愛しい君よ瑠璃の目の君よしばしの間待ってておくれ
右手に剣を握ってるんだ左手には弓を握ってるんだ
許しておくれ愛しの君よ大丈夫すぐに戻るから
剣も弓もほっぽり出して君を抱きしめに行くから
おお麗しの君よ紅の目を持つ君よ
自分が傍で眠るまでしばしの間待ってておくれ
生き地獄とはこのことかと、その森人は1000年経とうが変わらない空に伏した目を持ち上げた。
空に輝く太陽は煌々と煌めきながら世の遍くを照らし、今日も今日とて人の歴史は紡がれ、各地には伝説が生まれているのだろう。
今日もいい天気と森人の口は思ってもいないことを呟く。この癖が生まれたのはいつだったか?もう100年は経つくらいだろうか?森人は思案をし始めた。
最近は伝説の聖剣が何処かにあるだとか、それが選ばれし勇者でなければ抜けないとかそう言った話題が周りではひっきりなしだ。まあ最早ほぼ終わって出涸らしとなった自分には関係のない事ではあるが。
人生とはあまりに長いものだ。特に森人の、それも
自分がそう思うようになったのは、確か生まれてから500年経った頃からだった。
腰が重い森人が嫌いだった、目の前で助けを求める者を助けないことにイライラしていた。そして自分達こそが至高の存在なのだと信じてやまない周りの者に対して嫌気が射すのも時間の問題だった。
「何故そんな未来の事を言ってるんだ?」
この言葉が決定的だったのだろう。村の者は自分を避けるようになっていた。そして、自分は村にいることが徐々に苦痛を感じていくようになっていった。周りの者は自分に対して一枚壁を置いたような話をするし、空気はどこか冷たい。
自分はきっと生まれるべきではなかったのだろう。もしくは生まれる種族を間違えたか。
しかしあぁ、何という事だろうか。母はそれでも笑ってくれて、父はそれでも愛してくれた。愛を注がれてしまった自分は外道には堕ちるには余りにも恵まれていたのだ。
自分は森の為に生きることにした、森の命の巡りの管理、つまりは狩人として。
森の命は刻々と変化して飽きが来ないのもきっと性に合っていたのだろう。季節の果実を取り、獣が増えれば狩り、落石が起きていればこの腕を以て岩をどかしたりした。生態系の変化が起こらぬよう、森の恵みが得られるようにしっかりとすることが自分にとっても生きがいだ。
そうして自分の生に意味を見いだせないまま、だがそれでも1000年そうして過ごしていた。
彼女が森にやって来たのは運命の悪戯か、偶然の産物か。只人が森人との国交をしたいだとか言って森の中に異種族文化が入り始めた時のこと。酒に博打に娼婦に芸能と、それはそれは楽しく蕩けるようで森の中で一生を終えていたら生涯味わうことのなかった刺激が森の中に溢れた。
爺連中は変化を嫌って良くないことだと排斥しようとしていたが、結局の所村にその文化は根付いた。私は刺激を求めて毎日の如くそれらに通った。時に勝ち、時に大負けし、酒を飲み、女に溺れ…放蕩の日々が始まった。
ある時娼館に行くと彼女がいた。クリっとした左右色が違う目にすっとした鼻、唇は瑞々しくて幼いながらに妖艶。体は艶やかで、胸は程よく尻は肉厚な…あぁ、自分の語彙の無さが嫌になる…千の言葉でも表せない程、彼女は魅力溢れたとびきりの美人だった。
彼女の名前はエリーと言った。名前からして美しく、可憐な彼女の一夜限りの愛をまず私は買った。あれこそ人生で最高だった瞬間と言えるだろう。
あの様の私にとって彼女の愛が一夜分だけではあまりに足りないのは言うまでも無く、何度も彼女を買った。
彼女も私の力にかそれとも顔か、ともかく私を好いてくれた。そんな日々が続き、思いつくことは全てしたような所である日、彼女は語った。
曰く、辺境の寒村に生まれた娘であったこと。
曰く、生まれつき片眼の色が違うので迫害されていたこと。
曰く、彼女が私にしかその体を許していないこと(人気が無かったとも言う)
そんな話をされれば居ても立っても居られず彼女を身請けしたのはそのすぐ後の事だ。少々高い買い物ではあったが後悔など微塵も無かった、はずだ。少なくともあの時は。
それから始まった愛し合う二人の日々の何と幸せな事だろう、何と楽しい事だろう。生まれて初めて味わう喜びに私が歓喜したことも何もかもが記憶に残っている。
この幸せな日々を享受しながら2年程経った時、ついに子供が生まれた。只人にしては長く、森人にしては短く厚い耳をした、利発さ溢れた顔をした子達だった。実際その子等は私に似つかず頭が良く器量が良い子に育ってくれた。
だが、只人がその変化を追うには余りに長すぎる時間だった。子どもが成人と呼べる程度の大きさになった時、いつの間にか彼女は老いて見目麗しい顔には皺が刻まれ体は重力に従って垂れ下がり、私の肩ほどだった背は胸にまで落ちていた。
老いてなお美しい彼女に気づかなかったが私はようやく気付いたのだ。森人の私と只人では時を共にするのは厳しすぎると。
