俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き 作:taka2992
材木座に、小説の中にふうせんかずらを登場させて欲しいと頼んだ日の夜、電話がかかってきた。
「八幡、お主の頼みを実現させるために原稿ファイルを見たところ、勝手に話が書き換わっている。
小説の中でふうせんかずらを登場させて、人格入れ替わりの話を書いたのだ。それをたしかに保存したのだが、いったんワープロソフトを終了させて再びそのファイルを読み込むと、書いたことのない原稿になっている。これはどうしたことだ。我、頭が混乱しておかしくなったのか……」
材木座の喋り方に中二病患者独特の言い回しがない。素に戻っている。
「まさか、そんなことがあるか。書き換わっている内容はどんなものだ?」
「うむ。カラオケパーティの後、話は雪の朝から始まる。大雪が30センチは積もっていることになっている。そして、教室には登校可能だった生徒が半分しか来ていない。午前中には、我らの学校が大雪で封鎖される。すでに2メートルも雪が積もっている。
そんな中、我のノートPCの周りに奉仕部の面々が集まり、画面で文字が勝手に書かれていくのに恐怖の表情を浮かべている。
やがて停電し、自衛隊のヘリが偵察飛行しているのを目撃する。お主を含む奉仕部の面々は部室に向かう。だいたいこんなところだ。
我はすぐにふうせんを登場させたのだが、そんな風に書き換わっている」
「それが本当なら、超常怪奇現象じゃないか」
「では、明朝、PC持参するんで、お主の目で確かめるがよい」
「わかった。持ってきてくれ」
翌朝、ふとんから上半身を出して寝ていたおかげで、寒さで目覚めた。体が冷えて鼻水が出ている。ブルッとふるえて布団をかぶったが、時計はすでに起床時間だった。
俺はカーテンを開けた。すると雪が降っていた。マジか。もう4月の中旬だぞ。
リビングへ下りてテレビをつけると、季節外れの雪について気象予報士がコメントしていた。
4月に雪が降ることはそれほどめ ずらしくないが、今日のように本格 的に積もる雪は非常に珍しいという。日本上空の偏西風が蛇行して東 海地方より北を覆っているため、寒気が居座り、そこへ南岸低気圧が通過することから、異常な積雪が予想されるという。気象予報士もコメンテーターも異常気象という言葉を連発する。
しかしゲストの気象学者は、億年単位で考えれば、地球が赤道まで凍った全球凍結時代もあるし、海面が80メートルも上がったり下がったりをくり返しているので、4月の 大雪なんて些細なことは誤差の範囲内だ、という落ち着いたコメントをしていた。
小町がトーストを皿に載せてテーブルに置いてくれた。
「お兄ちゃん、外見てみた? これじゃあ学校まで行くの大変だよ~。休んじゃおっか」
「そうしたいところだがな。俺は約束がある」
モグモグとトーストを咀嚼しながらコーヒーを流し込む。
「一緒に学校行くか。そそっかしいお前のことだから、転ぶに決まってる。ちゃんと長靴はけよ。コートも着ろ」
「お兄ちゃんに言われたくありませ~ん。でも久しぶりにだね。兄妹揃ってなかよく登校。たまにはお兄ちゃんと一緒に手をつないで歩いてポイント稼がなくっちゃ」
「まだポイント貯めてるのか。もうそろそろパソコンもらえる頃だろ。PCの調子が悪くて困っているやつがいるから、そいつにやれ」
「や~なこった」
コート姿の小町と一緒に、学校までの雪道を歩いた。寒いし、雪がまつげにひっかかって凍るし、鼻水は出るし。
小学校のころに、雪玉を作って投げ合った記憶があるが、高校生にもなると、そんな戯事も遠き日のよき思い出。ただ転ばぬよう足元の確認と恐怖感に溺れるのみ。ああ、大人になりたくねぇ。
下駄箱では材木座が待っていた。その手にはPC。雪雲の薄暗さもあって、その顔は青白い。
「あ、中二さんだ。おはようございます」
「おお、妹君か。それに八幡。例のPCを持参した。お主に託そうと思うのだが……」
「わかった。怪奇現象を俺も確認したい」
