とある科学の電閃飛蝗《ライジングホッパー》   作:フォックス少佐

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第五話 新任教師は仮面ライダー【後編】

あの日の光景を鮮明に思い出す。

 

燃え盛る火の粉が辺り一面を燃やし、人々の恐怖に満ち溢れた悲鳴が耳にこびりついて離れない。その忌まわしい記憶は15年の時が経っても俺の心を締め付ける。今は失われた学園都市から消え失せた第二四学区、あの場所は俺の思い出、青春が詰まった大切な場所だった。だがそれは科学の発展の為に作られた悍しい機械人形によって全てが奪われ――

 

――俺の中に残ったのは怒りと言う名の憎悪。その感情を胸に俺はこれまで生きてきたのだ。

 

「――っ! ……ここは?」

 

酷く頭痛がする頭を右手で押さえながら辺りを見回す。すると乱雑に捨てられたゴミの山とビール缶、滲みだらけの天井と壁が広がっていた。どうやらここは誰かの部屋の中のようだ。

 

「よ、よかったです! 目が覚めたんですね!」

 

急に甲高い子供のような声が聞こきたと思うと目の前にとても心配そうな表情でこちらを見る桃色の髪をした幼女の姿が現れた。この散らかりきった部屋に似つかわしくない幼女の登場に、俺はまだ夢を見ているのかと思ったが全身の所々から感じる鈍い痛みでこれは現実だと言う事がひしひしと伝わる。

 

「私は貴方と同じ学園都市の教師、月詠小萌です」

 

「あんたが教師……それより何故俺が教師だと言うことがわかる?」

 

「申し訳ないですけど、身元がわからなかったので免許証を拝見させていただいたのです。そちらで寝ているその子も一緒に確認させていただきました」

 

目の前の幼女が視線を向けた先を見るとそこには頭に包帯を巻いて寝ている初春の姿があった。寝息を立てて寝ているところを見るからにどうやら無事のようだ。教師として就任して早々、生徒を危険な目に合わせて死なせるなんて忌まわしい記憶を増やさずに済んだと俺はほっとする。

 

「本当なら病院に搬送するべきなのですけど、何故か電話が繋がらなくてですね……幸い命に関わる怪我はなかったので先生が応急処置をしたんです」

 

「……恩にきる」

 

本来ならあんな横転の仕方をしたら中にいる人間はひとたまりもないのだが、俺の車はアンチスキルの技術をふんだんに使った特別車両で外装は銃弾を弾き、中には強い衝撃を吸収する特別性のエアバッグが搭載されている。普段から何かと恨みを買いやすいアンチスキルという仕事柄、いつ襲われても大丈夫なように備えていたので今回は助かったと言ったところか。

 

「えーっと、先生は貴方達がどうして道端に倒れていたのか聞きたいんですが、いいです?」

 

本来なら自分が助けたのだから怪我をした原因を聞く権利はあるのだが、俺がアンチスキルと言うことを知って話せる内容なのかを悩み躊躇しているようだ。だが生憎、俺自身も何故、突然爆発が起きて車が横転したのか理由がわからない。しかし、心当たりがひとつだけ俺にはあった。

 

 デイブレイクがヒューマギアの反乱によって引き起こされたことを知っている数少ない人間の1人が俺だと言うことだ。それを知ったヒューマギアの製造会社である飛電インテリジェンスが何者かを俺に差し向けてこの事故を起こした。俺は心の中でそう結論付けた。

 

このことを話せば目の前の彼女を巻き込んでしまう。話す訳にはいかない。しかし、既に横の布団に眠る初春は俺の軽率な行動から巻き込んでしまった。だから是が非でも守らなくてはならない。

 

「悪いが話せない事情がある……すまない」

 

「……わかりました。なら先生は何も聞きません。それじゃあ不破先生はここで大人しく寝ているです。先生はご飯を作ってきますから」

 

彼女はそう言って台所に向かおうとするが俺はその手を掴んで静止させる。ここで飯などご馳走になっている場合ではない。追手は既に俺達が助かったことを知って追跡を開始しているかもしれない。だとしたら俺はこの場所から去らなくてはならない。これ以上、彼女達を巻き込む訳にはいかないからな。

