俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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(A⇔B)03 世界の終わりについて

 

 1階の廊下で、俺たち5人はしばらく手をついて床に座り、肩で息をしていた。疲れきっていた。ガソリン攻撃を受けた結果、こちらは2人を失ったが、コピーの連中も5人になったはずだ。3対2。1人ぶん、俺たちのほうが勝っている。

 みんなぶざまな姿だった。制服のところどころが焦げ、ボロボロになっている。2人のロングヘアの女は、髪の一部がチリチリになっている。特に金髪の三浦は、濃い茶色に焦げている部分が目立つ。だが、そんなことにかまっている余裕はない。

 

「あ~、わたしもう疲れた。無理よ。どっかに隠れて休みたい」

 

 三浦のこの発言に違和感があった。こいつは自分のことを、あーしと言っていたはずだ。このチャンスに葉山とくっつこうという魂胆? そう思うと、おかしくなってきた。

 

「講堂の倉庫あたりだったら隠れられるかな。どう思う、比企谷君」

 

「とりあえず、そこまで移動すっか。あそこだったらマットとかがあるから、寝られるかもしれん。カギがかかっているはずだが」

 

「これがあるさ」と葉山は銃を振る。

 

 全員がヨロヨロと立つ。講堂は3つの校舎の一番北側にあった。奉仕部の部室とは、かなり離れている。途中で売店に寄って、食料と飲料を調達した。簡単に食えるものといえば、パンや握り飯しかない。表示を見ると、まだ賞味期限は切れていない。が、何か温かいものが食いたかった。

 俺は、陳列棚にあるカップ麺5個と箸5本を袋に入れた。そして、売店の従業員用らしき電気ポットをコンセントから引き抜いた。これさえ持っていけばカップ麺が食える。

 

「これ着たほうがいいんじゃないですかね」と大志が売店の奥に積んである箱に手を突っ込んで、ジャージを漁っていた。ビニール袋に入った新品の赤と緑のジャージが、俺たちのほうに投げ出された。上下セットになっているようだ。

 

「いえてる。制服がボロボロだし。一つもらう」

 

 三浦が赤いジャージをとる。下のジャージはスカートの下につけ、上は征服に重ね着していた。女は赤、男は緑のジャージをその場で着た。重ね着すれば、少しは夜の寒さ対策になるかもしれない。

 

 略奪が済むと、講堂へ向かった。もう、面倒くさくて不意の襲撃を誰も気にしていなかった。講堂に続く屋根つきの道は、校庭に積もった雪をVの字に分けていた。それでも屋根の下には、1メートルくらいの積雪がある。足跡や、雪を掻き分けた痕跡がないので、おそらく誰もいないはずだ。

 抱えていたポットを開けると、そこにはお湯がまだ半分残っていた。俺は雪を目一杯ポットに詰めてフタをした。

 

 講堂の扉をガラガラと開けると、真っ暗なうえに静かな冷気が満ちていた。入り口の右側に、電気設備の制御盤がある。それを葉山がいじると照明が点灯し、暖房の運転が始まった。ブーンという低音が響いて、空気が動く。

 目的の倉庫は、講堂の演壇の地下にある。そこには、跳び箱とかハードルとかマットとかが格納されている。扉はやはり施錠されていた。

 

「下がっていろ」と葉山が鍵穴に銃口をつけて撃つ。扉は開いたが、これで内側からカギをかけられなくなった。

 中に入ると、葉山が扉に跳び箱を当てて塞いだ。照明をつけると積んであるマットが見えた。数枚を床に敷き、そこへ全員がゴロンと転がった。俺もしばらく目を閉じて動かなかった。

 

「やれやれ、これで少し休めるかな」葉山がそう呟くが、俺は少し寒いと思った。ここには暖房の空気が入ってこない。俺は大志を連れて外に出た。演壇のスクリーンを隠してあるバカでかくて厚いカーテンを、体重をかけて2人で引きちぎった。

 

「この下にもぐりこむと少しは温かいと思う」

 

 カーテンを広げると、みんながその下へもぐった。みんな言葉が少なかった。

 そのうち、やはり腹が減ってきた。コンセントを探してポットでお湯を作った。カップ麺を食うと、多少は疲れがとれてきた感じがする。

 

「隼人、明日からどうすんの?」

 

 カーテンを肩までかけて壁にもたれている三浦が、視線を隣りの葉山に向ける。

 

「もう考えたくないな。このまま終わりにして欲しい」

 

「雪ノ下さん、あんた何か知ってるんでしょ? 教えてくれない?」

 

「それは……」

 

 跳び箱にもたれている雪ノ下が言いよどんでいる。

 

「それは? どうして言えないわけ? 何があるわけ?」

 

