俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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※ここから先は、だんだんと「R-15」「残酷な描写」フラグの適用範囲に入っていきます。熱烈な俺ガイルファンの方は、ここから先は読まないことをお勧めします。







B面05

 

 

 

 

 カラオケパーティの翌朝、目が覚めるとスマホのランプが点滅していた。材木座からのメールが着信していた。その内容は、

 

「八幡、我はもうお手上げだ。原稿を直しても直してもファイルを開くと違う内容になっているのだ。そして、書かないでいても勝手に原稿が書かれているのだ。これではもう、なすすべがない。いっそパソコンを壊してみようかとも思ったが、もったいないではないか。どうしたらいいのだ………」

 

 材木座の焦りが伝わってくる。同じような内容のメールが深夜から早朝にかけて10本以上来ていた。

 勝手に原稿が書き進んでしまうとなると、俺にもどうしたらいいのかわからなかった。

 俺は部屋のカーテンを開けた。すると、雪が降っていた。雪だと? もう四月の中旬だ。リビングに下りてテレビをつけると、季節外れの雪について気象予報士がコメントしていた。

 4月に雪が降ることはそれほどめずらしくないが、今日のように本格的に積もる雪は非常に珍しいという。日本上空の偏西風が蛇行して東海地方より北を覆っているため、寒気が居座り、そこへ南岸低気圧が通過することから、異常な積雪が予想されるという。気象予報士もコメンテーターも異常気象という言葉を連発する。

 しかしゲストの気象学者は、億年単位で考えれば、地球が赤道まで凍った全球凍結時代もあるし、海面が80メートルも上がったり下がったりをくり返しているので、4月の大雪なんて些細なことは誤差の範囲内だ、という落ち着いたコメントをしていた。

 

 学校へ行く途中、すでに雪は30センチは積もっていた。コートを着てきてよかった。風が強いので寒くて死にそうだ。顔に当たった雪がまつげに凍りつく。街は車が少なく、深々と振る雪に埋まっていく。校庭にはポツポツと足跡。下駄箱では、材木座がノートパソコンを抱えて俺を待っていた。

 

「八幡。メールは見たか」

 

「ああ」

 

「もう、この怪奇現象にはお手上げだ。八幡、このパソコンをお主に託そうと思うのだが」

 

「わかった。俺も、その怪奇現象を見てみたい」

 

 俺はノートパソコンを受け取り、教室へ向かった。教室には半分程度の生徒しかいなかった。先に来ていた戸塚が走り寄ってくる。だが、この天使のような笑顔を俺は守らねばならない。

 

「八幡、おはよう。昨日は楽しかったね」

 

「戸塚。もしかするとそれどころじゃないかも。お前は当分、俺とか奉仕部にかかわらないほうがいい」

 

「え?どうしたの?」

 

 俺の深刻な顔を見て、戸塚から笑顔が消える。そこで、由比ヶ浜が教室に入ってくる。

 

「おはよう。さいちゃんとヒッキー」

 

「あ、おはよう」

 

「戸塚、昨日、雪ノ下と由比ヶ浜がふうせんかずらの演技をしたよな。あれは、もしかすると演技じゃないかもしれないんだ。悪い事は言わないから、当分俺たちにかかわるな。お前を巻き込みたくない」

 

「ヒッキー。そんなに深刻なの?」

 

「おそらくな。すごく嫌な予感がする。何かが起こりそうだ。俺のゴーストがそうささやくって、ふざけてる場合じゃない」

 

「そうだよね。さいちゃんは奉仕部にちょくちょく顔を出しているけど、この一件に巻き込むのは申し訳ないよね」

 

「八幡、ぼくも何かしたいんだけど」

 

「今度ばっかりはどうにもできないと思う」

 

 俺の顔つきを見て、戸塚は「わかった」と言って自分の席へ戻った。

 

「由比ヶ浜、お前もだ。この件からは手を引け」

 

「ヒッキー、どうして? そんなこと言っても、もしかすると私、ふうせんに憑かれてたのかもしれないんだよ。手を引きたくても引けないかも」

 

「そうかもしれんな」

 

