そのゴブリンは実にツイていました。
周りに比べて一回り背が小さく力も弱い彼でしたが、小鬼並以上の逃げ足でどこまでも狡賢く、口喧嘩にも負けずに運よく生き抜いてきた過去を持っています。
そんな彼の運は留まる事を知らず、とあるゴブリンの巣穴にいた時、彼はターバンや宝石、曲刀等を身に付けた冒険者達の攻撃を受けました。
「ハッハ―!辿り着いたぜェ!男はひき肉女は家畜!?許せねえよなぁ!!」
そんなことを叫びながら曲刀でばっさばっさとゴブリン達を斬り殺していきます。
最初は逃げてばかりの彼も大勢の
自分が死ななければあとはどうでも良いので、仲間をけし掛け自分は影から弓を撃ち、小さい体を活かして物陰に隠れ、進んできたところで胸を突き刺すことに成功して気分はもう有頂天。
頭目を失った冒険者達の動きが鈍った所をゴブリン達は数の責めや横穴作戦で以て不意を突いて殺すことに成功しました。
獲得した戦利品は仲間と分配です。
仲間は冒険者が使っていた曲刀やら綺麗に磨かれた石やらをぎゃあぎゃあ言いながら奪い合う非常に醜い争いをしています。
しかし、そのゴブリンは倒した冒険者が身に着けていたターバンが気に入りました。
何やら惹かれるものを感じて、調べてみると中に小さな魔力の詰まった宝石が埋め込まれています。
これは魔道具だ!博識な彼は気づきます、この事実を見抜いたのは彼一人。
周りの大馬鹿共はこれの値打ちを知らない、俺のものだ、俺のものだと大喜びのゴブリンは誰も見向きもしなかったターバンを手にしました。
彼は渡りになることにしました。
なんせ簡易的な【
ゴブリンが魔道具を持っている、さらにそれが【転移】という高等な術が仕込まれていて、さらに左の太腿に飛んでナイフで刺してくることなど小鬼退治に駆り出されるレベルの冒険者が思いつくはずもありません。
彼の大進撃は続きに続き、終いにはとある
「貴様が最近噂になっている渡りか、フン、精々雑兵以上の働きをしろ。まぁ、そこ等の奴よりはいい待遇で雇ってやろう、感謝するが良い」
正直ウザったい上司でしたが、彼の持っていたターバンは人間程度になら効果絶大ですがオーガ並みになって来ると話が違います。
ただの鉄ではオーガの肉体に傷の一つもつけられないのです。
彼の持つナイフも以前に比べると性能の良いものになっていましたが、その実なーんの効果もありません。
彼はゴブリンです、自分にとって不都合な事よりも他の自分より体の大きいゴブリン達が彼に従う事の方に注意を向けました。
幸いここにはいつもより上等な
孕み袋を殴り蹴り、唾を吐きかけこき下ろす邪知暴虐の毎日は彼にとって天国でした。
このまま上司がくたばってくれれば最高だ!と不遜な感情を隠しもせずに持っていた彼はついにその運命を変える冒険者に出会います。
弓矢使いに術使い、戦士もいますし、ズカズカと嫌なブーツの音を立てて近づいてくる冒険者もいました。
そんな奴らに彼が率いる20程の小鬼の一団が接敵したのです。
彼はいつものように仲間のゴブリンを盾にして冒険者と戦いました。
「グアッ!!」
まずは間抜けそうな顔をした只人冒険者の太腿にナイフを突き刺しぐりぐりと捻ります。
それだけで痛みに顔を歪めた冒険者の出来上がりです。
「ッ!何よこのゴブリン、どこから現れてッ!?アァアアア!」
生意気そうな森人冒険者の綺麗な太腿にナイフを突き立てます。
こちらもぐりぐり捻ると、絹を裂くような良い悲鳴。思わず笑顔が零れます。
「こら小鬼が魔法の装備持ってやがんのか!グゥッ!!」
事態にいち早く気づいた鉱人冒険者の太腿に今度は杭を刺します。
彼の経験から2回使ったナイフは切れ味が悪くなるので刺すだけなら杭を刺した方が冒険者達を殺すのには良いことを知っていました。
彼の野獣の眼光は次なる獲物を決めています。
「キャッ!!?」(パリン)
「息を止めろッ!」
そして、一番弱っちそうな法衣を来た冒険者に攻撃をしようと彼は転移し、さぁ終わりだと息巻いた瞬間、彼の体に激痛が走りました。
辛い!痛い!苦い!目に染みる!痒い!思わぬ衝撃で彼は地面に尻もちをついてのたうち回ります。
一体なんだと涙と鼻水でグズグズになった顔をどうにかして上げるとなにやら宙に赤黒い粉が舞っているのが見えました。
「コイツは決まって左の太腿を刺すらしい。だから、足元にこれを撒けば引っかかる」
何やら卵のようなものを持った汚い鎧の冒険者が何か言っていますが、鼻がもげそうだし体中痒くて死にそうな彼には知った事じゃありません。
体中をかきむしり、汚い悲鳴を上げる彼にこれまた汚い鎧姿の男がズカズカと近づいてきます。
死ぬほどの辛い目にあっている彼は一瞬痛い思いをして楽になりました。
彼には誤算がありました。
それは今まで戦ってきた冒険者とは一線を画す冒険者が来ていたこと。
それが、銀等級という在野最上位の人間だったということ。
自分が
そんな彼の冒険はここで終わってしまいました。
あーあ、残念です。
また別の駒に期待しましょう。
「ふむ、効果が強すぎるとこちらにも被害が強まりそうだ、改善が必要だな」
「ちょ、オルクボルグ私達治療して…」
「じ、自分もお願いしたいであります…」
死んだ彼には関係のない話ですが、冒険者達のアドベンチャーは続きます。
まぁ、RTAには失敗したのでまた再走だ、また再走だッ!!とどこかの誰かさんが悲しんでいますが、愉悦愉悦と笑ってあげましょう。
さて、次のお話は心躍らせてくれるのでしょうか。
今回もご視聴ありがとナス!
狂戦士の過去編を?
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