「この世界が終わってしまうのよ。どちらのグループが勝っても」

 

「は? 終わる? よくわからないんだけど」

 

「三浦さん、残された時間は少ない。こんな勝負なんて忘れて、生きたいように生きなさい。ここでは殺されても殺しても同じよ。あなたが今、何を一番したいか、よく考えて、行動しなさい」

 

 呟くように言った雪ノ下の視線が床に落ちたまま、微動だにしない。

 

「は? なんか預言者みたいなこと言わないでよ。マジで頭大丈夫?」

 

「優美子、たぶんその通りなんだよ。どうしてだか俺にもよくわからないんだけど」

 

「俺ももう、殺し合いなんて真っ平だ。くだらん。最初は大丈夫だと思ったが、ノリで3人撃ったら、そのショックで心も体もボロボロだ。銃なんて素人の撃つもんじゃない。

 プロにしたって、イラクやアフガンに従軍した帰還兵のPTSDが問題になっているくらいだ。こんなことやらせやがって。くそが。なんとかふうせんかずらをブチ殺す方法はないのか?」

 

「ないわ」

 

「どうして?」

 

「相手はほぼ無限の大きさを持っているのよ。しかも異次元でネットワーク化している。あなたがブチ壊せるものなんてせいぜい自分と同じ大きさのものくらいでしょ。月や地球だって壊せない」

 

「そうか」

 

「打つ手なしか」

 

 葉山が仰向けに寝転がって天井を見上げる。俺もマットに寝転んだ。もう考え事をするのも億劫だった。

 

 葉山が何かを考えついて上半身を起こす。

 

「そうだ。あいつらも同じようなこと考えているだろ。休戦を持ちかけたら?」

 

「私もそれを考えたけれど、たぶん、そんなことしたら、ふうせんかずらが現れて介入してくると思う」

 

「そうか。くそ! まだ8時だけど、もう俺は寝る!」

 

 葉山が打ちのめされたようにバタンと寝る。こいつにしてはふて腐れたような珍しい態度だった。さすがにこの状況では、持ち前の明るい性格は役に立たない。その後、誰も声を発しなかった。

 

 

  ★    ★    ★

 

 

 ふと気がつくと、ひと眠りしていた。腕時計を見ると午前4時。疲れていたので、ひと眠りにしては長かったが、あんまり寝たような感じがしない。倉庫の中は照明がついていた。寝息が聞こえる以外はシーンとしていた。 

 

「起きた?」と声をかけられた。隣の雪ノ下も起きていた。

 

「おまえは寝たのか?」

 

「ええ。少しだけど。話しがあるのよ」

 

 雪ノ下が体を起こした。俺も上半身を起こす。

 

「ちょっとついてきて」

 

 雪ノ下が立ち上がる。一緒について行くと、扉の前の跳び箱を移動させ始めたので俺も手伝う。ギリギリと音がしたが、眠っている3人は目覚めなかった。

 

 講堂は暖房がかかりっぱなしになっていて、よく晴れた春のように暖かかった。雪ノ下に手を引かれて演壇に上がる。両脇のそでの紺色のカーテンあたりで一瞬止まる。文化祭のとき、ここから雪ノ下に無線でいじられた場所だ。

 そこを過ぎると、階段があった。上がると、講堂全体を見渡せる小部屋があって、放送機材が置いてあった。

 その小部屋に入り、機材を置いてある机の前に立った。

 

「話って何だ?」

 

「この世界がもうすぐ終わることよ」

 

「ふうせんかずらは、負けたほうが無になるって言ってたはずだが」

 

「でもそのあと、私の指摘を受けて訂正したでしょ。私たちの実体の脳へ量子的な干渉をするのを止めるって」

 

「それが?」

 

「その意味はね、この世界が消滅するってことよ」

 

「どういうことだ?」

 

「コンピュータで動いていたゲームを止めて、電源を落とす。するとゲームは終わる。いいえ、消滅するということよ」

 

「でも記録されて電源を入れれば復活するじゃないか」

 

「ふうせんかずらにその気があればね」

 

「なるほど、俺たちの世界はきれいさっぱり消滅するってことか」

 

「そういうこと。生き残っている私たち5人とコピーの5人も消滅する。私たちの今までの記憶もすべて無に帰する」

 

「それはいやだな。想像もできない。だからお前は三浦に聞かれたとき、言うのをためらっていたんだな」

 

「だって、希望のない話しじゃない。この事実は絶望しかもたらさない。残りの少ない時間を絶望で塗りつぶしたくないでしょ」

 

「なるほど」

 

「それから、もっと重大な疑問があるの」

 

「どんな?」

 

「私たち、いったい何時からこのシミュレーション世界に囚われたの?」

 

「それは……わからん……」

 

