繭とトガちゃんが戻ってきてから今後のことを話し合った
トガちゃんの個性については繭の血液を与えて訓練することとなった
俺も半異形型と言ってもいいのだろうが、『口』を動かすのは容易ではないし、俺は憑依した時からなんとなくで動かせていたから問題なかった
だがこれを一からやるとなると相当時間がかかる
なので繭のような異形型のほうがトガちゃんの成長に繋がると思った
明確に腕という当たり前のものを見ることができて、それを自分の体の一部だと認識しやすい
少なくとも俺よりは繭のほうがいいという結論となった
二人が何について話し合っていたかは定かではないが、まあ問題はないだろう
この日は繭の血液で個性の訓練をし、今後繭の血液を静岡まで送るということで話が付いた
今の世の中腐る前にいてのところに届くなんて容易だからな
便利な世の中になったものだ
「じゃあトガちゃん、繭から定期的に血を送ってもらうから誰にもバレない様に訓練して、通話でどのくらいの精度で変身、個性を使えるようになっているか確認するのとまた直接会いに来るから」
「わかりました!!繭ちゃんから聞きましたけど、トバ様もいろいろと頑張ってください!!私応援してます!後々、繭ちゃんも私のためにありがとうございます!!大切に使わせてもらいます」
「トガちゃん。私はあくまで吐喰君のために血をあげるんですからね。そこのところを勘違いしないことと、頑張ってください」
なんだか繭の言い方が固いというか何というか
仕方のないことだと割り切るしかないか
それじゃあまた今度と約束をし俺たちは帰路に着いた
そうしてまた訓練には実に日々を送っている。正直今の段階では間壁さんに善戦するのは難しい
だけど約束の時は来てしまった
間壁さんはヒーロースーツに身を包み、見知らぬ女性を伴ってやってきた
間壁さんから話を聞くと治癒系の個性を持っているということだった
つまりは間壁さんは俺に対して攻撃してくるということだ
身体に緊張感が走る
繭とその女性は訓練場の端で待機しててもらい、俺と間壁さんは10メートル離れたところで向き合っていた
「この一ヵ月でどこまで成長できたのかはわからないけど、ヒーローの先輩としてきついお灸を据えてあげるよ。僕のことは心配しなくていいから全力でかかってきなよ」
「俺がまだ子供だからって甘く見ていませんか。間壁さんが治癒系の個性の方を連れてきたということは、俺も全力でやらせていただきます」
「今からこのコインを上に投げる。それが地面に着いたら試合の開始だ」
「わかりました」
そうして間壁さんの手からコインがくるくると回転しながら宙を舞った。
神経を尖らせ、相手を見つめる
そしてコインが地面落ちた
俺は速攻でその場を離れ、亜空間に仕舞いこんでいた砂を空気と共に訓練場にはなった
案の定、試合開始時点の俺の場所は透明な壁のようなもので覆われていた
「僕の個性のことをよく調べているみたいだね。それに初動と僕がどこに壁を配置したかをわかるために砂埃を出したのもいい判断だ」
間壁さんは余裕といった声色でそう言った
「それはありがとうございますっ!」
砂埃のおかげで間壁さんの個性の位置を把握することはできたが、間壁さんがどこにいるかわからないので攻撃に転じれない。だがそれは間壁さんも同様だろう
しかしこの砂埃もいつまでも有効なわけではない
そこで俺は、最小の空気の射出で訓練場ぎりぎりを移動しながら、空気の玉、空気砲を全体的に打ち込んでいく
だが空気の通り道で見たものは、間壁さんは空間断裂で身を包み、試合開始時点から動いていなかった
想像できていたことだったが、これでは消耗戦に持ち込まれ確実に俺が負けてしまう
そこで俺は繭との試合で行った『口』を間壁さんの後ろに出現させ攻撃を行うことにした
確かに空間断裂は強い。だが自らの周りを囲うには少しの隙間ができてしまう。それに空気も必要だ
だからこれが今現時点で俺に切れるカードの一つ。切り札はまだ残してある
間壁さんの背後に口を出現させ、攻撃しようとした瞬間、間壁さんを覆っていた壁が消え、攻撃が外れてしまった
「ここまで個性を使いこなしているとは思わなかったよ。先輩、君のお父さんに話を聞いておいてよかった。遠くのものを取り込めるなら、遠くから攻撃できるかもって先輩が言っていたからね。それと視線でバレちゃうから注意が必要だよ」
本当に遊ばれている感覚だった。俺の考えていることがすべて見透かされ、手のひらで踊らされているようだった
悔しくてたまらない
それから動き回りながらの攻撃、遠隔操作した口での奇襲を行い続けたが、間壁さんには傷一つついていなかった
だから切り札を使うことにした
「すみません、間壁さん」
そういって俺は間壁さんを覆っている壁事、
亜空間に取り込んだ
少なくともこれで間壁さんは俺に手出しをできない
俺も手を出すことはできないが・・・
全く手が出なかった
均衡状態を保っているため引き分けといってもいいだろうが、実際は俺の負けだ
気を抜いたその瞬間、バキバキバキと音を立てて、空間が割れていく
まさかと思った。
あり得ない。あそこは亜空間、この世界のどこにも通じてない空間のはず。それにあそこに入った生き物は仮死状態のようになるはずだ
なのに、割れた空間から間壁さんは出てきた
「随分と思い切ったことをしたね。でも残念。個性の相性と君のミスが二つある。一つは空間断裂という僕の個性。空間に干渉できるんだから出てこれてもおかしくはないだろう。それにこれは君のお父さんの個性で何度か経験済みなんだ。二つ目は君の個性の亜空間をこの世のどことも繋がっていないと思っているようだけどそれも違う。ああ、これじゃ三つ目になっちゃうけど、僕を覆っていた個性ごと収納したのが一番のミスだね。あれじゃあ僕が収納されても、僕の個性が周りを覆っているから、意味がない。きっと今のが君の切り札だろう?まだ続けるかい?」
完璧に負けた
手も足も出なかった
だけどここじゃ終われない
無駄だとわかっていても同じ事をつづけた
「君も強情だね。だけどこれで終わりにしようか」
間壁さんがそう言った瞬間、右腕に違和感が走り、どさりと音が聞こえた
音の方を見るとそこにあったのは俺の腕だった
それは身体が瞬時に起こした反応だった。切られた腕の場所に口が移動し止血し、間壁さんから距離を取った
だがまた次の瞬間、今度は左腕が宙を舞い、後頭部に衝撃が走った
「すごい判断だったな。完璧に止血を行い僕から距離を取ったことは。でも、それじゃあだめだよ。僕の攻撃範囲と、空間の壁は動かせるんだ。そこをしっかりと把握しておかなくちゃね。でもやっぱり君は先輩の子供だ。最後まであきらめないその姿勢は素晴らしかったよ」
その言葉を聞いて俺は意識を失った
『やっぱり弱いなお前は』
『そうだね僕』