釘崎野薔薇と呪詛師がたたかうおはなし。

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短いですが。感想待っています。


釘崎野薔薇という女

ここは原宿。私は目一杯オシャレした。粧し込んだ。ムカつくことに虎杖は最近、優子と遊びに行くことが増えた。いや、優子のことは応援する。だが、虎杖が先に彼女持ちになることは許さん。だからこそ。

 

私が先に彼氏を作ってやればいいのだ。イケメンなら言うことはないが、この際そこまでのスペックは求めない。顔と名前が一致するような田舎じゃない、この都会で。見たまんまの私を求めてくれる男をまずは探す。ま、私はカワイイからな。ナンパぐらい余裕でされっだろ!とかタカをくくってたらもう夜?私のご尊顔に少しはみとれろよなぁ。すると。

 

「あ、お姉さん綺麗じゃん。いいね」

 

「俺たちと遊ばね?カラオケとかさ」

 

「たっくん、それ良い案ー。きみJK?」

 

……こういうのは求めてないんだけど。ブサイクとまでは言わないけど、フツメン。点数にするならアベレージ63点。せめてひとりで話しかけてこいよな。

 

「褒め言葉はありがたく受け取っとくけど、ノーサンキュー。1人でダメなら3人で、とかいう思考する男、私嫌いだから」

 

「…………ああん?」

 

「おい、クソアマ調子に乗ってんじゃねえぞ」

 

「お姉さんお姉さん、こいつら見ての通り、ちょっと怖いからさ。従っときなよ、ね」

 

最後の男の言葉に苛つきが止まらない。悪い警官と良い警官の手口かよ。んなもんで騙されるほどオツムが弱い女だと思ってんのか?

 

「うるせぇな。テメェみたいにヘラヘラしてるやつが一番ムカつくなんだよ。女にたかる蝿かお前らは?うじゃうじゃ群れてると保健所に駆除されても知らないわよ。んで、さっさと離れろ。……腐臭がすんだよ」

 

「てめえ、殺すぞ」

 

「あーダメだわこいつ。やっちゃおうぜ、原くん。原くんの悪口ここまで言うなんて馬鹿な女」

 

「そうだねー。俺ヘラヘラしてるーとか言われんの一番嫌いなんだよ。この3人のボスは俺だから。お姉さん間違えちゃったね」

 

周囲には溢れかえるほど人がいるっつうのに。見て見ぬ振りかよ。田舎の人間もクソだけど、こっちも大概だよな。パンピーに釘打つのはまずいか?でも、私という女をコケにしてくれたんだから、トンカチくらいなら許されるよな。

 

「嫌なら車あっから、乗れよ」

 

「それ断るなら湾に浮かべてやる」

 

「ごめんねーお姉さん。どっちかはもう決定事項だからさ。ちゃっちゃと決め……っ!?」

 

私を囲むようににじり寄って来た男Cを誰かが投げ飛ばす。そしてそのままAとBを突き飛ばした。睫毛が綺麗なやつだな。女?いや、体つきからすると男か。赤髪のイケメンだな。

 

「にいちゃんたち、ダサい真似は止めなよ。ただでさえ、見てて痛々しいのに断られたからって乱暴なことするなんてますますカッコ悪い。鏡とか見ないわけ?」

 

「んだと、このクソ野郎!」

 

「いってぇな……」

 

「たっくん、もっくん、やっちゃってよ」

 

男たちが謎の闖入者に殴りかかるが、彼はするりと躱し、その慣性を利用して軽々と投げ飛ばしていく。武道の経験があるのか。やべえ、イケメンが戦ってる姿って絵になるんだな。

 

「くっそ……」

 

「こいつ強えよ、原くん!」

 

「チッ、役立たず。あーあ、仕方ないなぁ。これって正当防衛になるよね?」

 

男Cがナイフを取り出した。おいおい、こんな衆人環視の下で刃物出すなんてラリってんのか?普通に過剰防衛だろ。誰か早く警察呼べよ。いや、このイケメンが危ない。例え武道の達人でも下がコンクリで武器を使ってくるような相手と対戦するとなると都合が違う。普通ならビビって……お?