「そうでしょ? ふうせんかずらが現れたとき? それを確かめる方法がないでしょ? もしかすると、もっと以前からこの世界にいたのかもしれない。平塚先生が彼氏自慢をしに部室に入ってきたとき。

私が足をくじいたとき。私の父親が逮捕されたとき。生徒会選挙で私とあなたが対立したとき。修学旅行に行ったとき……奉仕部に初めてあなたが入ってきたとき。この高校に入ったとき……。もしかすると生まれた瞬間から?」

 

「それは恐ろしい。もしそうだとしたら……」

 

「でしょ? 私は……あなたと出合った事実が、この世界だけの出来事だったとしたらと思うと……」

 

「ということは、俺たちの実体は……お互いを知らない、という可能性もあるのか……」

 

「そう。私とあなたが、この同じ高校にすら入学していない可能性だってある。今ごろ、あなたのことをまったく知らない私が、まったく違う高校に通っているかもしれない」

 

「そんなことがあるか……」

 

「あなたと私がこの高校に入って、奉仕部で出会って、いまここにいるまで、すべてシミュレーション世界での幻影に過ぎないとしたら、どうしたらいいの?」

 

「わからない…」

 

 俺は背すじが凍った。この世界が開始されたのがいつなのか、まったくわからないのだ。雪ノ下と俺が出会ったというシナリオが許されるのは、この世界だけだとしたら。

 

「理解してくれたようね」

 

「だから、お前はあのとき涙を流していたというのか」

 

「そうよ。それ以外ないじゃない。あなたと出会って、こうして一緒にいることがすべて幻影だとしたら、とても耐えられない……。一瞬で終わって消滅してしまうなんて」

 

「俺とお前が、こうして一緒にいられる時間も、あと残りわずかということか。せっかくいい関係になれたというのに……」

 

 目の前が真っ暗になった。目の前に立っている雪ノ下への愛しさも、消えてしまうというのか。俺を好きだと言ってくれた雪ノ下の気持ちも、幻影だというのか。

 体が震えてきた。怒りだか悲しみだかわからない激情で体中の血が沸騰しているようだ。

 

「ありえねえよ!」

 

 そう叫んだ俺に雪ノ下が身を寄せてきた。その体をほとんど絞めつけるほど強く抱きしめた。

 

「まだ実体のほうも私たちと同じような関係になっている可能性も残っているのよ。でも、これからずっと私の近くにいて」

 

「俺もそうしたい。ちくしょう! なんとかする方法はないのか!」

 

「たぶん、ないわ」

 

 瞬間的な激情の次に襲ってきたのは虚脱感だった。俺には何もできない。

 

「本当は、まだ疑問があるのよ」

 

「やっぱり絶望感しか生まない疑問なんだろ」

 

「そうね。あなたは今、自分が存在している感覚を信じて疑わない。しかし、私とか葉山君とかが純粋なシミュレーションだったとしたら、そうじゃないことを確かめる手段もないのよ」

 

「実体に干渉されてシミュレーションに接続されているのは俺だけで、他の人間はそうじゃないと? つまり俺以外は全部ニセモノかもしれないと? この世界にいるのは実は俺だけだと?」

 

「その可能性もある。でも、私は私を本物だとしか思えない。疑いはじめたらキリがないのよ。こんなところにいたら精神が破壊されてもおかしくないわ。だから、もう私は考えたくない。怖い。どうにもできなくて虚しい」

 

 伝えたかったことを吐き出すと、雪ノ下の体の力が抜けた。眠そうな目で、かろうじて俺に抱きかかえられて立っている。その体を机の前のイスに座らせた。

 階段を降りて、またカーテンを引きちぎった。カーテン大活躍の巻。学校は泊まる場所じゃない。ん? 泊まる? 警備員室、保健室にはベッドがある。数時間でもいいからフカフカの布団に包まれて寝たかった。

 演壇の上の右サイドの小部屋の中で、俺たちは2人で並んで立ち、引きちぎったカーテンでぐるぐる巻きになり、床に横たわった。床が痛かったが、そのまま数時間は眠った。このままずっと離れたくなかった。

 

 コツ、コツという足音で目が覚めたとき、窓が明るくなっていた。明らかに警戒しつつ移動する足音だった。床に頭がついているので、その微かな振動が感じられる。

 ジャージにはさんでいた銃を確かめた。密着している雪ノ下はまだまだスースーと鼻で息をして、眠っている。2人が横たわっているのは、小部屋の一番奥だった。入り口からは机の影になっている。このまま動かずにいたら、見過ごしてくれるだろうか。

 俺は息を殺して足音が近づいてくるのを見守った。

 

 

 

 







これって自分で自分の作品を評価できるんですね。間違えて押したら載っているし。
ああ、恥ずかしい。笑

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