【こち亀×ガルパン】こち亀&パンツァー【台本形式】   作:神山甚六

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・こち亀のノベライズアンソロジー「両津&パンツァー」の続編という設定です。


ターミネーター左近寺!の巻 / あんこうチームの戦車を取り返します!

【東京都葛飾区 亀有公園前派出所】

 

両津勘吉「えぇ?!戦車道のイベントに私が行くんですかぁ?!」

 

大原大次郎巡査部長「やかましい!いちいち大きな声で叫ぶんじゃない!」ボカッ

 

両津「あたっ!いちいち殴らなくてもいいじゃないですかぁ!!」

 

中川圭一「部長。戦車道のイベントといいますと」

 

部長「うん。日本戦車道連盟と高校戦車道連盟が共催する広報イベントでな。毎年、全国大会で優勝した高校の地元で開かれるパレードと合わせて、いろいろとイベントが予定されている。今年は茨城県大洗市で開催される予定だったのだが、例の廃校騒ぎで延期になっていた」

 

両津「げっ!よりにもよってあそこかよ……」

 

中川「先輩。大洗に誰か知り合いでもいるんですか?」

 

両津「い、いや。ちょっと色々あってな……部長!私だと色々と不味いんじゃないですか?」

 

部長「わしだってお前なんぞ派遣したくない。しかしこれは相手側からのたっての希望でな」

 

中川「大洗女子学園からの?……先輩やっぱり何かしたんじゃないですか?」

 

両津「何でお前はわしが何かやらかした前提で話すんだ!!ちょっとラジコン大会でハッスルし過ぎただけ……」

 

部長「ほおーう。あれが君の言うちょっとなのかね両津君?」

 

両津「誠心誠意の反省をいたしております!!」

 

秋本麗子「いったい何をやらかしたんだか。それにしても大洗女子学園か。優勝校の廃校ということで、マスコミでも色々と問題になったものね」

 

部長「文部科学省と県教育委員会の方針が二転三転した結果、戦車道のイメージまで悪化しかけたからな。例年より大きなイベントとすることで、風評を払拭したいのだろう」

 

両津「お偉いさんの尻ぬぐいじゃないですか!なんで私がそんなことに付き合わなきゃ……」

 

部長「ほーう?本庁爆破に、個人情報漏洩、鯉にオオクワガタに大仏にカラス……米軍払い下げの戦車で町中を暴走したこともあったな。多い時には週刊で世間様を騒がせて懲戒免職処分になりかけたお前の尻ぬぐいを、その度にしてきたのは誰だったのか。もう忘れてしまったと見えるね両津勘吉くん?」

 

両津「両津巡査長!喜んでお引き受けいたします!」

 

部長「まったくこの男は……とにかく今回、大会事務局からの要請で、各都道府県警察の代表による柔道大会を急遽開催する事になった。両津、お前は警視庁代表として出席しろ」

 

両津「そりゃかまいませんが。なんで私が指名されたんですか?」

 

部長「知らん」

 

両津「知らないって、そんなの無責任じゃないですか!」

 

中川「戦車道といえば戦国時代の馬術長刀道の流れをくむ女子の武道ですからね。先輩とは縁もゆかりもなさそうなのに」

 

麗子「やっぱり何か悪いことしたんじゃないの?」

 

両津「うるさいぞお前ら!!」

 

両津「部長、勘弁してくださいよ。そりゃ私はカルチャーセンターで戦車のうんちくに関する授業をやったこともあるし、戦車のプラモやジオラマならモデラー並みに造りこみましたよ。ですけど戦車道は専門外ですよ。あと自家用のシェリダンも持ってますけど、今時そんなのは珍しくありませんよ」

 

麗子「戦車を自家用車で乗り回している人は珍しいと思うけど……」

 

中川「よほど大きな戦車道の流派の家元か、先輩ぐらいだろうね」

 

両津「日替わり定食みたいに、色違いのポルシェやフェラーリを乗り回すお前らには言われたくないわ!」

 

部長「誰もお前に戦車道の講師をやれとはいってはおらんだろうが。とにかく相手からの指名だ」

 

部長「お前なら都道府県警対抗の柔道にも出場経験があるからちょうどいい。あと、お前ほど都道府県警対抗試合に出場経験が豊富な警官もいない」

 

両津「いきなり南部鉄のメカピーポ君とやらを着させられてレースに参加したのは私ぐらいでしょうしね!あの時は本当に死ぬかとおもいましたよ!!」

 

中川「部長、この書類によると柔道大会はタッグトーナメントのようですが」

 

麗子「それにこれ、今週末じゃない」

 

両津「ぶ、部長!いくら私でもタッグの試合を1人では無理ですよ!」

 

中川+麗子((大丈夫そうだけど……))

 

部長「心配しなくてもいい。お前のペアは都道府県警対抗試合に出場経験のある()()()だ」

 

 

【大会当日 警視庁亀有署独身寮前】

 

両津「誰だと思ってたら左近寺じゃねえか。まあお前なら気を使わないからいいか」

 

左近寺竜之介「随分な、挨拶だな、両津」フンッフンッフンッ

 

両津「筋トレをしながら話すんじゃない!暑苦しい!」

 

左近寺「ふう……ところで両津。どうやら俺はゲームのやりすぎで視力が悪くなったようだ」

 

両津「藪から棒になんだ?」

 

左近寺「独身寮の前に、ピンク色の戦車が停車している幻覚が見えるんだ」

 

両津「幻覚じゃねえよ。それは俺のシェリダンだよ。これに乗って大洗まで行くからな」

 

左近寺「……は?」

 

両津「前に婦警共のキャンピングカーをこれでひっぱってから、カラーを塗り替えてなかったんだ。金がもったいなかったし。しかし性能には問題ない」

 

左近寺「そういう問題じゃないと思うんだが。大体、自家用の戦車って……」

 

両津「車検さえごまかせばなんとかなるもんだぞ」

 

左近寺「警察官の発言とは思えんな」

 

