オリキャラって賛否分かれるから使いたくないんですけど、どうなんでしょう。お客様の中でオリキャラ出すのに抵抗があるという方はお伝えください(※採用するとは言っていない←
では、文章短め、展開早めでいきたいと思います。
―――ドイツ、テーゲル空港
この日、一週間ぶりの雨が降ったらしく、滑走路はしとどに濡れそぼり、乾燥しがちなベルリンの空気は若干しっとりとしている。冬の低気温のせいで吐き出す息は白く、飛行機から降り立った人々は予想以上の寒さに身を震わせながら、空港の中へと吸い込まれていく。
そんな場所に、今、二人の人物が降り立った。
妙な二人組であった。片方は背の高い中年の男性であり、その手には仕事用と思しき革の鞄が一つ。長年愛用しているのか、ところどころ擦り切れた形跡が見られるが、中に詰め込んでいるらしく、少しばかり口が開いていた。
もう片方はすれ違う人々が凝視するくらい、奇妙な出で立ちだった。成人男性の半分程度の背丈であり、頭に角のような物体が付随している。手足の形も常人のそれと大いに異なり、それがまた、その人物の異様な雰囲気を際立たせる要因となっていた。
魔物、と。
知る人がいれば、そう呟いていたことだろう。
タラップから身を出した人間は、外気の冷たさに眉を潜めながらも、先を行く者たちに続く。魔物は既に歩き出しており、初めて見る光景に目を奪われていた。
その最中、魔物の方が口を開いた。
「人間とは不思議だな。自力で空を飛べずとも空を行けるのだから」
若干尊大な口調。感心したような呟きに、隣の人間は目を向けずに応える。
「あまり人間がどうのとか言うな。素性を怪しまれたら終わりだぞ」
フン、と鼻を鳴らした魔物は、懐へと手を伸ばす。が、ここがどれだけ厳重な場所か幾度も聞かされた魔物は、舌打ちしつつ息をつく。
寒い、と人間は言っていた。確かに肌寒い季節らしく、間もなく雪でも降りだしそうな曇天模様である。雲の隙間から陽の輝きは窺えず、人工の明かりの少ないベルリンの空はいささか暗かった。
空港の中へ入ると、さきほどとは打って変わって、肌に心地よい暖気が身を包んだ。外は相変わらずの天気だというのに、窓一枚を隔てた先では別世界のような室温。エアコンという文明の利器によるものだとかで、それがこの半世紀ほどで登場したものだと聞かされたときは驚いたものだ。
今の季節柄、長期休暇に突入した者が多いらしく、旅行者が多く見られ、家族連れの観光客もちらほらと。ロビーは人間たちの話し声が木霊しており、頭上からは音声案内が響き渡る。
人間の文化とはなかなか侮れないものだ。
荷物を回収した人間は、ロビーを出るとタクシー乗り場へと向かう。既に予約してあるホテルへ直行すべく呼び止めたはいいが、隣を歩いていた魔物の姿がない。
辺りを見渡せば、魔物の方はタクシーのとなりを通り過ぎ、市街地の方へと歩き出しているではないか。
ホテルまで10キロは離れている。徒歩で行けばどれだけ時間がかかることやら。人間は声を張り上げるが、魔物はやれやれとでも言いたげな態度で答えた。
「観光だ。せっかく海外まで足を運んだのだ、見慣れん町の風景を見て楽しんでもバチはあたるまい?」
「勝手な行動は慎め。いつ何時、誰に襲われるのか分からんぞ」
「何を言っている。貴様の映画とやらが完成するまでしっかり待ってやったのだぞ。いい加減運動不足でストレスがたまっているんだ、少しぐらい多めに見ろ」