 始業時間になっても、教室の席は半分しか埋まっていなかった。異様に暗い雰囲気が教室を覆っている。

 

 材木座の小説の冒頭には、ふうせんかずらが大雪を降らせて総武高を封鎖すると書いてあった。実際にそのとおりになってきた。一時間目が終わって窓から外を見ると、白銀の世界。いや、分厚い雲の翳が視界に薄墨を溶かし込み、夕暮れのように暗い。陰鬱な世界が広がっている。空中を落ちる雪の密度が濃すぎて、地上にどれくらい積もっているのか見当もつかない。

 小町は来ているのか。俺が家を出るとき、まだ自分の部屋にいたと思うが。そのように案じていたら本人が教室に入ってきた。

 

「お兄ちゃん。これってもしかするとふうせんが降らせているの? あれが始るの?」

 

「そうかもしれない」

 

「今メールしたらゆきのんも来てるって」

 

 由比ヶ浜が携帯をパチンと閉じる。

 

「お兄ちゃん、私たち学校から逃げたほうがいいんじゃないかな」

 

「いや、ふうせんがその気になったらどこにいたって無意味だと思う。やつの思い通りに行動させられるさ。昨日の雪ノ下とか由比ヶ浜を見ればわかるだろ。俺たちにできることは何もない」

 

「そんな………」

 

 由比ヶ浜が泣きそうな顔をする。

 三時間目が終わったとき、俺は下駄箱へ行ってみた。校庭にはすでに俺の身長よりも雪が積もっていた。玄関から校舎の内側へ、雪が坂になって入り込んでいた。その坂の上を冷気が滑り降りて、足元に当たる。強い風が学校全体を不気味に鳴動させている。その不規則な重低音は魔物の咆哮のようだった。

 もちろん、こんな状態で帰ることなどできない。無理に帰ろうとすれば動けなくなって遭難するだろう。

 そのとき、緊急放送が流れた。

 

《全校生徒のみなさん、校長です。本日は大雪のために臨時休校にします。千葉県、東京都および政府は緊急事態を宣言しました。首都機能が大雪で麻痺して、自衛隊が道路などの復旧、および孤立世帯の救出活動を開始しました。学校にいる生徒諸君は帰宅しないでください。本校は災害時の一時避難所に指定されています。食料および水のストック、ならびに寝袋などの備えが大量にあります。安心してください》

 

「ちっ、遅い! 」

 

 俺はムカついて一人で毒づいた。

 

 教室へ戻ると、混乱していた。ガヤガヤと生徒が群れている。その中に奉仕部の面々が揃っていた。

 

「比企谷君、まさか、本当に始るの?」

 

 雪ノ下でさえ顔色が青ざめている。

 

「学校は完全に封鎖されている。すでに外に出れない」

 

 俺は自分の席に戻ってカバンから材木座のPCを出し、起動した。ワープロを立ち上げると、履歴から該当するファイルをひらいた。すると、

 

……ということは、材木座君の書いている小説の通りに現実が■

 

……ということは、材木座君の書いている小説の通りに現実が動いている■

 

……ということは、材木座君の書いている小説の通りに現実が動いている世界があ■

 

……ということは、材木座君の書いている小説の通りに現実が動いている世界がありうるということね■

 

……ということは、材木座君の書いている小説の通りに現実が動いている世界がありうるということね。だとすると、私たちも誰かの■

 

 勝手に文字が発生している!!

 

 その様子を見た由比ヶ浜が「キャー」と悲鳴をあげる。

 

「いったい何なの、これは……」

 

 雪ノ下も文字が自動書記のようにジワジワ増加していく様子を見て驚愕の表情を浮かべる。しかし、このファイルに書かれていることは俺たちが経験したことではない。だが、少し前を読んでみると、この小説の中でも材木座は小説を書いており、その内容があらすじになっている部分があった。

 

《……材木座が俺に書き始めた小説を託し、例によって奉仕部で回し読みされ、材木座が呼び出される。そして、量子テレポテーションとか、ヒッグス粒子について不理解があったために、雪ノ下にコテンパンにやられていた。

