We can work it out   作:vitae

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Hello goodbye

ここ数日は特に周りが騒がしかった。この地区でグリフィンが来る前は一番のマフィアだったボスが殺されたという話だった。そして、その組織がグリフィンと癒着していたことは、一部の人間なら誰でも知っていたことだった。

 

だが、と男は思う。ここまで必死にグリフィンが犯人を追うようでは、マフィアとグリフィンが癒着していたことを暗に告げているようではないか──。だが、いくら民衆が察しても、力づくで黙らせることは容易だろう。今はそれよりもグリフィンの資金源を断とうとしている犯人探しに必死らしい。

 

「しばらくは外には出れないな……」

 

そう男は呟いた。極力顔もフードで隠していたが、それにも限界はある。今の人形は全員、自分の顔が指名手配犯としてインプットされていることだろう。それにこの目立ちすぎる髪と目が問題だ。

 

数日前に45に言ったグリフィンの指揮官になるという話は無理だろうな、男は嘯く。冗談のつもりだったが、心のどこかでは指揮官になってもいいという気持ちもあったが、ここまで敵対していたらさすがに不可能だろう。

 

とりあえずアポステルは鉄血工造に行く必要があった。だが多勢に無勢だ。指揮官になって戦術人形を指揮しながら裏で色々するのが一番確実ではあったのだが。

 

だが、直感から確信する。自分ひとりでも鉄血まで乗り込んで死なない確信があった。根拠がない自信ではあるが、この感覚が外れたことはない。そう、全てはあの自殺から、歯車は回し始めていた。

 

 

 

彼はあの日、たしかに死んだはずだった。首に紐を掛けて、頸部が圧迫されて呼吸と血液の循環が阻害され、死に至る、縊死。だが、今思えば自分の出生に関して自分でも不思議なところがあった。自分は両親の顔や名前を、一切知らなかった。この毎日の食料すら厳しい今なら子供を捨てることも日常だが、当時は孤児という存在が極めてレアケースだった。ではなぜ?確かに一度は自分も考えたことはあったが、いくら考えても答えが出ることはなかった。そのようなことを考えていると、遠くから足音が2つ聞こえてくる。素早くアサルトライフルを構え、迎撃体制を取った。

 

 

ここ最近の麻薬カルテルやマフィアのボスなどの裏の大物だけを狙った連続殺人事件。グリフィンはこれを市民の安全を脅かしえる重大な出来事だと認定。僅かな情報から犯人を顔を特定し、数日前より大規模な人海戦術が取られた。他地区との協力により、犯人はこの地区から逃走していないことが判明したため、現在ほとんどの戦術人形を使用して全ての空き家を虱潰しにしていた。

 

「はぁー。めんどくさいなーこんなことやってて本当に見つかるのかなー?」

 

「しょうがないでしょ。これも任務なんだから。今日はあの家で終わりなんだし、頑張りましょ」

 

「帰ったら絶対文句言ってやるぞー」

 

そう言うと二人の少女が歩いていた。一人はスコーピオン、もうひとりはステンと呼ばれる戦術人形だった。

今グリフィンにいる戦術人形は最低限の地区本部の護衛のほかはほとんど全員この捜索のために出払っていた。それほど重要なことなのだろうか。一部の人形は訝しんでいたが、特に指揮官に訊ねることはなかった。訊ねてもはぐらかされるのは目に見えていたからだ。その空き家と思われる家に近づくとスコーピオンがノックした。

 

「誰かいますかー?」

 

だが、返事はない。スコーピオンがお邪魔しまーすと中に入ろうとしたが、その言葉が最後まで紡ぎ出されることはなかった。彼女たち高度な演算能力を持つAIが認識すら出来ない速度での速射。二人、特にステンは最後までなぜ自分が活動を停止したのかすら認識できなかっただろう。その銃弾は確かに二人の脳天、コアを貫いていた。人間と違い戦術人形はコアが破壊されたら即座に活動を停止する。二人はそのまま石像のように直立のまま地面に斃れた。男はそのまま中に戻り、バックパックを背負うとその場を去っていった。