両津「それはお互い様だろ。それにせっかく戦車道関連の大会に参加するんだから、戦車に乗っていくのも乙なものだぞ……本当は本田のバイクかボルボのジープにでも乗せてもらおうと思ったんだが、あいにく2人とも都合がつかなくてな」

 

左近寺「い、いやしかしだな。色々と大丈夫なのか?これ一般道を走れるのか?」

 

両津「首都高速を走ったこともある。とにかく時間がないんだ。つべこべ言わずにさっさと乗れ!」

 

左近寺「お、おう」

 

 

【茨城県大洗市 大洗マリンタワー前 臨時駐車場】

 

左近寺「つ、ついたか?」

 

両津「たしかここで大洗女子の連中と落ち合う予定なんだが」

 

左近寺「両津。少し休ませてくれ……」

 

両津「情けないぞ左近寺!たかだか2時間弱程度走っただけで。操縦していたわしはともかく、お前はただ乗っていただけだろうが」

 

左近寺「車と戦車を一緒にするな。風は通らないし熱いし。何より振動が直接臀部に来るのはしんどいぞ。クッションソファーでも持ち込めばよかった」

 

両津「馬鹿いえ!戦車にそんな軟弱なものをもちこむのは、このわしが許さん!」

 

左近寺「車体がピンク色なのはいいのに、俺にはお前の基準がよくわからん。それに走行中の周りの視線もあったし……すまんがちょっと飲み物でも買ってくる」

 

両津「気にしすぎなんだよお前は」

 

両津「それにここは全国優勝高校の地元だぞ。地元住民だって戦車なんぞ見飽きている。ほら周りを見てみろ。誰もわしらに注目してはいない……」

 

???『ああああ!!!!』

 

両津「……あん?何だ?どっかで聞いたような声だな」

 

 

秋山優花里「シェ、シェリダンが!シェリダンがあんな色にいい!!!すごい!すごいけど、すごいですけどお!!!!空飛ぶ戦車のシェリダンがああ!!!!」

 

五十鈴華「まぁ可愛らしい色」

 

秋山「五十鈴殿ぉ……そういうことでは、そういう意味じゃ、そういうわけじゃないんですぅ……」シクシクシク

 

武部沙織「どういうわけよ」

 

武部「ひょとして今日のイベントに参加する戦車なのかな。私は何も聞いてないんだけどなぁ」

 

武部「あのーすいませーん!」

 

両津「あん?」

 

 

 

武部+両津「「あ」」

 

 

 

武部「あああ!!!あの時の不良警官!」

 

両津「あの時のアンゴラチームじゃねえか!」

 

武部「あんこうよあんこう!勝手に国の名前にしないで!」

 

五十鈴「ご無沙汰しております」

 

秋山「ああ~色は残念だけど、あのアメリカ軍屈指の迷戦車に出会えるなんて!あぁ~!悲しいけどうれしい!!!生きててよかったぁ!」

 

両津「こいつは相変わらずだな……」

 

五十鈴「あのー、両津巡査長?」

 

両津「なんだ?えーと、たしか……いすゞだったか」

 

五十鈴「五十鈴です」

 

五十鈴「県立大洗女子学園を代表して、警視庁代表のお二方をお迎えに参りました」

 

両津「あのチンチクリンはどうした?」

 

武部「チンチクリンって」

 

五十鈴「角谷前生徒会長を含めた前生徒会執行部三役は引退されました。現在は私が生徒会長を務めております。副会長はこちらの優花里さんです」

 

秋山「いやぁ。本当にアルミ合金なんですねえ!ノックした時の音と反響が違いますよ!」コンコン

 

両津「聞いちゃいねえな」

 

武部「ちょっとゆかりん!駄目でしょ。断りもなくそんなことしちゃ!」

 

五十鈴「そしてこのおかん気質丸出しなのが、武部沙織さんです」

 

武部「華ぁ!」

 

五十鈴「本来であれば私が御案内するべきなのでしょうが、このほかにも予定がいろいろと立て込んでおりまして。試合予定時刻までは、生徒会の広報が両津巡査長と左近寺巡査のエスコート役を務めさせていただきます」

 

両津「そりゃかまわんが、広報って誰だ」

 

武部「ちょ、ちょっと華!私、何も聞いてないんだけど!?」

 

五十鈴「今言いましたから」

 

武部「そういうことはもっと早く言ってよ!」

 

両津「いい性格してるな。さすがはあのチンチクリンの後継者」

 

五十鈴「お褒めにあずかり光栄ですわ」

 

 

秋山「ぅう……シェリダーン……おいたわしやシェリダン……」

 

五十鈴「さぁ優花里さん。行きますよ」

 

秋山「ううう……あ、両津殿。あとでシェリダンに乗せてもらえませんか?」

 

両津「こっちは別の意味でフリーダムだな。別に構わんけどよ」

 

秋山「ありがとうございます!」パアァ

 

五十鈴「それでは。沙織さん。あとはお願いしますね」

 

武部「華!後で覚えてなさいよ!!!」

 

秋山「両津殿~約束ですからね~!!」ブンブン

 

 

 

両津「……で、どうするんだこれから」

 

武部「知らないわよ!」

 

両津「怒るな怒るな」

 

武部「まったくもう。それでもう1人の、えーと左近寺巡査は?」

 

両津「え?あれ?あいつどこに……そういや飲み物がどうとか言ってたような」

 

左近寺「すまん。ちょっと迷ってた」

 

武部「……でかっ!?」

 

左近寺「?」

 

武部「いや、その……でかっ!?」

 

両津「なんで2回言うんだよ」

 

武部「そんなこといったって。ボルボさんも大きかったけど、まさか左近寺巡査もこんなに大きいとは」

 

両津「そりゃそうだ。柔道の警視庁代表だぞ」

 

武部「……そうはいっても」←身長157㎝

 

両津「……なんだよ」←身長152㎝

 

左近寺「?」←身長182㎝

 

武部「ちっさ」

 

両津「うるせえよ!!」

 

左近寺「おい両津。誰だこの娘は」

 