程なくして彼女は死んだ。流行り病でもなく、怪我でもなく、老いて死んだのだ。眠った次の日に、彼女には当たり前に来るはずだった今日が来なかった。
きっと幸せだったのだろう、死に顔はとても晴れやかで、全盛の彼女にも劣らない笑顔に見えた。
だが、それは私にとって辛すぎる死だった。驚愕と共に無力さに打ちひしがれ、慟哭の叫びを彼女を思い出す度に上げた。
いっそ誰かに殺されてくれた方が自分を恨めて良かっただろう。自分の至らなさに打ちひしがれることはあれど、確固とした目的もあったはずだ。しかし、老衰は自分にはとてもどうしようもない。
そもそもの種族を変えるようなことでもなければ只人が森人の寿命に寄り添えることなど出来ようか。
その時ばかりは自分の馬鹿らしさ、愚かさに発狂した。失ったもの、器から零れた水はもう元には戻らない。自分は只人の10倍以上も生きていてそんな簡単なことにさえ気づかなかったのだ。
彼女が亡くなって3日程経った時、必死の形相で子ども達が私に差し出して来た手紙にはこんなことが書かれていた。
「いきて」
森人語で書かれたそのたった三文字の筆跡は確かに彼女のものだった。
それからその一言が自分を
だが、自分の魂はその日から呆けたようになった。彼女を失った自分は最早何をする事にも意義を見出すことが出来なくなってしまったのである。
だがそれでも子ども達は自分を励まし続けてくれた。
そうして10年程の日々を過ごしていた自分に孫が生まれ、自分はおじいちゃんになった。
可愛らしい子供たちだった、鼻はあの子ににてふっくらと、耳は自分に似てつん、と尖っていて…彼女との愛がまだ繋がっているのだとようやくその頃になって自分の腑抜けも治ったのだった。
自分は孫に恥じぬよう、子ども達に笑われぬように、また、10年の空白を取り戻すかのように
南に行ってクラーケンを、北に行ってイエティを、東に行って悪鬼を、西に行ってオーガを。道中得た仲間達との奮闘で自分はそれ等を打ち倒し、その仲間達と新しく傭兵団を作ることにした。
それこそが死した彼女の目に肖った傭兵団の誕生だった。
戦乱の世はまさに傭兵団にとっては苦しくも最高の時代だった。隣国との戦争、英雄達の露払い、怪物たちとの闘争、仕事は無くならず財貨はどんどん入ってくる。
少し落ち着けば物件を選び、人手を揃え、教育やら訓練やらの編成をしながらも酔った勢いで高額な竜の牙を買うなどバカ騒ぎをして過ごす。
欠けた心を忙しさで塞ぐかのようにしながらも自分はそこで団員の心の支えであり頼るべき長である傭兵団長として存在していた。
だが創立して50年、只人にしては長い年月が経ち老舗となってきた傭兵団にも問題が発生した。
金だ、金が足りないのだ。
何をするにも金金金、装備を整えるにも酒を飲むにも人を養うのにも金が必要だ。それが無くなる、つまりは傭兵団にとっての死が訪れることと同義だ。
それを回避するため、頭をひねりにひねった自分の発案に団員たちは耳を疑っただろう。死の迷宮、始まりは何であったか、もう誰にも分からないその迷宮は最近になって巷を騒がせ始めていたそれに潜ると言うのだ。
曰く、怪物たちが闊歩し、財宝がとめどなく溢れ、そして生きて最下層に到達したものは未だいないという。危険はあるが財貨を得るには最も手っ取り早く分かりやすい方法で金策は行われる手筈になっていく。
結果を先に言うならば必要とされていた分、いやそれ以上に財貨は得ることが出来た。ただその代わりとして団員の実に4割が死の迷宮に呑まれて消えることにもなってしまった…
それでも金は金、生き残れなかったのは
酒を湯水のように体に取り込み、そう思い込んで死んでしまった者を悼むことしか彼らに道は存在しなかった。
それは私とて同じだった、最愛の孫と子が一緒くたに死んだのだから…彼らは勇敢に殿を務め、団員を守って死んだ。だが、死因などどうでも良かった。
ただ、生きて帰ってくれさえくれれば、自分はそれで良かったのだ…
得た
そんな様では気付けぬのも無理は無いだろう、死の迷宮から帰った者の中によもや死に魅入られた輩が混ざったことなど、誰が気づけようか…
まるで植物が土へと根をつき伸ばすように瞬く間に組織は腐敗していった。
自分が気づいた時には6割が邪教に魅入られ、自分以外の全員が殺されていた。
私は自室へと追い詰められていた。
弓も剣も彼奴らの手に握られており、それが徒党を組んで己を殺しに来ている。
対する自分は身一つ…ハッキリ言って死んだも同然の状態だった。世界を救う勇者様でもないのだ、当然死ぬに決まっている。
だが、彼女と交わした約束を果たす為に、自分は絶対に生き残らねばならない。
魔の手は自分を追い詰める。多勢に無勢、どう考えても私は死ぬ、子にも孫にも先立たれ、終いには彼女との約束も果たせずに…
何か、何かないか!
