俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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(A⇔B)07 終わりへのカウントダウン

 

 

 

 握られた手をバスタオルの端から出して、彼女はスヤスヤと眠っていた。その寝顔を見ていると癒される。純真無垢、無邪気、そんな顔をしている。

 その寝顔が癒し効果を持つことに気がついたのはつい最近だった。見ていると心が落ち着いて、永遠に平和が続くような安心感に満たされるのだ。なぜだろう。

 口もとがピクリと動いて薄目の隙間から瞳孔が見えたときは、眠り始めてからすでに2~3時間は過ぎていた。

 

「どうしてニヤニヤしているのかしら」

 

「いや、別に。気分はよくなったか」

 

「ひと眠りしたらスッキリした。あなたは人の寝顔眺めていい気分だったようね。もしかしてスケベなこと考えていたわけ?」

 

「なんだそれ。意味がわからん」

 

「男のスケベ心って、ある程度距離がないと起こらないんじゃないの? いくら美人でも長く一緒にいると消えてしまうんでしょ?」

 

「まあ、そういう話は聞くよな。それが今の俺たちに何の関係がある?」

 

「あなたがニヤニヤしながら私をスケベな目で見ていたのが珍しいと思ったのよ。私たちって最近ずっと密着していたから。慣れちゃったのかと思ってた。それか……」

 

「あのな、俺はお前の寝顔を見て、スケベ心にふるえていたわけじゃない。自分で寝顔見れないから気がつかないだろうけど、お前の寝顔は一級品だ。癒されることに気づいた」

 

「また変なこと言うのね。一級品の寝顔なんて言われたことないわ。私は赤ん坊なの?」

 

 上半身を起こしながらクスクスと笑う。この様子だとメンタルは回復したのだろう。

 

「お腹空かない?」

 

 そう言われたので壁の時計を見ると、午後6時を過ぎている。

 

「空いたな」

 

「調理実習室に行くのは危険な気がする。いいこと思いついたのよ。裏門から学校を出ると、細い道を挟んで民家があるでしょ。そこには冷蔵庫とかコンロがあると思うの」

 

「ん? そうだと思うが、使える設定になっているのかな」

 

「行ってみない?」

 

「行ってみるか」

 

 起き上がった雪ノ下が「ちょっと待ってて」と部屋を出て行った。シャワールームの方へ向かったようだ。そして数分後に帰ってきた。

 

「何してたの?」

 

「乾かしていた下着をつけてきたのよ」

 

「え? ということは今まで、ノーパン?」

 

 思わず雪ノ下の下半身を見た。スカートの下に赤いジャージをはいているので詳細はわからないが。

 

「そうよ。ノーパンにノーブラ。ニーハイも干してたけど。それが何か?」

 

「そういえば三浦と一緒に洗ってたもんな。もしかして、三浦の下着と一緒に並べて干してたの?」

 

「それが?」

 

「あ、いや、何でもない……」

 

 雪ノ下が久しぶりにジト目になる。徹底追求モードに切り替わった音が、かすかに聞こえたような気がした。

 

「ふ~ん。言わないとごはん作らない」

 

「おまえ、女房かよ」

 

「すでに似たようなもんでしょ。由比ヶ浜さんも言ってたじゃない」

 

「あのな。大したこと考えていたわけじゃない。追及する価値はないと思うぞ」

 

「続けてごらんなさい」

 

「だから……。三浦とお前のブラが並んでいたら、お前がコンプレックスを抱かないかと……。ほんの一瞬、そう思っただけだ」

 

 変なニコ顔をした彼女が近づいてきた。口が若干とんがっている。両手で俺のほっぺたをつまみ、横に引っ張る。唇が広がるし、痛ぇし……。

 

「見くびらないでちょうだい。ブラの大きさは、そんなに違いありませんでしたから。それに着やせする体質なので」

 

「そんなに、ってのはずいぶん抽象的であいまいだな。人によってズレが大きい。痛いってば……。早く行こうよ。腹減った」

 

「よろしい。正直に吐いたから許してあげる」

 