 

カキンと音が鳴った。綺麗な蹴撃だった。真希さんの鍛錬風景を見慣れてる私なら分かるが、男たちには何故ナイフが真っ二つに折れているのか認識すら出来なかっただろう。そして、もう片方の足で上段蹴り。

 

「は、原くん!」

 

「やべえよ、こいつ!逃げろ!」

 

男たちは逃げていった。……もしかしてだけど、これって私を助けてくれたの?

 

「やぁ、お姉さん。怪我は無い?誰かと待ち合わせしているの?そうじゃなかったら、僕とごはん食べに行かない?奢るよ」

 

見事なナンパだった。だが、彼から目を離せない。その魅力が外見からも漂ってくる。

 

「……私でいいの?」

 

「やだなぁ。お姉さんみたいな綺麗な女の人が何言ってるのさ。さっきは運が悪かったね。東京も普段はこんなに治安悪くないんだよ」

 

「えっ。もしかして、私、田舎感丸出し?」

 

「そういうわけじゃないよ。ファッションもイケてるし、メイクも大人っぽい。ただ、そのバッグだね。けっこう古い型のものだ。僕は便宜上きみを[お姉さん]って呼んでるけど、たぶん僕より若いはず。その年頃の子がお出かけ用に選ぶようなものじゃないから、カマかけてみただけさ」

 

うっ、鋭い男だ。呪術師として仕事してるから、給料はわりと出るんだけど都会のバッグは高い。新調しにくいのだ。

 

「凄いですね……」

 

「タメ口で構わないよ。僕は神敷馨(かんじき かおる)。馨って呼んでほしいな。お姉さん?」

 

「ふふっ。私は釘崎野薔薇。私のことも野薔薇でいい。アンタ面白いしカッコイイから、その申し入れ受けることにする」

 

「ありがとう」

 

彼はニコリと笑う。うひゃー!イケメンの笑顔って破壊力高ぇーなおい。私のことを若いと評した馨だが、彼もそんなに歳は変わらない気がする。喉仏無いし。ま、ボチボチ話せばいいか。

 

 

 

「出張?お土産期待してるぜ先生!」

 

「こいつにそんなもん期待するなんてアンタは馬鹿ね。せいぜい面白くもない自慢話をするのが関の山でしょ」

 

「釘崎の言う通りだ。まぁ、予算があればお土産は買ってくるかもしれないが、大したものは買ってこない。期待なんて意味無いぞ」

 

「教え子が辛辣……」

 

「んで、どこ行くの」

 

「カタール」

 

「なんですか、そのチョイスは」

 

「カタールには時折、〈悪魔の角〉っていう現象が起きるんだよ。蜃気楼と日蝕の合わせ技のようは自然現象なんだけど、呪霊がとんでもなく集まるんだ。あの辺は呪術師そんなに居ないから、ヘルプ要員として日本から5、6人来てくれって言われたけど、僕ひとりが行けば済む話じゃん?」

 

「自慢っすか?」

 

「違うよ。上の連中がまた騒ぎ始めてる。悠仁を狙ってね。とは言え、悠仁を殺そうと思ったら現状やつらの戦力じゃ足りない。だから」

 

「俺や釘崎を狙うと?」

 

「その通り。だから僕が帰ってくるまでは出来ればツーマンセルで行動するか、自己責任で動くか。その辺り任せるよ」

 

「ハァ?何で私が伏黒と過ごさなきゃいけないのによ。もうすぐ、せっかくの連休なのに!」

 

「俺も御免ですね。せっかくの休暇なら鍛錬がしたい。俺も釘崎もそこらの呪詛師にやられるようなヤワなやつじゃないです」

 

「ふーむ。まぁ、でも気を付けてね。上の連中は体面を大事にするやつらが多いからそんなに派手なことはしないと思うけど、〈百足〉が動き出したって話だから」

 

「あの〈百足〉が!?」

 

「誰それ」

 

「呪詛師。間違い無く僕よりは弱いね。でも、その辺りの準一級が3人は欲しいくらいの戦力かな。元は悠仁殺しのために要請されたけど、断ったらしい」

 