尋常の神ならば…
『やぁ、困っているようだね』
凛とした声だった。とても通る声、それが私の頭に次々と言葉を入れていく。外なる神は、往々にして気まぐれであるが力は強い。
覚知神は面白いと思った愛しい駒へ外法を授けた。
自分の頭に邪悪な祝詞が浮かび、聞くに堪えぬ声で祈れば奇跡が起こる。
まず、自分の肉体から音がした。
ベキベキと体が内側から変わって行く音を感じ、目線を動かせば執務室の壁に掛けた恐るべき竜の牙から流れ出た力が自分に注がれていた。
見る見るうちに体が膨れ上がり耐え切れなかった服を貫いて弾けさせると変化の音は止まった。だが注ぎ込まれた力の余剰分か、それとも滾る力か魔力が波紋の幻影となり、見た者に遍く死を与えることを予見させたことだろう。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!」
ただ啼いただけ、ただの威圧でさえも大気を震わし、邪神信者の耳を潰す武器となる。恐るべき蜥蜴人が誇る父祖が持っていた力はそれほどまでに凄まじい。
「ッ行け!我らが神に贄を捧げるのだぁあああ!!」
「我らが神の為に!」
「いあいあ!!」
「GGGGAAAAAAAAAAAAA!!!あああああああああああああ!!!!」
それでも怯えず突っ込んでくる
まともに当たった者は肉を突き抜け、骨が飛ぶ。当たらずとも余波で十数の人間が吹き飛んでいく。
何という力だろうか、と思わず自らの手を見れば肉と皮がぐちゃぐちゃになった両手が映る。いくら自分が強靭な肉体を誇っていようと上限以上の力を出そうとすれば器は耐えられぬのが通りだ。
「ギィイイイイイイイ!!!」
一瞬遅れて体に走った激痛に言葉にならぬ叫び声を上げたが同時に団員達の顔が浮かんだ。さぞ無念だったろう、さぞ悲しかったろう、仲間であった者や親友であった者から裏切られ、殺された思いは計り知れない。
そうだ、無念は晴らさねばならないのだ。
思考が歪み出す、だが気づくことも訂正することもしない、出来ない。自分は自らの体をも壊す力であろうとも最早余すことなくぶつけ、30と少しの邪神信者を自らの肉体のみを使って彼らが信じた邪神の元へと送りつけた。
そして数多の悲しみと地獄の痛み、苦しみの中より、ここに覚知神の信徒であり後に
私は作者として無能者です(自己批判)
しかし、偉大なる先駆者兄貴達のお陰でようやく投稿することが出来ました。
ただそれでも狂戦士君の話が最低でもあと2話分残ってて、笑っちゃうんすよね。
四方世界こそこそ裏話
狂戦士君が元々傭兵団やってた時に買った竜の牙は実は蜥蜴侍君が世界竜になった後諸国行脚してた時にポロっと落ちたものだぞ!お値段なんと金貨120枚!高過ぎィ!サメの如く牙が何度も生え変わるので世界各地に落ちていたりする。これを削って触媒にしたり、アクセサリーにしたり、武器にされたりもする万能素材としてちょっと有名だ!
狂戦士の過去編を?
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