俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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第六話

 

ベッドの上でウトウトする時間が続いた。脳内に形を伴って現われるイメージが次々に変化し、須臾の間に消えていった。

 

そして・・・

 

・・・あなた、私のこと好きでしょ

 

ドキンと心臓が大きく脈打ち、目が覚めた。汗をかいている。これはもう、立派なトラウマだ。いや、心の傷ではないかな。とにかくヤバイ。マジヤバイ。どうしたらいいんですか雪ノ下さん!

 

 その言葉を言われたとき、俺は雪ノ下の顔が見えなかった。背負っていたのであたりまえだが、イメージを伴わない言葉ゆえに、勝手で強烈な妄想がベタベタと貼り付いてしまった。

 

 あのとき、雪ノ下は泣き顔だったはずだが、今では小悪魔的な笑顔で見下ろすような、軽蔑するような目つきで言われたような気もしている。

 

 こんな妄想に憑依されるのは俺はやはりドMなのか。だいたい、耳元でやさしく雪ノ下みたいなスーパー美少女に言われたら落ちない男なんていないだろうよ。好きでしょなんて問われたら好きでなくても好きだと錯覚しちゃうよ。

 

 それにもう一つの問題は、あの言葉のあとに「?」か「!」のどちらかがついていたのか。今ではよくわからない。

 「?」だったら、それこそ小悪魔的に誘惑しているし、「!」だったら、さらにそのあとに「フン!」と続けてツンツンできるわけだし。

 

 いや、あれは、「こんなにも私のこと気にかけてくれて、親切にしてくれて、やっぱりあなたは私のことが好きなんでしょ?そうとしか考えられないわ」と軽くやさしく確認したかったんではないだろうか。

 とにかく、雪ノ下はウソをつかない、と信じるしかない。

 

「私もあなたのことが好き」

 

 これがもしウソだったらもう、俺は一生女性とは喋れないレベルのトラウマ。

 

 そんなことを午前5時に目覚めてしまった俺はツラツラと考え続けてしまった。4時間くらいしか寝てない。おかげで寝不足だよ。ゲッソリ。冬休み明けの朝はこんなにもつらいのか。これから学校かよ。しかし、こんなことばっかり考えてしまって、俺はやっぱり嬉しかったのか。舞い上がってしまっているのか。そう思ったら恥ずかしくなって急にテンションが下がってきた。

 

 連続あくびに襲われながら学校に到着した。雪ノ下はクラスが違うので来ているかどうかわからない。

 休み時間中に由比ヶ浜が話しかけてきた。

 

「ゆきのんね、今日の午前中病院行ってるんだって。足を捻挫したらしいよ」

 

 知ってた。しかし俺は初耳のような態度をとった。昨日のことは誰にも言わないと約束したのだから。

 

「そうか。あいつらしくないな。最近の雪ノ下家といい、災難続きだな」

 

「そうだね。お昼休みに会えるみたいだからどんな様子か見てくるね」

 

 放課後、俺は部室に行こうかどうか本気で迷っていた。変な妄想に憑りつかれてから頭が混乱して、どうもおかしい。だいたい、雪ノ下にどんな態度をとったらいいのかサッパリわからん。

 

 ただ、ヒントはある。雪ノ下が「秘密にして」と頼んできたとおり、表面的には何事もなかったかのように過ごすことだ。しかし、これは雪ノ下自身が嫌った欺瞞ではないのか。これが今の俺の最大の問題だった。

 

 とはいっても、俺自身にはそんな欺瞞にこだわる資格はない。とっくの昔にそんな欺瞞を受け入れてしまったからだ。だったら雪ノ下の方針に従うしかないだろう。

 

 一瞬の緊張ののちに部室のドアを開いた。すぐに湿布の匂いが鼻についた。窓側の定位置には松葉杖を脇に立てかけて雪ノ下が座り、その隣りに由比ヶ浜がいた。

 

「うっす」

 

「あ、ヒッキー、昨日はゆきのん助けて大活躍だったんだね。見直したよ」

 

「へ?」

 

 俺のポカンとした顔を察したのか、雪ノ下が口を開いた。

その眼差しや表情はまるで何もなかったかのようにシレッとしていた。あれ?これはたぶんいつもの雪ノ下1号?昨日のは雪ノ下2号ってわけ?もしかして雪ノ下さんてツンデレだったの?そうなの?