「知らんところで命が助かっている」

 

「彼女は無茶な依頼は受けないことで有名だから。ちなみに術式はサッパリ分からない。戦ってきたやつは全員死んでるからね」

 

「…………っ!」

 

「女、ですか。もっと特徴とか分かんないですか?身長・体型・毛髪とか」

 

「身長は普通。高くもなければ低くもない。髪の毛は金に染めてるって話だけど、そんなもんいくらでも偽造できるしねぇ」

 

「女ひとりでしょ?私もそこまで聞けば無茶しないし、心配は要らない。ヤバかったらダッシュで逃げて高専に連絡いれる。OK?」

 

「それでいいよ。高専にしばらくは七海とか学長が居るはずだし対処は出来るでしょ。野薔薇のことはともかく、僕は恵が心配だ」

 

「俺が釘崎より劣っているとでも?」

 

「ハァ?私の方が強いに決まってるでしょ!」

 

「強弱の話はしていない。だって、恵はこの中で黒閃出したことがない唯一の術師だもん。普段は冷静なくせに血が昇りやすいし」

 

「…………それはまぁ、そうなんですけど。いや、でも俺には領域展開が……」

 

「不完全なアレね。鍛錬がしたいならまずはそこからだよね。はい。と言うわけで解散解散」

 

 

戻って。私がチンピラ3人に絡まれてから2時間後、私はすっかり出来上がっていた。もちろん酒は飲んでいないのだが、詩織のことを話してしまった後はもう田舎へのdisが止まらずコーラを飲みまくっていたのだ。

 

馨はとても聞き上手で共感してほしいことと解決してほしい問題に答えることの区別がしっかり付いている男だった。この容姿だし、さぞかしモテるんだろうな。とは言え、このタイミングで現れた凄腕の体術使いが只者であるわけでもなし。

 

自分で言うのも何だが気分はハイになっているけれども、裏では冷静に頭は動いていた。十中八九、こいつが〈百足〉なる呪詛師だろう。でも、女だって話だったんだけどな。チームを組んでるとか?

 

「アンタさ、なんていうか中性的だよね。馨っていう名前だって男でも女でも使えるし。……どっちなの?」

 

「男だよ。胸が無いだろう?」

 

「下触るまで分かんねぇだろ」

 

「ははは、確かに」

 

彼はしっかりと笑う。少なくとも目で見える範囲では男だな。目の奥まで演技し切っている。でも、あの五条が術師の性別すら取り違えるなんて有り得ないだろ。例え、不確定な情報だったとしても生徒が生きるか死ぬかのところでアイツは間違えない。

 

だとしたら、馨は男だ。そして、同時に女でもあるのだ。無意味なナゾナゾじみた状況だが、私には知識があった。マジでパンダ先輩には足向けて寝られねぇな。

 

 

「天使って知ってるか?」

 

「何よパンダ先輩。藪から棒に。それくらい一般常識として知ってるっつうの。馬鹿にしすぎ」

 

「一般常識じゃなくて呪術的知識として、だ。よその国にめちゃくちゃデカイ某宗教があるだろ。日本じゃ国を造ったのは2人の神だ。だが、そこじゃ世界を1人の神が作った」

 

「で?」

 

「態度悪いなー。真希にのされて足首捻挫したおまえのための講義だぞ。高専じゃ、教えてくれないからな」

 

「えっ、そうだったの?てっきり、ただの雑談かと思った。いや、というかそういう授業はするべきな気がするんだけど、なんでしないのよ」

 

「知らん」

 

「…………………………はぁ」

 

「ま、人手不足なんだろうな。それで続きだ。呪術的な学説として理解されているのは、その神とやらはとんでもなく強い呪術師だったんだろうってことだ。だが、神は世界を作ることは出来ても運営することは1人じゃ無理だった」

 

「それで天使。四大天使とか?」

 

「そう。ミカエル・ガブリエル・ラファエル・ウリエル。あとはラグエル・ゼラキエル・バラキエル・アナエルとか。まぁたくさんいるけど、やっぱり中心的なやつとなると4体くらいだよな。ここで気付くことある?」

