出でよ来たれ異界の戦士たち   作:フグ田ふぐり

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2.魔王

 **

 

 

 それから幾日か経った。

 ユージは兵達と訓練を重ね、と同時に、兵達を率いる将軍と何度も膝をかわして作戦を練り――

 そしていよいよ、魔王の軍団と相対する時が来た。

 

「アレがそうですか」

 

 見渡すかぎりの地平線。穂波のように波打つ草原のはるか彼方に、土煙をたちのぼらせてこちらに迫る、まっくろな塊があった。

 あまりに遠く離れているので、人の目にはそのようにしか映らないのだが、もちろん、近くに寄れば、その異形どものおぞましい姿を見ることができる。

 

「左様。石の巨人に、六手の骸骨。空飛ぶ獣に、緑衣の人型。不死者(ゾンビ)もいれば、粘体生命(スライム)まで。じつに多様な魔物の集団です。その最後尾に『魔王』がいるとの情報が、偵察から入っておりますぞ」

 

 と答えのは、派手な鎧をまとった壮年(オッサン)兵士。彼こそが、人類の守護者たるアルテミア神殿兵団の将軍だったのである。

 

「オーサン将軍。その魔物達にたいして、兵はどこまで戦うことができますか」

「敵の数はおよそ三千。これを壊滅してみせましょう」

 

 壮年(オッサン)将軍はニヤリと笑ってみせた。

 

「どいつもこいつも一対一で戦っては敵わぬ強敵ばかりですが、こちらの数は倍の倍。あっという間に取り囲んで、嬲り殺して見せましょうぞ。……と言いたいところですが、手はず通り、魔法士は派手に動かすことができません。じっくり時間をかけた一進一退の戦いの末、ようやくといったところでしょうか」

「頼もしいです。あれほどの魔物の群れに対処できる国は、俺の世界にもなかった。なかには滅ぼされた町さえあるんです」

「ですが、ユージ殿。かんじん要の魔王については、あなたに任せることになる」

 

 オーサン将軍の目が語りかける。

 ――やってくれるか。

 

「任せてください。必ず役目を果たします。皆で勝ちましょう」

 

 ユージの瞳が答える。

 ――必ずや。

 

 その応えを聞くや、オーサン将軍はふり返って後ろに居並ぶ兵士達めがけて声を張りあげた。

 

「聞いたか、お前達。魔王を倒すぞ!」

 

 たちまち兵士達の唱和が答える。

 

「魔王を倒すぞ!」

 

 こうして、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 **

 

 

 ユージ達は砦の壁上に陣取っている。

 そこは、ユージが召還されたアルテミア神殿から、東に馬でわずか一刻ほど離れた場所。

 聖王国最東端の国境付近。魔物の領域との境目にある、ここバクラタ砦にて、人類の命運を決する一戦は行われた。

 

「まだだ、よーく引きつけるんだ」

 

 オーサン将軍の低い声が、兵の逸る心を押しとどめる。

 兵は、城壁の上に横一列になって弓を構え、敵の迫るのを今か今かと待ち構えている。

 ギリギリと引き絞られた弓が、今にも弦を引きちぎるかと思われたそのとき、

 

「今だ、放て!」

 

 いよいよ号令は放たれた。

 矢は、ヒョウと空気を裂いて飛翔する。

 それが雨あられと降り注ぐものだから、戦場はけたたましい風切り音が吹き荒れ、野分けにあったかのようだった。

 

 篠突く雨のような矢。射られた魔物が、バタバタと倒れる。

 しかし、それだけで倒しきることができるほど容易な相手ばかりではない。「空飛ぶ獣魔」はこれを旋回して躱したし、「腰蓑の巨人」は倒れたそばからむくりと起き上がり、「六腕の骸骨」はスカスカの身体を通り抜けるばかりで、「石の巨人」にいたっては矢を弾き返した。

 小賢しいことには、魔物どもは「石の巨人」の影に隠れる動きを見せた。

 それは、魔物の群れがぎゅっと密に固まることを意味した。

 

「これは都合が良い。今だ、魔法士隊、前へ!」

 

 弓兵の間から、するりと新たな兵士が現れる。

 彼等は、もうずっと前からぶつぶつ呪文を唱えながら、魔法をぶつける最高の機会をうかがっていたのだ。

 

 この世界の魔法はけっして強くない。魔法を唱えるくらいなら、大槌でも振りまわした方がてっとり早く、また威力もはるかに大きい。魔法士ひとりの火力など多寡が知れている。

 だが、数を集めれば魔法は化ける。

 

「魔法を束ねよ!」

 