人間は言葉に詰まる。事実を指摘され、気まずそうにしつつ、目線を手にもつカバンの中へ移した。
仕事用の道具に隠されて、分厚い本が一冊、入っている。未だほとんど手にした機会に恵まれない、不思議な力を秘めた魔本である。
これがある限り、魔物は消えることはない。
しかし、無防備になることは確約される。いくらなんでも無用心だという人間の忠告も無視し、魔物はスタスタと歩き出す。
人間は本から視線を戻すと、背中を向けている魔物に言った。
「いいだろう。しかしあまり遠くに出るなよ、私はお前たちのように魔力を感知する力はないんだ」
「心配するな。俺様を誰だと思ってやがる?」
不敵に笑う魔物を見、人間は小さく嘆息した。
● ● ●
実k……ツボ押しは大成功だった。と思う。
いくら「答えを出す者」がスゴいって言ったって、実践する機会があまりなかったんだよ。いやデータ取りとか機械入力とかじゃなくて、人間に試すってことがなかったのよ。うん。
訓練を経て、この力は既に完成されている。
けどそんな実感ちっとも湧かない不思議。なんでだろ? 本人じゃないからかな? おかしいねぇー。
さ、そんな考察は後々。
「おいゼオン、大丈夫か?」
頭から煙を吐き出して倒れ伏しているゼオン。さっきからピクリとも動かない。刺激が強かったのか。
実践してみるのは初めてだったので、加減が分からず強めにプッシュしたんだが、逆効果だったのかな?
なんて色々考えていると、ゼオンはゆらりと立ち上がり、目をこちらに向けた……って怖っ! 目の焦点合ってねぇし! 光ってて格好いい目が腐ったドブ川みたいになってるぞ! どうなってんの!
頭が前後左右に揺れている。でもって何も答えない。
さすがに心配になってきたな……と思いきや、ゼオンの目がぐりっとこちらを捉えた。怖い。マジで怖い。貞子と目があった気分だよ。
一体なんだと無言で見返していると、大きな口がカパッと開き、開口一番、
「ウヌ!」
ウヌ! じゃねぇよ。
「どうしたのだデュフォー、顔色が悪いのだ!」
「お前こそどうしたんだ。脳の病気か」
「私は元気だぞ!」
「頭おかしいっつーか一人称変わってるじゃねぇか」
「私は優しい王様になるのだ」
「これはあかん」
おかしいな。「答えを出す者」の力で、強くなるために必要なツボは「
ひょっとしてミスったか? ミステイクデュフォーさんなのか? 嫌だな、「答えを出す者」は完璧なんだずぇー、とか言っちゃった先週の俺超嘘つきやん。不良品掴まされたと思われたら嫌だな。
てなわけで、もう一回ツボ押ししてやろうと手を構えると、ゼオンは冷蔵庫の中へと飛び込んだ。そんなに嫌か。
別にわざわざ押してやったことを感謝しろとは言わないが、こんなに露骨にビビられるとちょっとショックだ。
「おーいゼオン、飯が冷めるぞ。早く出てこいよ」
聞こえてるかどうか怪しかったが、冷蔵庫の扉がギィーと開いていくと、鰹節をくわえて睨みつけているゼオンの姿が。なんちゅー姿しとんじゃい。
ひどく恨めしげな顔つきだったが、俺がテーブルにつくと、瞬間移動でも使ったんじゃないかってくらいのスピードで反対側の椅子に座った。そーゆーところに無駄に力を割くなよ。まぁいいけど。
しかし、これで術が新しく出た。隣の椅子の上に置いてある本は、力の発現によって強い光を放っている。まだ第一の術すら使っていない現状であるが、使える術のレパートリーを増やしておくのは悪くはない。
