ここは、どこだ?
あれからどうなった?
濁流に飲み込まれたあとの記憶が無い
だが、この場所にはなんだか見覚えがあるような気がする・・・
あれは!?
前世の俺とおばあちゃん?
確か幼少の頃は踏切の近くに行って電車を見るのが好きだった
なんで好きだったかなんて覚えてないけど
よく手を繋いで連れて行ってもらってた
なんで忘れてたんだろう
一緒には暮らしてなかったけど、家が近くて良く面倒を見てもらってた
出かける時はいつも一緒だった
この頃は杖を着くことも無く、歩幅を合わせてニコニコしながらスーパーや踏切、近くの公園に行っていた
兄と姉もいたけど、歳が離れていたのと学校に通っていたため、夜寝るまではほとんど祖母といた
どうやら俺は俺自身の過去を見ているようだ
空間が歪んで場面が変わった
今度は俺が幼稚園に通っている光景だ
兄と姉も同じ幼稚園に通っていたようで、長く務めている先生は俺の事を知っているようだった
通っている地域では珍しい苗字で、3人目だから知っていてもおかしくはない
幼稚園ではごく普通の子供と言った感じだった
兄と姉はバスを使ってここに通っていたが、俺が通うようになってからは徒歩でも行ける距離のところに引っ越した
幼稚園での思い出は特にない
今見ている光景で、こんな遊具もあったな程度だ
どちらかと言うと引っ越したマンションでできた一つ下の友達との思い出の方が感慨深い
これは今でもしっかり覚えている
まぁ俺が中学に上がってから、関わりあいはほとんど無くなったが
また場面が変わった
今度は小学生になってからの日々のようだ
よく人をからかって怒られたり、宿題が面倒で答えを移してやっていた悪ガキだった
家では基本的に1人
兄弟とは歳が離れているためあまり遊ぶこともなかったし、関わるとすれば喧嘩ばかりだ
テレビが1台しかなかったため見たい番組で喧嘩なんてしょっちゅうだった
夜中、仕事から帰ってきた両親がすることと言えば喧嘩
怒鳴り声が響き渡って、怖くて怖くて布団に潜っていた
お金のせいで喧嘩していることは物心ついたときからわかっていた
そんな時、いきなり引っ越すことになった
いつの間にか離婚していたようだ
これも酷い話だ
何も知らないうちに家族が離れ離れ
果たして家族だったのか今も分からないけれど
経済力や、借金をしたのが父親だったため子供はみんな母親について行った
ここがきっと人生のターニングポイントだったのだろう
再婚はしていないが新しく父親ができた
内縁の夫のようなものだ
初めは戸惑うことばかり
家にいるのが苦痛で仕方なかった
だが子供3人を養うためには仕方の無いこととわかっていた
できる限り俺たち兄弟に、お金に困らないよう生活させるためだって言うのはわかっていた
新しい父親はどうもその日の機嫌次第の人のようで、暴力は振るわれなかったが精神的苦痛は毎日のようにあった
そこで俺が出会ったのがマンガやアニメ、小説だ
あそこは現実逃避するにはいい場所だった
だがそれも奪われる時すらあった
それもこれもお金のせいだ
だから安定した収入を得るための職を意識した
見ている光景にノイズが走る
これは心を壊す光景だ
だから、未だにセーフティがかかるのだろう
だけど記憶にはしっかり焼き付いている
筆舌し難い日々が、心が壊れる毎日が始まった
そんな時だ
死にたいと思ったのは
消えたい
ここから飛び降りたらどうなるのか
赤信号に飛び込んだら・・・
だけどそんな心の声に耳を塞いだ
それを周りにも隠した
自分が死んだ瞬間を想像する
それを見ないようにした
自分で作った傷を隠した
生まれた意味を探した
だけどどこにも見当たらない
自分はその辺の石ころと変わらないと思った
だけどそれと同時に何かを成し遂げられる人間だとも思った
自分の周りの不都合なことには耳を塞ぎ目を瞑り、前に進んだ
