俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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最終話


(最終話)これで俺の青春ラブコメがやっと始まる。

 何か、大きな断絶があった。だが、何と何が断絶したのかわからない。そして、断絶のあと、元の自分と今の自分に、何かの変化があったような気がする。

 暗闇の中を光速を超えて飛び、自分がどこまでも広がっているかのような感覚。体が無限に重くなってしまったような感覚。近くのものが小さく見え、遠くのものが大きく見えるような、狂った感覚。

 無数の、今までに経験したことのない異常な感覚が同時に存在した。

 時間の経過も感じられない。今まで自分が述べたことは、線状的に順を追って文字で綴られているが、実際には、すべての文字が一つの位置に重ね合わされていた。すべての意味が同時に感知できた。無限の大きさを持つ一点にすべての意味が折りたたまれていた。無限の大きさをもつ一点? とりあえず、この矛盾が矛盾ではなくなる世界にいたような気がする。

 

 わけがわからなかった。何かがおかしい。自分はどこにも存在していないはずなのに、次第に具体的な感覚が強くなってきた。

 たとえば、足を回転させていること。その足が何かの負荷を感じていること。

 たとえば、両手で何かを握っていること。その手は綱渡りのようなバランスを保つために働いていること。

 

 たとえば、両手で何かを持ち、そこに書かれているたくさんの記号を目で追っていること。

 たとえば、ガラス越しに桜色に塗られた景色に目を取られ、それが横に流れていくのを追うこと。

 

 具体的な感覚がますます強くなる。

 

 両足が回転するごとに景色が変わっていった。両手で握っていた棒を動かすと、方向が変わった。

ハンドルでバランスをとって、人が前に出てくるとブレーキを握った。ハンドルの前にあるカゴには、新しい学校の指定カバンが置かれていた。

 

 両手で押さえていた紙をめくり、次のページの文字を新たに追い始めた。

 ガラス越しには綺麗な桜の花が流れていく。革張りのシートには、新しい学校の指定カバンが置かれていた。

 

 雑多な感覚が複雑に重なっていたのはここまでだった。気がつくと、俺は自転車をこいでいた。しかも、今日は高校の入学式の日だった。ワクワクして一時間早めに家を出てしまったのだ。

 

 だが、……同時に、……俺は。あのふうせんかずらのシミュレーション世界で、彼女と心中した記憶もよみがえってくる。

 

 なんだと? なんで俺がここにいる? 今日は総武高の入学式の日だと? 

 驚愕してあたりを見回す。見慣れた町並み。この道路は何回も歩いたり、自転車で通っている。見間違えるわけがない。

 

 俺は、転生したのか! 前の記憶をそのまま維持して!

 そんなバカな。ありえない。しかし、俺の視界には俺の住んでいる街。

 着ている制服は、まだピカピカに真新しく、ノリが効いている。ズボンの折り目もはっきりしている。

 

 このまま進むと学校に近づくことになる。そして、俺の記憶では、由比ヶ浜の犬を助ける。同時に交通事故。車には雪ノ下雪乃が乗っているはずだ。

 

 俺は焦りながら自転車をこいだ。時間を早めたかった。コトが起こる前にその場所につくために。すると……。

 右の歩道に女の子がいた。犬を連れている。……由比ヶ浜結衣だ。

 どちらの車線の車も来ない事をよく確認してから、道路を渡り、反対側の歩道に自転車を進めた。

 由比ヶ浜に近づく。しかし、どうしたらいい?

 犬はせせこましく走ったり止まったり、路傍の匂いを嗅ぎまわっている。

 そうだ。俺にはやることがある。ペダルに力を入れて由比ヶ浜に近づいた。そして、思い切って声をかけた。

「すいません。ちょっといいですか? 犬の首輪が外れそうになってますよ」

 

「え?」

 

 俺の顔を見た由比ヶ浜は、明らかに俺を知らなかった。少し怯えたような表情を見せる。不審者と思われてもしかたがない状況だ。

 自転車から降りて、サブレの首輪を点検した。すると、やはりロープと首輪をつなげる金属製の輪が、開きかけていた。

 

「ほら」とその輪を由比ヶ浜に見せ、力を入れて輪を閉じた。

 

「これで大丈夫です」

 

「ありがとうございます。総武高の制服着てますけど、そこの人ですか?」

 

 由比ヶ浜がニコニコした顔で問いかける。やはり、こいつは性格がいい。

 

「そうです。今年から通う新入生です」

 

「あ、そうなんですか? 私もです。これから家に帰って出ようと思っていたところです。もし学校で会ったら、よろしくお願いします」

 

「そうなんだ。じゃあ、よろしく」

 

 俺は自転車に乗り、由比ヶ浜に手を上げて走り始めた。

………振り返らなかった。なぜなら涙が出そうな気がしたからだ。

 お前は俺なんかにかまわず、自分の道を行け。あの世界では俺を気にしてくれてありがとう。お前には頭があがらないよ。それに、撃ってすまなかった。お前がピンチのときは必ず影から助けてやるからな!

