俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き 作:taka2992
突然、動きがあったのは冬休みが終わる前日、夕方6時過ぎにかかってきた由比ヶ浜の電話が発端だった。
「ねえ、ゆきのんこれから7時にバイトの面接に行くんだって。ヒッキーがそういう情報あったらすぐに知らせろって言っていたじゃん?だからすぐに知らせたよ」
由比ヶ浜には、雪ノ下の行動をそれとなく、探り出すように指示していた。陽乃ルートは小町、雪ノ下ルートは由比ヶ浜に頼んだ。理由は告げなかったが、もしどこかに出かけるのであれば、行き先の住所も絶対に聞き出しておけと言っておいた。
「で、行き先はわかるか?」
「うん。なんか聞き出すのに苦労したよ。なかなかどんなバイト先なのか言わないの」
悪い予感がした。強い調子で水商売は止めろと言っておいたのだが、効果がなかったらしい。陽乃さんのツテを頼るというのも、忙しくて無理だったのだろうか。今日で冬休みが終わる。それまでに働く場所を確保しようと焦っているようだ。
由比ヶ浜から聞き出した住所は津田沼駅周辺の繁華街だった。さっそくストリートビューで住所を直撃する。すると、案の定、派手な看板がビルの谷間に氾濫していた。
おいおい、雪ノ下さん、最近のあんたは冒険しすぎだぜ。
しかもこんなところで働くなんてシャレになってないぞ。
まだあいつは赤坂のホテルにいるはずだ。すると、小一時間かかる。性格を考えると、約束の時間前に到着していることだろう。うまくいけば雪ノ下を発見して思い止まらせることができる。
試しに、雪ノ下の着信履歴から電話をかけてみた。しかし、電波が届かないところにいるらしかった。
「ちっ」
俺は壁にかかっているいつものダッフルコートを素早くまとい、玄関を飛び出した。また小町に声をかけられたが、20メートル先の幹線道路まで走った。しかし、自宅警備員(雪ノ下専用)とは俺のことだな。我ながら苦笑してしまった。
タクシーを止めて行き先を告げる。おそらく20分程度だろう。ところで、家を飛び出してしまったが、俺はどうしたらいい? 何ができる?
こんなとき、俺には一緒に行動できる友人がいない。柄の悪い兄ちゃんたちに喧嘩吹っかけることになるかもしれない。助けになるのはやはり男の友人だ。だがぼっちの宿命で俺一人で何とかするしかない。
津田沼駅に着くと、住所を探した。あった。洗体メンズエステ・マーメイド??
これは風俗なのか風俗じゃないのか、いわゆるグレーゾーンの営業形態だな。とはいえ、いくらなんでも、雪ノ下さん、お前がこんなところに出入りするなんて信じられないぜ。少しがっかりだよ。トホホって感じ。
階段を上っていくと三階が店舗になっているらしかった。ドアを開けると、受付らしい30がらみの白シャツの兄ちゃんが「いらっしゃいませ」と出てきた。
おい、ビビるな。覚悟を決めろ。少し俺の体は震えているみたいだがもう少し我慢しろ。
「あの、客じゃないんですけど、今女性の面接していませんか? ちょっと用事があるんですけど」
そう言うと、俺は仕切り部屋の間を一気に奥まで走った。後ろで「おい、待て」と声が追いかけてきた。
一番奥には扉があって、スリガラスの向こうに人影の動きが見えた。
「わたし、そういうことするって聞いてません」
これは雪ノ下の声だ。扉越しだからなのか弱々しく聞こえた。
「何いってんの。いまさらダメじゃん。ここまで来てそれはないよ。さあ、どう仕事するか教えるからちょっとこれに着替えてくれるかな。おい、お前も手伝ってくれ」
「やめて、やめてください」
息を呑んで扉を開けた。ソファに座った雪ノ下が二人の男に腕をつかまれ、激しく抵抗しているところだった。
「やめてもらえませんか?」
「誰、あんた」
パンチパーマをかけた中肉中背の40男が俺を睨みつけた。
「比企谷君」
腕をつかまれたまま雪ノ下はワンピース姿だった。ソファの背には数日前に見たトレンチコートがかかっていた。その近くには、エステで着用するスケスケ生地の制服も置かれていた。
「いや、俺はその子の知り合いですけど、連れ戻しに来ました」
「あ?なんなの?営業妨害するの?」
茶髪の30男が威嚇するように俺に近づいてきた。
「いや、営業妨害するどころか、あなたたちを助けたいと思いまして」
「なんだって?」
そういうと茶髪がおれの胸倉をつかんだ。
「いや、このままだとお宅の店が営業停止になるかと思いまして。その子、まだ高校生ですよ。雇っていいんですかね」
パンチパーマが茶髪に目を向けた。
「おい、年齢を確認しなかったのか?」
「はい、すみません。だって、この子、大学生かOLにしか見えないじゃないですか」
「スカウトするときに年齢を確認しなきゃダメだろうが。アホンダラ。ああ、兄ちゃん、つれて帰ってくれよ。ありがとうな」
ソファから立ち上がった雪ノ下はコートを手にして、フラフラしながら俺のほうに近づいてきた。その目からはどっと涙があふれていた。
「さ、帰ろうか」
そう言って扉を開けると、雪ノ下が遅れまいと俺のコートの背中をつかんできた。
「なんでここがわかったの?」
「由比ヶ浜から聞いた」
「ありがとう。あなたって本当・・・」
雪ノ下はバッグからハンカチを出して顔をぬぐい始めた。このとき、俺は泣いた雪ノ下を初めて見た。
「どうしてここまでしてくれるの?」
「それはこの前サイゼで言ったはずだぞ」
「あなたが来てくれなかったら私本当に危なかった」
「だからお前に縁のない世界だって言ったろ。そういう場所には金輪際近づきなさんな」