 

 

「何?ステンとスコーピオンが撃たれたって?」

 

「はい、確かです」

 

そう言うと指揮官と呼ばれる人間と副官が指揮官室で会話を交わしていた。赤と黒を基調としたグリフィンの制服はそれだけでこの世界での地位を約束されたようなものだった。

 

「すぐにその場所に応援を送れ。犯人も遠くは行っていないはずだ。必ず探し出せ」

 

「かしこまりました」

 

そう言うと指揮官ははぁっ、とため息を漏らした。自分がグリフィンの指揮官に雇用されたのは、偶然だった。おそらく、戦時中は小隊長で、その指揮能力の高さを評価されたのだろうと思っていた。このご時世で、戦争の特需に預かっているのがPMCだ。そして、戦争がないと会社としてやっていけないのもまた、PMCだった。I.O.Pは戦争が終わったら民生人形を作ればいい。だが、グリフィンを含むPMCはそういうわけにはいかない。戦争を最も望む団体、それがPMCだった。

 

そして今回の上層部の任務は特別奇妙だった。一回この任務に何の意味があるのですかと聞きにいこうか迷ったが、門前払いされるだけなのはわかっていた。だが、それにしても一人の人間を追うためだけにほぼ全ての人形が出払っている。元々、人間と人形の間には圧倒的なポテンシャルの違いがある。人間がスーパーコンピューターに勝てないのと同じだ。しかし今回殺すように頼まれた男は自分でも知っていた。ここ数ヶ月裏の組織を壊滅させていた男だ。報告に上がっている。本当なら、治安を守ってくれたこの男に感謝するべきだろうが、事情が違った。グリフィンはこの破壊されたいくつもの組織と裏で取引を結んでいた。この地区である程度の行為を容認する代わりに、毎月一定の料金を支払えという、上納金だった。自分だってこのような汚いことをしたいわけではなかった。だが、自分の能力で、このふかふかのベッドで寝れる職業を彼は他に知らなかった。

 

そういうことで、グリフィンとしては彼を消すしか無い。グリフィンと癒着していた組織だけが消されていたわけではないから、必ずしも敵対するとは限らないが、それでも不穏分子は確実に消去すべし、が上層部の判断だった。そして先程、戦術人形が敗北したという知らせが入ってきた。確かに二人、特にスコーピオンは注意力が少し散漫だし、不意をつければ勝てるかもしれない。だが、その銃声に気付いたステンは即座にその音から座標を特定して戦闘モードに移行するだろう。そうしたら、人間が勝てる道は万に一つもない。

 

複数犯の線も一時は考えられたが、他の人間の影すら全く出てこないため、今ではその説を推すものは少ない。だが、スナイパーが二人同時に人形の頭を狙撃すれば、このような状況は可能と言えた。だが、そうなると今までの犯行は一人で今回だけは二人ということなのだろうか。なぜ今までの犯行には協力しなかったのだろうか。

 

「クソッ……」

 

考えても埒が明かない。だが、いずれにせよ、遠くへは行けないはずだ。他の地区の境界線は常に警備が厳重なので抜け出すこともできない。袋のネズミだ。相手が何者かなんて、後でいくらでも拷問すればいい。指揮官はそう自分を納得させ、人形の送ってくれているドローン越しにこれから追い詰められるであろう人間の様子を眺めていた。

 

 

 

アポステルは鉄血の戦闘区域の方に向かっていった。なかなかハードな行軍だった。荷物には武器類の他にレーション類やその他色々入っており、5kgはあるだろう。それに、いつグリフィンの部隊が自分に追いつくかわからないという、逃亡者特有のストレスも感じていた。

 

そして一休み休憩しようとしたところで、僅かな音が前方から響いたのをアポステルは見逃さなかった。即座に胸から拳銃を引き抜く。そこにいたのは404小隊だった。

 

「ついに俺を消しに来たのか」

 