 

「……エルで名前縛り?」

 

「お、正解だ。神は呪術師だ。当然それくらいの縛りは思い付くだろう。そして、これまで有力視されてた学説では、天使ってのは呪骸だと言われていた」

 

「たくさんいるから?」

 

「それもある。だが、大きな要素としては宗教画なんかに描かれるように天使は男にも見えるし女にも見える。そして、どちらでも無い。中性じゃなくて無性だ。天使が呪骸ならその説明は付く。そりゃ、要らないんだからわざわざ人形にゃ付けないだろう」

 

「パンダ先輩はそう言うけど、神が呪骸使いなら世界を作ることは出来ないんじゃないの?だって術式は1人につきだいたい1つでしょ」

 

「その通り。天使が強くて優れた呪骸だと説明すればするほど、神の正体がブレる。そして、最近じゃこれに代わる学説が持ち上がってきた。曰く、天使は呪骸じゃない。天与呪縛された呪術師だ、ってな」

 

「…………っ!」

 

「男という側面が元から無かった呪術師。女という側面が元から無かった呪術師。そして、名前縛り。昔と今じゃ呪術体系の築かれ方が違うから言い切るわけにもいかないが、神と天使たちは強い呪術組織だったんだろう」

 

「そういうやつは普通に生きることが難しいのは想像がつく。集まるのも然もありなん、か。そして、天使に子供は居ない……」

 

「この学説で考えると天使には子供を作る能力が無い。文字通り天に奪われたのさ」

 

「それで神?それで天使?キショ。まぁ、その辺りは伝聞、なのか……?」

 

「どうだかな。誰が名乗り出したのかは分からないが、少なくとも名前を付けたやつには人間の心ってのが無いらしい」

 

「パンダ先輩的にはどうなのよ」

 

「……分かんね。俺、呪骸だし。でもまぁ、真希しかり天与呪縛の恩恵を受けてる呪術師は厄介だ。そしてメカ丸みたいに呪力があるタイプはさらに厄介だってこと。戦場じゃ知識の有る無しは生死に繋がる。覚えておいて損は無い」

 

「パンダ先輩。……あざっす」

 

 

分からないと濁したパンダ先輩の心持ちは実際はどうだったのだろう。今でもそれを推し量ることは出来ないが、結局は。人間というものの醜さや汚さを言いたかったんだ。それ以上に呪術師の生き方ってやつを。そして呪術師が死んだあと、どう伝え遺されるのか。

 

さて、馨は私にナンパまでして喧嘩売りに来たんだ。私は売られた喧嘩は買うタイプ。ここはレストラン内。芻霊呪法なら机の下でもスマートに発動出来る。単純な呪力が込められているわけではないが術師は生きているだけで残穢を漂わせてしまう。

 

テーブルの上には使用済みのナイフ・フォーク・スプーン・ナプキン。釘やトンカチなんて使わなくてもいい。伏黒だとこういうときもやっぱり自分のカタチに拘っちゃうんだろうな。でも、呪術師はもっと自由でいい。勝てばいい。殺せればいい。祓えればなんだっていいんだよ。

 

「し、しゅ………ね?」

 

死ねと言うつもりだった。イケメンにナンパされるなんて東京に来た甲斐があった、なんて考えていた。それほどまでに私は自身の勝ちを確信していた。あぁ、クソ。そういうことか。勝てばいい、なんて当然馨だってそう考えているはずじゃん。馬鹿だなぁ、私。

 

「悪いね。薬を盛らせてもらった。でも、安心してよ、野薔薇。僕は君をすぐ殺すつもりは無い。もう少し君が鈍感だったら、誘い出そうとしていた場所があるんだ。それにしても、やっぱり高専の連中は曲者揃いだな。ひとりひとりに分けて正解だよ」

 

意識がゆっくりと沈み込んでいく。その数秒で私の中で私が叫んだ。叱咤ではない。悲鳴でもない。絶叫だった。うるさくてうるさくて、到底無視出来ないものだった。

 

 

 

テメェ、それでも釘崎野薔薇かよ!