俺は材木座からPCを受け取って教室に向かった。教室には始業時間近いというのに半分くらいしか生徒がいない。
そして、三時間目になると、授業中の雰囲気がざわつき始めた。「携帯の電波がとどいていない」とか「帰れるかな」とか「今日は休めばよかった」などと話す連中が増えたためだ。
そして、四時間目の授業中に、校長による緊急放送が突然入った。
《全校生徒のみなさん、校長です。本日は大雪のために臨時休校にします。千葉県、東京都および政府は緊急事態を宣言しました。首都機能が大雪で麻痺して、自衛隊が道路などの復旧、および孤立世帯の救出活動を開始しました。学校にいる生徒諸君は帰宅しないでください。本校は災害時の一時避難所に指定されています。食料および水のストック、ならびに寝袋などの備えが大量にあります。安心してください》
「ええ~!」と生徒が合唱する。「遅いよ~」「帰れねぇじゃん」
こうなるともうカオス状態。俺は教室を出て一階へ行ってみた。すると、雪は2~3メートルも積もっている。
無理に外へ出ると、動けなくなって遭難するのは確実だ。
周囲を見渡すと、生徒が少ないせいか、校内は森閑として寂しい。そこへ校舎の縁が風を切り裂く甲高い音と、空洞へ吹き込む風が生み出す重低音が混ざり合い、精神を揺さぶる不気味な共鳴が起きていた。
俺は教室へ戻った。すると、奉仕部の面々と葉山、三浦、海老名が集まっていた。もうこのメンバーが集まることはそれほど珍しくない。
「これって、もしかするとふうせんかずらの仕業?」
葉山が俺に問いかける。「そうかもな」と俺は生返事をした。
そんなことよりも気になることがあった。俺は、カバンから材木座のPCを取り出した。机の上で電源を入れる。すると、現れた画面は、書きかけの小説を表示したワープロ。しかも……………
……無理だ。この中に出て行ったら■
……無理だ。この中に出て行ったら遭難するぞ■
……無理だ。この中に出て行ったら遭難するぞ。スコップで■
……無理だ。この中に出て行ったら遭難するぞ。スコップで穴を掘りなが■
俺は思わず「うわっ」と声を出してのけぞった。その声を聞いた連中が俺のそばへ寄ってくる。
「どうしたの?比企谷君」
雪ノ下が近づく。
「奉仕部のカギは持っているか。持ってないのならとってきてくれ。部室で待ってるから」
そういうと、俺はPCをパカッと閉じて教室を出た。後ろからは「何?」「どうした?」という声。昨日、奉仕部に集まったメンバーが異変を察知してぞろぞろとついてきた。
雪ノ下にカギを開けてもらって、部屋に入ると、俺は長机の上でPCを開いた。全員が注目する中で、小説は自動的に書き続けられていた。あのとき、紙に映った映像は材木座ではなくこのPCだったのではないか。そうだとしても、このPCはふうせんの活動を反映しているに過ぎないはずだ。
「なにこれ?」と小町が体を震わせる。
「たぶん、ふうせんかずらの執筆作業だろ。もうすぐ現れるんじゃないの」
俺は投げやりな言い方をした。どうしようもない。こんな怪奇現象を見せられては。
勝手に文字が増加し続ける画面を見て、雪ノ下の目が大きくなる。画面を操作して前のほうから読む。
「ここに書かれていることは、もう一つの世界のことよね。材木座君が原稿を勝手にいじるようになったものだから、ふうせんかずらが材木座君を排除したのかしら。そうすると、彼はもう部外者ということになる」
葉山がPCを手にとる。そして、電源スイッチを切る。しかし画面は消えずに文字が増え続けている。葉山はバッテリーを外しにかかった。パチンと音がしてバッテリーが外れたが、やはり画面は消えなかった。
「隼人~、どうなってんの?」
「わからないよ。どうしてこんなことが」
「私たちはふうせんかずらの掌で弄ばれているってことじゃないかな。もうすぐバトルが始ってみんな死んじゃうんだよね……」
そう海老名さんが諦めたように言ったとき、ガラガラと扉が開いた。俺はてっきりふうせんかずらが憑いた平塚先生かと思ったが、こんな非常事態になってもフワリとした雰囲気をまとった一色いろはが入ってきた。
「葉山せんぱ~い。やっぱりここですか~。探していたんですよ」
