ーエシャルー
やって来ましたシレジアへ! 見回す限り…、
ビュォォォォォォォォォッ!!
さみぃぃぃぃぃっ! 吹雪いとるがな! ワープで来た瞬間、吹雪の中に現れてしまった俺。見回せば、恐らく雪の森、そして吹雪! 着込んできたから、とりあえずは大丈夫だけど。練習して習得した魔力で体を覆う術で、ある程度の寒さは大丈夫だけど。吹雪の中はねぇべよ、これはあれか? 俺に対する罰っすか? シレジア美人を求めるだけに来た俺への!?
「やべぇ…、寒さだけじゃない寒気を感じた。…人里だ、人里を探せ!」
トラキアに続いて、シレジアでも出だしぼっちな予感。今帰ったら、ディアドラが蔑んだ目で俺を見てくる筈。なんとしても、人里を探すんだ! 今は大丈夫だけど、流石の俺も魔力が無限ってわけじゃないからな!
……道中、雪に埋もれたマリモ…じゃなかった、少女を拾いました。何故に少女が吹雪の森の中に? なんて思いましたが、生きてるっぽいので連れていきます。おぶってやっているから、寒さは凌げる筈だな。さっきも言ったが、魔力で体を覆っていますから。何もしないより、暖かい筈なのだ。
少女をおぶって、人里求めて歩いているけど、未だ発見出来ず。だんだん暗くなってきたから、これ以上さ迷うのは危険かな? 何処かに洞穴っぽいとこないかな? とりあえず、少女を暖めてあげなければ! …ワープしろって? …残念ながらそれは出来ない。成果を上げずに帰るなど、俺のプライドが許さない。決して、トラバントに馬鹿にされるからとか、ディアドラに冷たくされるからとかではない! …ただ、長距離ワープをする程の魔力が無いだけさ! ……ぎゃふん。
俺のステータスって、運が非常に高い筈なんだけど。山で遭難しかけてみたり、戦いに巻き込まれたり、今は雪の中の森にいる。しかも、少女を拾ったし。ツイてない気がするんだけど、どう思います? なんて、誰に話してるんだろうね? …と自分のことを考えながら、焚き火の前にて暖まっています。
ヤバイよヤバイよ! と動き回った結果、見付けた穴の中にいるのだ。…熊がいた巣穴だったんかね? まぁ、吹雪から逃れることが出来るんだから良しとしよう。少女をマントにくるんで…、俺は外で木を倒して薪にする。多少濡れていても、魔法で簡単に火を点けることが出来る。魔法、優秀ですね? 煙いけど。時おり、弱ウインドで煙を外に出してますよ? 籠っちゃうからね。こんな感じで火に当たりながら、物思いに耽ているのさ。
暖まってきたなぁ~…なんて思っていると、
「うぅ~ん…。」
埋もれていた少女が動いた、気が付いたのかな?
「…あれ? …私、飛び出して…。吹雪になって…意識が朦朧として…。あれ…?」
気が付いたようだが、…混乱しているみたいね? …にしてもタフだなおい、流石はシレジア人ってとこか? 気が付いたんであれば、聞いてみるしかないな。
「…気が付いたみたいだね? 気分はどう?」
優しく笑顔で声を掛ける。まだ、頭がきちんと働いてないだろうからな。警戒されないようにしないと、俺ってば優しいじゃないの。
「……!?」
ビクッ! てなって、こっちに視線を向ける少女。…あれ? 凄く警戒されてない? しかも後ずさってない? あっるぇ~、おかしいな。優しく声を掛けたのに、なんで?
「あ…ひぃ…っ! 人拐いの盗賊…!?」
えぇ~…! そりゃあないんじゃないの!?
埋もれていたところを助けたのに、いきなり人拐いの賊って…。凄まじく勘違いされてないっすか?
「いや…盗賊って…。違うからね? どちらかと言うと、俺は君の恩人であって…。」
「うぁぁぁぁぁん! いゃぁぁぁぁぁっ! お姉様助けて! パメラさん、ディートバァァァァァッ!!」
ぎゃーーーす! 泣き喚きやがったぞ! う、うるせぇ~…! 落ち着かせなければ…!
「ちょっ…君! 落ち着いて…ね? 人の話を…ちょっと、マジで落ち着いて…! …あづっ! コラ、燃える木を投げ…!」
燃える薪を投げてきましたよこの娘! 危ないし熱いよ!
「来ないでぇぇぇぇぇっ! うぁぁぁぁぁん! やだぁぁぁぁぁっ! びぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
悪化しとるがな! こりゃあマズイというか、めんどくせぇ! 流石の俺もトサカにくるぜ? 多少力ずくでも落ち着かせなきゃ、話も出来ないとみた!
「えぇ~い、落ち着けと言うとるが…っ!!」
「ひぃぃぃぃぃっ!」
ボゴンッ!!
………何ということを!? …俺のミストルティンが…! この娘、悲鳴と一緒に…俺の、ミストルティンを蹴りやがった…。蹲って痛みに堪える俺、…どうしてこんな目に合うのだろう? ディアドラをほったらかして、シレジアに来た罰ですか? これは俺に対する裁きですか…? おぉ…ブラギ神よ…、ガクッ!