それでも周りの、自分とは違う人生を送っている人間を酷く羨んだ
憎んだ
そんな時、恋人ができ愛を知った
家族愛とはまた違う愛だ
その愛に溺れた
溺れて他のことは考えられなかった
だけど心が満たされることは無かった
他人から注がれる愛程度では足りなかった
もう遅かったのだ
この時点で心は壊れていた
それからも無為に何かに憧れ、それに敗れ
また見ないふり、聞こえないふり
そして本当の自分を他人に見せないよう、聞こえないようにした
だが自分でもどれが本当の自分が分からなかった
生きる意味を探す以前に自分を見失っていた
だからだろうか
何かを傷つけることで自分はここにいたと証明したかったのかもしれない
果たして生きてきたこの十数年で得たものはなんなのだろうか
得意なことは現実逃避
苦手なことは生きること
だからあの日俺は生きることを辞めたんだ
そして人生最後の日に続く
次に目を覚ました時に周囲にあったのは、壊れた俺たちだった
あの大穴に落ちたんだ
笑って、泣いて、怒って、悲しんで
色んな壊れた俺がいた
ああ、捨ててきたけどこれも全部俺なんだな
受け入れなきゃいけない
そうじゃないときっと前に進めない
そんな時上から声が聞こえて、手が伸ばされた
『オレと吐喰だ』
『目覚ましたか』
『おかえり』
2人の手を取って上に上がる
辺りを見回すと、初めにここに来た時よりも醜く醜悪な空間になっていた
「俺はどうなって・・・」
『お前はそこら中に空いている穴の特別大きいのに落ちてたんだよ。それをオレらが引っ張りあげた。それだけだ』
『ねぇ『俺』、見てきたんでしょ?過去を』
そうだ、俺は見てきたんだ
自分がどんな人間だったのかを
『君がさ、どうして僕の身体に憑依したのかわかる?』
「そんなの、偶然だろ」
『ところがどっこい、違うんだよね。君の心って埋まることないでしょ?で、僕の個性は喰らうこと。溜め込むことも出来る。だから、君はこの身体を無意識に選んだんだよ?』
「そんな、馬鹿な」
『馬鹿な話じゃないよ。どんな神様が君をこっちに送ったのかは知らないけど、君がしたかったことをするためにこっちに送ったんじゃない?まぁ、神様何てものがいたらだけど』
『オレからも一つ。お前は個性を三つ持っている。一つは吐喰の個性。二つはオレとお前の満たされない個性と見せない聞かせないの個性。なんでこの個性かは言わなくても分かるよな』
満たされない個性、つまりは心
見せない聞かせないの個性は前世の行い
なんだか仕組まれているみたいだな
でも、もし何者かに仕組まれてるなら、それが生きる意味なのか?
この2人は幻覚かもしれないが、俺に、俺のやろうとしていることにヒントと力をくれる
ほんとなんなんだろう
訳が分からないけど、結局やることは変わらない
ここが現実だと改めて理解出来た
だから、これからすることも全て現実だ
そこから逃げることも出来ない
やると決めたから
現実とわかったからこそ、早く繭に会いたい
『そうだな。早く戻ってやれ』
『あの子はずっと君を待っているよ』
俺は立ち上がって
「行ってくる」
そう言って以前見た、顔のない扉の方に進んでいく
そしてそこにあったのは、前世の俺と吐喰を足して2で割ったような顔をした仮面だった
この扉から出ればここから出られると、なんとなくだがわかった
『またな』
『またね』
二人はそういった
俺は後ろを振り返らず扉の中へ足を進めた
現実に戻ってきたのだろう
またどうやら病室のようだ
だが、なんだか今までと違った感じがする
腕が妙に細くなっており、点滴などの管も多く着いている
その時だった
ガラッと音がして、ドアが開いた
そこに居たのは、繭のような人だった
「め、目を覚ましたの!?吐喰君!」
「っぁ」
上手く声が出ない
おかしい
「私の事わかる!?繭だよ!!あれから四年経ったんだよ!