 

そう思い痛みの走る全身に鞭打って立ち上がろうとするが、痛みに負けて膝をつきそうになる。だが1分1秒も無駄にしている時間はないと無理やり立ち上がる。

 

「あわわ! 寝てなきゃダメですよ! 不破先生は隣に寝ている彼女よりもずっと重症です! 傷口が開いちゃいます!」

 

「構わん! 俺はここを出て行く……その子のことはすまないが頼む」

 

後ろで必死に俺を止めようと声を掛ける彼女を無視して俺はアパートの部屋から出る。そして俺の所属している部隊の拠点がある学区へと歩き出した。追手はどこまでも自分を追跡してくるだろう。なら、武器を調達して奴等を返り討ちにするまでだ。

 

 

 

 

痛みに耐えて歩くこと数十分。何とか拠点に着いた俺はある物を探していた。それはアンチスキルに武器を提供している飛電インテリジェンスにも並ぶ大手企業の会社、ZAIAが作った新兵器であるライダーシステムなるものが搭載されたショットライザーと呼ばれる銃だ。あれを使えば無能力者でも能力者と対等かそれ以上に戦えるらしい。追手はおそらく能力者だ。だとしたら今の俺にショットライザーは必要不可欠なものだろう。

 

「これがショットライザー……なのか?」

 

そして拠点の中を探し回ってようやくそれらしき物を見つける。ガラスケースの中にはシルバーのベルトと青を基調とした拳銃、そして狼のロゴが入った電子キーのような物が入っていた。これほど厳重に保管されているということはおそらくこれがショットライザーだろう。俺は横に並べてあるアサルトライフルを手に持つとそれをガラスケースに叩き付けて破ると、ショットライザーを手に取って懐に忍ばせ、シルバーのベルトを腰に巻いた。

 

後は何処で追手を待ち構えるかだ。できるだけ被害を出さない人気ない場所に向かうのが適切だろう。なら第一七学区に向かうとしよう。あそこなら他の学区に比べて人口が少ない故に無人で被害が出ない場所も多いだろう。

 

そう決めると俺は装甲車の鍵を調達するとそれに乗って目的地へと向かった。道中でショットライザーの近くにあったマニュアルを頭の中に叩き込みながら。すると不自然な程に何の障害もなく第一七学区のコンテナが山積みになっている今はあまり使われていない倉庫跡地に辿り着いた。

 

「ここまで来れば誰も巻き込まず存分に戦える……だが妙だ。こんなにも易々と辿り着けるとは……まるで誘い込まれた気分だぜ……」

 

その時、俺の全身を何とも言えない妙な嫌悪感が走った。もしかしたら俺はここに自らの意思でやって来たつもりでいたが本当は人気ない場所にわざわざ誘導されたのではないだろうか……と。誰にも助けを呼べず、殺されたとしても簡単に誰の目にも触れず処理されてしまいこの場所に。

 

「ぴんぽーん、正解! ご褒美に脳天風穴開けてやんよ!」

 

「っ!?」

 

急に女性の声がした瞬間、俺は体を後方に逸らした。すると閃光が俺の太腿をかすめて地面を抉った。これは何かの能力かと考える間もなく次々と閃光は俺を襲ってくる。それを何とかアンチスキルで培った身体能力を駆使して避けていく。そして閃光が飛んでくる位置を探った俺はショットライザーを懐から取り出し構えた。

 

その瞬間、俺の瞳に映ったのは信じたくない光景だった。緑色に光る球体の中心に立つ不気味な笑みを浮かべる女。その腕の中には今頃、小萌先生の家で寝ている筈の初春がいたのだから。

 

「っ! その子はデイブレイクと何の関係もないだろ! 離せ! 」

 

「その口振りだと私達がアンタを狙ってる理由はご存知って訳ね。なら話が早いわ……この子の頭を無残に私の能力で溶かされたくなかったら抵抗はやめて大人しく死になさい」

 

「そこまでしてデイブレイクの真実を隠蔽したいってことか……テメェら!!」

 