両津「あぁ、そういやお前は初対面だったな。こいつが俺らの案内役だそうだ」

 

左近寺「そうか。左近寺竜之介だ。よろしく頼む」

 

武部「(マッチョもありかも)……ごほん!」

 

武部「えーと、失礼しました。左近寺巡査。大洗女子学園生徒会広報担当の武部沙織と…『さおりい?!?!!!!!』……はぇ?」

 

両津「しまった。こいつも面倒くさい奴だったんだ……」

 

 

【大洗市役所内 大会運営事務局】

 

五十鈴「会長。どうもお待たせいたしました」

 

角谷杏「ははは、今の会長は五十鈴ちゃんでしょ。わたしゃただの隠居だよ。でも悪いね。忙しい時に呼び出して」ヒラヒラ

 

五十鈴「構いません。前会長のお呼び出しとあれば」

 

五十鈴「……で、こちらの方は?」

 

角谷「あぁ、そうだった。えーと確か警視庁特殊刑事課の」

 

タイガー刑事「タイガー刑事だ」

 

五十鈴「はい?」

 

タイガー刑事「タイガー刑事だ。むろん本名ではないが、気軽にタイガー刑事と呼んでほしい」

 

五十鈴「はぁ……」

 

角谷「(おーおー、あの五十鈴ちゃんが困ってるよ)」

 

五十鈴「あの、どうして黒森峰女学園のパンツァー・ジャケットを着ておられるのですか?」

 

タイガー刑事「こっちが本家の戦車服だ!あの学園が旧ドイツ国防軍をオマージュしたものを作ったのであって、私は女装が趣味なわけではない!!」クワッ

 

五十鈴「そうなのですか?」

 

角谷「(要は自分もコスプレじゃん)」

 

五十鈴「それで警視庁の刑事さんが、いったい何の御用でしょうか」

 

タイガー刑事「うむ。私は本来、消防課の所属でタイガー戦車を駆っているのだが」

 

五十鈴「(消防課?戦車で?)」

 

角谷「(突っ込んだら負けだねこりゃ)」

 

タイガー刑事「私の得た情報によれば、今回、国際的な戦車窃盗集団が日本に入ったそうだ」

 

角谷「それでこの刑事さんによると、この大洗が狙われている可能性が高いんだって」

 

五十鈴「まぁ、それは困りましたね」

 

タイガー刑事「全然困っているようには見えんのだが……まぁいい」

 

タイガー刑事「奴らは最近、戦車道の公式試合で活躍した車両に狙いを定めている。名試合で活躍した戦車となれば、それだけマニアに高く売れるからな。そしてここ最近、もっとも世界の戦車道で注目された試合は」

 

五十鈴「大洗連合軍と大学選抜チームの試合ですか」

 

タイガー刑事「その通りだ。世辞なしに言うが、あの試合は実に素晴らしかった」

 

五十鈴「ありがとうございます」

 

タイガー刑事「何としても奴らの犯行を阻止しなければならない。そこで是非、大洗女子学園生徒会にも協力を願いたい」

 

五十鈴「そういう事なら喜んで協力いたします。戦車道関係者にもこちらから注意喚起を」

 

タイガー刑事「頼むぞ。奴らは何をしでかすかわからんからな」

 

 

【大洗マリンタワー展望台】

 

武部「……つまり左近寺巡査は、ギャルゲーのヒロインと私が同じ名前だから奇声を上げたんですか?」ドンビキ

 

両津「引くな引くな。まあそういう事だな」

 

左近寺「いや、その、申し訳ない。つい興奮してしまって」

 

武部「ゲームがお好きなんですか?」

 

左近寺「あぁ、まあ」

 

両津「こいつは格闘ゲームからハマった口だからな」

 

武部「それなら何となくイメージが付きますね。どうせギャルゲーを薦めたのは両津さんなんでしょうけど」

 

両津「どうせとはなんだ!どうせとは!」

 

武部「はいはい」

 

武部「はい。到着しました。ここが大洗マリンタワーの展望台デッキです」

 

左近寺「ほう」

 

両津「周りに大きな建物がないから、なかなかいい景色だな」

 

武部「そうですか?東京スカイツリーとかと比べるとやっぱり」

 

両津「あれとこれを比べるのが間違ってるんだよ。人間デカけりゃいいってもんじゃない。大事なのは中身だ。そうだろう左近寺」

 

左近寺「お、おう」

 

武部「小さいって言ったことを根に持ってます?」

 

両津「一々蒸し返すな!」

 

 

【大洗市役所内 大会運営事務局】

 

タイガー刑事「うむ。ではこの警備計画でいこうか。地元県警には私から話を通しておく」

 

五十鈴「よろしくお願いいたします。角谷先輩もありがとうございました」

 

角谷「いいのいいの。ところで五十鈴ちゃん。あの角刈り繋がり眉毛のお巡りさん。ちゃんと来てた?」

 

五十鈴「両津巡査長ですか?はい。来ておられましたよ」

 

タイガー刑事「何?両津がいるのか」

 

五十鈴「お知り合いですか?」

 

タイガー刑事「うむ。あいつとは戦車で共に(亀有を)駆け抜けた間柄だ……そういえばこの間、急に私のところを訪ねてきて私の愛車をパシャパシャと何かの機械で撮影していたが、あれは何だったのだろう?」

 

五十鈴「あらまぁ……」

 

角谷「あはは」

 

 

【大洗市内 戦車倶楽部前】

 

左近寺「……」

 

武部「……」

 

左近寺「(き、気まずい)」

 

武部「(き、気まずいよう)」

 

左近寺「(両津め。限定品プラモか何かしらないが、いきなり戦車倶楽部の前で戦車を止めて、入っていきやがった)」

 

武部「(女の子相手ならいいんだけど、年上の男の人なんて何を話せばいいの?両津さんがいないと間が持たない……)」

 

左近寺「……」

 

武部「……」

 

 

 

左近寺+武部「「あ、あの」」

 

 

 