 そのあと、平塚先生の誘いで高層ビルのカラオケルームで宴会。平塚先生と雪ノ下と由比ヶ浜が、座興で人格入れ替わりの演技をしていた。俺の指摘によってその演技がバレている。……………》

 

 この部分は! これは確かに俺たちが経験したことだ。雪ノ下にこの部分を読むように促すと、しばらく考え込んでしまった。

 

「……つまり、材木座君が書いている小説の中でも材木座君が小説を書いていて、その内容は私たちに関することなのね。入れ子構造というか、二つの世界がお互いの世界を記述し合っているわけ? 現実はどこにあるの?」

 

「俺にはサッパリだ。それに、ジワジワと増え続けている文字。いくら直しても無駄なわけだ。もし俺たちが材木座の書いている小説の中の材木座が書いた世界なら、もう、なす術がない……」

 

 雪ノ下が一人で呟くように言う。その大きな目が微動だにしない。

 

 

「……ホログラフィック・ユニバース……。私たちの4次元世界は、どこかで計算され演算されたデータの動き通りに投影されている。まるでホログラムのように。

 そんなオカルト的なことを主張するれっきとした物理学者がいた。しかもアインシュタインの弟子……。

 この現象も似ている。……時間をずらして事実を記録したり予言をしている……いずれにしても私にはよくわからない。こんな現象ありえない……」

 

「とにかく俺たちはここに閉じ込められた。しかし、ふうせんが用があるのは俺たち奉仕部だけだろ。他の生徒は関係ないはずだ。どういうつもりだ」

 

「お兄ちゃん、マジ怖いよ」

 

 俺はノートPCの電源を落とした、が、落ちない。液晶画面では相変わらず文字がカウントダウンのように増え続けている。

 そうだ、ノートPCはバッテリーが外せるはずだ。画面を閉じて裏返し、二つのノッチをずらしてバッテリーユニットを外した。これで電源はない……が……、おそるおそる画面を開くと、同じだった。バックライトの輝く画面では、文字がジワジワと増え続けていてる。

 一瞬、ノートPCを床に叩きつけようかと思ったが、そんなことをしても無駄だろう。

 

「ゆきのん、わたし怖い」

 

 由比ヶ浜と小町が雪ノ下にしがみついている。しかし、雪ノ下にしても顔色が悪い。

 

「比企谷君、何か悪知恵は働かないの?」

 

 俺は手を広げて敗北を認めた。窓の外では以前にも増して雪の降りが激しくなっている。バタバタバタと空が鳴り始めた。窓に駆け寄ると、日の丸をつけたダークグリーンのヘリが二機、低空を飛んでいるのがかろうじて見えた。

 ヘリの一機が爆音と轟かせて校舎に近づいてきた。サーチライトが窓を走っている。その光の中で、生徒が数人、ヘリに向かって手を振った。

 そのとき、天井の蛍光灯が一斉に消えた。女子生徒がキャーと声を上げる。雪の重みで送電ケーブルでも切断したのだろうか。

 俺はスマホを取り出した。すると、アンテナのアイコンの上に赤いバッテンがついていた。携帯の電波も届いていない。

 

 そこへ大志が入ってきた。

 

「お姉さん来てますか?」

 

「そういえばいないみたい」と由比ヶ浜が川崎沙希の席のほうを眺める。

 

「やっぱり。携帯で連絡がとれなくなっているんで。途中で雪の中で動けなくなっているかもしれないっす。自分は、探しに行ってみます」

 

 そういって大志が駆け出そうとするので止めた。

 

「無理だ。この中に出て行ったらお前も遭難するぞ。スコップで穴を掘りながら家まで到達できる自信があれば別だが」

 

「……やっぱ、そうっすよね」と大志が途方に暮れる。

 

 窓際では葉山、戸部、三浦、海老名がかたまって立っていた。さっきから俺たちが深刻そうな顔をして話し合っているのを気にしていたようだ。だが、葉山はこんなときでも明るい笑顔を振りまいている。

 俺は、こいつらも巻き込みたくなかった。

 

「奉仕部へ行くか?」と提案すると、みんなうなずく。俺たちは窓枠やガラスが凍り付いている廊下を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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