俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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第八話

 俺が学校をずる休みした日から一週間後、動きがあった。雪ノ下が一人で住むには広すぎるあの3LDKから小ぶりの2DKのマンションに引っ越すのだという。

 

 やはり母親への説得は効果がなかったのか。あのマンションはいわゆる億ション。売れば相当な現金が手に入る。やはり今後のためにすぐに動かせる現金を用意しておきたかったのだろう。

 失敗した、と思ったが、雪ノ下の言うには、3DKは売ることは売るが、2DKのマンションも父親の所有物で、そちらに移るだけなのだそうだ。

 

 そのころになると雪ノ下の右足はほとんど治っていた。

 そして、学校が終わると連日のように由比ヶ浜が3LDKに通い、雪ノ下と一緒に荷造りを始めた。女ものばっかりなので俺は必要ないらしい。無駄な労働はしない主義なのでありがたい話だが。

 

 荷造りが4日目になると、とうとう俺も引っ張り出された。荷造りが什器や家電製品に移行してきたからだ。

 

 ほぼ殺風景になったリビングにはダンボール箱が積まれ、俺は一人、キッチンで食器を新聞紙で包んでいた。

 

 なんでこの家にはこんなにいっぱい食器があるの?一人暮らしのくせに。見たこともない形の調理器具がたくさんあって、ダンボールに入れるとき苦労させられた。しかし、几帳面な所有者を反映して、食器類はピカピカ。おかげで手が汚れない。

 

 奥の部屋では二人の女子がしばらくガタガタやっていたが、午後8時が近くなると疲れてやる気がなくなり、俺は壁を背にして座り込んだ。

 

「ヒッキー、晩御飯だよ、こっちおいでよ」

 

 リビングのほうから由比ヶ浜の声が聞こえた。 

 

そそくさと立ち上がり、リビングに行ってみると、小さなテーブルの上に宅配ピザが載っていた。その周囲には、疲れた顔をした由比ヶ浜と雪ノ下が絨毯にじかに座っていた。

 

「お疲れさま、比企谷君、今紅茶入れてあげるから」

 

 そういうと雪ノ下は立ち上がり、ふぅとため息を残してキッチンの方へ行った。

 

「まさか、このダンボールの山も俺たちが運ぶの?」

 

「ちがうよ、業者に頼むらしいよ」

 

 雪ノ下がティーカップを載せたトレイを持って来た。

 それぞれにティーカップを配ると、ピザを切り始めた。

 

 入れ物は豪華だが、こう部屋が殺風景だと家出した学生が集まって貴重な食料を分け合っているような侘しさを感じる。

 

「ヒッキーさ、聞いた? これからはあなたの自由にしなさいって、ゆきのんのお母さんが言ってくれたんだって。学費だけは出すから、あとは自分で稼いで生活してみろっていう感じなんだって」

 

「へぇ~。それはよかったな。家賃も払わないでいいんだよな」

 

「ええ、そう言われたときは狐につままれたような感じだったのだけれど。それに最近母の態度が変わったのよ。これが一番不思議ね」

 

 ま、ひとまず成功といったところか。どうやら鋭すぎて迷惑受けっぱなしの陽乃さんからのタレコミもないらしい。俺はピザを一切れパクつきながら言った。

 

「じゃあ、やっぱりバイトはするのか?」

 

「ええ。小さい学習塾で小中学生相手の先生をやらせてもらうことになったの。これは姉のツテなのだけど。塾講師をしている知り合いにいろいろ当たってくれて」

 

「よかったじゃん。ここに来て一気に問題解決だね。でもゆきのん、陽乃さんと仲がいいんだね。それも安心したよ」

 

「仲がいいのかわからないのだけれど、確かにいざというときにあの人にはかなわないわね。少しくやしいけど」

 

 上品な呼び鈴がルルルルルと鳴った。そのあと、ガチャリと音がしたあと、ズシンと扉の閉まる音がして空気が震えた。

 

「姉さんかしら。今日引っ越し先のカギとか持ってくるとか言ってたから」

 

入ってきたのはやはり陽乃さんだった。

 

「やあやあ、いつものメンバーだね。あ、ピザなんか食べてんの?言ってくれれば何か買ってきてあげたのに。ん?なんか水入らずって感じだね~」

 

「また、そんな変なこと言って」

 

 雪ノ下がふぅとため息をついた。しかし、陽乃さんが入ってくると雰囲気がMAXで明るくなるのも事実だ。いや、俺はちょっと苦手なんですけどね。

 

「比企谷くん、驚いたよわたし、闇でうごめくブローカーの素質あるんじゃない?ふふふ。もし就職なかったらウチの会社の渉外とか、政治家秘書とかいいんじゃないかな。裏方の仕事とかいっぱいあるよ。かなり向いてるよ? もう、わたしもヒッキーって呼んじゃおっかな~」