左近寺「……どうぞ」

 

武部「……いえ、左近寺巡査からどうぞ」

 

左近寺「(うおおお!さおりぃ!俺に力を貸してくれえ!!!)」

 

武部「(……お見合いか!!)」

 

武部「(ええい!女は度胸よ!)……あ、あの」

 

左近寺「……なんだ」

 

武部「(こ、こわっ!)……あの、左近寺巡査も葛飾署なんですか?」

 

左近寺「そうだが」

 

武部「じゃああの、ウサギさんの形をした警察署で勤務されていたんですね」

 

左近寺「そうだが、あれは使いにくい建物だった」

 

武部「えー!かわいいじゃないですか?」

 

左近寺「見ているほうはそれでいいんだろうけどな。有名な建築家か何か知らないが、中身はまるで迷路だったぞ」

 

武部「確か御免ライダーの撮影にも使われたんですよね」

 

左近寺「そうだが。君は特撮マニアなのか」

 

武部「いえ私は違いますけど。後輩に特撮が好きな女の子がいまして」

 

 

阪口桂利奈「ふぁっくショーン!!」

 

山郷あゆみ「わっ!」

 

大野あや「ちゃんとハンカチを口にあててよー」

 

阪口「えへへ、ごめんごめん。間に合わなくて」ズズッ

 

澤梓「風邪?」

 

阪口「違うと思うんだけど」ティッシュナイ?

 

宇津木優季「なんとかは風邪をひかないんだよね~」キラシテルノ~

 

阪口「ひっどーい!」

 

丸山紗希「……ティッシュ」

 

阪口「ありがとう紗季ちゃん!」

 

 

武部「それで、そのウサギさんチームも戦車をピンク色に塗ったことがあるんですよ」

 

左近寺「ほう。やっぱり女子は戦車をピンク色に塗りたがるものなのか」

 

武部「それは違うような気もしますけど……」

 

左近寺「……どうかしたか?」

 

武部「あのっ」

 

左近寺「うん?」

 

武部「さっきはごめんなさい」

 

左近寺「何がだ?」

 

武部「あの、ギャルゲーの事です」

 

左近寺「いや、あれは俺が悪かったんだ。名前が一緒だからつい、な」

 

武部「確かに同じ名前というだけであれだけの反応だったのは吃驚しましたけど。そうじゃないんです」

 

左近寺「というと」

 

武部「左近寺さんの好きを否定しちゃった感じがして。それが申し訳なかったと思いまして」

 

左近寺「無理をしてオタクのノリについてこなくてもいいぞ」

 

武部「いや、そういうことじゃないんです。確かに左近寺さんの言動にびっくりしたのは事実なんですけど。どう言えばいいのかな」

 

武部「私は人の好きを否定したくないんです」

 

武部「みんなそれぞれ、好きなものが違うと思うんです。華……生徒会長の娘は華道が好きで、ゆかりんは戦車が好きで。あんこうチームのみんなもそれぞれに好きなものがある。うちの戦車道のチームも、それぞれ好きなものが違います。ゲームだったり、バレーだったり、車だったり」

 

武部「だから私は何かが好きって感情は、とっても大切なものだと思うんです。何かが好きだから、人の好きも尊重出来る。だから私は人の好きを否定したくないんです」

 

武部「私が人に嫌われたくないから、自分がいいかっこをしたいだけかもしれませんけどね」

 

左近寺「……そうか」

 

武部「だからこれは、私の勝手な謝罪なんです。正直あれはむっとしましたけどね」

 

両津「いや、それは確かに大事なことだ」

 

武部「っげ!両津さん!」

 

両津「お化けが出てきたみたいな反応するんじゃねえよ」

 

両津「でもお前も、案外いいこと言うじゃねえか。さすがは全国大会優勝校の代表メンバーだな」ナデナデ

 

武部「ちょ、ちょっと!勝手に頭を撫でないでくださいよ!」

 

両津「がっはっは!頭を撫でてもらえるうちが花ってもんだ。わしなんか部長にしょっちゅう頭をどつかれている」

 

武部「部長さん?あぁ、あのT-14で殴りこみに来た」

 

左近寺「両津。お前ここで何をやったんだ?」

 

両津「余計なことを思い出させるな!」

 

左近寺「……(人の好きを否定したくないか)」

 

 

【大洗市役所内 大会運営事務局警備本部】

 

タイガー刑事「おぉ!西住みほではないか!」

 

西住みほ「あはは……ご無沙汰しています。タイガー刑事さん」

 

タイガー刑事「うむ!先の大学選抜との試合は実に素晴らしかったぞ!」

 

秋山「西住殿はタイガー刑事殿とお知り合いですか?」

 

みほ「お知り合いというか何というか……」

 

みほ「タイガー刑事さんは黒森峰機甲科の非常勤講師なの」

 

秋山「え?!タイガー刑事殿が?!」

 

冷泉麻子「こいつは男だろう」

 

みほ「タイガー刑事さんは、タイガー戦車の砲身の先に括り付けた筆で習字が出来る位に運転が上手だから」

 

冷泉「……は?戦車の砲身?筆?」

 

秋山「人間業じゃありませんね」

 

冷泉「いや。でもそれは改造した戦車じゃないのか?」

 

みほ「戦車道のレギュレーションに対応した戦車でもやってたよ」

 

冷泉「」

 

タイガー刑事「ははは!伊達にタイガー刑事を名乗ってはおらんぞ」

 

 

 

みほ「そういえばタイガー刑事さんはどうしてこちらへ?」

 

タイガー刑事「うむ。実は-」

 

警官A「た、大変です!」

 

タイガー刑事「どうした!」

 

警官B「展示会場へ運搬作業中だったレッカー車が何者かに襲われました!」

 

タイガー刑事「何ぃ?!……っち!負傷者は!」

 

警官A「警備兵と運転手は無事との連絡がありました!」

 

五十鈴「タイガー刑事」

 

