ゴブリンスレイヤーRTA 狂戦士チャート   作:花咲爺

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執筆意欲が続いてくれたので、初投稿です。

気づくのが遅れてしまいましたが、この作品もファンアートを描いて下さる兄貴がいたのでご紹介をしておきます。

銀鮭#機縁卓#ニキ、ファンアートありがとう!フラッシュ!!!
https://twitter.com/deepsnow_silver/status/1268905598344548354?lang=ar
URLはこ↑こ↓他の走者兄貴の主人公達も出てるぜ!
左から二番目の狂戦士君、ええやん…(恍惚)

狂戦士チャートはファンアートを随時募集しております、描いてくれると続きが出ますッ!(乞食)


狂戦士6裏

 森人、というものを知っているだろうか?

 

 眉目秀麗で鹿のようにすらっと伸びた華奢な体の美男美女、千里離れた的をも射抜く弓の腕前の持ち主で森の命の巡りを初めから終わりまで見届けることも可能なほどの不老長寿の種族。

 恐らく他の者達からすれば羨ましい、特に只人からすれば喉から手が出る程に欲しい能力ばかりだろう。

 

 だが何事にも例外が存在するように、それに身の丈ほどの岩を持ち上げる怪力と、凡そ只人と同じ感性を持たせればどうだろうか?

 

 森人の能力が既にあるのだから贅沢を言うものではない、と言われてしまうかもしれない。だが、もしもその体験が己の身に降りかかった時その者の顔がどう歪むのか自分は気になる。

 自分にとってこの人生は長い。

 誰かから疎まれ、蔑まれ、また運が悪かった者にとってはこの森人という生はあまりにも長すぎる。

 

 ここまで来るのに実に色々とあった、それを乗り越え尚自分だけが生きている。

 最愛の人に先立たれ、子も孫もいなくなり、自らの無能さから輩と呼べる者達は既にこの世に一人とていなくなってしまった。そんな中でただ自分だけが生きている。

 勇者と呼べるだけの力とカリスマ性があればどれだけ良かったか、辺境と言わず王都に至っても英雄として名を馳せることが出来た可能性も、血縁ともっと長く過ごすことさえ出来たかもしれない…とたらればを繰り返す。

 全く以て自身が腹立たしい、爺になっても未だ若さを捨てられない己に嫌気しかささない。俺は、いや自分は彼女と共に歳を取り、子や孫に囲まれながら幸せな暮らしが出来ればそれで良かったのだ…

 

 孤独な老人、つまるところそんなものなのだ己は。

 

 だがその言葉すら否定して自分は小さな声で無能な老害だろうと呟いた。事実でしかない、頭も悪く、腕しか取り柄の無い自分ではあんな事はそもそもするべきではなかった。

 生まれるべきではなかったのだ。

 

「ねぇ、ねぇってば狂戦士!」

 

 やや現実逃避気味の自己嫌悪に陥っていた中、少年斥候から肩を叩かれ、ようやくと自分は正気に戻る。

 そうだ、自分は何をしていたのか…いや、思い出した、鷹人を退治しに来て、それで…

 

「へっ、胸糞悪ぃ野郎だったな」

「まさか変身があるとは…」

 

 そうだ、純白の鷹人が変身したのをなんやかんやで倒したのだった。

 鷹と言うよりは最早烏のようになった姿で上から【小鬼(クリエイトゴブリン)】、【稲妻(ライトニング)】に連れ去り攻撃など…卑怯と言うか、種族特性を遺憾なく発揮してきた害悪な敵だった。

 いや待てよ、途中に肩を打ち抜いて木に縫い付けた少女巫術師はどうなった!?