 そう叫びながら、俺はペダルをこいだ。しばらくして振り返ると、由比ヶ浜は歩道からいなくなっていた。

 

 そこへ、黒塗りのリムジンが通りかかった。結構なスピードが出て俺を通り過ぎるかと思いきや、急ブレーキが鳴った。まさか!

 数十秒ほどリムジンが止まって走り出した。そこに残されたのは……。

 

「おい! お前なのか! 雪ノ下!」

 

「そうよ! 比企谷くん! あなたなの?」

 

 信じられなかった。奇跡が起こっていた。車も気にせずに俺は自転車を倒して走った。幸いなことに車にはひかれなかった。

 

「なんでだ。なんでこんなことが起こる」

 

「わからない。気がつくと車の中にいたのよ!」

 

「俺もだ、気がつくと自転車に乗っていた!」

 

 俺は彼女の手をとった。人目を忘れて思わず抱きしめた。

 感激のあまり2人とも泣いていた。はたから見たらどんなふうに見えただろうか。朝っぱらから泣きながら抱き合う高校生のカップルを。

 

 我に返った二人は学校の方へ歩き始めた。彼女がカバンの中からハンカチを出して俺に差し出した。まず、彼女の目をふいてやり、その後、俺の顔を拭った。

 

「どうなっているんだ。これはペナルティなのか」

 

「私たちの願いが届いたのかもしれない。ペナルティというよりも、ふうせんかずらの配慮のような気がする」

 

「お前に記憶が残っていてよかった。俺一人だったらどうしようと思っていた」

 

「他の人たちはどうなんでしょう」

 

「さっき犬連れの由比ヶ浜に会った。首輪を直して逃げられないようにしてやった。あいつは俺を認識しなかった。記憶がない」

 

「そう」

 

 俺は気になって、携帯を取り出した。高校入学当時は、まだガラケーだった。家に電話をかける。この4月から中二になる小町は、まだいるはずだ。

 

「はいは~い。お兄ちゃん? 何?」

 

「ちょっと気になることがあって。お前、ふうせんかずらって知ってるか? 知り合いに聞かれたんだが」

 

「え? ふうせんなんとかなんて知らないけど。ふうせんを子供にくれる着ぐるみかなにか?」

 

「わからないか。ありがとう。他に聞いてみるわ」

 

 電話を切ると、彼女が顔をしかめた。

 

「私たちだけ? 葉山君とかは?」

 

「学校で顔を合わせるとわかるはずだ。しかし、葉山とか記憶があったらまずいだろ。ちょっと残酷だったぞ」

 

「そうね。しかし、なぜ今なのかしら。入学式当日に」

 

「考えてみれば、俺たち、すげぇ有利じゃないか。また高校生を二年間やり直せる。お前なんて勉強しなくてもずっとトップだろ。遊べるじゃん」

 

「で、あなたにもすごくメリットあるわね。やり直せて。すでにボッチじゃないし」

 

「そうかな。そうだな」

 

「あなたね、私みたいな彼女が入学式当日からいて、自分が非・リア充とか思うわけ? それってどんだけ贅沢なのかしらね。すごく精神的に成長した状態でやり直せるのだから、いいことよ」

 

「確かに。学校一美人で成績トップの彼女? それに、もし葉山に記憶があったら学校一のイケメンの戦友? ……笑える。……マジ笑える。おかしい。これが俺だなんて。ありえねぇ」

 

「私、奉仕部を作らないわ。あの部を作ると、またふうせんかずらを呼び込みそうだから。未来を変えるの。でも由比ヶ浜さんとは絶対また友達になる。部活作ったら入ってくれるの?」

 

「何を作るんだ?」

 

「そうね。宇宙科学研究部。非線形数学研究部。基礎物理学研究部、あたりかしらね」

 

「パス! そんな部活作っても由比ヶ浜は入らんぞ。無理だろ。もっと柔らかい部活にしろよ。とにかく、人の悩みを解決する部活だけはやめとけ」

 

「また陰謀が働けるのがいいかもしれないわね」

 