タイガー刑事「おぉ!五十鈴君!心配はいらない。こんなこともあろうかと、何かあった場合には輸送車のエンジンが動かなくなるよう遠隔操作システムが作動するようにしてある。それに大洗女子学園の自動車部に依頼をして、車両には移動用の最低限を除いて燃料を抜いてある。今頃、犯人共は立ち往生しているはずだ」

 

警官B「戦車に乗って逃亡しました」

 

タイガー刑事「」ズルッ

 

タイガー刑事「どうして展示用の車両に燃料が入っているんだ!!」

 

警官A「それが当該車両はデモンストレーション用に使用する車両だったので1試合分の燃料が」

 

秋山「え!デモンストレーション用?!」

 

みほ「という事は、盗まれたのは……」

 

警官B「はい。あんこうチームのIV号戦車です」

 

 

【大洗市内 名平洞公園前】

 

武部「あれ?」

 

両津「なんだ?どうかしたか」

 

武部「それが、あんこうチームのIV号戦車が公園駐車場の中にあるの。おかしいなあ。デモンストレーション会場のあるアクアワールド・大洗前に移動する予定だったと思うんだけど」

 

左近寺「会場が変更になったんじゃないか?」

 

武部「それなら私の携帯に連絡があるは(pipipipip)……非常連絡?ちょっと御免なさい」

 

武部「はいはい。どうしたの華」

 

五十鈴『緊急です沙織さん。落ち着いて聞いてください』

 

武部「どうしたの華。怖い声出して』

 

五十鈴『移動中のあんこうチームのIV号戦車が、窃盗集団の襲撃を受けて盗まれました』

 

武部「っ……!」ダッ

 

両津「おい武部!おいどうした!!」

 

五十鈴『沙織さん!聞こえていますか沙織さん?車両には……』

 

左近寺「おいどうした両津!あの娘、急に飛び出していったぞ!」

 

両津「ぼさっとせずに追いかけろ!」

 

 

 

泥棒A「へっへっへ、ちょろいもんですね親分」

 

泥棒B「おう。戦車道のイベントに紛れてしまえば移動していても疑われない。俺の読みはドンピシャだったろ?」

 

泥棒C「いよっ!親分!!ズルいことを考えさせたら日本一!」

 

泥棒B「馬鹿野郎!世界一だ!……それにしてもDは遅いな」

 

泥棒A「干し芋食べ過ぎてお通じが良くなりすぎたんじゃねえですかい?」

 

泥棒B「ははは。ちげえねぇや」

 

 

 

武部「こらぁ!あんたたちぃ!!」

 

 

 

泥棒C「うおっ」ビクッ

 

泥棒B「何だ何だ?!」

 

武部「あんたら戦車泥棒ね!観念しなさい!」

 

泥棒A「な、なにを言うんですお嬢ちゃん。私どもは大会運営事務局から委託を受けた輸送業者で……」

 

武部「わたしがその大会運営事務局の広報担当よ!」

 

泥棒B「げげぇ!」

 

泥棒D「……ふう。すっきりした。お待たせしました親分。いやぁ、ひさしぶりにすっごいのが……」

 

泥棒B「馬鹿野郎!早く乗れ!おいエンジン始動!出るぞお前ら!」

 

武部「あ!こら!待ちなさいあんたら!!」

 

泥棒C「動かしますぜ!」

 

泥棒A「あ、やばい!親分。あの娘っ子が公園の出口で立ち塞がってますけど、どうします?」

 

泥棒B「かまわねえからそのまま進め!何、戦車が近づけば怖気づいて飛びのくに決まってる!」

 

 

 

武部「……っ!」グッ

 

 

 

両津「……あの馬鹿!おい武部!右だ!右に飛びのけ!」

 

武部「やだっ!!」

 

両津「……っ、畜生!間に合え!」

 

泥棒B「(な、なんでどかねえんだ!)おい、エンジン逆回転しろ!」

 

泥棒A「ま、間に合いませんよ!」

 

泥棒C「うおおおお!どいてくれえええ!!!」

 

 

 

左近寺「うおおおおおおおお!!!!!」(真横からスライディング)

 

 

 

武部「きゃ!」ズサササ……

 

泥棒B「(あっぶね!)いよっしゃ!そのままつっきれ!」

 

泥棒C「は、はいいい!!!(よかったああ!!!)」ブロロロロ

 

両津「まて手前ら!あ、ちっくしょう、待てこら!戦車を降りて勝負しやがれ!!」

 

 

 

武部「はっはっ……」

 

左近寺「はー……」

 

両津「おい武部!!怪我はねえか!」

 

武部「は、はぃ「馬鹿か君は!!!!」…ひゃん!」

 

左近寺「怪我をしたらどうするつもりだったんだ!」

 

武部「で、でも、戦車が……」

 

左近寺「でももしかもない!俺が飛び込まなければ、君は死んでいたかもしれないんだぞ!君のその行動が、君の友達をどれだけ悲しませると思っているんだ!」

 

両津「おい左近寺」

 

左近寺「両津は黙ってろ!」

 

武部「で、でも!」

 

左近寺「……すまん。ちょっと言い過ぎた」

 

武部「わたしこそ。お礼も言わずに……でも駄目なんです!」

 

武部「あの戦車は!あの戦車は、私たちあんこうチームの大切な戦車なんです!」

 

武部「楽しい時だって悲しい時だって、あの戦車と一緒に戦ってきたんです!」

 

武部「みぽりんと私たちの大切な居場所だから、だからっ……!」

 

両津「わかったわかった」

 

両津「おい左近寺。いいかげんその娘っ子の肩から手を放してやれ」

 

左近寺「あっ……す、すまん」

 

武部「ごめんなさい左近寺さん。助けてもらったのに」

 

両津「お前さんの好きって気持ちは、わしらがしっかりと受け取ったぜ」

 

両津「さぁ、反撃開始だ!!」

 

 

泥棒A「いやぁ、よかったですねえ。女の子轢かなくて」

 

泥棒B「うるせえ!黙って表見張ってろ!」

 

泥棒Ⅽ「俺は指示に従っただけ、俺は指示に従っただけ……」ブツブツ

 