 

「にしてもお前、中々荒っぽいことするな…いや、あそこでああいう機転を利かせなきゃこいつは死んでたんだけどよ」

 

 そう考えた時に何とも都合よく重戦士が口を開く。指さされた場所には小さく、しかし確かに息をする少女巫術師の姿が見える。

 女騎士から色的に霊薬(エリクサー)に類するものを飲ませてもらっているので、恐らくあれなら大丈夫だろう。流石は銀等級、資源(リソース)を豪快に使う。だがそのお陰で大事無い様で良かった。

 今思えば肩ではなく、服でも打ち抜けばよかったと少し後悔するが、どのみちバタバタ暴れられて体の先端付近に当たってしまえば勢いを殺せずに終わったはずだし、神が言うのだから多分大丈夫、キットダイジョウブ。

 少なくとも手加減もしたし、咄嗟だったので許してほしかった。

 

「だが、これで依頼は達成だ。あの気味悪ぃ手の彫刻もぶっ壊れたしな!後片付けも必要ないと来てる!」

 

「うむ、それではギルドへ戻るか!いやぁ、私の【聖撃(ホーリースマイト)】が決め手だったな!」

「何が決め手だ、お前のあれ毛ほども効いてなかったじゃねえか」

「何を―!お前が最初の一撃で倒せなかったのがそもそもいけないのだろう!」

「おまっ、それを言うなら…」

 

 ピピピ、ピピピ…あ、神からの託宣だ。

『辺境の街に危機が迫っている、早めに戻りなさい』

 えー…この距離早めに戻るのか…それは中々キツイ。

 速めに見積もっても半日は掛かる距離なので、出来れば歩いて帰りたい所ではあるが、神の言葉である。駒は駒らしく従うとしよう。

 

「あー、ゴメン夫婦喧嘩してる中申し訳ないんだけ「「誰と誰が夫婦だって!!?」」ふー息ピッタリ!いやさ、託宣でね。『早めに街へ戻れ』とのことなんだ」

 

 女騎士と重戦士の諍いを中断すれば、どちらも少々顔を赤らめてこちらへ言い返す。正直、二人の間柄はもう少しでどうにかなりそうな気がするのだが…それは流石に無粋が過ぎる為言及はやめておく。

 こういうのはしっかりと温かい目で見て、茶化せそうな時に茶化して、精一杯応援するのが良いのだ。でも、アツアツなのは良いことだけど出来れば少年少女の目の前でやらない方が良い気がした。

 

「託宣?あー…昨日言ってたアレか?だがあの町に何があるって?詳細は?」

「うーん、詳しくは言ってくれないけど僕の託宣は大抵ヤバい内容だからなぁ、よくない事だとは思う」

 

 嘘はついていない、”危機が迫っている”とだけ言われても危機が迫っているとしか言えないだろう。

 

「よくないこと?なんだそりゃ分からねえな、不確定なのに動きたくねえぞ」

 

「今までの託宣の内容からして、あの街に何か混沌の輩が攻めてくるか、それとも地下に封印が解けかけた邪神でもいるか…あるいは地面が突然すっぽり抜け落ちるみたいな天変地異でも起こるのか…」

 

「…俺等が行くメリットあるかそれ?」

「まあまあ、狂戦士は慣れぬ私達に着いてきてくれたのだし、今度は我々が話を聞いても良いんじゃないか?貸し借りはできればすぐに清算した方が良い。我々の負傷者はこの子だけだしな」

 

 もっともらしく考えてみれば大体こんなところだろう。

 言った瞬間に重戦士の顔にイラつきが芽生えるが、見かねた女騎士のナイスなフォローによって重戦士のムッとした顔が元の強面にまで戻る。

 こういう手助けはかなりありがたい。

 

「…ったくしゃーねぇ、こっちも党員(パーティーメンバー)助けてもらった借りもあるし…動くかぁ。奇跡使える知り合いもあっちにいる、完全に治すなら帰った方が速ぇ」

「うん、速いのは良いことだ。かたじけないねぇ…」

 

 即断即決、しかし判断は的確な重戦士一党が辺境の危機に手を貸してくれるならば頼もしい限りだ。恐らく今回のことは自分一人では出来ないことも多数出てくるだろう。この前の自分のものと周りので何かする規模位なら良いが…

 これまでの託宣の難易度高騰(インフレ)具合から何処か緊張感を拭えない。

 しかし、帰り道はその不安を嘲笑うかの如く何もなかった。

 

 

 ――――――――――――

 

 

 精神的疲労でやっとの思いで街へと到着した時、狂戦士の人より優れた聴覚が拾ったのはゴブリンスレイヤーの嘆願だった。

 そのままギルドへと直行すると、数多の冒険者に向けて頭を下げて「規模が大きいゴブリン退治の報酬に俺の全てをやる」とゴブリンスレイヤーは意訳すればそんなことを宣っていた。