「うん、上層部の命令だとね、そういうことになってるよ」

 

「で、本当は?」

 

「アポステルに付いていくに決まってるじゃん」

 

「いいのか、他のやつは、裏切り者だぞ」

 

アポステルは他の3人に訊ねた。常に45についていきそうなUMP9と常にだるそうなG11はともかく、416が抜け出すのは意外だった。

 

「家族についてくのは当然だよ!」

 

「はぁ……45と戦うのはだるい……からね……」

 

「どうせこうなることは薄々わかってたわよ。だけど、あなた言ったよね。生きる意味を見つけるまでは生きているとは言えないって。あなたの言う意味のわからない哲学にはウンザリだったけど、仕方ないから一緒に考えてあげるわ」

 

404小隊は各々の理由で語ってくれた。アポステルは胸が熱くなるのを感じていた。

 

「んで、とりあえずどうすんのよ、もうグリフィンの大群がこっちに近づいてるわ。このままだと1時間以内に確実に交戦するわね。そうなったら多勢に無勢よ」

 

「鉄血と交渉する」

 

「……は?」

 

45以外は全員驚愕していた。あのG11でさえ、目を見開いていた。鉄血が捕虜を取ったなんて話聞いたこと無いし、捕まれば拷問か皆殺しだった。会話の余地すら無いように思えた。

 

「問題ない。鉄血の無線は把握している。行くぞ」

 

「ちょ、行くよじゃないわよ。ちゃんと説明しなさい」

 

「説明してる暇がない」

 

「はぁ……わかったわよ、死なばもろともってやつね」

 

416は何かを諦めたかのように歩き出した。あの男は全てにおいて謎だった。彼は確かに人間だ。そう自分の頭の中では結論が出ている。だが、どこか納得がいかなかった。いくら今の人形が人間と造形の面で似ているからと言って、全く区別がつかないわけではない。人間と人形の見分けがつかなかったら人間を傷つけられないセーフティの意味が無くなる。だから人間はともかく人形は僅かな人間と生体部品の差から人間と人形の違いが絶対にわかるようになっている。

 

つまり、あの男は人間だ。それは確かなのだが、時々妙な発言をするし、常に超人離れしているせいか人間にはどうしても思えない。あまりにも強すぎる人間を、自分が受け入れられないだけなのかもしれないが……。416は行軍しながらずっと、そのようなことを考えていた。

 

 

 

 

「何?通信ネットワークに侵入された?」

 

「うん、たしからしいよ。イントゥルーダーが言ってた」

 

グリフィンとは異なり、赤と黒を基調とした司令部で古風のメイド服に身を包んだ人形と、低身長でツインテールの人形が顔を合わせていた。

 

「おかしいですね。この通信チャンネルは緊急用に作られたエリザ様とわたくしだけの緊急のチャンネル。それがハッキングされた……?」

 

「よくわからないけど、たしかに伝えたからね」

 

そういうとまだ幼さが残る声で少女は去っていった。

 

一人になったメイドの人形──エージェントは訝しながらも、緊急チャンネルを開いた。このチャンネルはエージェントとエリザしか知らない。情報戦に長けたイントゥルーダーですらも、今回のハッキングで初めて存在を知ったぐらいだった。回線を開くと、そこには録音された音量データがあった。迷わず内容を確認した。

 

「はじめまして。アポステルと言います。早速ですが本題に入らせていただきます。私、そして他の四人の戦術人形は現在、グリフィンを裏切って逃走中です。このままではグリフィンの追っ手に見つかって死ぬでしょう。ですが、我々はグリフィンの人形でも、特に裏の仕事を引き受けてきました。そちらの知りたい情報をたくさん知っています。そこで、取引をしたいのです。私達がグリフィンの情報をすべて話す代わりに、グリフィンから匿ってほしいのです。もちろん、断るのは勝手ですが、そうしたらグリフィンの拷問に耐えられなくて私がこの緊急チャンネルや他の私しか知り得ない膨大な極秘情報が漏れてしまうかもしれません。私は痛いのは苦手でしてね。では、良いご返事を期待しております。」