術は使いこなして初めて真価を発揮する。いくらゼオンが強くても、俺が要所要所で的確に撃てねば意味がないのだ。
土壇場で発現して形勢逆転……っていうのも憧れはするんだが、身体張ってまですることじゃない。
戦いは行き当たりばったりでは到底勝利することはできない。初心者の俺でも分かることだ。時間があるうちに使いこなしておく必要がある。どんな術か知っているとはいえ。
「午後は術の練習をしよう」
「う、うむ。やはり練習は欠かせないからな、良い心がけだ」
「ついでにツボ押しの練習もしよう」
「それは止めてくれいや本当に」
低姿勢のゼオンってなんか嫌だな。
午後二時。
ベルリンから少し離れた場所。フランデンブルク門から記念碑まで、数キロほどの直線道路がある。その付近に展開している広い公園には、人影がまばらに見られるものの、人気は少ない。
人に見られれば騒ぎになる。そのため派手に術は行使できないが、付近で術を使える場所はほとんどない。なんとか人目を盗んでこっそりやるしかなかった。
昨日雨が降ったせいか、地面が少々ぬかるんでおり、その影響もあって公園内には普段より人が少ない。術の練習をするにはうってつけの場所だ。
ただ、目撃されると悲鳴を上げられたり警察を呼ばれたりして面倒極まりない。さっさと終わらせて家に帰った方がいいだろう。
思えばこの本を手にするのは初めてだし、呪文を唱えるのも初めてだな。いやーやっぱいいなこういうのって、ひどく厨二心をくすぐられる。本を構えて呪文唱えると魔法が使える、みたいな? しかも「答えを出す者」という最高の特典付き。ひょっとして俺かなり優遇されてね? なんて、考え過ぎか。自重自重。
さーて、まずはっと。
「第一の術、ザケル」
あ、やべ。唱えちゃった。
直後、背後で凄まじい電撃の音が轟いた。
「………………………………うわぁ」
嫌な予感がしつつも振り向けば、そこには焼け野原が広がっていた。生い茂っていた草は燃え上がり、木々は全身火だるまになり、悲鳴を上げて倒れた。
改めて見ると、魔物の術ってかなり恐ろしいなぁ……。人間にぶつければ間違いなく死ぬぞこれ。原作で誰も死ななかったのが奇跡としか言い様がない。ティオのサイスでさえ当たり所が悪ければ死ぬわ。
ゼオンはようやく己の本来の力が使えて満足なのか、どうだと言わんばかりの顔でこっちを見ている。なんでそんな誇らしげやねん。
これが魔物の、魔本の力か。
パートナーになった人間が居丈高になるのも、分からなくもない。突然こんな強大な力を与えられ、それを自由に使えると知って、一度も振るわずにはいられないだろう。過剰な力は持て余す。努力して手に入れたならいざ知らず、簡単に手に入ったとなれば、なおさらだ。
これは危険だ。
パートナーの人格次第では、兵器となんら変わりない。
魔物の力を核兵器にたとえた、クリアの発言。今なら分かる、改めて直面してみた、今の俺なら。
「まーそれはそれとして。よーしゼオン、どんどん新しい術使ってみるぞー」
「何、それほど新たな呪文が出ているのか!?」
早くない? みたいな顔をしているが、何を驚いているんだお前。あんだけ肉体的精神的苦痛与えられてなんもありませんでしたーなんて言ったら、お前にどんな目に遭わせられることやら。
ページをめくる。当然だが、一部の文字が光り輝いていた。新呪文が出た証だ。
しかし、光っている部分が少ないな。全文が光ると読めるようになり、呪文の力が最大限発揮されるんだけどな。今だと上の三行くらいしか読めないや。