 

『今、何でもするって言ったよね?』と脳裏にイムの声が響き、そんなことは言って…いや、言ってるなと少しゴブリンスレイヤーの身が心配になる。

 加えて、結局ゴブリン退治じゃねえか!と周りからは大バッシング。

 急にそんな事言われても、たかがゴブリンだろう。割に合わない。ゴブリンは汚いから嫌だ。お前を手伝う義理は無いぞ。

 装備も様々、種族も様々な周りの発言にゴブリンスレイヤーの最悪な未来が頭に浮かぶ。

 

 しかし、現実はそうならなかった。

 

「後で一杯おごれ!」と辺境最強の槍使いの一言から始まり…

「冒険に付き合ってもらうわよ!」と妖精弓手。

「酒樽よこせ」「拙僧はチーズを」「僕はまあ金で」「お、俺はその…稽古をつけてくれ!」とゴブリンスレイヤーがこれまで築いてきた知己達が協力を申し出た。

 さらに、受付嬢のゴブリン一体に突き金貨1枚という破格な報奨金が書かれた書類が提示されたことによってギルドに集っていた他の冒険者達の表情も変わる。

 

 彼らは金の為に、人の為に、経験の為に、夢の為に動きたかった。ただ、依頼内容は「ゴブリン退治」何かのきっかけが欲しい。しかし、最後の一押しが押されたのならば、もう迷う必要もない。

 俺たちは冒険者だからな!とそれぞれの武器を天へと掲げ、その場のほぼすべての人間がゴブリン退治の依頼へ殺到する。

 ゴブリンスレイヤーを中心として、ここに小鬼との戦争の火蓋が切られたのだ。

 

 ゴブリンスレイヤーがこれまでの人生で身に付けられた対ゴブリン知識をフル活用し、迎撃戦の準備は進む。

 

 曰く、待ち伏せをしろ、奴らは奇襲されるのには慣れていない

 曰く、肉の盾が使われる、奴らを眠らせる術を使い、その隙に救出しろ

 曰く、攻撃呪文ではなく補助的呪文を多く使え。

 曰く…

 

 と、周りの冒険者が舌を巻くほどにゴブリンスレイヤーはペラペラとゴブリンへの対処法を論じていった。成程、確かにこの通りにことが進めば小鬼との戦闘など楽勝と言える。

 それ程までにしっかりと練られている作戦なのだ。それに、10年ゴブリンを殺し続けてきた男の言であるので信頼もされた。

 

 では、自分が戦いに備えてやったことはなんだ、と言われれば単純だ。

 土を掘って人が隠れられるようにしたり、槍衾や柵を作るための木材を運び、新人冒険者達へ鷹人(ホークマン)の討伐報酬に、諸々を加えた全財産である金貨実に40枚を使って揃えた防具の配給などをした。

 

 最早何でも屋である工房の親父にはお前、何するつもりだと問い詰められかけたのは記憶に新しい。というか先程の出来事である。

 新人達に怪しまれながらも、自分の美貌や話術をふんだんに使い、尚且つこれまで信頼点を積み重ねてきた甲斐もあって工房へ18人の新人冒険者を招待しながら体に合うよう調整をした防具を買い与えた。

 勿論信頼できそうな人間を選んだつもりだ。

 大体一人当たり金貨1~2枚程度の安ものではあるがそれでも新人達の装備がランクアップしたのは紛れもない事実だろう。

 

 ただ正直なことを言えば先輩風を吹かせ過ぎて、本当にこの戦いである程度ゴブリンを倒さなければ元手も取れない為内心冷や汗ダラダラだったりする。

 (イム)も『全財産を使って防具を新人達に配給しろ!』とは無茶を言うものだと自分は装備の点検へと意識を移した。

 

 どうやら自分がやるべき事は、ただのゴブリン退治で終わらないらしいのだ。

 と言う訳で念入りに、それこそゴブリンスレイヤーの如く自分は装備の一つ一つを点検していく。

 刃毀れは無いか、血糊で鈍らになってはいないか、弓矢の張りや数はどうなっているか。

 自分は堕落し、森に嫌われた森人故に道を示してくれる以外で森に協力は求められない為、新たな矢の補充は求められない。

 出来ればゴブリンの使う矢は使いたくないが、そういう状況になったら四の五のは言ってられないだろう。

 今回は冒険ではなく戦争なのだ。傭兵時代に弓捌きのみなら天下無双と呼ばれた自分の腕の見せ所である。

 