 

 

 

「っ、だよなぁ!!」

 

「!?」

 

「キャアアー!!」

 

「お客様ー!?いったい何を!?」

 

無意識の中で私はナイフを掴んで刺していた。自分の手首に。血が溢れる。飛び散る。帳下ろしてねぇから、少しヤバイけど。まぁ、私たちのバックには五条がいるんだ。生きて帰ってきたら、充分だろうが。

 

「そこまで、するとは!いいねぇ!野薔薇!僕が見込んだ以上だ!凄腕の呪詛師になるための条件を知っているかい?それはイかれてることだ。人を殺し物を潰し自然を破壊し、呪われながら呪い返す!そんなことが出来るのはネジが5本6本外れてるヤツだけなんだよ!」

 

「うるせぇ!ぶっ殺す!!」

 

太ももに仕込んだ釘を飛ばす。釘は天井に壁にぶち当たる。ナイフが刺さったままの手でトンカチを持つ。痛みなんて気にしてちゃ話にならねぇ。馨の言ってることはある程度正しい。だが、正解でもない。

 

「馬鹿か!凄腕の呪術師になるための条件を知らねぇのかよ!死んだヤツが善良なパンピーだろうが悪徳なヤクザだろうが、呪霊を祓って綺麗事抜かさなきゃいけねぇんだぞ!ネジが7本8本飛んでねぇと凄腕にはなれねぇ!」

 

「術式・千眼菩薩……!」

 

雷鳴が轟く。マジかよ。笑えねぇ。こんなインレンジまで迫ってんのに馨には余裕がある。レストラン内の私以外の人間を気絶させた。それほどまでに術式の展開速度が速いのだ。先ほどチンピラを吹き飛ばした蹴撃が肩にかかる。無理に抵抗せず、真希さんに教わった通りに受け身を取った。

 

「精霊の力を借りた雷撃を視線の延長線上に放つ。シンプルな術式だろう?シンプルだと術式開示も手早くて済むから楽だね」

 

精霊レベルの雷撃。そんなものが使えるのだとしたら術式開示すらする必要は無い。精霊とは自然そのものから発生する現象だ。だから、推測出来る。センガンボサツとやらは馨の本当の術式じゃない。何らかの呪霊の力を借りているのだろう。

 

目線は右、斜め上。反転して躱し、切れない。

 

「くっ!」

 

「百足には100本しか足がない。不自由だと思わないかい。しかも、目に至っては2つしかない。そんなもの!不具合ばかりの人間と同じじゃないか!!だから、千眼菩薩は千の方向から放てる。まぁ、野薔薇が見た通り、同時に12本しか撃てないけどね」

 

こんなもん、領域展開してるのと同じじゃねぇか。必中の雷撃。雷撃は私の肩を貫く。だが、血は出ない。代わりに激痛と痺れと熱が走る。

 

天を仰ぐ。向こうはどうやら私を本気で殺すつもりが無いらしい。呪詛師に勧誘して来たときはトチ狂ってんのかと思ったが、マジかよ。イケメンは何考えてんのか分かんねぇ。

 

「僕もさ、田舎の生まれなんだよ。超が付くほどのど田舎。野薔薇は何で分かったんだい。そうとも。僕は男であって男ではない。だからと言って女じゃない。中途半端な存在さ」

 

「天与呪縛か……」

 

「そう。戸籍上は男だったけど、生まれつき声帯の一部分が欠損していた。生殖器も無かった。でも、それだけじゃあ、無いんだよ。僕は特別だった。僕は女でもあったのさ」

 

「〈百足〉は……女……だって、聞い、た」

 

「そうだよ。簡単に言えば僕は二重人格なのさ。どういう意味か分かるかい?2つの精神に対して肉体は1つ。つまり、生まれつき肉体がまるまる1つ欠損していたということに他ならない。だからこそ、僕は村では神だった」

 

「ケッ、カミサマ……気取り……か」

 

「望んでなったわけじゃない!!野薔薇なら分かるだろう?閉ざされた集落の人間の醜さが、気持ち悪さが!そうら、見てよ」

 