 

そう言うと、エージェントの元へ座標データが送られてきた。エージェントは顔を歪め、舌打ちをした。何もかもめちゃくちゃだ。エージェントは鉄血が企業としてまだ存在していた頃、最高のクオリティで作られた、当時の鉄血工造の技術の全てを使って作られたハイエンドモデルだった。その全ての能力はグリフィンの戦術人形の遥か上を行くと自負していた。無論、情報戦においてもイントゥルーダーの上を行っていた。

 

それが、この有様だった。自分に無許可で座標データを送れるということは、ウィルスも送れたということだ。もし相手に敵意があったら自分はコアのデータをぐちゃぐちゃに破壊されていたに違いない。だが、同時に疑問点も無数に湧いてきた。この明らかに規格外の相手がグリフィン程度に遅れを取るのだろうか。ここまで情報戦に優位だったら、グリフィン本部のデータなど覗き見し放題だろう。グリフィンの追っ手から撒くなど動作も無いように思えた。

 

だが、いずれにせよ、エージェントに選択肢はなかった。これは一見取引に思えるが、要は脅しだ。エージェントの顔が怒りに歪む。絶対に拷問して、グリフィン人形として生まれたのを後悔させてやる。エージェントはそう呟くと、とある部屋に向かった。

 

黒く無機質な部屋、そこにその少女はいた。

 

「エリザ様、我々の緊急チャンネルがハッキングされました。相手は情報戦において明らかに格上でしょう。相手の出方を見たいので、明日はわたくしが出ます」

 

そう言うと、何の感情も持たないように思われた少女が、少し驚いて話しかける。

 

「あのチャンネル……。あれは私の身に何かあった時に全ての指揮権をあなたに移すためのものだ。当然、ハッキング対策は全ての回線の中でも最高峰だ。あれが破られたということは、少なくとも私達では情報戦では絶対に勝てない」

 

「えぇ……。ですが奴らは交渉を持ちかけています。ほとんど、脅しですが。それで明日は出方を伺います。いくら情報戦では優位でも、直接の戦闘能力が、戦争においては全てですから」

 

「うん。でも、無理はしないで。」

 

「わかっております。では、失礼いたします。」

 

そう言うと、エージェントは恭しく礼をすると、部屋から退出していった。あの回線は、全鉄血ネットワークでは最重要の機密情報として、厳重なプロテクトがかかっていた。逆に言えば、あのチャンネルをハッキングできるということは、全ての鉄血のネットワークはいつでも侵入できるということだ。少なくともグリフィンにそのような能力を持つ戦術人形はいないはずだ。もしいるなら、とっくの前にこっちは情報系統をずたずたにされて敗北しているはずだ。聞けば、グリフィンから逃げてきている裏切り者らしい。経緯は聞かないとわからないが、おそらくこれは仕組まれたものだ。そのハッキング能力を使って、グリフィンの上層部から戦術人形に嘘の命令を仕込むことぐらい、造作もないはずだ。逆に、そのレベルのハッキング能力を持たないとこのチャンネルを探知するなど、不可能に近いからだ。

 

エリザは全鉄血人形に、明日の取引に訪れる者を丁重にもてなすように支持した。下手にこちらが動いて相手がなにかしてきたらまずい。そう判断したためだ。そして、これがエリザに与えられた他の全AIを指揮する能力。体系的に命令を瞬時に送れ、速度や利便性の面で圧倒的な汎用性を誇る。一見いい事ずくめに見えるが、エリザ自体が何らかの理由で異常が発生した場合、他の全鉄血AIも混乱するという致命的を欠点も抱えていた。もちろん、当時の鉄血工造の研究者たちもその弱点は理解しており、セーフティ装置には最新の注意を払っていた。最も、全ては無駄に終わってしまったが。

 

 

 

「まだ鉄血側に告げた取引時間まで時間があるな」

 

