中二さんも中二病克服できそう」と声が上がった。
「ふうせんかずらも、ここ数日出てこないから、もう過ぎ去ったのかも」
由比ヶ浜が解放感あふれる声で宣言した。心の中に台風一過の晴れやかな空が広がった。
「ユイ~、そういえば、あーし、幕張イオンモール行きたかったんだけど、試験終わったことだし」
「そうだね。行ってみようか。姫菜も行くでしょ?」
「いいよ。なんかふうせんかずらに憑かれたおかげで、気が滅入ってしょうがないよ。隼人君も行こうよ」
「ああ、今日は部活ないしな。いろはも戸部も行くだろ」
「あ、私も行っていいんですか。じゃあ、行きます」
「いっちょいっちゃいましょう~、31アイスのあとはカラオケでブースティングでしょう~」
部室の雰囲気が一気に明るくなった。そして、葉山、戸部、いろは、三浦、海老名が出て行く。最後に出て行く由比ヶ浜が振り返り、
「今日はあっちに付き合っとくね」と手を振る。
三浦といろはが仲良くなったのが意外といえば意外。ほんのわずかの一点で利害が一致したようだ。
俺はどうも解せなかった。材木座の書いている小説は俺たちに関係ないことが判明したが、これから訪れるであろう、バトロワで勝ちなおかつ負ける、という結末。これが引っかかっていた。ふうせんかずらはマクロの物体である人間に重ね合わせはないと言った。だとすると、俺たちと同じメンバーを擁する平行世界があって……それがバトルしてどちらかが勝つとでもいうのだろうか。
部室に残っているのは雪ノ下、小町、大志、材木座、俺だけだった。雪ノ下はさっきから何事かを考えている。じっと動かないが脳がフル回転しているのがわかる。
「ねえ比企谷君、私の勝手な想像なのだけれど、もし私たちと同じ世界がもう一つあって、向こうでも私たちが同じようにふうせんかずらの被害にあっているとしたらどうかしら」
「俺もそれを考えていたところだ。だが、それを立証する手段がない。俺はふうせんかずらの正体に、材木座の姿が映ったことが一番重要な事実のような気がする」
「ということは、材木座君の書いている小説の通りに現実が動いている世界がありうるということね。だとすると、私たちも誰かの書いている小説通りに動かされていると考える事も可能よ。でも、そんなことはありえないわ」
「材木座、一つ頼みがある。お前の書いている小説だと、ふうせんかずらはフェイクで出ているんだよな? それを本物にしてくれないか。要するに実際にふうせんかずらを登場させて、小説中の俺たちに何かさせてくれ」
「そうするとどうなるというのかな。この世界にふうせんかずらが出なくなるとでも?」
「まさかとは思うが。しかし、当分、お前の小説にふうせんかずらを登場させてみてくれ。頼む」
「了解した。たとえそれが無意味であろうが、一片の可能性があるのであれば、やってみようではないか」
雪ノ下は俺と材木座のやりとりに、眉間に手を当てて考え込んでいた。そんなわけない、とでも言いたそうな顔で。