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ーフュリーー
私は襲い掛かってきた男の人を、ディートバから教えてもらった『キンテキ』で攻撃をしました。男の人は蹲って、ビクンビクンと痙攣した後、動かなくなりました。…ぐすっ、無事に倒すことが出来て一安心。私は自分の貞操を守り、売られる未来を回避したの。ディートバに感謝しなくちゃ、貴女のお陰で私は無事だよ? いつも意地悪をしてくるディートバに、初めて感謝したかも…。
そんなことより…、今の状況をどうするか? 何故このようなことになったのか? 思い出さなきゃいけないよね? そこの身なりの良い盗賊は、気を失っているようだから大丈夫。とりあえず、火に当たりながら思い出そう。…ぐすん、本当に…何かされる前で良かったよ。本当に…うぅ~…。ぐすっ…、泣くのは後よフュリー。今は思い出すのが先。
確か私は、見習い天馬騎士になる為に森へと入った。天馬騎士になるには、まず最初にペガサスを見付けなくてはならないの。自分の力で…、と言っても助っ人もアリなんだけれど。助っ人を頼める人を探していたのだけど、そこでディートバが…、
「泣き虫フュリーは、助っ人を頼んでもペガサスは無理でしょうね! それどころか、助っ人を困らせるんじゃない? すぐ泣いちゃうからさ。弱っちょろいし、…天馬騎士になるのを諦めたら?」
私は何も言えなかった…。とても悔しいけど、ディートバの言っていることは本当だから。…私は弱いし、泣き虫だし、みんなの足を引っ張るし…。うぅ~…ぐすんっ、また涙が溢れてくる。だけど、本当に悔しくて、お姉様みたいな天馬騎士になりたいから、私は夜中に宿舎を抜け出して、森の中へと入った。
ペガサスが生息する場所は頭に入っている、だから大丈夫って思っていたの。でも、距離を考えてなくて、道に迷って、天候が荒れて吹雪になって、…少しずつ体力が無くなって、意識が朦朧として…。私はなんて馬鹿なんだろう。…悔しいからって、考えなしに飛び出すなんて…。今頃みんな、騒いでいるかなぁ…。本当に私はみんなに迷惑を掛けてばかり。でも…私は天馬騎士になりたいから、私は…。
「みんな…、お姉様…、ごめんなさい。」
私は謝りながら、意識を失った。
……所々略しているけど、こんな感じだったよね? 行き倒れたという恥はあったけど、私は無事。布にくるまって、火に当たって、今はとても暖かい。本当だったら、雪に埋もれて死んでいた。なのに助かったのは…、誰かに見付けてもらって助けられたということだよね? …今の状態を考えて、導かれることは…。動かない男の人を見る。
「まさか、………というかこの人が私を助けてくれた人?」
雪の中から助けてもらって、ここまで運んでもらって、冷えた体をこれ以上冷やさないようにしてくれて、意識の戻った私に笑顔を向けたこの人に、私は………何をした?
…………………!!?
「盗賊と決めつけて、『キンテキ』で攻撃しましたぁ! うぁぁぁぁぁん、ごめんなさぁぁぁぁぁい!!」
とりあえず私は、自分の犯した早とちりに堪えられず泣き出した。だって…、泣く以外思い付かないんだもん。
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ーエシャルー
………さむっ! 背中がめちゃくちゃ寒い! でも胸の辺りは暖かい、…何が起きた! 俺は目が覚めて、思い出してみる。
………あ! 凶悪少女に俺は…俺自身のミストルティンを! 確認しようと目線を下に向け、やっと気付く。
「すぅ…すぅ…。」
凶悪少女が俺に引っ付いて、穏やかな寝顔を…。
だが何故だろう? 可愛い寝顔だと思う前に、イラッとするのは。まぁ、俺のミストルティンに一撃を加えたからなんだけどね。…ってそんなことはどうでもいい! 俺の大切なミストルティンの状態を確認しなくては! えぇ~い、この少女が邪魔! どけぇ~い!
…と思いつつも、優しく退かす俺。フッ…、俺が紳士で良かったな少女よ。…あどけない少女の寝顔が憎らしいけど、暴力を振るう程落ちぶれてはいないさ。そして俺は、冷静に我がミストルティンを確認する。
「よかった…、本当によかった…! 我がミストルティンは正常なり!」
無事を確認し、ホロリと涙が零れる。…無事だった故に、昨日のことは水に流そう。終わり? 良ければ全て良し! 根に持つのはよくないからな!
とりあえず、少し煙いから空気を入れ換えて…と。後は焚き火で暖まりますかね。この少女が目覚めないと、話も出来んからな。…その前に少し離れておこう。食事の準備もしなくては! ここに取り出すは、ハイジのヤツ! あのとろりと溶けたチーズをパンの上に乗せたアレ! この状況でコレ、絶対に美味い筈!
………つーか、…ハイジって何だっけ?