 そうして夜は更けていき、少し寝て自分の肉体から疲れが抜けた所で召集の合図が鳴り響く。

 自分が着いた時にはもう既にゴブリン達の声が聞こえる距離にまで接敵されていた。

 

 そして、ゴブリン達が王と思われるゴブリンからの指示で動き出す。

 果たして、ゴブリン達が森の暗がりから出て来た時抱えていたのは女が括り付けられた盾。

 ゴブリンスレイヤーのまさに言う通りの行動に、周りの一同は驚きの表情を浮かべている。

 勿論伝えただけでは飽き足らず、ゴブリンスレイヤーから授けられた策は実行済みだ。

 酒の香りと一緒にふわふわと漂う夢の雲がゴブリンに向けて流れ、それを吸い込み眠ったゴブリンから冒険者達はさっさと盾を取り上げる。

 

 これでゴブリン達の盾は無くなった。

 次に登場したのは狼に跨ったゴブリン達。騎兵(ライダー)とでも呼ばれる存在だ。

 しかし、これもゴブリンスレイヤーは予知しており、自分が運んだ木材を加工し作られた槍衾によってそのほぼ全てが機能停止。

 無様に狼から転げ落ちたゴブリンには各々の武器から重い一撃が加えられる。

 

 これでは精々呪術師共を撃つか、新人達の助けに矢を放つくらいしか自分の仕事がない。

 だが、肉盾も無く、騎兵は槍衾で全滅、小鬼王が授けた策はそれを上回るゴブリンスレイヤーの策で悉く打ち砕かれている。

 

 ゴブリンはやはり愚かだ。さっさと踵を返して逃げ帰れば良いものを、業を煮やした小鬼王が力押しへと切り替える。

 ならばここからは自分の活躍どころである。金の為にも、神の為にもゴブリンは皆殺しだ。

 

 一射一殺を心掛け、矢筒から矢を取り出してはゴブリンを殺していく。

 戦場において、自分のような弓の名手が全体を見通せる場所にいるのは前線で戦うものからすればありがたいだろう。

 新人冒険者がへまを打てばそこに矢を放ち、熟練冒険者の背を討とうとする不埒者にも矢を浴びせる。

 しかし、一党デカい小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)が出た時、神からまた言葉が発せられる。

 

『牧場の裏手に敵影あり、英雄を殺せ。他の者には見つかるな』

 

 ゴブリンとは言え英雄殺し、何とも良い響きである。

 神もたまには良いことを言ってくれると自分はすぐさま闇色の外套に身を包み、早足で牧場の端へと向かう。

 

 このまま行けばすぐに着くと思った所でゴブリンが5体、ワラワラと現れ道を塞ぐ。

 数にものを言わせて厭らしい笑みを浮かべているのが何とも神経を苛立たせる。

 だが今は火急の用なので、さっさと横を突っ切らせていただこう。

 

 しかし、まわりこまれてしまった!

 

 成程、逃がす気は無いらしい。

 足を右に動かせば右へ、左へ動かせば左へピッタリとくっついてこちらに武器を突き付けてくる。

 まあやる気ならばこちらもやぶさかではない。『野郎オブクラッシャー!!!』神もこう言っている。

 自分が拳を鳴らせば怖気づいたように一歩二歩下がる小鬼達。だが、逃がしはしない。

 

「GOBUッ!?」

「BIGOB!」

「GIIGR…」

「GORRGッ!!?」

「RIGURG!」

 

 五者五様の断末魔を上げ、3手(30秒)程で片付いてくれた。

 戦いとも呼べない小事の後は臓物や脳漿で黒く染まった拳を振って、赤黒い血を多少なりとも落としておく。臭いで気づかれるのはまっぴらだからだ。

 

 自分の土地勘が間違っていなければ、この先は本陣の丁度裏手に当たるはず。

 万が一ではあるが、自分が負けて進行を許してしまえばどうなるだろう…銀等級も、ある程度強い冒険者もいるのだから万一があってもどうにかはなる…だが、見逃して良い理由もない。

