とある科学の電閃飛蝗《ライジングホッパー》 作:フォックス少佐
「うぐっ」
「はっ、これに懲りたらもう逆らうんじゃねぇぞ?」
学園都市にある、とある高校の校舎裏。そこでは4人の柄の悪い男達が眼鏡をかけたひ弱そうな青年を囲んで暴力を振るい財布を巻き上げて去っていった。眼鏡の青年は毎日、この柄の悪い男達にカツアゲされており、今日は少しだけ勇気を出して反抗してみたが呆気なく力で地面にねじ伏せられてしまった。
「……くそっ。こんな時にジャッジメントは何してるんだよ……! 奴らが無能だから俺がこんな目に合うんだ……!」
青年は殴られた拍子に飛んでいった眼鏡を拾って行き場のない怒りを校舎の壁を蹴ってぶつけた。そして自分も下校しようとした時、ふと何者かの視線を感じて後ろを振り向く。するとそこにはボロボロの衣服を身にまとい、頭にターバンを巻いた、全身に悪寒が走るような冷たい目をした男が立っていた。
「だ、誰だお前……!?」
「……俺は力を与える者。お前はそんな答えを望んでいるのだろう?」
「力を……与える者……?」
「お前は力を得て何を成し遂げたい?」
「ぼ、僕は……僕を理解しない無能な奴らを痛い目に合わせてやるんだ……! 僕の凄さを証明してやるんだ!」
青年は目の前に突然現れた男の正体などどうでもよく、疑いもしなかった。何故なら自分がずっと喉から手が出るほど欲しかった力をくれる。その言葉だけで他の誰よりも目の前の彼を信用したいと青年は思っていたからだ。
「なら存分にこの力を振るうがいい。全てはアークの意思のままに」
そう言って男はUSBメモリを青年に手渡すと校舎の影にできた闇の中へと姿を消した。そして残された少年は全身の痛みも忘れて、ケタケタと不気味に笑っていた。今度は僕がお前達を痛めつける番なのだと言って。
◆
風紀委員一七七支部。そこでは先日、違法ROMの売人がその存在をほのめかした滅亡迅雷.netという存在を調べる為、初春と黒子がパソコンを前に悪戦苦闘していた。いくらデータバンクを調べてもそのような組織の情報はひとつも出て来なかった。
何十時間も情報を調べていた初春と黒子の集中力はもう既に限界を超えており、とうとう黒子は「ダメですわ!」と言って辛抱たまらず勢いよく立ち上がった。
「これだけ調べて何も出て来ないなんて、滅亡迅雷.netなんてただの絵空事だったんじゃありませんの?」
「そうかもしれませんね……情報バンクに何一つそれらしい影がないなんておかしいです」
学園都市のあらゆる事件の詳細が記してある風紀委員の情報バンクには何も載っていない。まるで誰かの手によって消されたかのように。しかし、風紀委員本部のセキュリティは並大抵の人間では突破できない。それができるとしたら、レベル5相当のハッキング技術を持った人間くらいだろう。
「はぁ……。ヒューマギアを使った犯罪を取締るだけでも一苦労ですのに、最近多発している連続爆破事件……学園都市も物騒になったものですわ」
学園都市で起こっている問題はヒューマギアによるものだけではない。最近になって多発している連続爆破事件による被害は日に日に増えており、少なくとも風紀委員が9人負傷している。前までは事件も少なく、友人と遊んでいた2人も今では一七七支部に篭りっきりだ。
「せめて固法先輩が本部の研修から帰ってきてくれれば、もう少し余裕ができるんですけどね」
「そうですわねぇ」
一旦作業の手を止めたことで疲れが一気にやってきた2人はデスクに突っ伏していると、玄関のセキュリティロックが開く音がしてそこから1人の男性が入ってきた。
「お邪魔しまーす。2人とも頑張ってるかい?」
その男性は一七七支部と合同してヒューマギア犯罪の事件を追うことになった飛電インテリジェスの社長である飛電或人だった。その手には紙箱を持っており、そこから甘い匂いがほのかに漏れ出していた。そしてその匂いを嗅いだ初春はデスクの前から勢いよく飛び起きた。
「あ、或人さん! それって駅前に新しくできたっていうケーキ屋さんのケーキではありませんか!?」
「えっ、ああそうだけど。2人とも疲れてるだろうから甘いものでもどうかと思って」