 ほっぺたから手を離すと、雪ノ下は畳の上に置いてあった銃を取って、制服のポケットに入れた。俺も一応、腰を触ってその重たい感触を確かめた。

 

 外はすでに暗い。灯火に照らされた雪がほの白く発光しているように見える。この学校の裏口はすぐ近くにある。だが、近くても雪がすごくて、なかなか進めない。

 裏口のフェンスの上まで雪が積もっているので、そこをまたいで道路に出た。

 一番近くの家に近づくと、二階の屋根が1メートルくらい上にあった。そこに飛びついて、彼女の手を引っ張る。窓ガラスを割って和室に侵入した。

 一階に下りると、リビングルームの照明を入れ、暖房スイッチもONにした。一〇畳ほどの広さがあり、ソファやダイニングテーブル、アイランドキッチンを備えた普通のリビングだった。

 予想通り、電気・ガス・水道が使えた。こんなことならもっと早くからここに来るべきだった。冷蔵庫の食料も豊富で、まともなメシが食えそうだ。

 

 料理ができるまで、テレビでも見ようとテーブルの上のリモコンを操作した。だが、テレビはONになるがどのチャンネルも砂嵐だった。ふだんはまったく見ないバラエティ番組が恋しくなる。

 小一時間待って出てきた料理は、チキンライスの入ったオムライス、小ぶりのグラタン、グリーンサラダ、ワカメスープだった。

 また俺はガツガツと食った。毎日こんだけ美味いもの食ってたら太るにちがいない。

 

「お前の作るメシは美味くてかなわん」

 

「ちゃんと感謝してる? 感謝している人の胸の大きさをバカにしないわよね。普通」

 

「その、根に持つ性格をなんとかしろ」

 

「記憶力が良いと言ってくれるかしら。その時その場の人間の心理や発言をしっかり覚えている。永久に忘れない。あなたがここ一年間に私の前で発言した内容は、全部反芻できるのだけれど」

 

「それって怖ぇよ。勘弁してくれよ。恥ずかしいし」

 

「もう逃げられないわね。あなたの言動はここにすべて記録されているから」

 

 雪ノ下が人差し指で自分の頭をつつく。

 

「なんか変な会話しているな、俺たち」

 

「そういえばそうね。前にも気がついたことがあるけれど、あなたと会話していると、話がアブノーマルな方向へ行きやすいのよね。アブノーマルでなかったら、世を拗ねるような」

 

「俺だけの責任とは言えないだろ」

 

「まあ妥当なご意見ね」

 

「だが、全部覚えているってのも厳しい面があるんじゃないか。俺なんて恥ずかしい記憶ばっかりなんで消し去りたい」

 

「恥の多い人生を送ってきました。ってやつね」

 

「人間合格したいもんだな」

 

 食後の紅茶を飲みながら、他愛のない会話が続いた。彼女と二人きりになると、こうした会話がいつまでも続けられるような気がした。まるで同棲でもしているような雰囲気。俺たちの置かれている状況を忘れてしまいたい。だが、二人とも忘れられるはずがなかった。ここはふうせんかずらの中なのだから。

 

 忌々しい声がした。その声は、人間という憑り代がないために抽象的で、鼓膜を通してではなく、聴覚細胞に直接働きかけてくるような感覚を催させた。

 

「おくつろぎのところすみません。お二人さん。もう闘う意思はないようですね」

 

 声が聞こえた方向を見ると、そこには1メートルくらいのレンズでもあるかのように、空間が歪んでいた。その歪みが次第に線状になり、中性的な顔になった。

 

「それがお前の顔か?」

 

 俺は銃を取り出し、顔に向けた。だが、おそらく撃っても無駄だ。

 

「いいえ、ちがいます。私に顔があるわけないでしょう。ただのイメージです。もう一組のあなたたちも、戦意喪失しているみたいです。保健室でくつろいでいますよ」

 

「何の用だ。消えてくれ。邪魔だ」

 

「今のところ、勝負としてはあなたたちのほうが勝っています。ただ、これ以上続ける気がないのであれば、あと24時間で強制的に終わらせようと思っているのですが、どうしましょうか」

 

