俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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第七話

 翌朝、小町へ工作を頼んだ。由比ヶ浜や雪ノ下へのメールだ。一応、平塚先生にも出しておくか。そして、学校には俺自身が風邪で休む旨を伝えた。

 

 午前中はのんびりと過ごす。みんなが学校へ行き、職場へ出かけていく中、俺だけがソファでコーヒーを啜り、TVを漠然と眺める。なんとも優雅な気分。

 だが、昼を過ぎれば行動開始だ。といっても、大したことをやるわけじゃない。母親を説得しに行くだけだ。緊張してきたのでそう自分に言い聞かせた。

 今回、俺は隠し玉や変なトリックを用意していない。ただぶち当たって砕けるだけのような気がしている。

「君のやり方では本当に救いたい人を救うことはできないよ」という平塚先生の言葉がよみがえる。確かにそうだ。おそらく俺は本当に救いたい人を本気で救うつもりになっている。それに、生意気にもただの高校生が他人の家族の問題に介入しようとしている。そこで、変なトリックを弄して騙すようなことはしてはならないのだ。自己犠牲も必要ない。ただ、問題を指摘して考えてもらう。それ以外に方法はない。

 

 赤坂のホテルに到着すると、俺はまだ門松が残る正面玄関をくぐった。エレベータで11階に着き、一歩足を踏み出すとやはり緊張してきた。

 1126号室があった。ドアをたたく。返事はない。もう一回叩くと、男の声がした。

 背広姿の30歳代の男がドアを少し開けた。

 

「何でしょう?」

 

「雪ノ下さんと少しお話させてもらえませんか? 娘さんの同級生の比企谷といいます」

 

「ちょっと待ってください」

 

男はドアを閉めたが、すぐにドアが全開になった。

 

「どうそ」

 

中に招かれる。すると、国道246号の陸橋が見える窓の横に、大きなソファがあり、雪ノ下の母親が座っていた。

おいおい、俺本当にこんなことしちゃっていいのかよ。焦りと緊張で頭が混乱しかかったが、なんとか抑えた。

 

「話があるそうですね。比企谷さんでしたよね。弁護士からは聞いていましたよ。こちらへどうそ」

 

追い返されないでよかった。俺が来ることは一応伝わっていたわけか。助かった。変な足取りで向かいのソファに座った。

 雪ノ下の母は、どこかの女学校の校長先生みたいな雰囲気だった。一目で数々の有象無象に揉まれて来た人特有の頑強さが伝わってきた。これも一種の強化外骨格だな。

 しかし、顎のあたりの形が娘二人とよく似ていた。パーマを当てた髪はフワリと流れ、緑色のジャケットがよく似合っていた。

 

「単刀直入に言います。娘さんの雪乃さんのことなんですが、少し考え直して欲しいんです。自分にはあなたの軛から逃れたくて苦しんでいるように見えます。小中学生までは自分の思い通りにさせていいかもしれません。しかし雪乃さんはもう17歳です。そろそろ敷いたレールの上から解放してあげてはどうでしょうか」

 

そう切り出すと母親の目が急に鋭くなった。

 

「あなたは雪乃とどういった関係なのかしら。こうして他人の家にずかずかと踏み込んでくる理由が知りたいですね」

 

「関係といえば、同じ部活に属しているというだけですが、この半年以上、雪乃さんを見てきました。学校での成績もよくて人望も厚い。ただ、自分の家を思い出すような状況になるととたんに表情が暗くなる。それが最初に自分が感じた疑問でした」

 

「我が家の教育方針が間違っているとは私には思えません。結果は出ているわけでしょう。あなたにとやかく言われる筋合いはありません。最近の雪乃は独立するって言っていますけど、そんなことは絶対に認めません」

 

「おっしゃるとおりです。しかし、雪乃さん、あのままだと道を踏み外すかもしれませんよ」

 

「そんなことはありえません。私がしっかりとサポートしていますから」

 

「そのサポートが苦しいんではないでしょうかね。あなたはサポートしているつもりでも雪乃さんにとっては苦しい桎梏に過ぎないとしたら。実際、雪乃さんは桎梏から逃れようとし危ない目にもあっているわけだし」

 

「雪乃が何かしたんですか?」

 

 母親の目が若干大きくなり、口もとが緩んだ。これはこの人の不安の表情なのだろうか。

 

「雪ノ下さん、絶対に雪乃さんや陽乃さんに言わないと約束してくれるのであれば、その何か、をいいます。それから、自分がここであなたに会ったことも言わないと約束してください」

 

「わかりました、内密にします」

 

「そうですか。なら。雪乃さんは本気で部屋を借りようとしています。絶対に雪ノ下家と縁を切るつもりのようです。あのマンションも売り払うつもりなんでしょう?」

 

「どうしてそんなことを知っているんでしょう?」

 

「まあそれは、で、お父さんから振込みがあったので当分はそれで生活できますが、そのあとは続きません。雪乃さんは働こうとしていました。しかし、普通の高校生がやるバイトでは自活できません。そこで水商売を考えたようです」

 

 そこで、母親の表情が一瞬凍りついた。やはりストライクだ。母親の経歴を知っていれば当然予想できる。

 

「そんなこと雪乃にはさせません。絶対に」

 

「いや、実際にやろうとして面接にまで行ったんです。その面接のキッカケも町でスカウトの男に声をかけられてついて行ったようです。あの雪乃さんがですよ?そして連れていかれたのが裸の男性に接客して、マッサージするような店。そこで性的なサービスをするかどうかは自分は知りません。しかし、雪乃さんは接客の仕方を無理やり教えられそうになっていたんです」

