俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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(A⇔B)01 邂逅

 部室に戻る途中、一階の廊下の窓ガラスは、雪でふさがっていた。いくつかのガラスが割れて、雪が廊下へ雪崩れ込んでいる。床には冷気がたまり、歩くとそれが蹴散らされるのがわかる。暖房が効いていなければ、とっくに凍えているところだ。

 階段を上がって3階の部室の前まで来ると、部屋の中から声が聞こえた。

 

 まさか!

 

 やばいと思ったときには遅く、葉山が扉を開けていた。葉山の動きが止まり、凍りつく。俺も部屋の中を覗きこんだ。すると………。

 

 部屋の中にいたのはそっくりそのまま俺たちだった。俺たちの分身。コピー。鏡像。一瞬めまいがしたが、部屋の中を見渡すと、机が横倒しに積まれて楯になっていた。弾丸避けの塹壕だ。

 

 その前には葉山と俺。俺は俺と目が合った。7~8メートル先にいる俺が俺を見て驚愕の表情を浮かべる、そして、俺に銃を向けた。いきなりバトルが始ったのだ。

 

「逃げろ! 葉山!」

 

 俺はそう叫んで扉の前から飛んだ。葉山も反対側に飛んだ。その身のこなしはさすがに体育会系だった。素早く床を転がって、間一髪、難を避けた。パンパンと銃声が響き、スチール製の扉から火花が散る。ガギーン、ガギーンと鉄が衝撃でねじれる音が廊下を走る。何発もの銃弾は部室の入り口を抜け、廊下の壁から塵をはじけ飛ばす。

 

「みんな向こうへ走れ!」

 

 10人が一目散に渡り廊下を走って違う校舎へ向かう。しんがりにいた俺はカバンから銃を取り出し、振り向きざまに何発か撃った。とりあえず、敵グループとの遭遇に、犠牲者はいないようだった。 こちらの校舎は奉仕部のある校舎とほぼ同じ構造で、大きさも4階立てというのも同じだ。突き当たりを曲がって、射線から逃れると、みんな息を切らせていた。

 

 葉山が「どこか拠点を探そう」というと、「生徒会室ならここの2階にあります」と一色が提案する。

 教室の大きさは、視聴覚室とか調理実習室などの特殊な教室を除いて、ほとんど同じ大きさだ。生徒会室も他の教室と同じ構造だが、奉仕部のように使われていない机や椅子はない。

 俺たちも掩蔽壕を作ることになり、みんなで隣りの教室から机を運んだ。それを横に積んで、足をガムテープでしばって積み上げる。窓側から襲撃されることを考えると、ガラス一枚なのが不安だ。そこで、スチール製のドアのカギを閉めて、廊下側に立てこもれるようにした。こうすればひとまず安堵できる。

 机の壁は、面倒だったが廊下にも作った。部屋の入り口を出たところにいられるよう、左右の二つの壁を作った。

 その作業が終わると、俺は大志に「悪いが、見張りをしてくれないか。あとで代わる」と頼んだ。

「わかりました」と大志が扉に向かうかたわら、塹壕の中では由比ヶ浜と海老名がイスに座って体をブルブルと震わせていた。 

 

「本当に始まっちまったな」

 

 俺がそういっても葉山も戸部も無言だった。その手には銃が握られている。彼らだけでなく、雪ノ下も三浦も小町も無言だった。特に三浦は一生懸命に状況を把握しているようだった。

 

「とりあえず、お茶でもいれます」と、一色が奥のテーブルの上にある電気ポットを確認して、近くの収納ボックスからコップを取り出した。俺は次に何をしたらいいのか考えた。しかしどうしたらいいというのだ。

 お茶をひと口すすったところで、銃声が数発聞こえた。そして、すぐ近くに着弾する音。大志が「来ました!」と叫ぶ。俺は廊下に出て楯のすき間から様子をうかがった。隣りに葉山と戸部も来る。

 渡り廊下が終わるところに階段がある。その角からこちらをうかがう顔があった。誰だかわからないが男が1人いる。俺はそこに向かって2発撃った。向こうも手だけを出して撃ち返してきた。

 パシン!と机の板が弾ける音。細かい木の破片が頭に降りかかった。

 

「あれは誰だ?」と俺がといかけると、葉山は「たぶん向こうの君みたいだな。偵察に来たようだ」と俺に顔を向けた。

 

「こっちも、なんか陰謀というか作戦を考えてくれよ、君が一番そういう頭働くだろ」

 

「考えがないこともない。ただ、あそこの見張りがいなくならないと動けない」

 

「そうか。戸部、援護してくれ。撃ちまくれ!」

 

「わかった」

 

 戸部が机の山の上から顔を出し、銃を構えると、葉山が楯から出た。俺は「おい!やめとけ!」と叫んだが、葉山は俊敏に柱の影に隠れる。すると向こうの発砲が増えて、2人いることがわかった。俺も戸部も撃ち返す。俺の銃のスライドが後ろに下がったまま引っかかった。弾丸を装填するあいだ、代わりに撃ってもらうために大志を隣りに呼んだ。