 魔法士の一人ひとりが掌に浮かべる、小さな火球。

 それらは、ふわりと宙に浮かびあがると、お互い引き寄せ合って宙空でひとつになる。ある種の魚が群れをなし、ひとつの巨大な生物のごとく泳ぎまわるように、火球は、炎の大蛇をかたちづくった。

 突如として空に現れた、巨大なくちなわ。

 それは、すべてを呑みこむ貪欲な大蛇である。魔物の群れに喰いついて、次々と魔物を貪った。大蛇の通ったあとには、炭となった魔物のなれの果てが転がるばかり。

 

「行け、行け、倒せ! 魔物を倒せっ!」

 

 そんな兵士の声援を受けて、大蛇は魔物の群れを突きすすむ。

 最前列の壁を抜け。どんどん奥へ奥へと頭を突っこみ。群れの中央を喰い荒らし。そしてとうとう最奥へ届くかというあたりで、ふっとその姿をかき消した。

 まるで、穴倉に頭から入っていったかのように、あっという間に大蛇の魔法は消えたのである。

 

「魔法がっ、我らの軍唱魔法が破られました!」

「おちつけ、これは作戦どおりだ!」

 

 悲鳴をあげる兵士を、オーサン将軍が叱咤する。

 

「見よ。魔法が潰えたあの場所に、魔王はいる。そして、魔王への道は拓かれた。今こそ、我らが希望の星、勇者様が魔王を討ちに行くのだ! 供をせよ、共に魔王を討つのだァ!」

 

 その言葉の言い終わらぬうちに、ユージは城壁から飛び降りた。四肢をついて地面に降り立つと、そのまま転がるように前方へ駆けだす。

 

 威厳ある緑のローブがはためく。鏡のような美しい盾を左手に、不思議な形状の大剣を右手にそれぞれ携えた姿は、まさしく伝説に語られる「勇者」。魔物の軍団めがけて突貫するその背中に、心打たれぬ兵はいなかった。

 

「うぉぉ、続け、続けェ!」

「遅れるな!」

 

 城門が開くや、兵士達が我先にとまろび出る。

 彼等は「勇者」の背中を追い、その先にいる「魔王」を目指して、がむしゃらに駆けだした。

 いよいよ、両軍がぶつかった。

 

 

 **

 

 

 人類の勢いは、しかし、長くは続かなかった。

 いよいよ刃を交えてみれば、やはり魔物の強さは比べものにならない。

 ひとつには、死してなお戦い続ける無敵の戦士「不死人(ゾンビ)」の存在である。ヤツラは、いくら斬られようが刺されようが、決して足を止めない。彼らの目には、兵士の姿しか映っていないように思われた。

 その証左に、

 

「あアぅゥ……」

 

 兵士が突き出した槍へと、そのままぶつかって来たのだ。

 ずぷりと胸に刺さった穂先が、そのまま背中から飛び出す。

 そうして槍に縫いつけられた我が身を顧みず、一歩また一歩と、ヤツラは前進を続ける。

 ずるずると槍を伝って前へ前へと進み、

 

「うおおっ、やめろっ、来るなぁぁあ!」

 

 ついに兵士を捕まえた。

 両手を兵士の腰に回し、鎧からのぞく肌色、つまり首元に乱杭歯を突き立てる。

 顎が限界を超えた力を発揮し、皮膚をひき裂き、肉を食いちぎる。

 やがて歯が頸動脈をとらえた。ぷるぷると弾力に富んだ赤い脈。それを、亡者の歯は躊躇なく食いちぎった。

 

「いぃぃぃぃっ!?」

 

 声にならぬ悲鳴をあげて、兵士が激しく身体を痙攣させる。

 やがて痙攣が収まったとき、そこに在ったのは、もの言わぬ亡骸であった。

 

「コリンズっ!? 畜生、コリンズがやられた!」

 

 隣で槍を振るっていた兵士が叫ぶ。

 その眼前には、おなじく槍に貫かれたまま元気に前進を続けるゾンビの姿があって、それは、彼にとっての死神の姿に他ならぬ。

 

「このままじゃあ、もう……。誰か、誰かなんとかしてくれぇ!」

 

 その叫びに応えるように、

 

「任せろ」

 

 一陣の風が駆けた。

 ユージである。

 大剣を振るい、稲妻のような軌跡を空中に描く。

 軌跡の数だけゾンビが斬り伏せられ、兵士が救われる。救われた兵士は、安堵の息を吐いて、それからはっと思い出したかのように味方の援護に走る。

 

 そんな兵士たちめがけて、今度は空中から、(やじり)の大群が飛来した。

 よくよく見れば、それは、白く輝くするどく尖った氷塊だと知れた。

 