 傭兵時代にも何度かこういう場面には出くわしている、まああの時は味方がいたがゴブリンならば大抵は何とかなる、ここで倒す。最悪奇跡を使えばいい。

 

 森と牧場の間を駆け足で進むと地面の小さな揺れに加え、カサカサと草木が揺れ動く音が聞こえてくる。音の主は十中八九でゴブリン英雄、次点でゴブリンが召喚した下級魔神(レッサーデーモン)か何かだろう。

 答え合わせに音の方へ目を向ければ、何と言うか、図体に比べて随分と弱そうな小鬼英雄が森の暗がりから出て来た。

 でっぷりとした腹にデコボコの鉄板を括り付け、見るからに重そうな大棍棒を片手で持ちながら偉そうに付き従うゴブリンに指示を出している。

 何か気に入らないことでもあるのか、付き従っているはずのゴブリンをぶん殴ってはゲラゲラと汚い笑みを浮かべ、そのまま不用心にも大股で進行してきているのが見て取れた。

 舐めているのだろうか…まあ慢心してくれているならこちらの攻撃も通りやすくて好都合ではあるが…

 

『不意打ちだ、出来るだけ頭を狙って撃って』

 

 そう思っていた所に神の声が響き渡り、自分は背中の大弓に手を掛ける。

 …そこだ!

 ギリリと引き絞った弓矢が手から離れた瞬間、これは最高の一射だと分かった。

 

「GOAA!!!?」

 

 光跡さえ幻視出来る見事な一射は空を切って英雄に命中する。

 後頭部が弾け、脳漿が炸裂、結果ズシンと大きな音を立てて英雄が倒れ伏せた。

 まごう事無き会心の一撃(クリティカル)だ。

 

「GIGOG…」

 

 しかし、英雄が呻き声を上げ、震えながらも立ち上がる。なんと、まだ死んでいなかったらしい。

 上位種は無駄にしぶといとは、確かゴブリンスレイヤーの言だったかと自分はすぐさま得物を槍に持ち替えて大声を発しながら走り出す。

 死にかけの英雄がこちらを指さしてゴブリンをけし掛けてこようとするが一撃で倒れ伏した英雄に従うものはおらず、他のゴブリンはまるで蜘蛛の子を散らすかのように汚い叫び声を上げて逃げ出した。

 人望もといゴブリン望が無い、哀れな英雄の顔面へ力を込めて槍を突き入れる。

 絶望の顔を浮かべた小鬼英雄は赤黒い血を垂れ流す噴水となり、二、三度揺れ動いて不意に止まった。

 という事は、かねてから言われていた「試練達成」になる。自分の試練はなんとまあ、あっさりと幕を閉じて終わった。

 これから更に幽鬼のように立ち上がった小鬼英雄と手に汗握る力比べも何もなく自分は小鬼英雄を倒してしまったのだ。

 

「なんだぁ?てめぇ…」

 

 あまりの手ごたえの無さに思わず小鬼英雄の顔面を殴って今度こそ全てを弾けさせてしまい、その血が飛び散って顔に張り着く最悪の結果に終わる。

 

(やったぁ!やったぁ!近藤さんありがとう!中井さーん!!ん?ちょっと待って、トロフィー…あああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

 頭の中のイム・ジッキョウの声が歓喜で満ち溢れる中、本当にこれが試練の終わりか?と自分が思わず考えた次の瞬間イムの発狂したかのような叫び声が頭に激しく響く。これは、あの時(オーガ戦)以上に激しいッ…

 しかし腐っても神なのかすぐさま平静を取り戻したイムは口早に自分にこう告げる。

 

 曰く、ゴブリンをさらに殺せ、目に付く限り全てを殺せ。奇跡も使っていいから早く殺すんだッ!と。

 

 最早試練でも何でもなく殆どただの作業ともいえることを再びやれと言われ、自分の興が削がれるが、これでももう乗り掛かった舟である。今更もう少し試練が伸びたとして、自分の寿命に少したりとも響かない。

 さらにこれで終わりだというのだから良いだろう、混沌の輩を全て殴殺すればそれこそ真の終わりだ。

 

「それじゃ、これでも使いますか」

 

