寝て起きた。気付いたら違う鎮守府にいた。それも黒い方らしい。   作:朝凪

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第五話  『とある悪夢』

 

 

 

 ーー深い深い暗闇の中、辺り一面が煙に覆われ、方角もわからないままに私は無我夢中で突き進む。

 

 

「うっ……!?」

 

 

 そんな私を狙い定めて、唸り声を上げながら砲弾の雨が襲い掛かってきた。すぐ近くに水飛沫が次々と上がり、その度冷たい海水が傷だらけの体に叩きつけてくる。

 

 

 どうして、私がこんな目に合ってるんだろう。他のみんなはどこに行ったんだろうか。……そもそも、ここはどこなのだろう。

 

 

 そんな疑問が終始頭の中を駆け巡っているが、その答えに辿り着かないままに私は走り続ける。走っても走っても、目の前の煙は一向に晴れてくれない。それどころか、濃くなっている気さえする。

 

 

「何とか、ここを抜けてっーーーーあぁぁっ!!?」

 

 

 そう呟いた次の瞬間、右腕に鋭い衝撃が走った。そして、後から聞こえてきた小さな破裂音と共に、バランスを崩した私は勢いもそのままに頭から海面に突っ込んだ。

 

 

「ぐっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!!!」

 

 

 意識が飛びそうなほどの痛みに、濡れるのも意に介さず海面で悶える。喉が裂けるほど叫び散らし、右腕を抑えて痛みを何とか紛らわせようとするも………………そこにあるべき右腕の感触がない。

 

 

 朦朧とする意識の中、チカチカと点滅する視界には……歪な断面を残して、そこから赤い液体がぼとぼとと海に零れ、海中に溶けていく瞬間が写っていた。

 

 

 ーー腕が、ない。

 

 

「っあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!?!?!」

 

 

 理解しがたい現実に直面し、せめてもの防衛本能が働いたのか一気に気が遠くなる。が、波のように押し寄せてくる激痛が、手放しそうになった意識を強引に引き戻す。

 

 

 延々とそれを繰り返し、もはや神経も衰弱しきった頃、ふいに目の前に人影が現れた。そいつは私の姿を見るなり、口元をニタリと歪ませ、手に持った得物をガチャリと鳴らした。

 

 

 もう、見なくともわかる。こいつの砲口は今、私の頭に向いているんだろう。……あぁ、私の意識が落ちるのが先か、砲弾に頭を撃ち抜かれるのが先か。

 

 

「ーーーーーーハハ、惨メダナ」

 

 

 ーー意識が途切れる寸前、最期に聞こえてきたその声は、明らかな嘲笑と、侮蔑の色が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

       *     *     *

 

 

 

 

 

北上「ーーーーっ!!!」

 

 

 意識が覚醒し、飛び跳ねるようにして起き上がる。喉はカラカラに乾ききり、息も荒く呼吸する度肩が大きく上下していた。

 

 

 霞んだ状態から徐々に視界がはっきりし始め、水銀灯に照らされた室内が目に映る。先程までの怖いくらいの暗闇は、見渡す限りどこにも見当たらない。

 

 

 そうして、私はあれが夢だと悟った。

 

 

北上「…………また、この夢……」 

 

 

 何度も見てきた悪夢から醒め、汗だくの顔を左腕で強引に拭う。ようやく薄れてきたと思ったら、忘れさせないかのようにまた浮き上がってくる。……実際、忘れなんてできないんだけど。

 

 

北上「……って、何で電気がーーーーづっ!?」

 

 

 ようやく部屋の異常に気付き、辺りを見回そうとしたその時、右腕に鋭い痛みが走った。途端に私は左手で肘から先のない右腕を抑えるが、その触れた感触の違和感に、はっと目を見やる。

 

 

北上「あ、れ……しっかり手当てされてる…………」

 

 

 さっきこそ痛かったが、前よりも痛みは引いているように思えた。……あ、他の傷にも包帯が巻かれてる。

 

 

 長門や陸奥を悪く言うつもりはないけど……艦娘の巻き方とはまた違う。……なんか、慣れてる人がやってくれたって感じだ。

 

 

北上「……あ、他のみんなにも」

 

 

 まさかと思い見渡すと、私と同じように重傷だった娘たちにも新しく手当てがされていた。心なしか、みんなの表情は以前よりも穏やかになってるような気がする。

 

 

北上「この手当てといい、電気といい……一体誰が…………っ!?」

 

 

 そんなことを考え、扉の方に視線を向けると、近くに一人の男の人が座っていることに気付いた。瞬間、喉元まで出かかった声を無理やり飲み込み、静かに大きく息を吐く。危うく大声を上げそうになってしまった。

 

 

北上「……っはぁ! び、びっくりした……誰、この人……?」

 

 

 私は身構えながらも、遠目でその人を覗き込む。すると、その男の人は寝ているようで、壁に寄りかかり、腕を組みながら静かに寝息を立てていた。

 

 

 寝ているのがわかると、私はほっと胸を撫で下ろす。男の人を見るのはあいつがいなくなった時以来で……もし起きていた上に声なんてかけられようものなら、私はもっと取り乱していたかもしれない。

 

 

 ……大丈夫、もうあいつはいないんだ。冷静にならなくちゃ。

 

 

 そう自分に言い聞かせながら、もう一度その人を見る。すると、その傍らに、血だらけの包帯やガーゼなどが山のように詰め込まれた袋が置いてあるのに気付いた。それに、組んだ腕の隙間に見える手は、ついた血を洗い落としたんだろうけど、まだ血の跡が残ってる。

 

 

北上「……もしかして、この人が…………?」

 

 

 そう結論付けようとしたその時、扉が掠れた音を立てて開いた。突然の来訪に、私の肩がビクッと跳ね上がる。

 

 

陸奥「失礼するわね……あら? 電気が直って……?」

 

 

北上「……あぁ、もう巡回の時間か……驚かせないでよ」

 

 

 扉を開けて入ってきたのは、陸奥だった。腕には、包帯などの医療器具がたくさん抱えられている。

 

 

陸奥「あ、北上、起きたのね。ちょっと待ってね、今包帯換えるから」

 

 

北上「いや、やんなくていいよ。なんかもうしてあるし。……見ればわかると思うけど、他のみんなも同じように手当てされてるよ」

 

 

陸奥「え? ……本当、きれいに巻き直されてる。どうして……?」

 

 

北上「……多分、そこで寝てる人がやってくれたんじゃないの?」

 

 

 そう言って、私は陸奥の後方を指さす。陸奥は私の言葉に疑問符を浮かべながらも、言われたとおりに振り返り……叫び声を上げようとして、すぐさま口を塞いだ。

 

 

陸奥「きゃっ……!! ……あ、危なかった…………この人は?」

 

 

北上「……知らないよ。気付いたら手当てされてて、いつの間にかその人がいた。あとは手に血痕が残ってたから、あたしが勝手にそう思っただけ」

 

 

陸奥「……そう。多分、電気を復帰させたのもこの人ね。……けどもしかしたら、さっき長門が言ってた侵入者かもしれないわ」

 

 

北上「侵入者?」

 

 

陸奥「さっき長門が廊下で出くわしたって言ってたのよ。ーーとにかく、この人に聞くことは多そうね」

 

 

 陸奥はおもむろに立ち上がると、未だ眠っている男の人に鋭い視線を向けながらそう言う。……その言葉には、とても拭いきれないような、あの頃と変わらない敵意が宿っていた。

 

 

 

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