「陰謀も、もういい。そうだ。ペット研究会ってのはどうだ? 犬猫や小動物の研究から、野良猫の救済活動。野良猫の去勢費用の募金活動とか。犬猫の里親募集と斡旋とか」

 

「それいい! 考える。たまには立派なこと言うのね。見直した!」

 

「そうですかい」

 

 俺は思わず微笑んだ。雪ノ下もこの高校に入るころは、性格に問題があったはずだ。それが、この明るさ。ニコニコ笑っている。話しかけるなオーラなんて微塵もない。これも大違いのはずだ。

 美人で頭脳明晰、そして性格も明朗闊達だったら、最強のキャラクターになる。もしかすると彼女の姉を超えるかもしれない。陽乃さんは、この4月で伝説を残して卒業したはずだ。その妹の、これから始まる学校生活が目に見えるようだ。

 

 歩いているうちに、学校の近くに来ていた。まだ時間は早い。左折して小道に入った。数分歩くと、見覚えのある家が見えてきた。

 記憶の中では降り積もった雪に閉ざされ、二階からその中に入った。まるで昨日のように覚えている。実際、体感的には一日くらいしか経っていない。

 

「あの家で……私たち」

 

「そう。死んだ」

 

「でも、こうして生きてる」

 

「あのシミュレーション世界からすると、現在は時間が巻き戻ったことになるけど、この現実世界の時間は、正常なのかな」

 

「シミュレーション世界の時間は中の人に感じられても、もともとないようなものだから、早く進んでいてもおかしくないはずよ」

 

「あの中で俺たちはすごかったな」

 

「何が?」

 

「色々と」

 

「またエロいこと考えている? でも、私たち、また初体験できるのよ。知ってた? 二回も初体験できるなんて珍しいわね」

 

「そうなるな。となるとまたお前、痛がるの? そうなの?」

 

「この体だとどうだかわからないわ。実際にやってみないことには。今日してみる?」

 

「ちょ…。それはいいけど」

 

 この明るさ。そしてノリがよくなったというか、軽くなったというべきか……。

 

「結構重大なことに気がついたのだけれど。聞きたい?」

 

「ああ」

 

「今いるこの世界がシミュレーション世界ではなく、私たちが実体であること。これを確かめる方法を考えなさい」

 

「マジか! もしそうだったらどうする。恐ろしいぞ!」

 

「だから、宇宙科学研究部にしようと……」

 

「いや、もういい。ここがまた偽りの世界だとしても、またお前と会えた。次の世界でもお前と会えるさ」

 

「そうかもしれないわね」

 

 俺は手を取って、彼女を家の陰に引っ張った。「どうするの?」みたいな目をしているので、「もちろんこうする」みたいな顔をしてキスをした。

 彼女のカバンがドサリと落ちた。俺もカバンを落として、彼女の体を抱きしめた。

 学校なんか行くよりもずっとこうしていたかった。何よりも、また会えた奇跡を二人で祝福したかった。

 

「もう、離さないから」と口を離した彼女が呟く。

 

「俺も」と答える。

 

 近くの家のドアの取っ手がガチャリと音を立てた。

 

 俺たちはカバンを拾って、一目散に駆け出した。

 走り出した先には、桜の花がヒラヒラと舞い落ちる総武高の校門があった。

 

 

 

 




 ずっと読んでくれた方、ありがとうございました。拙い文面に付き合ってくださり、あつく、御礼申し上げます。

 本日は、俺ガイルの9巻の発売日のようです。この節目に、このSSを終えられて、なんだか感動しています! 明日、9巻を買ってきたいと思っています。
 思い返してみれば、8巻を読了後に、なんか表現しにくい不全感を覚えて、雪ノ下の父親の逮捕騒動で二人を仲良くしてしまえ、と思い立ったのが今年の1月初頭でした。
 それから3ヶ月半。毎日のようにあれこれストーリーを考える毎日でした。その結果がこれかよ! だと思います。特にひどいのが、雪乃のキャラ崩壊でしょう。原作を跡形もなく蹂躙しているのが三章で、腹を立てた人もいることでしょう。その自覚はあります。力量不足ですみません。ですが、素人としてそれなりに頑張ったような気がしています。ちなみに、三章を書いた目的は、俺ガイルの物語そのものの解体構築でした。
 9巻を読んでみないとわかりませんが、たぶん、これでこのSSは完結です。書くとしたら他のものにしたいです。もう、いい加減、「ゆき」と入力して「雪ノ下」と変換するのが面倒になってきました。笑。
 それでは、みなさん、ありがとうございました。もし何かの折にみかけたら、ひけらかしに来てやってください。


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