「空飛ぶ獣だ!」

「やつら、氷の魔法を撃ってくるぞっ」

 

 先程の意趣返しとばかりに降りそそぐ鏃に、バタバタと兵達が倒れる。

 

「間違いない。アレは『キメラ』だ」

 

 ユージは、屍を量産する憎き敵をキッとにらみつけて、呟いた。

 

「さっきの『くさったしたい』といい、訓練場の『うごくせきぞう』といい、やっぱり間違いない。こいつらは『ドラゴンクエストⅢ』の魔物だ」

 

 ユージは、片手を空にかざし、

 

強化真空呪文(バギマ)

 

 力ある言葉を唱えた。

 それは、世界に呼びかける呪い(まじない)である。

 ユージの意に応え、大気が咆哮をあげる。

 

「なんと!」

 

 その現象を目の当たりにして、兵士達は目を剥いた。

 それまで人々が蹂躙されるのを黙って眺めていた空気が、突然暴れだしたのだ。

 自然の意思とでもいうべきものが、大気をめちゃくちゃにかき回す。空は渦を巻き、あらゆるものを巻き込んで、びゅうびゅうと唸り暴れまわる。

 大気の層がばっくりと裂け、そこから、真空の刃が飛び出した。

 不可視の刃を飛ばす、小規模の竜巻。それは、あきらかに魔物を敵と見なしていた。空飛ぶ異形の獣をからめとり、ズタズタに引き裂いて、地面に弾き飛ばしたのだ。 

 

「おぉ……なんという魔法だ……!」

 

 倒れ伏したまま、その兵士は、魔物が蹂躙される様にしばし見入った。

 

「大丈夫ですか。いますぐ回復をします。――集団回復呪文(ベホマラー)

 

 それは、一体なんという奇跡なのだろう。

 傷口はたちどころに塞がり、しかもそれは傷の大小に関係なかったので、致命の傷を負ったものは一命をつなぎとめた。

 のみならず、身を動かしてもそれほどは痛まず、戦闘行為にほとんど支障をきたさなくなったのだ。

 

「なんだこりゃ、傷が治ってくぞ!」

「うひゃあ、どうなってんだ!?」

「勇者さまの魔法だ! いいか、絶好の好機だぞ、押し返せ! 弓兵は鳥のバケモノを射ろ。前衛は弓兵と魔法士を守るんだ!」

「応!」

 

 望外の支援を受け、浮き足立つ兵士達。隊長たちの叱咤激励に、彼等は気を引き締めなおす。

 

 奇跡はまだ終わらない。

 魔物による、正面と頭上の多面攻撃。それを危うしと見てとったユージが、

 

鎮魂呪文(ニフラム)

 

 と呪いを唱えると、掌から青白い光が飛び出し、正面のゾンビにまとわりついた。

 光そのものが毒だとでも言わんばかりに、ゾンビは苦悶の声をあげる。それは、はじめて耳にするゾンビの悲鳴であった。彼らは、兵士がどれだけ槍やら剣やら弓矢やらを突き立てようともお構いなしに、恨みがましい呻き声をあげて迫ってくる。それが、今はじめて及び腰になったのだ。

 あるいはそれは、死者をもてあそぶ邪悪な呪いを払う、救いの浄光だったのかもしれない。苦悶の悲鳴をあげるゾンビは、しかし、やがて表情を安らげ、そのまま静かな眠りについた。糸の切れた人形のように地面に倒れ、そのまま、もの言わぬ屍へと戻ったのである。

 

真空呪文(バギ)

 

 お次は、空めがけて魔法を放つ。

 真空の刃が、ねらい過たず魔物の翼を切り裂いた。

 片翼を必死に動かして軟着陸を試みる魔物を、ユージは、

 

「たぁっ!」

 

 一振りで左右に引き裂いた。

 魔法を放つ傍ら、剣を振るう。

 けっして太いとは言えぬ腕に、いかなる剛力が秘められているのだろうか、一刀のもとに敵を二つに断ち切る姿に、兵士はポカンと大口を空けて見入ってしまった。

 

「すげぇ……流石は勇者さまだ!」

「俺たちも続くぞ!」

 

 ユージは次々と魔物を屠っていく。

 兵士たちの元を離れ、単騎で敵陣を引き裂いていく圧倒的な姿は、まさに伝説に謳われる勇者そのものである。それを見れば、誰しも勇気付けられ、我も我もと奮い立たつ。

 

 兵士たちは気炎をあげた。

 空飛ぶ獣(キメラ)をあらかた落とした甲斐あって、兵士たちは危なげなく不死者に対処しはじめる。

 