 自分は足元に広がる血の海から指程ある乱杭歯を一本抜き取って祝詞を紡ぐ。

 瞬間、脳裏から覚知の神が笑う声が聞こえた。

 

 

 ―――――――――

 

 

「これで4ッ!!」

 

 同時刻、青年剣士は数による攻めに転じて来たゴブリンといつ終わるとも知れない戦争の真っただ中で戦っていた。

 今し方切り捨てたゴブリンの顔面を鉄を仕込んだ靴によって踏み潰し、また湧いて出たゴブリン達と対峙する。もうすでに金貨4枚だが、これからさらに増えそうである。彼の懐は少し温くなること間違いなしだろう。

 剣士がゴブリンをスレイする傍ら熟練者(ベテラン)達の取りこぼしか、無数にいるゴブリンの中には田舎者らしき大きな個体が斧を振りかざすのが見えたが、剣士にもう足の震えはなかった。

 確かに閉所で、それも暗闇の中ゴブリンが押し寄せて来たあれは辛かったがこうして平原で戦うのなら別だ。

 ぎゃあぎゃあ喚いては錆びていたり、雑な作りの武器を手に突撃してくるゴブリンを得物の長剣で突き殺す。

 別に閉所では無いので思い切り振っても良いのだが、如何せんこの乱戦に近い状態なので突いて殺した方が味方に当たらないし、何より速い(・・)のだ。

 しかし速いと言えば…と剣士の脳裏に一人の森人が浮かぶ。

 

(狂戦士、アイツ今何してんだろ…)

 

 おそらくは同じ戦場にいるであろう狂戦士に意識が動く。あの力量なら油断しなければそうそう死ぬことは無いが、何と言うか…危ない雰囲気を持っている男なので少し心配なのも事実だった。

 短い付き合いではあるが、それなりに仲も深い為無事を祈らずにはいられない。

 言ってしまえば笑われるような、事実少し脳内の狂戦士でも笑うようなことだ。ああ見えて笑いのツボは浅い為、青年剣士がこれを伝えれば大笑いをするだろう。

 

「GRUOURURURU!!!」

 

 思考に割って入る田舎者の一撃を剣士は小盾で受け流し(パリィ)、反撃に突き刺した剣を上に引き抜いてそんなことを考える。

ハハハハハハハハハハーーーーー!!!

 そう、まるでこんな感じだ…と嫌にイイ笑顔の狂戦士が頭に浮かんだ。

 だが脳内にいるはずのその顔面が、高らかな笑い声と共に物理的に迫って来ている気がするのは気のせいだろうか。

 いや、事実そうだった。

 

「ハハハハハハぁあ!!!剣士ィ!その獲物寄越せぇえええええ!!!!」

「おいどうした狂戦士、お前なにし…「GOBBBA!?」

 

 青年剣士は始めて見るまるで狂乱(バーサーク)したかのような狂戦士の動きに目を白黒させながら圧倒され、ただことではないと道を開けた。

 そうすれば、狂戦士の殴打によってゴブリンが一瞬で首を1回転させ即死。

 何と言う馬鹿力だろう。狂戦士は以降も【狂奔】し、まるで風のような速さで次の獲物にとびかかっている。

 まるで狼か何かの獣にでも憑りつかれたかのように見えるその姿は青年剣士が懸念していた危うさそのものだ。

 そして勢いのままに狂戦士は彼の記憶が正しければ戦の準備時に防具や武器を買い与えた者達から獲物を奪い、次へ次へとゴブリンを殴り、槍で突き刺し、首の骨を握りつぶす等して戦場を突き進んで行く。 

 

「アンタ何してッ、ってあれ?防具くれた…」

「おい!借りは返すって言ったけど、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!」

「私の金貨が、金貨がぁ…」

「ひぃいい!何だコイツこえぇ!!」

 

 辺りに響くゴブリンの絶叫と、新人冒険者達の嘆き…阿鼻叫喚だ。

 なまじ防具を受け取った時に協力してくれるね?とイイ笑顔の狂戦士に言われただけあって、言い返せないでいる。

 事実彼らが身に付ける防具も良いものになってはいるので損はしていないのだ、損は。

 

「…借金取りか何かかよ」

「ハッ!言い得て妙とはこのことだーな、ありゃ押し売りした分の金を剥ぎ取ってんのよ。ったく質が悪ぃことしおって」

 

 術を撃ち尽くし、投石紐も乱戦状態になってからは使えないと手斧に切り替え、肉弾戦に精を出していた鉱人導士の呆れの一言が青年剣士の耳に届く。

 

「一応、買い与えた防具は金貨にすると数枚分位だから………?」

「元は取れとるんじゃねーんか?」

「算術は苦手だけど成程!確かに!」

 

 襲い掛かって来たゴブリンの捨て身の一撃を切り捨て両者は背中合わせになる。

 これこれ、こんな戦いがしたかった!

