とある科学の電閃飛蝗《ライジングホッパー》   作:フォックス少佐

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今回は少々短くなっております。独自設定、爆発します。


第四話 新任教師は仮面ライダー【前編】

学園都市第二学区。そこは風紀委員と同様に学園都市の治安を守る組織、警備員――アンチスキルの訓練場がある学区でその周りは防音壁に覆われている。そんなアンチスキルの訓練場の一角にある、射撃訓練所。そこには数10メートル離れた的を拳銃で狙いを定めている男の姿があった。その男はグリップを握り、全身に力を入れるとトリガーを何度も引いた。すると発射された弾丸は的の真ん中を見事に全て打ち抜いた。

 

「……少々誤差はあるが、今はこんなもんか」

 

彼はアンチスキルの中でも随一の射撃テクニックを持っている。しかしそれを鼻に掛ける訳でもなく、まだまだ自分の実力に納得いっていないようだった。

 

「相変わらず射撃の腕は冴えてるみたいじゃん、不破」

 

「先輩。こんなのまだまだだ……ですよ」

 

防音ヘッドホンを取り外して一息ついている不破の前に現れたのはアンチスキルの先輩である黄泉川愛穂。アンチスキルの上層部でも持て余している問題児の不破が唯一、先輩と呼んで認めている女性だ。

 

「それで、何のようですか先輩。用事がないなら俺はジムでトレーニングしなくちゃならないので行きますよ」

 

「まあ待つじゃんよ。用事ならあるじゃん。これ、やってみる気はないか?」

 

そう言って黄泉川は1枚の紙を取り出して不破に手渡した。そこには【柵川中学校、新任教師推薦状】と書かれていた。

 

「新任教師……まさか教師になれって言うわけじゃないでしょうね?」

 

「そのまさかじゃん。お前、アンチスキル以外の仕事は何してるじゃんよ」

 

そう聞かれて不破は黙り込んだ。何故なら不破はアンチスキルの仕事一筋で今までやって来ており、それ以外は持ち前の不器用さ故に何の仕事もまるで手につかなかった。

 

「子供達を守るアンチスキルが無職なんて示しがつかないじゃん。だからこの仕事、受けるじゃん」

 

「お断りし「拒否権はない」……ちっ、はい」

 

どんな奴を前にしても態度を変えるつもりはない不破だが、黄泉川の前では頭が上がらない不破だった。いったい不破と黄泉川の間に何があったのか、それは2人だけが知る秘密である。

 

 

 

 

第七学区に位置する柵川中学校の1年生の教室では佐天と初春がホームルーム前に何気ない会話を交わしていた。

 

「そういえば聞いた初春。今日から新任の先生が私達のクラスの担任になるらしいよ」

 

「へぇー、そうなんですね。優しい先生だったら良いですね〜」

 

「いや、それがさアケミ達が職員室の前で先生を見たらしいんだけど、どうやら元スキルアウトの強面な先生らしいんだよね」

 

「えぇ。何だか怖いですね……見た目は怖くても中身が優しければ良いんですけど……」

 

そんな会話をしていると教室の扉がゆっくりと開く。そこからまるで人を殺して来た後なんじゃないかと思える程、目つきの悪い男が入ってきて教卓の前に立った。

 

「こ、怖っ! 本当に元スキルアウトみたいじゃん!」

 

「ほ、本当です……でも、人を外見で判断するのはいけませんよ。内面はああ見えて普通の先生ですよ、きっと」

 

2人が小声で話していると新任教師は咳払いをした後、自己紹介を始めた。その自己紹介は淡々としたもので自身の名前や年齢など、要点だけしか情報がない淡白なものだった。

 

「――と言う訳でこれから1年間、よろしく頼む」

 

こうしてホームルームが終わると授業が開始し、何事もなく時刻は過ぎて放課後になった。せっかく新任教師が来ると聞いて少しだけ楽しみにしていた佐天はつまらなそうにして下校して行った。その頃、初春は帰る前に少しだけ風紀委員の仕事の資料をノートPCで纏めておこうと教室で作業をしていた。

 

キーボードを叩く音だけが鳴り響き数時間後、教室の扉が開き不破が顔を出した。どうやら教室にまだ生徒が残っていないか見回りに来た様子だった。

 