 

 **

 

 

 もうどれだけ、そうして戦っていたのだろう。

 ユージは、敵を斬り伏せては魔法を放ち、空の魔物を堕としては味方の元へ駆けつけ、回復魔法を施しては敵を求めて駆けだしてと、八面六臂の大活躍だった。

 しかし、それでもやはり魔物は強く、多い。

 

「もう少しだけ、持ちこたえてください!」

 

 どんどん倒れていく兵士たちに、血を吐くような思いでユージは檄を飛ばす。

 

「あと少しだけ削れば、あとは俺が……!」

 

 まだかまだかと逸る心をおさえつつ、ユージは戦場をひた駆ける。無限にも思える時間が経って、そして、ようやく待ち望んでいた声が届けられた。

 

「ユージ殿ォ! 全員、退避完了ォ、魔法士も配置完了しましたァ!」

 

 はるか彼方からいんいんと木霊する声。それは、砦に構えられた本陣から、魔法の力で拡声されたオーサン将軍の声である。

 その声の伝えるとおり、いつしかユージは戦場で孤立していた。多くの兵が死に、そして、魔物のほとんどが討たれ。この場に残るは、まばらな魔物の群れと、魔王の本陣だけである。

 

「ずっとこの時を待っていた!」

 

 ユージは、魔王本陣へ飛び込むや、ありったけの魔力を解き放つ。

 

極大旋風呪文(バギクロス)!」

 

 それは、すべてをなぎ倒す極大の旋風(つむじかぜ)

 人魔もろとも巻きこみ吹き飛ばす暴風が、ぐるぐると渦を巻く。あるいは砂礫をぶつけて魔物を殺傷し、あるいは刃のような風で切り刻み、またあるいは上空高くへ放り投げる。空を飛んでいた魔物も、翼を折られ、もみくちゃになって放り出されて地面にぐちゃりと叩きつけられ絶命した。

 

「これで邪魔者は入らない。ようやく二人になれたな」

 

 狂風吹き荒れる戦場で、その猛威を逃れうる場所はただひとつ。

 竜巻の目。

 旋風の中心地たるそこだけは、凪いでいる。四方を狂風に囲まれた、いわば逃げ場のない闘技場に、ふたりの人魔が対峙する。

 

「誰かと思えばお前か。たしか、ユージと言ったか。懲りもせず、またやってきたようだな」

 

 己を守る配下を喪い、しかしそれでも、ソレは変わらず悠然とたたずむ。

 なるほど、魔王という呼称は相応しい。あたりを払う威とでも言うべきものが、ソレには備わっている。

 ソレは、哀れむようにささやいた。

 

「何故、ありもせぬ希望にそれほどしがみつくのだ」

 

 ぬるりと足許から這い寄ってくる、邪悪な声。

 それはまっくろな色をそなえ、瞬くうちに、あたり一帯の空間を塗りかえた。

 

「何故、もがき生きるのか。滅びこそ我がよろこび。死にゆく者こそ美しい」

 

 暗黒の障気があたりに満ちる。

 とこしえの夜に沈んだかのような、それはおどろおどろしい気配だった。

 その中心にいるのは、巨躯の魔王。

 青白い肌に、側頭部のおおきな角。頭部にはぎょろりと生えた三番目の、巨大な目玉がこちらを見据えている。地獄から現れたかのような、あるいは地獄そのものが形を成したかのような、その出で立ち。

 ソレは、両の(かいな)を広げ、やさしく冷酷に死に誘う。

 

「さあ、我が腕の中で息絶えるがよい」

 

 ――大魔王ゾーマがあらわれた。




5,936文字


主人公はDQ3の僧侶(としてラスボスまで戦い抜いた転生者)です。どの時点で気付かれましたでしょうか。

<そうび>
E.ゾンビキラー
E.ドラゴンローブ
E.みかがみのたて

装備品の描写だけで気付いた方は凄いです。DQマニアです。

<登場モンスター>
 うごくせきぞう(石の巨人)
 くさったしたい(不死人)
 トロル(腰蓑の巨人)
 キメラ(空飛ぶ獣)
 じごくのきし(六腕の骸骨)
 エビルマージ(緑衣の人型)

すべて分かった方はマニアックです。

次回は、クロスオーバーでは扱いの難しいあの作品から、まさかのあのキャラが登場します。

どの時点で主人公の正体に気付きましたか。

  • 最初の主人公の描写で
  • 訓練場の魔物の描写とその他の魔物の情報で
  • 決戦における魔物の群れの描写で
  • 魔物の名前が出たときor魔法名が出たとき
  • その他
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