「はぁ? 別に私達は依頼されたからやってるだけでそんなことに興味ないわよ」

 

そう吐き捨てる女に怒りを覚えながらも従うしか選択肢のない俺はショットライザーを地面に落とす。すると再び緑色の閃光が走ったと思うと俺の左足を僅かに削り取った。

 

「不破先生……!」

 

「あはは! そうだ、良いこと思いついたわ。フレンダ! さっさとあのおもちゃを起動しなさい!」

 

「了解! 暗殺ちゃん起動って訳よ!」

 

その声と共にヒューマギアの起動音が聞こえてくると暗闇から赤い眼を光らせて、こちらに向かってくる人影が現れる。そいつは黒いスーツを着て腰に禍々しいベルトを巻いたヒューマギアだった。

 

「暗殺暗殺! お仕事開始ー!」

 

そして懐から自分の持っている物にとてもよく似ている電子キーのような物を取り出すと、ベルトのバックルに装填した。

 

《ドードー! ゼツメライズ!》

 

するとヒューマギアの外装が剥がれて口から数え切れない程の配線が剥き出しになっていくと、それが全身を包み込んで装甲を生成。ヒューマギアの姿は一変して化け物へと変貌する。

 

「なっ! ヒューマギアが怪物になっただと!?」

 

「良いね良いね面白いわ! さっさとそいつを殺しな!」

 

女がそう指示を出すと怪物は俺へと向かって襲いかかって来た。両手には大刀を持っており、それを巧みに操って俺の命を狙ってくる。しかし、俺も負けじとその攻撃を紙一重で避けるが初春が相手の手の内にある以上、手出しができない。

 

「不破先生……私に構わず、攻撃を……!」

 

「あ? 誰が喋って良いって言ったのよ」

 

女は初春を地面に押し倒すとその足で包帯を巻いている腕を踏みつけた。しかし、初春は声ひとつ上げずにじっと耐えている。それが自分は心配いらないから戦ってくれ。そう言っているように俺は思えた。まだ中学生の少女が恐怖と激痛に耐えて声を押し殺し、風紀委員という自分の使命を全うしようとしている。

 

「……面白くないわね! もっと面白おかしく泣喚きなさいよ! ほらっほらっ! あははは!」

 

「うっ……! くっ……!」

 

その覚悟を汚らしい足で笑いながら踏みにじる女。その姿を目の当たりにした俺の怒りはとうとう――

 

――限界を超えた。

 

俺は怒号を上げて拳を握りしめると目の前の怪物にその拳を振るった。すると怪物は少し怯むだけで、俺の拳からはそれに見合わない程の痛みと血が滲んでいた。しかし、そんなこと構うものか。俺は何度もその血と痛みに塗れた拳を怪物に振るった。やがて怪物は大きく怯むと、その隙をついて俺は地面に転がったショットライザーを拾って、怪物の胴体を撃ち抜く。

 

「ははっ、あんた馬鹿ね。ただの人間がその怪物に勝てると思ってるの? 所詮アンタはここで死ぬ運命なのよ」

 

女は初春の腕を踏みつけながら俺を見下すように笑っている。目の前の怪物に勝てる訳がないと、そう高を括って。だがそんなことは知ったことではない。

 

俺は懐から電子キーを取り出すとそれを開閉しようとする。しかし電子キーにはロックが掛かっているようでびくともしない。だがここで終わる訳にはいかない。全身の力を全て振り絞ってロックを無理やりこじ開けようとする。

 

俺が目の前の怪物を倒せない。初春を救うことができない。人の覚悟を踏みにじって笑うあの女の鼻っ柱をへし折ることなど到底できない。

誰がそんなこと決め付けた? それを決めるのは誰でもない俺だ。俺自身だ。俺の邪魔をする奴は誰であろうとぶっ潰す――

 

「黙れ――俺がルールだぁぁぁぁっ!!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

その怒りと共に力を込めると電子キーのロックが壊れて開く。そして電子キーをショットライザーに装填するとその引き金を引いた。

 

《Kamen Rider...Kamen Rider...》

 