泥棒D「腹減ったなぁ……あん?」

 

泥棒Ⅾ「……親分」

 

泥棒A「うるせえ!そもそもお前がトイレに行こうなんて言うから」

 

泥棒Ⅾ「ピンク色の戦車が、サイレンつけて追いかけてきましたけど」

 

 

 

両津「はっはっはー!どけどけどけぇ!!!」ファンファンファンファンファン

 

武部『緊急車両が通ります!道を開けてください!緊急車両が通ります!道を開けてください!』

 

武部「ちょと両津さん!いいのこれ!?」ファンファンファンファンファン

 

両津「サイレンつけたら普通車だって覆面パトカー扱いになるんだから問題ない!それよりも周囲への呼びかけと注意喚起を続けろ!」

 

武部「どうなっても知らないからね!……『緊急車両が通ります!道を開けて……あ!見つけたぞ泥棒!私たちの戦車を返せええ!!!』ファンファンファンファンファン

 

 

 

泥棒Ⅽ「よ、よかった。あの娘、怪我無かったんだな」

 

泥棒A「そりゃよかったけどよ。どうします親分。追いかけてきましたぜ」

 

泥棒B「ど、どうするって、そりゃおめえ……逃げるっきゃねえだろ」

 

泥棒Ⅾ「砲塔を旋回させて、デモンストレーション用の模擬弾をぶっぱなしましょうや」

 

泥棒B「そ、それだ!」

 

泥棒A「(……Dが一番危ない奴なんじゃね?)」

 

 

 

武部「それにしてもこの戦車すごいね。クーラーこそついてないけど、中身は最新式じゃない」

 

両津「そうじゃないと車検が通らなかったからな……」

 

左近寺「おい両津。相手が砲身を旋回したぞ」

 

両津「なんだって?まさか撃つつもりか?」

 

武部「それがどうしたのよ!戦車道の模擬弾だから大丈夫でしょ!」

 

両津「あー、うん。そんな君に残念なお知らせがあるんだが」

 

両津「この車両はもともと戦車道のレギュレーションに対応していない……だから特殊カーボンが装備されていない」

 

武部「は?」

 

両津「ついでに言うとだ。さっき秋山って娘がはしゃいでいただろ?アルミ合金だって。この戦車は水陸両用で、パラシュート降下にも対応出来るように開発された。いろいろと問題はあったんだが、実際に改造すれば海の上も走れるぐらいには軽い」

 

左近寺「……つまり」

 

両津「……模擬弾であっても、装甲を貫かれる可能性が極めて高い」

 

武部「もうやだー!!!」

 

 

 

泥棒Ⅾ「装填完了。いつでもいけますぜ親分」

 

泥棒B「うむ。だがしかし……」

 

泥棒Ⅾ「つかまったら親分、当分臭い飯ですぜ」

 

泥棒B「……ええい!ままよ!出来る限り当てるんじゃねえぞ!主砲発射!!」

 

泥棒Ⅾ「イエッサー!」

 

 

 

左近寺「撃ってきた!」

 

両津「うおおおおおおおお!!!わしのドライビングテクニックを舐めるんじゃねええ!!!!」

 

武部「きゃああああ!!!!!」

 

 

 

 

【大洗市役所内 非常対策本部】

 

刑事A「タイガー刑事。ドルフィン刑事が那珂川の河口に係留していた窃盗団の船を確保しました」

 

タイガー刑事「うむ。結構」

 

五十鈴「ドルフィン刑事?イルカさんですか?」

 

みほ「華さん。あの人たちは私たちの物差しには当てはまらない人たちだから、そういうものだと思って聞き流しておいたほうがいいよ?」

 

秋山「西住殿の目が死んでおられます」

 

冷泉「よほどつらいことがあったんだろう。そっとしておいてやれ」

 

タイガー刑事「それでみほ君。このポイントでいいんだね」

 

みほ「はい。この地点に船が係留してあったということは、この橋を通らなければ対岸には渡れませんから」

 

タイガー刑事「うむ。その通りだな……さて諸君。いよいよフィナーレだ」

 

冷泉「いつ始まったんだ?」

 

秋山「そういう事は言いっこなしですよ冷泉殿」

 

 

 

タイガー刑事「全部隊に通達!海門橋を封鎖せよ!」

 

 

 

みほ「(あ、この人これが言いたかっただけだ)」

 

 

泥棒B「撃て撃て撃てえ!!!撃って撃って撃ちまくれえええ!!」

 

泥棒A「ハッピートリガーの気があったのかな?」

 

泥棒C「自分じゃ撃たないくせに」

 

泥棒Ⅾ「そんなにポンポン撃てませんよ。模擬弾の数も沢山はないのに」

 

泥棒B「貴様ら!何を腑抜けたことを!逮捕されたら臭い飯なんだぞ!」

 

泥棒A「でも一番責任重いのは親分でしょうし」

 

泥棒C「最悪俺らは、親分に言われたからやったといえばいいだけなんで」

 

泥棒B「き、貴様らああ!!泥棒の風上にも置けん奴らだ!!!」

 

泥棒Ⅾ「あの親分」

 

泥棒B「なんだぁ?!」

 

泥棒Ⅾ「相手が背後まで迫ってきました」

 

 

 

両津「はっはっはー!時速80キロを出せるわしの改造シェリダンが、最大40キロ前後しか出せないIV号に駆けっこで負けるかよ!!」

 

武部「ちょっと!うちの子の悪口言わないで!」

 

両津「言葉の綾だ!まったく、うちの婦警共と同じぐらいうるさい奴だな」

 

両津「おい左近寺!泣いても笑ってもチャンスは1回こっきりだ!外すんじゃねえぞ!」

 

左近寺「わかっている」

 

武部「あ、あの左近寺さん!」

 

左近寺「……なんだ」

 

武部「……け、怪我をしないでくださいね!」

 

 

 

左近寺「まかせろ。両津ほどじゃないが、俺も頑丈さには自信があるからな」

 