 と、そのとき葉山が発砲しつつ、うぉーと声を出して走った。そのまま階段のあたりまで突っ走る。反撃がないようだ。葉山がこちらに手を振る。どうやら相手は階段を下りて撤退したらしい。

 

 生徒会室に戻ると、俺は考えていた作戦を披露した。奉仕部の部室は3階にある。俺は奉仕部の真上の部屋の窓からロープで3階の窓まで降り、一気に撃ちまくって決着をつけたかった。

 

 俺は一色に20メートルくらいのロープはあるか訊いた。隣りの生徒会の倉庫にはあるかもしれないという。一色が隣の部屋に行くとき、俺と葉山も楯のところで見張っていた。すぐに一色は円形に巻かれたロープの束を持って隣の部屋から出てきた。

 

「で、誰が行く? 俺が行ってもいいよ」と葉山が言う。しかし、これは俺がやりたかった。もう、こんな撃ち合いはごめんだ。この作戦一発で終わらせたかった。

 

「俺のほうが体重が軽いだろ。葉山、戸部、大志、三浦、雪ノ下、一色の6人で支えてくれ。由比ヶ浜と小町と海老名は4階の教室の入り口で廊下を見張っていてくれ。この作戦でいきたい」

 

 俺は小町、海老名、由比ヶ浜から銃をもらった。手に2丁持ち、ベルトにも2丁差しておく。こうしておけば装填する必要がない。

 

 みんなで息を殺して廊下を歩いた。俺の胴体にはロープが巻かれている。ロープの続きは葉山や戸部が握っている。まるで俺は捕らえられた囚人のようだった。

 渡り廊下には誰もいなかった。靴音をさせないように抜き足差し足で歩く。階段を上がって4階についた。奉仕部の真上の教室は空き室だった。このことは初めて知った。ということは……扉に手をかけても動かない。鍵がかかっている。

 

 俺は壁の上にある小窓を見た。ガラスがはまっているが、左右に開くようになっていた。

 

「葉山、戸部、俺をあそこまで持ち上げてくれ」

 

「わかった」

 

 2人が俺の大腿をつかむように持ち上げる。窓の下に手が届くと、手で自分の体重を支えられた。葉山と戸部の肩に足をかけると、教室内を見ることができた。

 俺は銃をガラスに叩きつけて割った。ずいぶんと大きい音がした。ガラスの破片を払いのけて、おれはネジ式のカギを解き、窓を開けて体をねじ込んだ。そして、部屋の中へ飛び降り、ロープをひっぱい込んだ。

 部屋の中は暖房が効いていないので、冷蔵庫の中のようだった。空気がカビ臭い。扉のカギを回して外した。

 

「さて、バンジージャンプを始めるか」

 

 俺がそういうと、葉山がクスッと笑う。窓を開けるとすさまじい冷気が吹き込んできた。

 

 吹き付ける雪に足を晒して、窓枠に座った。寒さのために体がブルッと震える。

 ロープは6人がしっかりと持っている。両手には2丁、ベルトにも2丁。そのまま、体をまっすぐにする。窓枠から尻が外れて、俺は外壁に宙吊りになった。

 体を回転させ、頭を下にした。手で合図をしてロープをゆっくりと下ろしてもらう。3階の部屋の窓が近づいてきた。目が窓の切れ目まで達すると、部屋の中が見えた。

 俺たちのコピーは、窓側に塹壕を作っていた。ちょうどその内側が見える。そこには、小町、由比ヶ浜、海老名、一色がイスに座っていた。4人だ。それ以外は見えない。どこにいる? 何かの作戦行動をしているのだろうか。もしかすると、生徒会室の襲撃に出ているのかもしれない。

 4人は、上から覗かれていることも気づかず、身を寄せ合うようにして何かを話していた。俺は……俺は……俺は、こいつらをこれから撃つというのか……。おそらく何の反撃もしてこないだろう。そんな4人を撃つというのか。

 

 自分のやろうとしていることが信じられなかった。本当に撃てるのか?

 

 異常な時間が経過した。上から「比企谷、支えるのが結構つらい。早くしろ」と小さな声が聞こえた。

 俺は時間が恐ろしくなった。強制的に次の変化を要求する時間。変化しないこと絶対に許さない時間。時間は考えずにいること、動かずにいること、変化しない自由を選択することを絶対に認めない。人を死の淵に次々と運んで無慈悲に突き落とす、溶鉱炉へ続くベルトコンベアのような時間。

 俺は目を瞑った。だったらこれを早く終わらせたい。こんな嫌なことを早く終わらせたい。止まれないんだったら時間を早く進ませたい。許せ! 小町、由比ヶ浜、海老名、一色!