 年相応の感情を抱く剣士は努めて冷静を心掛けながらも、体の底で熱いものを感じる。

 彼は生粋の冒険者なのだ、こういう如何にもな場面で興奮するな、油断もするなという方が難しい。

 と言ってもそれは、顔面を陥没(前が見えねぇ)させられたゴブリンがこちらに飛んできたりしなければ、の話だった。

 

 

 ――――――――――

 

 

 再び狂戦士の意識が昇って来た時には事は既に終わっていた。

 イムのお疲れさまと言う労いの言葉が彼の頭に響き、どうやらことは済んだらしいと狂戦士が遅れて理解する。

 改めて彼は自信の身を顧みれば体の所々が内出血によって黒く変色し、動かすたびにミチミチバキバキと関節や筋肉からあまりして欲しくない音が鳴った。

 骨には特に大事無いらしいが、取り合えずと買っておいた治癒の水薬によって僅かに傷を癒す。正直まだまだ痛いものには変わらないので後で奇跡が余ってる人がいたら金を払ってでも直してもらうと狂戦士は結論づけた。

 もう試練は終わったのだ、自分の意思で動いてもまあ許してくれるだろう…

 

 

 今日は、世界にとっては小事でも、辺境にとっては凄まじい一日だった。

 

 牧場で起きた、150を超える小鬼達との戦いが終わったのだ。

 

 小鬼王は辺境勇士ゴブリンスレイヤーの手によって打ち倒され、小鬼英雄たちも銀等級の活躍、疾走狂戦士による影の活躍によって一体残らず切り伏せられた。残りの小鬼に至っても冒険者たちの奮戦によって殺しきることに成功している。

 

 死傷者も普段の冒険と比べて格段に少ない。これを戦争と呼んだならまさに「大成功」や「圧勝」と言える最高の結果だった。

 迎撃には成功、街は守られ、冒険者の懐には少なくない金貨が舞い込むことだろう。

 

 誰もが勝利に歓喜する中、疾走狂戦士の頭の内には周りの歓喜の声さえ打ち消すほどの大騒ぎが響いていた。

『FOOOOOOOO!!!終わった終わった終わったーーーー!!!コンドウダイスケーーー!コンドウダイスケ見てるかーーー!!ナカイさんありがとー!フラッシュ!!』

 まるで危ない薬か何かでもキメてるかの如くうるさい神、心なしかキィーーンという高音の異音も付いているそれに狂戦士の顔が歪む。先ほども素晴らしくうるさかったが今回は継続している為なおのことうるさかった。

 

『ああ、ごめんごめん流石に五月蠅いよね、それじゃまた後で!』

 

 不遜な考えが神に届いてしまったのか、それきり黙る神。いや、天上と繋がっている感覚も無くなった為、恐らく干渉はされていないのだろう。

 そう当たりをつけ、大きく伸びをした狂戦士はこの真夜中にも関わらず灯りの灯るギルド内へと足を運んだ。

 

「あの変なのに…カンパーイ!!!」

「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」

 

 ワイワイガヤガヤと小鬼王含めた小鬼達の殲滅を記念し、何度目かも分からない乾杯が交わされる。

 合戦の血も乾かぬほどの時間にギルドの酒場に集った彼らは祝勝会と称して大宴会を開いていた。

 酒に料理に歌と金貨のジャラジャラした音。それを背に今回の成果や反省を賑やかな雰囲気の中で話し合う。冒険者ギルド内でも中々ない程の盛り上がり様である。

 

 その只中で狂戦士は麦酒(ビール)一杯でベロンベロンとなって絡んでくるパイセンこと妖精弓手の相手をしていたりした。

 