 

「昨日のことは由比ヶ浜さんに今説明したわ。あのあと姉に経緯をすべて話したからいずれ広まると思って。さすがに母親には言っていないようなのだけれど。私たち以外にこの話が広がって欲しくなかったから、あなたには黙っててと言っただけよ」

 

「さすがだな。近未来への洞察力と適切な対処。ただし、独立問題を除く、といいたいがな」

 

 ついついいつものように皮肉を付け足してしまったが・・・あれ?反論がないよ?これは新種の雪ノ下3号?

 

「で、足の状態はどうなんだ?」

 

「まあ、骨には異常がなかったのだけれど、数日はあまり動かさないほうがいいみたい」

 

 俺たち三人はしばらく喋ったあと、すぐに部活をお開きにした。雪ノ下の大事をとるためだ。校門前にタクシーを呼んで帰るというので、由比ヶ浜が雪ノ下に肩を貸して、俺が松葉杖を小脇に抱えた。

 

 こんな状態だったから、雪ノ下の部屋探しは当分延期。その間に、俺のやることといえば、母親の説得しかない。

とはいってもどうしたらいいのか。俺はない知恵を搾り出した。はっきり言って頼るのは嫌だが、葉山の力を借りるしかない。

 

 俺はサッカー部が終わるころあいを見計らって葉山に電話した。番号はWデートのとき知ったが、1回もかけたことはない。

 

「はい。比企谷くん?珍しいな。君から電話なんて」

 

 電話の奥からは、戸部らしき調子のいい甲高い声や、一色らしき「ええ~なんですかそれ~」みたいな声が騒がしい。あいつらもいつものメンバーでダベッているのだろう。

 

「まあ、そうだな。お前は俺に迷惑をかけてくれたことがあったよな?」

 

「え? ああ、あれか。すまん。深く反省しているよ」

 

「その貸しを返して欲しい。単刀直入に言って、雪ノ下の母親の居場所、スケジュールをお前の父親から聞きだして欲しい」

 

「え?なんだって?どうしてそんなことを」

 

「どうしても会う必要があるんだ。30分でも会うチャンスを見つけてくれ。頼む」

 

 しばらく沈黙が続いた。しかし葉山は葉山で察しがいいほうだ。俺が何かやろうとしていることは理解したらしい。

 

「わかったよ。おれの親父に連絡してみるよ。それから、約束してくれないかな。一つは君が自己犠牲的な行動をしないこと。何をするか知らないが、その行動で君自身が傷つかないこと。誰も傷つかないこと。いいか?」

 

 こいつ、しゃれたことを言いやがる。実に葉山らしい。

 

「そのつもりだ」

 

 母親を直撃するには、陽乃さんルートを使う方法もあったが、あの姉妹二人には今回の行動を知られたくない。いくらなんでも、俺が母親を説得しに行ったなんてことが雪ノ下に伝われば、異常なおせっかいに見えたり、雪ノ下自身が自分に何もできなかったことで自己嫌悪に陥りかねない。ここは極秘行動に限る。だから、母親とサシで会う必要がある。したがって、葉山を使うしかなかった。それにしても最近のおれは単独行動が多いな。いや、一人なのは俺の十八番だが。

 

 午後10時過ぎになって葉山から連絡があった。

 

「雪ノ下さんのお母さんのことだけど、毎日忙しくて、予定が流動的で、前の日にならないとスケジュールがわからないみたいなんだ。で、明日なら午後2時から4時くらいまで空いているようだよ」

 

「ホテルは赤坂のあそこか?」

 

「そうだ。1126号室。1125号室が陽乃さんがいる部屋」

 

「わかった、感謝する」

 

「くれぐれも約束を守ってくれよ」

 

 明日はもちろん学校がある。いやいや行ってはいたが、俺はずる休みをあまりしていない。1日くらい風邪で休んでも目をつけられることはない。

 

 

 


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