ーエシャルー
焚き火でチーズがとろりと溶けた、…今が食い時! すかさずパンに乗せ、頬張るのみ! いただきま…、
「………。」
凶悪少女が物欲しそうに俺を見ている。目覚めたのか少女よ、この芳しい匂いに食欲をそそられ、目覚めたというのか少女よ!
…………。
「…食べるかい?」
こくん! と力強く頷く少女、泣く泣く食べ頃ハイジのヤツを少女に差し出す。とりあえず、遠慮がちにハイジのヤツを受け取った少女。俺とハイジのヤツを交互に見て、最終的にハイジのヤツへと食らいついた。
まぐまぐと必死に食らいつく少女、そんなにがっつかなくともソレは逃げんよ? …まぁそうなるほど美味いってことなんだろうね? ハイジのヤツ、溶けたて食べ頃っすからね。…俺の分も用意しよう。
食後のトラキアティーで落ち着いた俺と少女、さてどうするか? と思った矢先、
「あの…昨日はごめんなさい! 助けてもらったのに酷いことをして…、酷いことをしたのに食事まで頂いて…、貴方様のような優しい方を盗賊なんて私は…、本当に駄目な…駄目な…うぅ~…。」
自分の言葉で打ちのめされんなよ、そして泣かないでくれ! 昨日の少女の泣きっぷりは凄まじかった。今日もそれを食らうのは、マジで勘弁して欲しい。
「別にいいから気にするな、昨日のことはマジでもういいから。」
泣かれてたまるかってんだよぉ! こういう時は頭を撫でるんだ! 俺の達人撫で技を刮目せよ!
「昨日のことはいいから、…なんで雪の中に埋もれかかっていたのか、教えてくれるかい?」
頭を撫でながら、優しい声で話しかける俺。笑顔も忘れずに! 我が必殺の一撃、少女よ…堪えることは出来るか?
「……ふぁ。」
目を細めて、なすがままに撫でられることを望んだか。それ即ち、俺の勝利ということだ!
少女は泣くことなく、これまでの経緯を俺に話してくれた。
「なるほど、ペガサスを探しにねぇ…。」
天馬騎士になる為に、ペガサス探しってことね。ディートバって娘に馬鹿にされて、見返す為に一人で夜の森の中へ。…そんで吹雪になって、体力が尽きて、俺に保護されたっつーことか。
…馬鹿なんじゃないの? 泣き虫言う前に、アホな行動を見直すのが先じゃね? ディートバって娘は、こんな馬鹿な少女が心配で意地悪するんじゃないの? 危なっかしい彼女は、このままじゃ死ぬ未来しかないっぽいし。
うーん…でも、少女の気持ちも分からんでもない。だが、迷惑を掛けまいとして迷惑を掛けているわけだし。ペガサスが見付かるか否か分からんけども、今回のことが少女の道に良い影響があればいいね。死に掛けたわけだし、今度から少しは考えて行動するようになるだろう。
「…それでお兄さんは、かなり強そうな感じがします。お姉様やパメラさんよりも…。それでですね? …その、もし良ければ…。ご迷惑でなければ…、既にご迷惑を掛けてますけど。…一緒に、…いっ…しょ…。ぐすっ…!」
ヘイヘイヘイ! 全てを言う前に泣こうとするんじゃないよ! また、落ち着かせなアカンのかい!
分かっていたことだけど、この少女の助っ人をすることになった。お人好しっすよね? まぁあのまま泣かれても困るし、近場の村というかペガサスの生息地近くの村を知ってるみたいだしな。さ迷い歩くよりも、安全に人里へ行きたい俺にはありがたい。ここよりかなり遠い場所にあるが、俺にはワープがあるからな。一晩寝て、ある程度魔力も回復したし。シレジア国内だから、さほど魔力を使わんでも大丈夫。ワープをする際、少女の想像力が重要になる。ガッツリきっちり想像して貰わないとな!
火の後始末良し! マント良し! 背中に引っ付いている少女良し! …忘れ物はないな。
「では少女よ、行く村を思い浮かべるんだ。きちんと思い浮かべることが出来れば、確実にその村へ行くことが出来る。」
「分かりましたお兄さん、私…想像力だけは凄いんです。」
そう言って目を瞑り、ムムム…と唸ること約1分。肩をポンポン叩いてきたから、もう大丈夫だな! …ワープ!