突如現れた。さっきのイケメンじゃない。金髪の女。でも、髪が長いから女だと一瞬思っただけだ。体つきは男だと言い切れないから、女だと判断出来た。彼女は馨の声で喋った。間違いない。コイツは馨だ。さっきまで私が戦っていた者と同一人物。

 

「僕は女の体にもなれる。と言っても胸は無いし同様に生殖器だって無い。ただの空洞だ。人間として永遠に未完成の存在。滑稽だろう?どうした、野薔薇。笑わないのかい」

 

「んな、クソつまんねぇジョークで女笑わせようとするなんてなぁ、イケメン失格」

 

「術式・千手菩薩」

 

「ぐあっ!?」

 

雷撃、じゃない。足首を横に曲げられた。たまらず倒れ込んだ。右手には自分で刺したナイフ。雷撃を全身に食らってマトモに体を動かせない。

 

「女のときの僕は念動力の使い手なのさ。男のときより、欠損部分が多いから出力が高い。呪霊なんかに頼らなくていい」

 

「チートじゃねぇ、か」

 

「ははは、確かに。でも、分かったはずだよ。男の体と女の体を入れ替える、それが僕の本当の術式。千手千眼陀羅尼経。足、潰れちゃったね。でも、治せるよ、僕ならね。何せ、僕は昔は神様だったからさ」

 

「ふん。馬鹿にすんじゃねぇよ。私は釘崎野薔薇だ。私は呪詛師にはならねぇ。……テメェは結局逃げたんだ。どうせ、自分を神だと崇める村人殺して呪詛師になったクチだろ。馨と私とテメェを比べたら、未来のヤツはそりゃ馨の方がすげぇ術師だって評価するんだろうよ。だがな、人間としてはどうなると思う?」

 

「ふうん……何が言いたいのさ……」

 

「馨は一生負け犬のまま人生を終えた、ただのクソ野郎ってことだよ!!」

 

馨の端正な顔が歪む。

 

「野薔薇ぁ!!僕が、僕が!!負け犬?あんな畜生以下のヤツらを殺しただけで何故貶められなければならない!!アイツらは私の親を人質に取った!そして儀式と称して散々貪った!それを殺して何が悪い!!」

 

「そう、か。同情してやるわよ。馨の境遇はクソだった。でも、私の言いたいことは変わらない。アンタは負け犬なんだ。畜生以下のヤツらに影響されて綺麗事で繕うのを止めさせられた汚ねぇ負け犬だよ!」

 

「…………もういい。死ねよ、釘崎野薔薇。僕が君に望むのはもう、それだけだ。領域展開。…………千言赫蓮華(せんごんかくれんげ)

 

ボロボロになったレストランの中に赤い蓮華が咲いていく。私の体を包むように咲き乱れていく。中心に赤髪の馨が立っている。そういや、私はアイツに結局一度たりとも傷を負わせることは出来なかった。これが実力の差かよ。マジで半端ねぇわ、〈百足〉。馨の領域展開は必要以上に現実的な空間を侵食しないタイプらしい。蓮華の花に釘が幾本か絡まっていた。

 

じりじりと体を動かし、背中を壁に付けて半分起きたような態勢を作る。あれこれよく見える。さすがにもうダメか?チッ、あっけねぇもんだな。

 

……違和感。何で馨は私を先に相手にしようと思ったのだろう?虎杖は宿儺の器だ。まぁ、殺せねぇ。だが、伏黒はどうだ?もちろん、ひとりひとり分けた方が殺しやすい。しかし、私が殺されたら伏黒や高専の術師が警戒を固めるのは必然。殺せるか?