まぁ、それもおいおいどうにかしていこう。
まずは第二の術だ。
「第二の術、ラシルド」
お、これはガッシュと同じか。
突き出した手のすぐ前、地面からせり上がった大きな物体。稲妻の紋章が描かれた電撃の障壁だ。
この盾の術は汎用性が高い。防御と反撃、視界遮断、強化を施し反射と、使いどころによっては逆転の一手となりうる。それが大した術も使えない序盤ならなおさらだ。
呪文の力はいまだ解明できていない点が多い。判明している点の一つとして、術は「心の力を込めた結果に過ぎない」ということ。簡単な話、どれだけ強力な術を使おうと、それを動かす心の力が薄っぺらだったらハリボテの城である。心の力の込めようによっては中級呪文を下級呪文で相殺することだってできる。ブラゴのギガノ・レイスをザケル一発で打ち消したように。
強い覚悟……いや、魔物と人間の成長か。心境の変化に伴い術も増え、また変わる。思いを込めれば、それに本は応えてくれる。
不思議なものだ。
「さて次は……ん?」
ページをめくったところで、違和感に気づいた。
本は未だに強い輝きを放っている。とりわけ、新たな呪文が浮かんだページは、文字の部分が強く発光していて、眩い光を周囲に放っている。
それは良い。
問題は、
――なんでしばらく先のページまで光ってんですかね。
紙と紙の隙間から漏れる、紫色の光。新呪文が出た証拠である。
……おい、ちょっと待ってくれ。落ち着かせてくれ。
確かに、「答えを出す者」の力でゼオンの脳に刺激を与えたことで、新たな呪文が浮かぶのではという推測は正しかった。ガッシュやティオがどうだったかは知らないが、ツボ押しをしたお陰で、キャンチョメは魔物の中でも一、二を争う強大な力に目覚め、新呪文が三つも出た。
ある程度成長したところで突いたからこそ、その程度で済んだ。
ならば初期段階でツボ押しをすれば、どうなる?
(いや。いやいやいやいや! なんでこういう時無駄に答え出すの早いんだよ! いや、誰だって考えれば分かることだけど!)
無駄に聡くなってしまうデュフォーの能力を疎ましく思いつつ、更にページをめくっていく。どうしたと言わんばかりにゼオンが無言で振り返っているが、それどころではない。
まさかと思いながらも、ページをめくる手は止めない。
嫌な予感も、止まらない。
五分後。
「……………………………………。」
「どうした、今にも死にそうな顔をして」
ゼオンが怪訝な顔をしている。そんなのが眼中にないくらい、衝撃的な事実が発覚した。
項垂れている俺の手の中で、風に吹かれた魔本のページがペラペラと音を立てている。なおも強い輝きを放つそれは、前半の大部分のページが紫色の光を放っている。
やはり、予感は正しかった。
嫌な予感は、当たるものだ。
ザケル
ラシルド
ザケルガ
ラージア・ザケル
ラウザルク
バルギルド・ザケルガ
ザグルゼム
ガンレイズ・ザケル
ジャウロ・ザケルガ
テオザケル
ソルド・ザケルガ
レード・ディラス・ザケルガ
ジガディラス・ウル・ザケルガ
うん。
全部出ちゃってたね。
……おいおいおいおいおいおいおいおい! やべぇよこれマジでやべぇよ! ヤバすぎるだろ! どれくらいヤバいかっていうとマジヤバい。
なんだって術が全部出てんのよ!? おかしいだろ! 潜在能力云々関係ねぇよ! しかも必死に修行して出たとかいうジガディラスが出てるってどういうことだ! ツボ押し効果パネェな!