 

 俺は目を開き、2丁の拳銃を4人に向けて連射した。粉砕されたガラスが飛び散り、俺の顔に跳ね返る。その向こうで……。

 その姿が俺の脳裏に焼きついた。これほど強烈で精彩に満ちた映像は見たことがなかった。映像出力端子から伸びた線を脳に差し込まれたかのように、鮮明な画像が脳内に迸った。

 ……小町が弾丸を受け止めようとでもするかのように、俺に向かって掌を見せ、「お兄ちゃん、やめて!」と叫んだ。同じように由比ヶ浜が「ヒッキー!」と口を歪め、両腕で顔を守りながら目を閉じる。海老名はただ、驚くような表情で俺を見ていた。

 その姿が血に染まっていく。俺が二つの人差し指を動かすたびに。飛び散る鮮血。痙攣する手足。みるみる広がる血溜まり。時間がその変化をゆっくりと導いてゆく。物理的な法則に則って……。

 よく見ると蠢く半死体の中に、一色の姿がなかった。わずかな隙をついて逃げたらしい。

 気がつくと、発砲していないのに、窓ガラスや窓枠が時々弾ける。部室の廊下側から反撃されているらしい。パンパンと音が聞こえる。俺は合図を送って引き上げてもらった。

 その途中、上からも発砲音が聞こえた。俺の襲撃を知って、相手グループの誰かが4階に上がってきたようだ。

 4階の部屋に戻ると、俺はロープを外した。そして、廊下の扉から顔を出して、葉山たちと反撃した。そのうち、銃声が止んだ。

 部屋の中では三浦と雪ノ下が、倒れている小町、由比ヶ浜、海老名を介抱していた。俺が相手グループの3人を撃ったとたんに、こちらの3人も動かなくなっていたのだ。しかし、こちらの3人には銃創がない。

 

「おそらくこの3人は大丈夫よ。生きている。このまま放置しておいても凍死することもないでしょう。ふうせんかずらはそう言っていた。行きましょう」と雪ノ下が言う。

 

「本当か? せめてカーテンでもかけておいてやろう」

 

 俺は戸部と葉山と協力して、窓のカーテンを引きちぎろうとした。しかし……体の力が入らなかった。思い通りに動かせない。立っていることもつらくなってきた。ひざの力が抜け、その場に崩おれてしまった。

 

「どうした?」

 

 葉山が俺の異常に気づく。

 

「あいつらにカーテンをかけてやってくれ。なんか俺は体がおかしい」

 

 確かにおかしかった。異様に手足がしびれて冷たい。手の感覚が薄らいでいる。さっきから視界が白くなっているような気もする。俺は床に寝転がった。動けないのだ。

 

「比企谷君、すごく顔色が悪いわ」

 

 雪ノ下と三浦が俺を覗き込む。

 

「葉山君、生徒会室に戻る必要があるかしら」

 

「あんまりないな。一時的にここを拠点にしようか」

 

「それがいいと思う。彼をかついで移動しているとき、襲撃されたらまずいと思う」

 

「じゃあ、また机で楯を作るか。戸部、大志くん、やるよ。一色と優美子は廊下に顔出して見張っていてくれないかな」

 

「わかった」と三浦と一色が扉の方へ歩く。

 

「雪ノ下さんは比企谷君の看病して」

 

「わかった」

 

 俺は、雪ノ下に引きずられて教室の後ろに移動した。依然として体に力が入らない。これは、いわゆる腰が抜けたという状態なのだろうか。

 俺は気分が悪くなってきたので、震える指先で手首に触れ、脈を診た。すると、脈打つ感覚が不規則に伝わってきた。しばらくトットットと来たあと、数秒なかったりする。

 

「どうやら神経がおかしくなってしまったらしい。その原因は……」

 

「もうそれ以上、言わなくていいわ。なんとなくわかる。妹さんとか由比ヶ浜さんを撃ったんでしょ? 相当きつかったのよ。でも、本当に死んではいないのよ」

 

「わかっているさ、脳の一部では。でも、わかっているのはその一部だけで、それ以外の俺の全身全霊は……自分の妹を射殺した、と認識してしまっている」

 

「比企谷君、よく聞いて。あなたの撃ったのは幻影よ。だから……」

 

「幻影にしては血が飛び散ったり、すごいことになっていた。やめて! という声まで聞こえた。俺のまぶたには、その映像が焼き付いてしまった。なんかマジで体がおかしい。動かないんだ」

 

「そうね。もしかするとPTSDになっているかもしれないわね」

 

「俺は……俺は……」

 

「比企谷君、今は何も考えないで心を空にしなさい」

 

 まるで母親のような声で言うと、雪ノ下は動かない俺の体を壁にもたれかけさせ、同じように隣に座った。そして、俺の上半身を胸に抱き止め、俺を両手で包み込んだ。そのぬくもりが、俺の冷たい体に乗り移ってきた。

 

「安心しなさい。大丈夫よ。ずっとこうしていてあげるから」

 

 顔が冷えていて気がつかなかったが、俺は大量の涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 


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