艦隊これくしょん――少年少女は暁の水平線に何を見るか   作:海荷コモルー

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ぶらり第四工廠(中)

「えーっと……次は」

「二階の各会議室ですね。それで二階の部屋は終了です」

 北上と大井が見取り図を見つめる。二階の提督執務室、資料室、資料保管庫のスタンプが集め終わった。

 資料保管庫は資料室以上に書類に溢れており、長く窓を開けていないのか古い家の匂いがした。そして保管庫に行ったはいいものの、この部屋も北上と大井が管理しているらしく、普段足を運ぶことが少ないため存在を忘れていたらしい。もう一度同じ印鑑を押しに資料室に戻ることになった。

「作戦会議室って言うと長門達かー」

「確かしばらく長期遠征でいなかったですよね、あの二人」

「ほーら、私たち連れてきてよかったっしょ?」

 肘でぐりぐりと横腹をつつく北上に何も言い返せない俺。話を逸らす為、別の話題を投入して逃げる。

「えっと、長門……さんが会議室の管理者なんですか?」

「そ。長門型戦艦の長門と陸奥」

「あー……陸奥さんか」

 軍に入る前、工場で波瀬が連れてきた茶髪ショートのお姉さん(に見える艦娘)。てことはその姉である長門さんも艦娘ってことか。もしかしたら会えるかもと淡い期待していた。

「え、もしかしてむったんと知り合い?」

「ちょっとね。お互い顔知ってるくらい」

「はいはいお喋りはそこまでにして……会議室に着きましたよ」

 そんなこんな話している内に会議室へと着く。やはり部屋には人気はない。

閑散とした部屋には縮尺の違う日本地図が数枚とホワイトボード、元から備え付けられた黒板。それ以外は何もない。

「さぁーて、印鑑どこかなぁっと」

 北上は部屋の電気をつけ、物色を始める。大井と俺も探し始めた。

「ここ物が少ないから逆にどこにあるかわかんないんだよね」

「ほら、北上さんや私に探させてないであんたもしっかり探しなさいよ」

 小声で大井から咎められる。正直そんな事言われてもないものはないって感じだが。少し視点を変え、まだ手をつけていない所を探す。少し屈んで見回すと何故か椅子の上に置かれている小さな木箱が気になった。不思議に思い、手に取って中身を空けてみる。そこには――

(メモと……印鑑。そしてなんだこれ)

 掌に収まる程度の薄い円型の何か。表面には豪華な装飾が施されており、見るからに高級な感じがする。俺はそれが何かわからなくて、先にメモを見ることにした。

『野波君へ 久しぶり。これを見てるってことはお姉さんがいない間に第四工廠に来ちゃったみたいね。その懐中時計はお姉さんからの着任祝いです、また会えるのを楽しみにしてるわ 陸奥より』

(覚えてて……くれたんだ)

 手にした懐中時計を強く握りしめる。

 二年前、工場でただ一度会っただけなのに。会話も少しで握手しただけなのに。自分を覚えててくれたんだ。それがすごく嬉しくて、それだけなのに胸にある大きな嫌な塊がなくなったみたいだ。

「なにニヤニヤしてんの?」

 北上に現実に引き戻される。慌ててそれらを背に隠し誤魔化かそうとするも、

「べ、別に! 何でもないから!」

 これじゃあ声でバレバレだ。こういうこそばゆい経験はあんまりした事がなくてどう取り繕っていいかわからない。

 北上はますます怪しそうにを見ていたが、「ま、いいけどね」と言って引いてくれた。俺は懐中時計とメモを胸にある裏のポケットに入れる。なんだかそれだけで胸がずっと軽い。

 自身で印鑑を第一、第二の欄に押して印鑑だけを再び木箱に戻す。

「それじゃ二階終わったし、一階行こっか。思ったより時間かかったし」

「これじゃあ船渠に行くのは日が暮れてからになりそうね……」

 腕時計をちらりと覗く大井。時刻は既に十八時に近い。後一時間程度で日は沈んでしまう。

「次は……あー講義室ね、てことはチビッ子達かぁ」

 講義室に行く事に北上は感触の良くない反応を示した。

「もしかして嫌?」

「大丈夫だよ、ちょっち苦手ってくらいだから。早く行こ行こ」

 そそくさと部屋を出る北上。後を追いつつも、それが少し気になって大井に話しかける。

「あの、チビッ子って言ってたけどどういう事なの?」

「どうもこうもないわよ。見ればわかるわ、本当にチビッ子だから」

 それだけ言うと大井は足を速め、北上と並んだ。

 後方に一人取り残された俺は決して離れないように一定の距離を保ちながら大井の言葉をポツリと呟いた。

(チビッ子、ねぇ……)

 今までの違和感たちがひとりでに仮説を組み上がっていく。組み上がった仮説はひどく嫌悪感がした。見に行けばわかる。しかし、もしそれが事実だったらと思うと足取りが重い。胸にある懐中時計をぎゅっと握った。

 階段をゆっくりと降りていると北上達以外の声が聞こえる。

「北上と大井じゃないの! 珍しいわね、こんな時間に教室に来るなんて!」

「本当だね。どうしたんだい?」

「言わなくてもわかるわ! この私に会いに来たのね!」

「はわわ、本当なのです! 珍しいのです!」

「いやーちょっとね……ってあれ? 少尉は?」

「もう全く手のかかる人なんだから……」

 一人の足音が近づいてくる、大井だ。

「ほら、早く来なさいよ。アンタの仕事でしょ」

「そう……なんだけどさ。なんかちょっと、」

 行きたくないとは言えない。大井はさっきみたいに諦めた様にため息を吐いた。

「自分だってまだ子供じゃない。後でちゃんと説明してあげるから、一旦こっちに来て会ってみなさい」

 なかなか動かない俺を見て、大井が手を掴む。引っ張られる様に教室に連れて行かれた。教室にいたのは北上と四人の幼女。思わず目を背けたくなる。

「もう遅いよー。何やってたのさ」

「北上さん、もしかしてこの方って……」

「そ。ここに配属された野波少尉。若いっしょ」

「やっぱり! 初めまして、暁型四番艦電なのです! よろしくお願いしますなのです!」

「三番艦雷よ! これからよろしくね!」

「二番艦の響だよ……。不死鳥の通り名もあるよ。よろしく」

「ふふふ……暁型一番艦の暁よ! 一人前のれでぃとして扱いなさいっ!」

 俺を取り囲む駆逐艦の艦娘達。電と雷は赤茶けた髪で双子のように容姿が似ているが髪型が違うし、性格も全然違う。響は奇麗な銀髪でちょっとクールだ。暁は一番艦だからだろうか、大人扱いして欲しそうだが末っ子のようだ。

「今日着任した野波だ。野波永治……少尉だよ。よろしく」

 膝を落として一人一人と握手する。みんな手が温かい、とてもいい子達だ。

「実は今庁舎の中を見学して回っていてね……印鑑貰えるかな?」

「わかったわ!電に任せて頂戴!」

「こういうのは長女の暁がするの!」

「喧嘩はよくないのですっ!」

「間を取って私が行くよ」

 みんな元気で、本当に子供のようだ。

「はい、野波少尉……」

 結局響が押印の権利を勝ち取り、見取り図を渡す。「ありがとう」と言って俺はそれを受け取った。ちゃんと俺は笑えているだろうか。

「それじゃ、明日からよろしくね」

 俺は逃げるようにして教室を出た。

 

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