 

 

 

【大洗市役所内 非常対策本部】

 

警官B「上空旋回中の県警航空隊ドローンの映像はいります!」

 

タイガー刑事「うむ。みほ君の予想通りだな。相手は順調に海門橋に向けて進行を続けている」

 

冷泉「なぁ、この人はここの指揮官なんだよな」

 

秋山「そうですね。警視庁の偉い刑事さんだそうですよ」

 

冷泉「さっきから西住さんの言った通りにしか動いてないように見えるんだが」

 

秋山「まあいいじゃないですか。西住殿の実力が認められていることの証左なんですから」

 

冷泉「秋山さんはそれでいいかもしれないが……」

 

警官A「映像メインモニターに移します」

 

 

 

「「「おおっ……」」」

 

 

 

タイガー刑事「……なんだあのピンクのシェリダンは?」

 

五十鈴「両津巡査長のシェリダンだと思われます」

 

タイガー刑事「っふ。あいつもつくづく悪運が強い男と見える」

 

???『……っもしもし!もしもーし!』

 

五十鈴「沙織さん!大丈夫ですか?!今どこに」

 

武部『ピンクの戦車の中!泥棒を追いかけてるところ!』

 

五十鈴「ええええ?!?!」

 

秋山「ちょ、え?あのシェリダンに武部殿が?!」

 

みほ「……っ!華さん貸して!」

 

みほ「沙織さん、聞こえますか」

 

武部『みぽりん!』

 

みほ「沙織さん。両津さんに伝えてください。逃走ルートと思われる海門橋の封鎖は完了しました。船も確保してます。出来るのなら、このまま海門橋に相手を追い込んでください。ただしシェリダンは装甲が不安です!決して無理をしないでください!!」

 

両津『はっはっは!聞こえてたぜ!」

 

みほ「両津さん!」

 

両津『あいかわらず無茶な要求を平気な顔して言う娘だ。任せてろ!お前の大事な友達も、大切な戦車もちゃんと取り戻してやるからよ!!』

 

みほ「はいっ!」

 

警官A「ピンクのシェリダン、IV号戦車に急速接近!このままだと衝突します!」

 

タイガー刑事「何だと?!」

 

 

武部「いっけえええ!!!!」

 

両津「ベルトしっかりしめてろよっ……覚悟しやがれ盗人ども!!」

 

 

みほ「沙織さん、両津さん!!!」

 

 

泥棒A「うおっとっと!」

 

泥棒B「何だ何だ?!」

 

泥棒C「こ、コントロールが。クッソ!何か当たったか?!」

 

泥棒Ⅾ「親分!敵戦車が後方から衝突したものの、相手の前方装甲が大破したようです!離れていきますぜ!」

 

泥棒B「何?!でかした!!」

 

泥棒C「ふ、ふう……よかった」

 

泥棒B「ご苦労だった!お前らよくやってくれた。あとはこのまま予定の場所まで運べば」コンコン

 

 

 

泥棒A「……?」

 

泥棒B「……何か音がしたか?」コンコン

 

泥棒C「天井のハッチからノックみたいな音がしませんか?」

 

泥棒B「まさか。何か当たってるんだろう。おいA。すまんがハッチ開けてゴミをとってきてくれ」コンコン

 

泥棒A「了解です」

 

泥棒Ⅾ「……まさか」コンコン

 

泥棒A「まったく。ようやく片付いたと思ったのに……よっこらせっと」

 

 

 

左近寺「よう泥棒共。警視庁だ」

 

 

 

泥棒A+B+C「「「で、出たああああ!!!!」」」

 

泥棒Ⅾ「ははっ……終わった」

 

 

 

 

警官B「ハッチ開きました!左近寺巡査が中に……1人を放り投げました!」

 

秋山「せ、戦車から戦車にジャンプして乗り移るなんて」

 

冷泉「ターミネーターかよ」

 

五十鈴「そうですか?私達にとっては見覚えのある光景の気もしますが」

 

みほ「え?私?」

 

秋山「いや五十鈴殿。停止中に飛び移るのと走行中の場合とは難易度が桁違いですから」

 

みほ「え?そうでもないよ?」

 

秋山「え?」

 

みほ「え?」

 

冷泉「西住流ってなんだ」

 

 

 

警官A「目標、速度落とします!……停止!目標は行動を停止しました!」

 

みほ「状況終了です!皆さん、お疲れさまでした!」

 

タイガー刑事「うむ。これにて一件落着!」

 

冷泉「いいのかそれで」

 

タイガー刑事「怪我人が出ないのが一番!これも戦車道よ!」

 

五十鈴「消防隊じゃありませんでしたか?」

 

 

【翌日 都道府県警対抗柔道大会決勝会場】

 

主審「一本!それまで!!」

 

王大河「強い!強すぎる!これが日本の首都警察の実力だ!優勝は警視庁代表の左近寺選手・両津選手です!」

 

 わあああああ!!!!!

 

武部「きゃー!左近寺さーん!」ブンブン

 

冷泉「まーた沙織の悪い癖が。いつまで続くことやら」

 

秋山「まあ無理もありませんよ。あれだけ目の前で活躍されちゃいましたからね」

 

冷泉「確かにすごかったな。まさか1人で戦車に乗り込んで4人を縛り上げるとは思わなかった」

 

秋山「白馬の王子様と呼ぶにはいささか汗臭いかもしれませんが、そこがいいんでしょうね」

 

五十鈴「吊り橋効果というやつでしょうか」

 

冷泉「それだな」

 

武部「きゃー!!左近寺さーん!かっこいー!!」ブンブン

 

みほ「……」

 

秋山「どうされました西住殿。顔色が良くありませんよ」

 

みほ「う、ううん?!何でもないよ!」

 

五十鈴「そうですか?無理をなさらないでくださいね!」

 

みほ「う、うん!」

 

 

 

みほ「(……ど、どうしよう)」

 

みほ「(……「左近寺さんには彼女がいる」って両津さんから聞いただなんて、今更言えないよう)