「変身」

 

《ショットライズ》

 

放たれた銃弾は生きているかのような流動的な動きで飛んでいくと怪物を打ち抜き、そして初春を足蹴にする女に飛んで行った。女は舌打ちをするとそれを避ける。その初春から離れた瞬間を狙って走り出すと、今度は銃弾が俺の方に向かって飛んできた。だがそんなことお構いなしに初春を抱えると、俺は右の拳で銃弾を殴りつける。

 

《シューティングウルフ!》

 

【"The elevation increases as the bullet is fired."】

 

 

【挿絵表示】

 

 

銃弾は弾けて装甲に変わると俺の体に装着されていく。そして完全に全身へと装甲が装着されると俺はマニュアルに書いてあった仮面ライダーバルカンへと変身を遂げた。

 

「ちっ、こんなの聞いてないわ。これじゃあ報酬の割に合わないわね」

 

「ど、どうする麦野?」

 

「変身するなんて想定外だし、契約の内に入ってない。だから戦っても無駄、行くわよフレンダ」

 

「了解〜!」

 

女2人はごちゃごちゃと何か話した後、その場を去ろうとする。俺はそれを止めようと銃を構えるが、再び怪物が襲いかかってきて標準が定まらない。とにかく今は目の前の怪物をどうにかしなくてはならないと判断した俺は銃撃と蹴り技を巧みに使って怪物を追い詰める。

 

「この力……これならどんな奴が相手でも負ける気がしないぜ……!」

 

そのまま力に任せて攻撃を加えていくと怪物は耐えかねたようでその場に跪いた。そして俺はショットライザーに装填された電子キーのボタンを押すと《バレット!》と言う電子音が鳴り、銃口にエネルギーが充填されていく。

 

《シューティングブラスト!》

 

そして引き金を引くと銃口から青いオオカミ型のエネルギー弾が放たれ怪物の四肢を拘束する。そしてもう一度、引き金を引いて一気に充填されたエネルギーを発射した。そのエネルギー弾は怪物を貫通すると、背にしたコンテナをいくつも貫いていきやがて闇夜に浮かぶ月へと消えていった。

 

「……はぁ! くっ……流石に手負いで無茶をしすぎたか」

 

変身を解除すると一気に疲労感と全身の痛みが襲いかかってくる。だがそれを堪えて立ち上がると気を失いかけている初春を抱きかかえる。

 

「すまなかった……こんなことに巻き込んでしまって……」

 

「……いいんです。だって風紀委員がアンチスキルに協力するのは当然のことじゃないですか。だから今度は私が困った時、助けてくださいね……不破先生」

 

そう言って初春は俺の腕の中で意識を失ってしまった。おそらくだがこれからも俺は命を狙われることがあるだろう。それによって周りの人間を危険な目に合わせてしまうかもしれない。だとしたら、俺はもっと強く、誰よりも強くなって守れるようにならなくてはいけない。

 

それが教師であり、仮面ライダーとなった俺の責任だ。

 

 

 

第一七学区から少し離れた場所で先程、不破諫と交戦していた女達の姿があった。その中のリーダーである麦野と呼ばれている女は携帯を耳に当てて機嫌の悪そうな表情をしている。

 

「おい、奴が変身するなんて聞いてないぞ。契約外の事態だ。報酬は手数料として貰うけど任務の続行は御免被るわよ」

 

「それはこちらの責任、まさかアイツが電子ロックを力任せに破るとは想定していなかった」

 

「……それで、アンタはこれからどうする訳? 自らアイツを殺しに行くのかしら?」

 

「その必要はない。今回の一件でわかったが、私が手を下さなくても時期に奴は自らの怒りでその身を滅ぼす……私はそろそろ次のステップに移る」

 

そう言って電話はぷつんと途絶えた。残された麦野達は帰りにファミレスでも寄るか、などと他愛のない話をしながら消えていった。

 

→次回 第六話 【未知の遭遇、滅亡迅雷.net】




しばらく書き溜め、と言いますか仮面ライダーゼロワン本編の物語がある程度進むまで次の更新はお待ちいただければと思います。

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