椎名唯華の自殺法 作:栗きんとん栗抜き
「えっ、自分まだここおるん? 遅刻すんで?」
半笑いの大福がこちらを見ながらスイーっと横移動していく。
まるで感情のこもっていない「がんばれ〜」という励ましと共に、原付に乗った椎名唯華が車道を駆けていった。
「あの野郎ぶっつぶす‼︎‼︎」
殺意を胸に抱きながら、私は通学路をひた走る。
時間短縮のために朝食の食パンを咥えて飛び出したはいいが、まったく咀嚼するタイミングがないせいでまだ綺麗な長方形のまま口元で揺れている。
もしかして失敗だったか。漫画の主人公はやってるのに。彼等はどうやって食べていたんだ。
「あわれだねぇ〜。」
そんな私の頭上をコアラがふわふわと飛んでいる。
お前が寝返り打った時に目覚ましを止めたせいでこうなっているんだろうが。
今日の夕飯激辛ピザにすんぞ。
「アンタ達急いで! 後5分で門閉まるわよ!」
後ろからの声に振り向く。
スーツ姿の女性が、長い黒髪を揺らしながら鬼のような形相で全力疾走していた。
「ぐんみち! 何やってんの先生でしょアンタ!」
「色々あったのよ色々!」
絶対夜遅くまでソシャゲしながら酒飲んでただけだ。
「うおおおおおもってくれウチの足ぃぃぃぃぃぃ!」
「じゃ〜ね〜お2人〜。」
再び後ろから声。
……と思ったら、一瞬で前方へと過ぎ去る。
世界の危機でも救うかのような表情で自転車を漕ぐ笹木咲と、その後ろに涼しい顔で座る緑仙だった。
「……なんで笹木が自転車に緑仙乗せてんの?」
「緑ちゃんの口車に乗せられた上にジャンケンか何かで負けたんでしょ。」
そうでもなければ「ぷぷぷ!」とわざとらしく笑いながら置いていくはずだし。
「みてていいのか? あと2ふんだぞこみしめ。」
コアラの言葉に我に帰る。
そうだった。最早手段を選んではいられない。
「盗るよ!」
私達は笹木の自転車を奪うべくスピードを上げる。
そして、血の滲むような激闘が繰り広げられ……
……結局、緑ちゃん以外の3人は間に合わず、仲良く廊下に立たされた。
今日も、平凡な一日が始まる。