「勝手にすれば? もうどうでもいいわ、そんなこと。あなたの思い通りにはならない」

 

「勝ったほうのメンバーを蘇生させて、表彰しようと思っていたんですがね」

 

「そんな表彰に何の意味があるというの? バカにしすぎでしょ」

 

「お望みであれば、この世界をずっと存続させてもいいと思っていたのですが」

 

「こんな偽りの世界に生きることにどんな意味があるというの? バカなことを言うのはほどほどにしてくれない?」

 

「偽りの世界ですか。ではその内部であなたが思ったことも偽りということになりませんか? あなたたちのお互いの気持ちも」

 

 激情が抑えきれなかった。こいつは絶対に許せない言葉を吐いた。俺は顔に向けて数発撃ったが、屈折率の違う空虚な空間を、弾丸が通り抜けただけだった。

 

「貴様は絶対に許さん! 俺の彼女に対する気持ちは本物だ」

 

「ふうせんかずらさん。残念ながら人間はそんなに単純じゃないのよ。あなたには理解できないでしょうけれど。ニセモノだらけの世界にだって本物が存在することもある。ニセモノが本物に変わることもある。この世界が終わる直前に、それを見せてあげる」

 

「ほう、どのようにして見せてくれるのでしょう。実は、私にはもう、結末はわかっています。私には時間が存在せず、どの時間にも存在できることは話しましたよね。あなたたちがどうなるかわかっているのですよ。その場合にはペナルティを与えなければならないかもしれません」

 

「どうなるというんだ! ペナルティだと?」

 

「それはお答えできません。すでにあなたたちの意識にはあるようですし。それを確実に意識させたくありませんから。

 私としては、勝ったほうのメンバーがずっとこの世界で生きるという選択をお勧めします」

 

「だから、それは拒否すると言ったろうが」

 

「そうすると、あなたの妹さんとかも、このまま消えてしまうことになりますが。いいんですか?」

 

「………」

 

「蘇生した妹さんに、一目でも会いたいと思いませんか?」

 

「くそ! 死にやがれ、てめぇ」

 

「とにかく、何のアクションもない場合は、あと24時間で終了します」

 

「ええ、それでいいわ。消えて。さようなら」

 

 ふうせんかずらの顔があった空間が元に戻った。無理やり現実に引き戻され、俺はぶちのめされた気分だった。どんどん心がダークサイドに落ちていく。

 イスに崩れ落ちた俺の肩に、背後から両手が添えられた。

 

「最後まで希望を持って。私たちが今ここに一緒にいることは、ふうせんかずらにも絶対に変えられない事実なのよ。最後までこの絶対的な時間を大切にしましょう」

 

 強い……。こんな状況になっても、そこまで言うとは。できればすがりついて泣きたいと思った。

 

「お前と一緒にいられる時間もあと24時間か。何もしてやれなかったような気がする。すまん……」

 

「そのネガティブな思い込みを消して。そうだ、お風呂ためたから一緒に入らない? 湯船に浸かるの久しぶりでしょ? 暖まると疲れもとれてサッパリするわよ」

 

 風呂? 一緒に? 突拍子もない提案にたじろぐ。立ち上がるとニコリとした彼女の顔があった。

 

「もうこの世界も終わりでしょ? いいじゃない。入りましょ。もしかして恥ずかしいの?」

 

「あ、ああ……。わかった」

 

 急に襲われた緊張感で体がガチガチになりながら、洗面所のほうへ一緒に行った。

 

 

 

 







 こんにちは。いつもの小町です。

 とうとうこの時が来ましたか。あ、カウントダウンのことですけどね。笑。やっと夫婦水入らずのように過ごせたと思ったら、それもたった一日に終わりですか。小町はこの二人が不憫で不憫で。最後にゆっきーが弾けちゃうのも理解できちゃいますねぇ。
 小町だったら24時間で何をするでしょう。大好きな甘いものをたくさん食べちゃうかな。でも、焦らずにいつもの通りに過ごすかもしれません。
 聞いた話によると、この世界が終わるまであと2回くらいしかないということです。二人の希望が未来へつながることを祈っています!
 それでは。ごきげんよう。

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