 

 母親の表情が作り物から素に変化した。ボロボロと憑き物が落ちているような感じだった。

 

「あなたはどうしてそんなことを知っているんですか。そんなことはありえない。雪乃が」

 

「なぜ知っているかというと現場を見たからです」

 

「それで、そのあと、あなた、どうしたんですか」

 

「もちろん、接客を教えていた男たちに雪乃さんが高校生であることを教えて連れ戻しました。あれは危なかった。大声を出して抵抗していましたが」

 

「あなた、雪乃を助けてくれたというのね」

 

「まあ、そうなりますか」

 

「ありがとうございます。感謝します」

 

「このことに関して雪乃さんを叱ったり問い詰めたりしないでくださいよ。かなりショックを受けて反省しているようですから。自分がここに来たことも言わないでくださいよ。見方によればこれは告げ口ですから。

 それに、問題はまだ解消していません。最も重要なことは、それほどの危険を冒してまで娘さんがあなたの桎梏から逃れようとしていることです。どう思いますか」

 

 母親は呆然とし、頭の中が整理できないようだった。

 

「しかし、雪乃のサポートというか、しつけというか、親としての義務というか、そういったものを止めるわけにはいきません、確かに考える余地はあると思いました。今の話を聞いて」

 

「いいですか、お母さん、雪乃さんは確かに敷かれたレールの上では最高のパフォーマンスを発揮します。学校の成績が一番良い例です。しかし、それから外れようとしたとたん、どうしたらいいかよくわかっていない。さっきの面接の話がいい例です。高校生がああいう店で働けないことさえ知らなかった。これでいいんですか? 

 あなたは一生雪乃さんのレールを敷き続けるつもりなんですか? いつかは独立する必要があるんではないでしょうか。たとえそれが嫁入りという形になったとしても」

 

母親が無言だったので続けた。

 

「あなたは昔、京都で働いていたと聞いています。娘は苦労させないと思うあなたの気持ちは理解できます。

 しかし、それが強すぎるために、副作用が起きているとしたらどうしますか。こんなこと言って申し訳ありませんが、今回、お父さんが逮捕されました。

 もし雪乃さんが何等かの事情で一人で放り出されてしまったら、雪乃さんは何もできないと思いますよ。

 そういったスキルというか、そう、あなたが良く知っている世渡りの方法というか、たくましさが雪乃さんにはありません。いつも誰かが何かをやってくれていたようです。

 ただ、器用なお姉さんのほうは心配がないようですがね。

一方の雪乃さんは、こんなこと言って申し訳ないんですが不器用でしょう。雪乃さんには、自由に自分で生活する方法を考える余裕や機会も必要なのではないでしょうか」

 

「おっしゃることはわかりました。おそらくそうなのでしょう。しかし、あなたは私の過去までどうして知っているんでしょうか。興信所か何かを使いましたか」

 

「いや、地道に人間観察を続けてきた結果です。たいしたことはしていません。そんなことより、ご提案があります。提案といっても単純です。

 あなたがどうしても雪乃さんへのサポートを続けるつもりなら、学費だけは出す。そして現在雪乃さんが住んでいるマンションの売却は止める。これでいいのではないでしょうか。そうなると食費とか雑費程度しか必要ありません。

 それくらいなら雪乃さんは自分で稼げるでしょう。普通の高校生らしいバイトをやれば。そして、あなたの過干渉をあらためる。家の行事なども強制しない。この線で折り合わない限り、雪乃さんは本当に雪ノ下家と縁を切ると思いますよ。考えたくないですが大学進学を断念して家を出たり、そこまで思いつめるかもしれません。

 もう我慢の限界に来ている。そう判断するほうが無難です。その証拠はやはり風俗店で働こうとしたことです。あの雪乃さんがそんな場所に足を運んだなんて自分もいまだに信じられません」

 

 母親は一瞬天井を見上げてすぐに瞑目した。しばらくそのまま動かなかった。俺は言いたいことをすべて言った。

 これでいい。これで何も雪ノ下家に変化がなかったら、もう俺にはどうしようもない。ただ、帰り際に雪ノ下の母親が独り言ちた「雪乃はいい友人に恵まれたようですね」という言葉が印象に残った。あのぉ、俺は娘さんから友人とは認められていないようなんですけど。

 

 エレベータで一階ロビーに下りると、声をかけられた。

 

「あれ、比企谷君、今日はなんでこんなところにいるの?」

 

ヤバイ、陽乃さんだ。最近陽乃さんと顔を合わせる機会が多すぎる。

 

「いや、ちょっと通りかかったものですから。ちょっとウロウロしてみました」

 

後頭部を手でかきながらそう言った。

 

「やだなぁ、雪乃ちゃんはここにはもういないよ?足怪我してマンションにいるの知ってるよね。そういえば学校は?休み?そんな話聞いてないけどなあ。ん~?」

 

 陽乃さんが一瞬驚いたような目をしたあと、じっと見つめてくる。何かを察したように。何よ何よ。この人やっぱり超能力者?今まで何してたかもうわかっちゃった?この鋭さは人間観察を生業にしている俺でも負ける。

 

「まあ、そういうことで」

 

「何がそういうことなのかなあ。でも、まあいいか。比企谷君のやることだから、たぶん、間違っていないよね」

 

そういうと陽乃さんはニコニコして俺の背中を一回たたき、離れていった。俺もそそくさとホテルを出て帰途についた。

 


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