(ゼオンのツボをいっぺんに押したせいか。あれ? でも術って確か魔物の心境に変化が訪れるとかして精神的に成長しないと出ないんじゃなかったっけ? そういう設定だったような……)
既にその世界にいる以上設定もクソもないんだが。
と、そこでようやく思い至る。
全てを知っている気になって根本的なことを忘れていた。
(……魔本には元々、呪文は書かれていない。本に呪文が浮かぶのは、その魔物が本来持つ力が解放された時。心境の変化、精神の成長、肉体の強化。きっかけはなんでもいいから、魔物が成長して力をつけた時に、隠されていた潜在能力が目覚めて、魔本に呪文が書かれる)
だから戦いの中で新呪文が出るし、それとは関係ないところで呪文が出たりする。
だから、潜在能力を引き出すツボを一気に押したりしたら……
「あかん、やってもうた」
いやぁーやっちゃったなー、やっちゃたなぁオイ。これマジやっちゃったよーもうやんなっちゃうよ。でもやっちゃったもんは仕方ないよねー、やっちゃったんだもんなぁー。
でももう諦めるしかないよね。いっそ開き直るしかないよ、だってもうでちゃったんだもん。
「おい、どうしたデュフォー」
そろそろ黙ったままの俺に苛立ち始めたのか、ゼオンが目を鋭くしている。この子って普段からこんなイライラしてて頭の血管大丈夫なのかね。カルシウム足りてないんじゃない? 乳酸菌とってるぅ?(ウザ顔
「ああ、こりゃ大変だ……すごく、ヤバい。危険すぎて吐き気がしそう」
「ど、どういうことだ!?」
狼狽えだすゼオン。いや、大したことじゃないし、お前にとっては良いことなんだろうけど。
参ったな。修行して手順を踏んで強くなっていく、というお約束じみた展開を全部すっ飛ばしてしまった。そりゃ、素で強いゼオンに今更特訓なんて釈迦に説法って感じだけど、序盤から滅法強いと、どこぞの慢心王みたいに、かかってくるが良いちゅどーんうわぁーみたいになりそうだ。そんなシーンはないけどな。
手を抜く、とは思えない。が、ゼオンはどうも気分が良いと遊ぶきらいがある。強い魔物ならともかく、弱い相手だと特に。序盤で格下ばかりと戦ってたなこの様子だと。
そもこの魔界の王を決める戦い、実力差がひどくないか? レインとか特におかしいだろってくらい強かったし。肉体性能も術もトップクラスってテコ入れ入りすぎだろう。
一体どんな基準で魔物の子を選定したのか聞いてみたいものだ。
本を閉じる。唱えた呪文はザケル、ラシルド、ザケルガ、ラウザルク、ザグルゼムの五つ。出現した呪文の中から、当たり障りのないものを選んで使った。ゼオンは初っ端から5個も術を使えることに満足気だったので、とりあえずは誤魔化せただろうか。
今はすべての術を使えることは黙っておこう。ゼオンを信用しているとかしていないとか、そういう問題ではなくて、俺自身が扱えるかどうかも怪しい。「答えを出す者」で最善の答えを出せても、俺が『実行』できなければ意味がない。結局、戦いを左右するのは、個人の実力とそれを引き出す心なんだから。
今は少しずつ、前に進んでいこう。
それが今の俺にとっての、最善の答えだ。
まー色々言ったけど、要はやっちゃったものは仕方ないんでどうにでもなぁれ的な。
別に悪いことなんてないんだし、こいつぁラッキー程度に考えとけばいいさ。うん。
原作の流れ? 何それ、聞いたことがない。というか俺がいる時点でもうバラバラですよねっていう。
さ、細かいことは忘れよう。
せっかくベルリンまできたんだから、そのへんをブラブラしてから帰ろうか。
――ベルリンの街は意外と静かで、騒音慣れした耳には静けさばかりが残る。
この季節だと日が昇るのは遅く日が沈むのは早いため、基本的に住民たちは午前中には外出せず、陽が昇りきった正午過ぎくらいから外へ出る。当然遠出をすれば帰宅の最中に日没となり、辺りは夜の闇に包まれる。
ベルリンの街は日本と違い人口の灯りは控えめではあるが、皆無というわけではなく、立ち並ぶ店舗から漏れ出す光や車のライトが空を明るくしている。首都東京と比較すると地味目な印象が漂うベルリンの町並みであるが、まるで映画の中といった雰囲気の建物や落ち着きのある光景に目を奪われること請け合いである。
(そういえば、海外に来るのも初めてだな。かなり今更だけど)
以前は海外旅行とは縁遠い生活だったから、日本のジメジメした気候とまったく異なる海外の空気に少し違和感を抱く。ショーウインドウに映る自分の今の顔が西洋人のそれとはいえ、すれ違う人が皆ドイツ人ばっかりだと、ちょっと居づらい感じがする。なんというか、猫たちの中に虎が紛れているっていうか、どうよ?