 

 

 

武部「左近寺さーん!!!」ブンブン

 

 

 

 

【柔道大会授賞式会場】

 

両津「おやおや左近寺くーん?女子高生にひどく人気じゃありませんかー?」

 

左近寺「他人事だと思って……」

 

両津「わしだって自家用車のシェリダンを犠牲にしたのに、大洗の学生新聞のトップはといえば、お前が戦車の上に飛び乗った写真ばかり!経済的な損害は俺のほうが大きかったんだぞ!!保険会社は保証の対象外だとかぬかしやがるし……」

 

両津「しかしお前があんなに熱くなるなんて珍しいな」

 

左近寺「そうだな」

 

左近寺「……あの娘は俺の好きを認めてくれた。だからかもしれん」

 

両津「おい左近寺。条例違反はいかんぞ」

 

左近寺「ば、馬鹿!そんなんじゃないぞ!大体俺には……」

 

両津「はいはい。そういう事にしておいてやるよ」

 

 

 

???「やぁやぁ両津巡査長。ご苦労様だったねー」

 

両津「……あっ!出たなチンチクリン!」

 

角谷「チンチクリンとはずいぶんな言い草だね。自分だって成人男性の平均身長よりは下なのに」

 

両津「うるせえよ!」

 

両津「大体、お前だろ!わしをここに呼んだのは。一体何のようだ?」

 

角谷「あれ?そうだったっけ?」

 

両津「しらばっくれるな!大会事務局からわしを名指しで指名があったと……」

 

???「それは私がお願いしました」

 

両津「お、おう?……あの、失礼ですがどちらさんで」

 

???「自己紹介が遅れて申し訳ありません。両津巡査長」

 

西住しほ「私、日本高校戦車道連盟理事長の西住しほと申します」ペコリ

 

両津「は、はぁ……ということはあのあんこうチームの」

 

しほ「私の不肖の娘です……今はそれは関係ありませんと言いたい所ですが」

 

しほ「高校戦車道連盟会長として、今回の事件解決に対する両津巡査長、並びに左近寺巡査の御協力に感謝いたします」ペコリ

 

両津「こりゃどうも。態々ご丁寧に(なんというか)」

 

左近寺「ど、どうも(すごい圧だな)」

 

しほ「……さて両津巡査長」

 

両津「は、はい?」

 

しほ「この映画に見覚えは?」スッ

 

『亀有工業戦車物語』

 

両津「」

 

両津「え、ええ……と。公務員は副業を禁止されていまして」

 

しほ「あなたがその程度の内規など気にもされないことは調査済みです。またこの映画の原作となった深夜アニメについて、貴方が企画段階から関わっていたことも」

 

両津「あっ、はい」

 

しほ「都庁、首都高、雷門、仲見世通り……ハリウッド映画とはいえ、ずいぶんと無茶をしてくれましたね」

 

両津「い、いやそれはあくまで映画の話であってですね。あとでちゃんと関係各所に理解は得ましたよ?」

 

しほ「その点を問題にしているわけではありません」

 

両津「は、はぁ」

 

しほ「私は日本戦車道連盟の世界大会誘致の責任者をしているのですが、海外の戦車道関係者と会談するたびに、この映画の話題を持ち出されます」

 

両津「はぁ……(何が言いたいんだこのおばさんは?)」

 

しほ「実に良い映画でした。スクールウォーズの流れを汲みつついささか荒唐無稽ながらも大胆かつ繊細。戦車を通じた青少年の更生と成長がきちんと物語として紡がれていました」

 

両津「そりゃどうも、ありがとうございます?」

 

しほ「……おかげで得心がいきました。何故日本が誘致活動を開始すると表明しただけで、あれだけ喜ばれていたのか」

 

しほ「この映画のおかげで、世界の戦車道界では日本は戦車道が()()()()()()で開催可能という、とんでもない誤解が出来上がっています」

 

両津「」

 

しほ「誘致責任者として実にやりがいのある日々です。えぇ、毎日のように誤解を訂正するための仕事に追われ、ただでさえ少ない家族と会う時間がどんどん削られていくのですからね。えぇ。この()()をどう差し上げたらよいのか悩みに悩みましたとも。えぇ」

 

両津「い、いやぁ。お礼だなんてそんな。それにそのお礼という言葉の意味をめぐっては理事長と私との間で認識のずれがみられるような。というわけで本官はこのあたりで失礼を……」

 

しほ「待ちなさい」ギュウウウウゥ

 

両津「いてててて!!!肩、肩、肩ぁ!!」

 

しほ「そう言うわけでして、今回は両津巡査長をわが西住流のブートキャンプに御招待しようと思いまして、こうしてお呼び立てした次第です」

 

両津「いててて!お気持ちだけ、お気持ちだけで十分ですからあ!!」

 

しほ「まあまあ、遠慮なさらずに……じゃあ角谷さん。これ連れていきますので、あとは宜しく」

 

角谷「あっ、はい」

 

両津「はいじゃねえ!!!おい左近寺!助けてくれ!!」

 

角谷「左近寺さん。駅まで乗っていきませんか?あんこうチームが乗せていくといってますので」チラッ

 

左近寺「わかった」チラッ

 

両津「左近寺い!!!!!」

 

しほ「大原部長からも『是非とも鍛えてやってください』という暖かいお言葉をいただいております」

 

両津「あのちょび髭ええ!!!」

 

しほ「さあ行きましょうか。南部鉄の着ぐるみ(?)を着こなした貴方ならばと、ボコミュージアムからも打診が来ていますよ。私も思う存分憂さ晴ら……もとい。鍛えがいのある生徒だと聞いています。失望させないでくださいね」

 

両津「ふざけんなこら!おいっ……!おい!こんなのありか?!」

 

 

 

両津「もう戦車道なんてこりごりだー!!」

 

 

 

【完!】

 




中川「あれ先輩は?」
部長「あいつは西住流の道場でボコられグマの中の人になる特訓をしている。次のオリンピックまでには戻るだろう」

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