 

「ハハハ、ハハハハハハッ!!」

 

「ついに気が狂ったかい」

 

「なんてことはねぇってか」

 

「何が?」

 

「私は、釘崎野薔薇は伏黒より弱ぇってか。そうなのか?そう思ったのかよ、馨」

 

「伏黒恵はその道じゃ有名な術師殺しの父を持っている。しかも、禅院家の血筋で禅院家の術式を持っているしね。僕は無理をしない主義なんだ。1人殺せば充分だと雇い主には言われているからさ。君が弱くて助かったよ」

 

「さすがね。頭は右を向いていても尾がどこを向いているか毒がどこから出されるのか、さっぱり分からない。まさしく〈百足〉」

 

「へぇ?僕がなんだい?」

 

「余裕ぶりやがって。…………タネはもう、割れてん、だよ!!」

 

なぜ馨は私を狙ったのか?それなのに、どうしてさっさと殺さなかったのか?答えはシンプルだ。馨の術式は芻霊呪法と相性が悪いんだ。殺さなかったんじゃない。殺せなかった。術式の出力がとんでもないから、残穢の残り方も半端じゃねぇ。

 

そして私なら。釘崎野薔薇なら、死なば諸共を狙うのだと見抜かれた結果だろう。それは正解だ。私は服の下、心臓の上辺りに藁人形を忍ばせていた。五条の言う通りに警戒していた証だ。釘を無けなしの呪力で心臓に突き刺す。そしてトンカチで……ぐぅっ!!熱っ!釘を溶かされた。雷撃の電熱で。

 

「そうくると思った。だけど、もうこれ以上は無いな。長く苦しんだね。すまないことをした。君には暴言を吐いたり、吐かれたりしたけど、もう気にしてはいない。どうせ、これから殺す相手なんだから」

 

「……地獄に落ちろ」

 

「君こそね。じゃあ、死ね」

 

「テメェがな」

 

芻霊呪法・簪。戦いを開始した辺りでバラ撒いておいた釘が役に立った。馨の領域展開が釘を外に押し出さず、花に絡んだままだった。とは言え、凄まじい衝撃が走れば落ちてくるだろう。例えば。精霊の力を借りた雷撃ならば。

 

釘が馨の頭に突き刺さっていた。運が良い。脳幹直撃貫通コースだ。赤い蓮華が解けていく。馨は膝をつく。そして、そして。彼はなぜか少し微笑んで倒れた。レストランの床を流れた血液が染める。馨に相応しい、綺麗な、残酷なほどに綺麗な死に顔だった。

 

「笑ってんじゃねぇよ、馬鹿」

 

 

私は何も書かれていない墓石に線香を立てた。馨はどうして笑ったのか。今なら少し分かる。アイツらしい。弱くて強くて儚く強かな男でいて女そしてどれにも当てはまらない存在。テメェも次は神様なんざに生まれんじゃねぇぞ。巨大な某宗教ですら、神はひとりで世界を運営することは出来なかったんだ。

 

そもそもテメェじゃ無理だった。顔が思い浮かぶ。ほんの少しの時間、顔を合わせただけの仲。本気で殺し合った仲。互いの生き様を晒した仲。互いの死に様を見つめ合った仲。

 

私と馨の間には色々有り過ぎた。何を祈ってやりゃいいか分かんねぇな。ったく、イケメンだからって調子乗ってんじゃねぇぞ。私は思い切り墓石を蹴り飛ばした。足が痛い。

 

なんだよ。死んでからの方が頑丈じゃねぇか。待ってろよ、馨。テメェはどうせ地獄に落ちてんだろ。私もいずれ行くから。そのときは田舎のクソ話で盛り上がるわよ。いい?私は死ぬまでテメェを思い出さない。馨の死に様を嗤わない。それがせめてもの手向けというもんだろう。

 

私は釘崎野薔薇だ。いつだって自分の思うままに生きて思うままに死ぬ。じゃあ、また。馨が倒れたときのような顔を墓石に向けた。それはたぶん笑顔だったのだろう。

 

 

神敷馨(24)

15歳のときに集落に住まう住人67名を殺害。

16歳のときに領域展開を習得。

半年後に呪詛師としての活動を始めた。

 

本来の戦闘スタイルは雷で遠距離から

一方的に狙撃する、というもので

近接戦闘は苦手としている。

術式の弱点は非常に残穢が残りやすいこと。

そのため普段は様子見などせず即殺する。

 

好きな色は紫。嫌いな色は赤。

 

愛読書は恩田陸の『MEZE』。

趣味はムエタイと煙草を多めに買った女の彼氏を想像して実際に後をつけて調べること。

 

妹がいたが、彼女の生死のみ不明。

 




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