「いろはす~、今度は何の用だ? 今日は部活ありえないの知ってるでっしょう~」
戸部が軽い調子で答えたが、一色の視線は葉山に向いている。
「あ、比企谷先輩もいるし、雪ノ下先輩もいる。頼もしいです~。この大雪にみなさん閉じ込められてしまって、こんなとき生徒会はどうしたらいいのかアドバイスが欲しくて」
「こんな状況じゃあ、生徒会は先生の指示に従うしかないよ。ここよりも職員室に行ったほうがいいと思うよ」
「え? でも職員室に先生が一人もいないんですよ。だからここに来てみたんですけど……」
「なんだって?」
そのとき、扉が開いて平塚先生が入ってきた。その顔を見ればすぐにわかる。ふうせんかずらだ。夜中の路傍で微かな光を浴びる柳の木のように、ゆらりゆらりと体が揺れている。
「みなさん。おそろいですね。役者は揃ったようですね。それでは、そろそろ最大のイベントを開始しましょうか」
「もうやめてくれ! 俺たちはお前のおもちゃじゃないんだ!」
俺がそう叫ぶと、ふうせんかずらがゆっくり近づいてきた。
「そう、比企谷さん、あなたたちは私のおもちゃじゃない。だから、弄ぶのを止めようとしているんですよ………わたしは二つの小説を同時に書くのが面倒になってきました。なので、どちらか一つに統一しようと思いまして………このさい、どちらか一つに消えてもらいます。どちらが消えるか、あなたたちに選んでもらおうと思います………」
「結局、弄んでいることに変わりはないじゃない。それに、あなたの能力からすれば、二つの小説を同時に書くなんてことは、ほんの些細な負荷にすらならないはずよ。これまで人類が書いてきた書物のすべてを、あなたは一瞬で作れる。まったくあなたの言っていることは矛盾に満ちているわね」
鋭い口調で反論する雪ノ下のほうに、ふうせんかずらが暗い顔を向ける。
「わたしはあなたたちに、自発的な意志による選択、つまり自由を与えようとしているのですよ……もちろん、勝利したらですが……勝てばこの世界から解放してあげましょう……わたしも二度と姿を現しません……その一方で、負けたら死。すなわちすべてが無に帰する……どうしますか、やりますか、やりませんか……」
「要するに、私たちは実体のないシミュレーションなの?」
「いいご質問ですね……わたしは時間に対してあらゆる操作ができます。時間を止めることも遡行することも可能です。また、プランク時間(5.39121×10^-44 秒)のすき間に任意の時間を挿入することもできます………これで理解できますかね……雪ノ下さん……」
「すると、私たちの肉体的な実体はあるということ? どこかで私たちの実体が普通に生活していて、プランク時間とプランク時間の間隙にこの世界が挿入されているということ? 普通に生活している私たちは、あまりに短いプランク時間のすき間を意識することはできない。この世界はそのすき間の連続体ということ? だとしたら何という……。恐ろしい………」
「ものわかりが良すぎて、驚きました……おおむねその通りです」
「雪ノ下、どういうことだ?」
俺は二人の会話が理解できなくて問いかけた。
「ちょっと違うのだけれど、映画のマトリクスのような構造になっている。私たちは保育器の中で脳にコードがつながれているわけではないけれど、そんな感じかしら。
私たちの実体の脳に干渉するタイミングは、一番わかりやすいイメージでいくと、映画のコマがあるでしょ。あれは瞬間的に動かない写真が連続してパッパッって写るじゃない? コマの間に一瞬、他の画像を入れても気がつかないということ。最近では、時間も連続的なものではなく、離散的なものだと考えられている。無限に微分ができない。時間の最小単位がプランク時間というわけ。
この世界はシミュレーションと私たちの意識が相互作用して作り出されている。そこでの感覚は私たちの実体にフィードバックされる。そして、感覚が発生する。マトリクスでもシミュレーションの中で負傷すると実体も影響を受けるでしょ。
しかし、この世界で受けた感覚は一瞬すぎて、私たちの実体には感知されないでしょうね。この世界にいる私たちは感覚が意識されるのに十分な時間があるのだけれど」