差し入れを持ってきた。その言葉を聞いた初春は目を輝かせて「すぐにお茶入れてきます!」と言って一七七支部に備え付けられたキッチンに駆け足で向かった。そんなに喜ぶとは思ってなかった或人は初春の興奮した様子にポカンとしているとその背後からぴょこっともう1人現れる。
「やっほー。ケーキ屋さんの前でばったり或人さんと会ったからついてきちゃった!」
「佐天さんもいらしたのですね。それではひとまず仕事は休憩にしてお茶にしようかしら」
流石に息抜きも必要だと思った黒子はデスクから離れると来客用のテーブル席に4人は座って、ケーキと紅茶を片手にお茶会を始めるのだった。
「う〜ん! このモンブランとっても美味しいです! 久しぶりのケーキが体に染み渡りますよ〜!」
「本当ですわ。最近はずっとデスクの前に座りっぱなしで外に出ていませんでしたから甘味が五臓六腑に染み渡りますの〜」
「あはは、なかなか個性的な感想だけど……景気付けのケーキが美味しそうで何よりだ! はいっ、アルトじゃあぁぁぁぁないとぉぉぉぉぉ!!」
或人渾身のギャグを聞き流しながらパクパクと口にケーキを運んでいく初春と黒子。そんな2人の様子を見て自分のギャグが受けなかったと思い項垂れる。
「二人とも、今のは景気とケーキをかけた面白いギャグだったんだよ?」
「いやいや、佐天ちゃん! 人のギャグを説明しないで!?」
「全然、面白くありませんわ」
「面白くありませんね〜」
「君達も少しは遠慮って言葉を覚えようか!? 流石に傷つくよ俺も!」
冷たい目をした黒子、ケーキを食べてほんわかしている初春、ゲラゲラと笑っている佐天、ボケからツッコミに周りざる負えなくなった或人。
カオスな空間が一七七支部を包んでいた。
そしてしばらくするとケーキを食べ終えて何気ない会話をしている或人を除いた3人。そんな中、或人は1人だけ初春のデスクに座ってパソコンを操作していた。
「ところで或人さん。私のパソコンを貸すのは良いんですけど一体何をしてるんですか?」
「前にうちの会社からここに持ってきた機材があったでしょ? それを動かす為のソフトウェアをインストールしてるんだ」
「ああ。あの隅っこで山住みになってる奴ですの。いい加減邪魔ですから持って帰って欲しいのですが」
「ダメダメ! ちゃんとこれからのことに役立つ貴重な機材なんだから! って山積みにしてたの!? もっと丁寧に扱って!?」
或人は黒子の言葉に思わず昭和のバラエティ番組のようにずっこけながらも、山積みになった機材達を丁寧に運んで設置しはじめた。
「ところで、その機材はいったい何に使うんですか? 見たところ3Dプリンターっぽいですけど」
「これは小型化した多次元プリンター! 通称ミニザット! こいつで俺が変身するのに使ってたプログライズキーが作れるようになる訳よ!」
えっへんと胸を張って自慢する或人。3人はプログライズキーと言われても何のことだか詳しいことはわからないが、あの仮面ライダーゼロワンという姿になる為に必要なものだという認識はしていた。
「まあ小型化するにあたって人間の手で少し調整しないと使えないんだけど……その役目は初春ちゃん! 君に任せた!」
「わ、私ですか? えーっと、いいんですか? 飛電インテリジェンスの技術を私にいじらせちゃって……!」
申し訳なさそうな言葉とは裏腹に初春の目は学園都市の最先端技術に触れられるという喜びに満ち溢れていた。そんな初春に「構わないよ。よろしく頼む」というとすぐにデスクに座って新たな機材に興味津々な様子でキーボードを操作していた。
「ああなった初春は岩石のように動きませんの……それじゃあ私はもう少し滅亡迅雷.netについて調査してみますわ。お二人はこの後、どうなさりますの?」
「俺は初春ちゃんのサポート……って言いたいところだけど、1人で大丈夫そうか。それじゃ俺は一旦会社に戻るよ」
そう言って玄関から出て行った或人。残された佐天はしばらく一七七支部の客室で自前のMP3プレーヤーで音楽を聴いていたが、やがて退屈になりその場を後にした。
「あーあ。みんな事件の捜査で忙しいみたいだし暇だなぁ……御坂さんでも誘ってゲームセンターに行こうかな」