「アヒャヒャヒャヒャ‼ノミナサイ!ノムノヨ!キョウセンシーーーー!」

「はぁ…パイセン酒に弱すぎだって…僕もそうだけどさぁ」

「ナニヨー!ワタシノサケガノメナイッテノーー?」

 

 いつも以上に饒舌な妖精弓手が勧めてくるのは彼女を酔い潰した元凶である麦酒だ。

 周りの冒険者もそれに乗ってか狂戦士に酒を飲ませようとしてくる始末。どうやら退路は無いらしい。

 かつて体験した数多ある宴会でもこうして誰かに酒を飲ませられていた気がする…と狂戦士は過去を振り返り、折角の場をしらけさせるのもあれかと差し出された麦酒を一息に飲み込む。

 すると面白い程に顔がすぐに赤くなり、狂戦士の目も虚ろになっていく。

 

「お、おい大丈夫かよ?」

 

 見かねた他の冒険者が卓を乗り越えるのも憚らず声を掛けた。

 すると、彼が乗る卓には浮遊感が与えられた。

 

「ハッハハハハーーーー!!」

「おいおいヤベーぞ!コイツ酒飲ませると暴れるタイプかッ!!」

「ハハハハ―!」

「「おわぁああああああ!!??」」

 

 片腕で人の乗った卓ごとを持ち上げ、余った右手でポカンとしている冒険者から麦酒を奪い取ってはグビグビ飲み干す狂戦士。

 最早普段の姿の面影すら感じられない酔いっぷりである。

 

 卓から冒険者をずり落とすと狂戦士はそのまま宴会芸のように、卓の上に他の冒険者から受け取っては飲み干した杯を放り投げて立たせるという、お前そんな器用だったのかよ!と周りの冒険者を驚かせる一芸が披露され、負けじと妖精弓手が見事な軽業で狂戦士が持ち上げた卓上で片手逆立ちを披露したりと宴会はさらに盛り上がりを見せていた。

 満更でもないと妖精弓手がニマニマしていたが、ある一点を見た彼女の顔に驚愕が走る。

 

「あーーーーっ!オルクボルグが兜外してるーーー!!」

 

 赤ら顔で指さした先には確かにあの特徴的な兜を傍らに置いた青年の姿が見て取れる。

 何ッ!なんだとッ!貴重ですよ!とこの好機を逃さないのが冒険者達だ。

 すぐさま卓上を抜け出てゴブリンスレイヤーの元へと行った妖精弓手を筆頭に、彼らの意識はそちらに注目し、手に杯や料理を持ってわっと押し寄せていく。

 その後はトトカルチョ表持って来い!だの大穴狙ってたのに…だのと好き勝手にゴブリンスレイヤーの顔を見ては一喜一憂の冒険者達。

 

 狂戦士も釣られてゴブリンスレイヤーの顔を見やれば、彼の手から卓が滑り落ちた。

 ガシャーンバラバラと大きな音を立てて落ちる卓へゴブリンスレイヤーに注目していた面々が振り返るが、それも一瞬のこと。呆然と立ち尽くした狂戦士を気に掛けることは特にない。

 再びゴブリンスレイヤーへと視線を戻し、興奮冷めやらぬ顔でトトカルチョ表と睨めっこしながらこれは美男子だろう、青年だろうと賭けの支払いについて揉めている。

 

 彼らの後ろで狂戦士は一人泣いていた。

 

「あぁエリー…君との愛は、繋がっていたんだね…」

 

 涙で濡れ、視界は朧気、だがしかと見たゴブリンスレイヤーの瞳を思い出し、狂戦士は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった笑顔でくつくつと笑う。

 人生とは、本当に何が起きるか分かったものではない。

 

「ハハハハハ!!良かった…()もようやく眠れそうだ…」

 

 紅の目を持つ君よ、君の目は、彼女にとてもよく似ているんだね…

 狂戦士は懐から出した一枚のボロ紙を握りしめ、そこらに転がっていた皮盾(レザーシールド)を枕代わりに寝息を立て始める。

 そして彼の口はむにゃむにゃとこう言葉を紡いた。

 

 ご視聴ありがとうございました、と…

 

 




狂戦士…お前、パパだったんか?

狂戦士の過去編を?

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