「難しいな」
「そうですか、そこまで理解されてしまいましたか……では言い方を変えましょうか……このバトルに勝利すれば……あなたたちの実体の脳に対する量子的な干渉を止めてあげましょう。どうですか……これでやる気になりましたか……」
「やるしかないだろうな。そんなキモイ干渉は一刻も早く止めてもらいたい」
「そうね。やるしかないわね。このバトルはやっても大丈夫だと思うわ。たぶん。私の推測が正しければ……。しかし、どっちみち拒否しても無駄なのよね」
「いいか、葉山、三浦、ほかの連中も。反対の者は?」
「ああ、やるしかないみたいだな。優美子、やろう、雪ノ下さんが大丈夫って言ってるから大丈夫だよ」
「隼人がそういうんなら、やるしかないし」
みんなやる気になったようだ。反対する者はいない。
「そうですか、それでは……」
ふうせんかずらが、手で机の上に四角形を書いた。その空間が光る。そして、武器がゴトゴトと音を立てて落ちてきた。机一杯に拳銃や弾薬の箱が無造作に散らばる。
拳銃はシグ・ザウエル社のP230だった。1970年代後半に開発され、日本では警察が採用している。噂ではSPが所持しているらしい。
「これだと、有効射程が50メートルくらいだろ。白兵戦に近いな」
「まあ、校内ではこれくらいで十分でしょう。その程度の火力で我慢してください。RPGとかロケットランチャーを持たせたら、一発で決着がついちゃいますからね。
あ、相手はあなたたちと同じメンバーですが、同じ2人のうち1人が死ねば、残ったほうは銃弾を打ち込まれても、屋上から飛び降りても死にません。そのつもりで……」
「どういうことだ」
「比企谷君、あとで説明してあげるわ。これも私の推測が正しければだけど」
「どうも雪ノ下さんは理解が早くてかないませんね……バトルの開始は、相手が現れたときです。あと1時間もないかもしれません。それから、どちらかのグループが全滅したときがゲームの終わりです。では……幸運を祈ります」
ふうせんかずらは、フラフラしながら出て行った。扉が閉まったときに、不意に聞きたいことを思い出し、俺は先生を追いかけた。他の教職員とか生徒はどうなるのか?
部室の扉を開けたて廊下に出たが、そこには誰もいなかった。俺はそのまま職員室や他の教室へ行ってみた。だが、静かで冷たい空気が充満するだけで、人の気配がまったくない。この学校にいるのは俺たちだけのようだった。これで舞台設定は完了というわけか。
部室へ戻ると、全員が銃を手にとって眺めていた。
由比ヶ浜や小町、一色までが、おそるおそる両手で銃を構えている。「重い~」「無理~」とか言って、ゴトンと銃を机の上に置く。おそらくあんなんじゃ撃てない。
俺は、銃の操作法を説明した。俺だって実銃をいじったことなどないが、およその知識はある。マガジンを外して、弾丸を一個ずつ入れる。マガジンを本体に挿入したら、スライドをずらして弾丸を装填。あとは引き金を引くだけ。あとは、セーフティレバーやハンマーの扱い方を含めて、およその操作法を全員に教えた。
全員がある程度の操作を覚えると、次は食料や水の確保に話題が移った。全員でカバンから教科書を放り出し、代わりに銃と弾薬を入れ、部室を出た。一階の売店でパンとか飲み物をカバンに詰めてくるためだ。
売店には、もちろん誰もいない。みんなでパンやペットボトルを適当にカバンに入れた。そのあと、廊下の切れ目に立ち、校庭のドカ雪に向かって何発か発砲してみた。
両手で構えても、パンと乾いた音と同時に、パンチを受け止めているような反動が来る。これを続けていたら手首の関節がおかしくなりそうだ。
同じように、全員に撃たせてみた。葉山や戸部、大志は撃っているうちに片手でも狙いをつけられるようになった。
三浦、雪ノ下、一色は結構面白そうにパンパン撃っていたが、由比ヶ浜と小町、それに海老名はへっぴり腰で、しかも顔をそむけて一発撃つのがやっとだった。
そして、俺たちは発砲という初体験の興奮が冷めやらぬまま、火薬の匂いにまみれつつ部室に向かって歩き始めた。