そんなことを呟く佐天はみんながこの街の為に頑張ってるのに自分だけ遊んでていいのだろうかと思っていると、ふとあることを思いつく。違法ROMが取り引きされていそうな怪しい場所を調査して、初春達に報告することならレベル0の自分でもできるんじゃないかと。
「別に危ない橋を渡るわけじゃないし……大丈夫だよ、ね?」
きっと大丈夫、何も起こらない。そう自分に言い聞かせて佐天は学園都市の路地裏を捜査し始めた。基本的に学園都市の路地裏はスキルアウトと呼ばれる不良集団が屯しているのだが、佐天は幸運なことにスキルアウトに遭遇せずあらゆる場所を見て回ることができた。しかし、取り引き現場を抑えることはできず、佐天は諦めて帰ろうとしていた時のことだった。表通りに出る帰り道でスキルアウトが1人の青年に暴力を振るっている現場を目撃してしまったのだ。
「や、やっぱ変な気起こすんじゃなかった……これじゃあ帰りたくても帰れないじゃない……」
帰り道は一方通行。必ず来た道と同じ道をたどらなくてはならない。しかし、その道中にはスキルアウトがいる。佐天はどうしたらいいかと思考を巡らせていると背後から突如、気配を感じて振り向いた。するとそこには柄の悪い大柄の男が1人、佐天を見下ろしていた。
「ガキがこんな所で何してんのかなぁ〜?」
「あ、あはは……何、してるんでしょうね?」
苦笑いでごまかす佐天。そしてとっさに走って逃げようとするが、後ろから髪を掴まれて佐天は後方へと転ばされる。そしてそのまま地面をひきづられて帰り道で青年に暴力を振るっていたスキルアウト達の元へと連れて行かれた。
それから佐天と青年はスキルアウトの前で正座させられていた。スキルアウトは金が目的ではないのか2人の財布などの金品には一切触れずニタニタと笑っていた。
「さぁ〜て。雌ガキと眼鏡のガキが一匹ずつ……どう料理してやるかなぁ」
この言葉を聞いてこれから自分がどうなるかを想像した佐天は自然と瞳から涙が溢れてきていた。しかしそれはより一層、スキルアウト達を喜ばせるだけであり、状況を悪化させるだけに過ぎなかった。
「そんじゃあよ〜、どっちのガキが最初に弱音吐いて命乞いするかいたぶってみようぜ? 俺達の上がった能力を使ってよ」
その言葉と共に1人のスキルアウトが掌から小さな炎を発生させる。そしてゆっくりとその炎を灯した手が佐天の顔へと伸びていく。その最中、佐天は必死にこう願った「誰か助けて」と。そう思いながらも、もうダメだと目を瞑った佐天。
しかしいつまで経っても痛みはやってこなかった。佐天はゆっくりと目を開くとそこには鼻血を流しながら地面に倒れている先程のスキルアウトの姿があった。
「……ったく。道に迷ってイライラしてるってのに、さらに追い討ちかけるように胸糞悪いもん見せやがって。お前ら全員、地面に這いつくばる覚悟はできてんだろうな?」
目の前にいるスキルアウトと全く変わらない荒々しいトーンで喋る、ニット帽を深く被った青年が倒れているスキルアウトを踏み付けて立っていた。周りのスキルアウト達はニット帽の青年を見て怯えている様子だった。そんなスキルアウト達を青年がひと睨みすると、情けない声を上げて一斉に散らばって逃げて行った。目の前のニット帽が特徴的な青年は一体何者なのかと佐天が見つめていると、青年は佐天の視線に気がついたのか佐天の方を振り向いた。
「おい、ガキ。ここはお前みたいな奴が来る場所じゃねぇ……さっさとそこの伸びてる奴を連れて帰れ」
ニット帽の青年はそれだけ言うとその場を立ち去ろうとする。そんな後ろ姿を見て佐天は思わず「あの、名前は!?」などと下手なことを聞いてしまった。すると青年はこれまた下手に名乗る程のものじゃないとは言わずに、ハッキリと自分の名前を答えた。
「雷電幸助だ……じゃあな」
学園都市の路地裏……闇に消えていく青年。後にそこには学園都市の警備員アンチスキルがやって来て倒れているスキルアウト達を連行して行った。そして佐天は無茶で軽装な行動をしてしまったことを初春と黒子に目一杯、怒られるのだった。
オリキャラが登場しました! 名前を見たらもうオリキャラがどうなるか察しのいい方ならわかりますよね!?