 

「はぁ・・・」

 

 雪ノ下がジト目で陽乃さんを見る。これ以上陽乃さんを喋らせてはいけない。爆弾が爆発しかかっている。

 

 俺は立ち上がって、陽乃さんの手を引っ張り廊下へ連れ出した。ジト目の雪ノ下とびっくりまなこの由比ヶ浜がチラリと見えたが、さらに突き進んでドアを開け、外に出た。そしてどんどん進んでエレベータの前まで来た。

 

「ちょっと、比企谷くん、君に必要なのはそういう積極性なんだけどなぁ。相手をまちがってるよ。それともわたしに何かしちゃうの~?」

 

 陽乃さんはニヤニヤしている。俺が外へ引っ張り出した理由もわかっているようだ。

 

「ちょっと、陽乃さん、どうかお願いだからその先は内密にしてください」

 

「だってさ、そうやって比企谷君が雪乃ちゃんの身の回りのことやってあげて、それじゃあ今までと何も変わらないじゃない」

 

「ですから、今回のは、たとえれば船に穴が開いて、ほっとけば沈んじゃうような状況だったでしょう。その穴を塞いだだけです。これから雪ノ下も自分で舵を取り始めるはずです」

 

「わかったわかった。それは秘密にしといてあげる。そのかわり、ウソつかないで教えてくれるかな~。雪乃ちゃんが足をくじいた日、何かあったでしょう?」

 

「その、風俗店に面接に行ったことですか?それも喋らないで欲しいんですが」

 

「それは秘密にしておくけど、私が知りたいのは、二人の仲が進展したんじゃないの?ってこと。あのあと雪乃ちゃん明らかに変だったよ」

 

「それは、ショックを受けたからじゃないでしょうか」

 

「う~ん。違うな~。わたしの目は誤魔化せないよ~」

 

「いや、その、なんというか」

 

「チュウとかしちゃった?」

 

「いや、してません。そういうことで楽しまないでください」

 

「なんだぁ~。二人とも捻くれてるからな~。捻くれ同士だと超うまくいくか、まったくダメか、どっちかなんだろうね。これでも応援しているんだよ。わたしなんて最初からそうしてたでしょう」

 

「俺は最近、捻くれないようにしているんですけどね」

 

「ふ~ん、そうか~??」

 

「まあ、とりあえず、戻りましょう。お願いですからあまり喋らないでください」

 

 俺と陽乃さんが戻ると、やはりジト目の雪ノ下と、ピザをモグモグやっている由比ヶ浜の注目を浴びた。

 

「今のは何だったのかしら」

 

「ふふふ、気になる?雪乃ちゃん。でも比企谷君が泣いちゃうから教えてあ~げない」

 

「カギを置いて帰ってくれるかしら。一応お礼を言っておくわ」

 

「はい、カギ」

 

 そう言って陽乃さんはカギをテーブルの上に置いた。

 

「じゃあね。わたしも何かと今忙しいからこれで帰るね~」

 

 そういうと陽乃さんは出て行った。

 

「比企谷君、今のはいったい何だったのかしら」

 

 やばい、明らかに雪ノ下の機嫌が悪化している。口がとんがっている。怖い。どうしよう。場を引っ掻き回してとっとと帰ってしまう陽乃さんにだんだんムカついてきた。

 

「まあまあ、ゆきのん。それにしても陽乃さん、今日のテンションはまた一段とすごかったね」

 

「突然の刺客、そして嵐のあとの静けさって感じだな。翻弄されっぱなし」

 

「でも、ヒッキーと陽乃さんのコンビもなんか面白いね。なんか犬が引っ張りまわされてるみたいで」

 

「みじめな犬ね。姉さんにかかわると、みんな犬になってしまうようね。どうやったらあんなふうに犬を振り回せるようになるのかしら」

 

 

「それはヤバイな。って俺は犬か!さて、ピザで腹が膨れたし、そろそろ俺は帰るぞ」

 

「明日はもう大丈夫だから。どうもありがとう。由比ヶ浜さん」

 

「うん、向こうの家でも荷物整理とか手伝うよ。言ってね」

 

「ありがとう、由比ヶ浜さん」

 

「うっす、じゃあ」

 

 そう言って立ち上がる。由比ヶ浜が先に玄関へ向った。

 

「ありがとう、比企谷君」と聞こえたので振り返ると、そこには満面の笑みの雪ノ下がいた。その背後には吹雪が吹き付け、顔だけが異空間に開いた穴のように暖かい春風に溶けている。こっ怖っ。ゾクリと背中に悪寒が走った。これって、うわさの雪ノ下4号?

 

「あ、ああ・・・」それだけ言い残して玄関の扉を閉めた。

 

 


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