「もうとっくに下校時間は過ぎている筈だが何をしてる?」

 

「えっ。ああ、すみません……風紀委員の仕事で最近起きたヒューマギア事件の資料を纏めてたんです」

 

「ヒューマギア……? ちょっと見せろ」

 

「あっ、ダメですよ! これは風紀委員の機密事項で「問題ない。俺はアンチスキルだ」えっ?」

 

パソコンを急に取られてあたふたする初春だったが、不破がアンチスキルだと聞いて驚いた。それは彼が学園都市の治安を守るアンチスキルと言うにはあまりにも、底の知れない黒い何かを秘めた怖い瞳をしているからだ。

 

「やはり最近起こっている一連の事件はヒューマギアによる仕業か……やはりヒューマギアは人類の敵だ……!」

 

「あ、あの……不破先生、そろそろ返していただけませんか?」

 

「……ああ、すまない」

 

不破から放たれる剥き出しになった怒りの感情を察知した初春が恐る恐る声をかけると、先程までの息が詰まるような圧力はふっと消えた。

 

「もうこんな時間だ。俺が寮まで送ってやる。ついて来い」

 

「は、はい。ありがとうございます……」

 

外はすっかり日が暮れている。このまま初春を1人で寮に返して何かあったらいけないと思った不破は学校の駐車場に止めた自身の車に初春を乗せると柵川中学校の寮へと向かった。

 

車内の2人はずっと無言であり、気まずい空気が流れていた。そんな空気を変えようと初春が口を開く。

 

「あの、先程ヒューマギアの資料を見ていた時、怖い顔してましたけど……ヒューマギアに恨みか何かあるんでしょうか……?」

 

「…………」

 

その質問に不破は答えない。

 

「あっ、話したくないならいいんです! 無神経に聞いちゃってごめんなさい……」

 

そう言って初春が申し訳なさそうに謝ると不破は深い溜息を吐いた。そして次に口を開き、初春の質問に答えるのだった。

 

「……デイブレイクという言葉を知ってるか?」

 

「デイブレイク……?」

 

その単語に初春は聞き覚えはなかった。何かの事件の名称であることはなんとなくわかったが、その詳細まではわからない。

 

「この街は第一学区から第二三学区までの区画がある。だが、それだけじゃない……学園都市にはその存在ごと消えた区画があるんだ」

 

「そ、そんなの初耳です……」

 

「そうだろうな。事件が起きたのは15年前のことだ。それにその学区周辺は封鎖されていて、その面影すら見ることはできん」

 

何気ない会話が壮大な話になって来ていることに初春はごくりと唾を飲んだ。初春は何と言葉を返したらいいか分からずに困惑していると、不破は次々とデイブレイクに関する話を始めた。

 

デイブレイクとは15年前、学園都市から消えた、第二四学区で起こった爆破事故であり、その原因はヒューマギア開発工場の整備ミスによって引き起こされたとされている。と不破は話した。にわかにも信じられない話だが、不破は冗談を言う人柄ではないと判断していた初春はその話を真面目に聞いていた。

 

「――だがそれは表向きの話、あの事件は整備ミスなんかで起こった訳じゃない……!」

 

「それってどういう……?」

 

「……暴走したヒューマギアの反乱による大量殺戮。それによってあの爆破事故は引き起こされ――」

 

不破が言葉を言い終えようとした瞬間、鼓膜を破るような爆発音が鳴ると車は宙を舞った。そして勢いよく地面に衝突すると不破と初春は鈍い痛みと共に意識を失ってしまうのだった。

 

 

 

 

宙を舞って地面へと衝突した車は酷い有様で中にいる2人はもう助からないであろう。そんな大破した車をビルの屋上から眺める女性の影が3つ。

 

「うひゃ〜。随分と飛んだわね。これもう死んだんじゃない、麦野」

 

「それならそれで好都合。こいつをわざわざ起動する手間が省けていいじゃない」

 

「私は超気になってたので残念です。このヒューマギア――暗殺ちゃんが」

 

→次回 第五話 【新任教師は仮面ライダー 後編】




原作よりも結構早々にアイテムのメンバーが登場。好きなんですよね、アイテム。そして何気に暗殺ちゃんが。

そして次回は諸事情により、挿絵が増量する可能性があります。

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