まぁそれはそれとして。
ひとまず夕飯の買い物である。ゼオンがどっか行っちゃったから、戻ってくるまで帰れないので、その間に買い出しを済ませよう。
ゼオンはどうも単独行動が好きなようで、日中も用事がないとどこかへ繰り出して、夕方まで帰らないことが多い。あの野郎、俺が魔物と遭遇したらどうするつもりだ? 俺がボコられた頃になって戻ってきたらツボ押し地獄の再来待ったなしだぜ。
「あ、いっけね。ゼオンに魔力のサーチ方法教えてねぇや」
すっかり失念していた。ゼオンが元々使える能力だとばかり思っていたが、アレはデュフォーが教えたものだ。現にゼオンは瞬間移動能力や魔力探知能力を所持していない。後付け、つまり人間界に来てから手に入れたのだろう。
既にツボを押したため、魔力を探る力くらいなら掴んでいるかもしれないが、瞬間移動は無理だろうなぁ……。習得するのに何年もかかるって言ってたし。元々素養があるゼオンだから短期間で習得できたのは想像するに難くない。
マズいな。今襲われると良い獲物だ。どっかの店の中に入っていた方が賢明かもしれない。ていうかこの行き当たりばったり感をどうにかしないとな。ゼオンとコミュニケーションもうまくとれてないし。そこは今後の課題にしよう。
「お、ストリートライブか?」
どこの店に入るか検討していると、ギターを抱えた青年が路上で旋律を奏でているのが見える。思わず足を止めて傾聴していると、同じように立ち止まって耳を傾けている人がいる。
国が違えども文化は同じ、音楽に対する情熱は変わらないんだな。
曲調は、どこかで耳にしたことがあるような……ああ、ビートルズか。随分懐かしいのを弾いてるなぁ。若者にしては渋いチョイスだ。
つーかマジで便利だな「答えを出す者」。こんなところで力を発揮せんでもいいのに。
しかし、懐かしい光景だ。日本でも路上で演奏している人を見た記憶がある。国境を越えても分かり合えるモノがあるってのは良いね。目が覚めたら北極の施設だったからなぁ。よく考えてみれば人と会うのも久しぶりだしね。
「ん? あっちにもいるな」
珍しいことに、もう一人路上に立っていた。こちらは指揮棒らしきモノを掲げ、リズムよく棒を振るっている。まだ歌唱は始めていないのか、身体と棒と鼻歌でリズムをとっている。何をするんだろう、と興味を引かれた通行人が遠巻きに眺めていた。
なんとなく気を引かれ、足の進む先をそちらに向けた。観客の背中で姿が見えないのは奏者が小柄なせいか。
しかしなんだろう、あの鼻歌。どこかで聞いたことある曲調なんだが、お世辞にも上手くないっつーか、むしろ下手くそすぎて萎え―――
「……うん?」
こんなときに便利な「答えを出す者」。下手くそでも既存の曲であれば、断片的な情報から答えを導き出せる。
それで出てきた答えが……ベートーヴェンの曲、らしい。
いや、こんな騒音公害みたいな曲じゃねぇよ、ベートーヴェン。こんな曲発表したらあと100年経っても評価されんかったわ。
そしてそいつは歌いだした。途端、取り巻いていた者たちが一斉に口を引きつらせた。
少し離れたところに立っている俺の耳にも届く、不協和音じみた音声。まるで叫び声みたいな感じで歌っているから聞いてて良い気分じゃない。ほかの通行人も顔をしかめている。
「………………………ま、まさか」
猛烈な勢いで嫌な予感が押し寄せてきた。背中を這い上がってくる不安。いやいやまさか冗談だろうと思いながら、よく見える位置へと移動しようと動くのとと、ちょうど曲はクライマックスに差し掛かるのは同時だった。
すると、
「―――フォーティンヴォーデン、ウィーベロォオオオオオオオオオオオオッ!♪!♪!♪!」
頭からスライディングした。
ははは最初の敵がこいつとは誰も思うまい。
先週まで最初の敵がアシュロンだったとは誰も思うまい。