そして辿り着いた、ペガサスの生息地に一番近い村。吹雪の中に出てどうなるかと思っていたけど、無事に人里へ来ることが出来て良かったよ。
「わぁ…お兄さんって、凄いんですね!」
ぱぁ…と顔を輝かせる少女、ワープ初体験ってとこかな? 吹雪も止んだし、村で休息させてもらいますか。宿泊施設ってあるかな? ペガサスの生息地が近いんだから、泊まるとこぐらいはあるよな? 天馬騎士も頻繁に来るだろうし。…その前に、
「短い間だが、一緒に行動するわけだからな。名乗っておこう、俺はエシャル。…よろしくな少女。」
「あっ…あっ…! そうですね、名前を言ってませんでしたね! 私はフュリーと言います、よろしくお願いしますね? …エシャルお兄さん!」
にぱぁ~…と花が咲くように笑う少女、フュリーは将来美人になるだろう。…そんなくだらないことを考えながら、俺とフュリーは村の中へ。
村の中へ入ると、村人ではない奴等が多くいた。何故村人じゃないと言えるのか? 簡単なことだよ。軽装とはいえ、ガッツリ装備で身を固めているんだもの。身に纏う雰囲気から、傭兵だろうと思われる。つーか、何故にこんな村に傭兵っぽい集団がいるのだろうか? フュリーなんか目尻に涙を浮かべて、明らかにビビりまくっている。俺のマントん中に入ってきて、くっついてきとるし。この状況は一体………。
とりあえず、フュリーの案内で宿へと向かう。傭兵っぽい奴等は、各々談笑していたり、村人と話していたり、武器の手入れをしていたり、問題を起こしている様子は一切無い。規律がしっかりとしている集団なんだろう。リーダー格は相当な実力を持つ者なんだろうな。…にしてもめっちゃ歩きにくい、くっつきすぎだろフュリーちゃんや? 仮に天馬騎士を目指す身なら、ビビっちゃいかんでしょ。
そして、歩きにくいながらもこの村唯一の宿に着きました。…部屋って空いているんかね? 不安にもなります。傭兵っぽいのが多かったし、絶対ここに泊まっとるよね? とりあえず中へ入ると、
「いい加減帰ろうぜ? いないってそんなの、ガセだよガセ! 無駄な旅費を使っちまったよ、お前のせいでよ!」
傭兵っぽい奴が、声を荒げて一人の男に詰め寄っていた。…なんつーことをしてくれたんだ! フュリーちゃんの涙腺が崩壊したではないか! 俺の服が涙と鼻水で汚れちまうよ、ちくしょーめ!
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ーベオウルフー
俺の文句もどこ吹く風で聞き流す、この男は俺達の頭である凄腕の傭兵ヴォルツ。そしてこの俺ベオウルフは、ヴォルツの片腕として他の仲間をまとめている。そう…俺達は、世界的に有名なヴォルツ傭兵旅団なんだ。有名な傭兵旅団である俺達が、何故にこの辺鄙な村にいるのかって? そんなのは決まっている、我らが団長ヴォルツが原因なんだよ。…コイツ、アホなところがあるからなぁ。
…ヴォルツは手元の酒をぐっと飲み、その後で俺を見てこう言った。
「…お前の言うように、やっぱりガセなのかもしれん。…ベオ、だけどな? ロマンを忘れちまったら、男として終いだぜ?」
フッ…と笑って、再び酒を飲むヴォルツ。ロマンがどーので、金が増えりゃあいいがな! そのロマンの為に金が減る一方なんだろうが!
「この森の中に雪男は絶対にいる…! 俺はそう思っている、ベオ…。」
「世界広しといえ、こんなことすんのは俺達だけだよ!チクショーが!!」
「…分かってるじゃねぇか、ベオ。俺達ぐらいは探してやろうぜ? 寂しがり屋な雪男をよ…。」
どや顔すんじゃねぇよ、腹立つ!
馬鹿じゃねぇの、雪男がいる筈ねぇじゃん! この森にゃペガサスしかいねぇよ、まだ見てねぇけど。他の奴等もヴォルツに似てアホだからな、嬉々として雪男を探しやがるから手に負えねぇ。村人も言ってたじゃねぇか、見たことも聞いたことも無いってよ。…マジでまだ探すのかね? 雪男…。あまり長くなると、旅団を維持する金が無くなっちまう。どーすんのよこの状況、…頭も痛けりゃ胃も痛くなっちまう。
先のことを考えていると、鋭い視線を感じた。視線の主へ顔を向けると…、
「………!!」
なんでエルトシャンがここにいるんだ!? なんかチビも一緒にいやがるし! どういうことなんだ? まさかエルトシャンも雪男を探しに来たのか!? いやいや、そんな馬鹿なことある筈が無い。馬鹿はウチのヴォルツ達だけで十分だ、…今気付いたけどマトモなのは俺だけじゃねぇか!? いやいやいや、んなことよりエルトシャンだよ。なんでここにいるよ、ノディオンの王位を継承した筈じゃあ…。
なんてことを考えながら見詰めていると、
「ベオ、お前…ソッチの気があるのか? ヤバイな、俺を含めた仲間達が危険じゃねぇか…! 見損なったぞベオ…!!」
「お前ふざけんなよ! ソッチの気なんざ一切ねぇよ! 見損なったのは俺の方だよ!」
知り合い? を見てたら、男色とかって…! やべぇ…泣きたくなってきた!