そう言うと5人は一時休憩をとった。指定した場所から程々近く、周囲も見張れるこの廃墟の屋上は絶好のスポットと言えた。

 

「眠い……もうずっと動いてるよお……」

 

「そんなに疲れてるなら、お前だけずっとここでお留守番するか?」

 

「じょ、冗談だよ冗談」

 

こんないつ追跡部隊に襲われるかもわからない状況で、呑気に会話をしているのをみて416が苦言を呈した。

 

「あんたたち余裕ね、さっきも追跡部隊に襲われたのに。随分とまあ呑気ね」

 

「ずっと緊張しっぱなしだったらいつか糸が切れる。本当に集中しないといけない時以外はリラックスしたほうが本番に集中できるってものだ」

 

「うん、うん」

 

G11が頷く。

 

「アンタは常にリラックスしすぎよっ」

 

あっと言う前に416は自分で大声を出しすぎたことを後悔した。隠密行動中に大声で何かを叫ぶなんて、自分もとうとう焼きが回って来たらしい。

 

「まあまあ、私はみんなでこうやって仲良く話してるの、好きだよ?」

 

「これが仲の良い会話ねぇ……」

 

45は周囲を警戒しながら、独り言をこぼす。だが、アポステルと同じように45も、この何の意味もない会話が好きだった。例え世界がいくら荒廃しようが、この日常だけは絶対に守り抜かなければならない。例え、世界を滅ぼしてでも。45は改めて決意した。だが、すぐに感情を切り替える。遠くで戦術人形がこちらに向かってくるのが見えた。もし、アポステルがあえてこの絶好の見張り位置になりえるここを,、休憩地点にする前提で取引場所を選んだとしたら、大したモノだと思った。と同時に、自分の彼ならやって当然という信頼感もあった。45が全員に目で合図すると全員望遠鏡で敵影を覗いた。暗視スコープ越しだが、はっきりわかる。数は小隊一つ。相手も狙撃を警戒して警戒しながら前へ進んでいる。

 

「あいつら、404小隊は全員アサルトライフルって知らないのかしら」

 

「アサルトライフルで狙撃してくるやばいのがいるからね、警戒に越したことはないよ」

 

そう言いながらアポステルの方を45はちらりと見つめてきた。

 

「狙撃しか出来ないようでは、敵に接近された時に困るだろう」

 

「そのために小隊は基本的に役割をきちんとさせてバランスを取っているのよ、アポステル」

 

「俺は基本一人だったからな。なんでも出来ないと生き残れなかった。戦術人形はやることが少なくて羨ましいね」

 

そう愚痴りながらアタッシュケースから分解したM16を取り出し、即座に組み立てる。そして地面に伏せ、射撃体勢を取った。

 

「連中、なかなかの練度だな。考え得る全ての狙撃地点を確認しながら慎重に進んでる」

 

「でも狙撃するんでしょ?」

 

「まあ見てろって」

 

そう言うとアポステルは5人分の動きと位置を確認する。その様子を見ていた45が呆れるように口にした。

 

「また、跳弾?」

 

「じゃないと狙撃は無理だ。奴らはかなり狙撃を警戒している。俺の情報がかなり知れているな」

 

「当たり前のように言うよね~。跳弾なんて、技術が格段に進歩した今でさえほとんど狙って当てるなんて不可能って言われてるのに」

 

「吾輩の辞書に不可能の文字はない」

 

アポステルが格言っぽく言うのをみて、45はくすっと笑った。

 

「まーた昔のお偉い人の言葉?」

 

「ナポレオン・ボナパルト。全盛期はヨーロッパ大陸の大半を勢力下に置いた指揮官だ。つまり俺の大先輩にあたるな」

 

「不可能が無いなんて、よく言い切れるね」

 

「どちらかというと、出来ないと思い込んで何もしないという卑怯者にはなりたくないっていうニュアンスじゃないかな」

 

「ふーん」

 

そう言うとアポステルがふぅーと息を吐いた。彼が、狙撃をする癖だった。そして、銃声が6回、辺りを響かせた。

 

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