ーエシャルー
調練場でジッとしているのは、ツマらないからな。剣の練習でもしておこうか、…そう思って腰から細身の剣を抜き取る。調練場の隅の方にある人形? 木人? よく分からんが、これが
…ふぅ~っ、良い稽古だった。額の汗を拭う俺、そんな俺に…、
「あんた何者だ? ここはシレジア王国本城だぜ、どうやって侵入したんだ?」
声を掛けてきた者が。振り返ると緑髪のイケメン、俺と同世代…いや、ちょい下ってところか? 何者だって言われてもねぇ、用事があるから来たわけで。ペガサスと賞金首の件だろ? パメラさんに待つよう言われているし。…よって、俺は不審者じゃないな。理由を話せば、このイケメンも怪訝な顔を止めるだろう。
「俺? 俺はだな…。」
イケメンに理由を話そうと近付いた時に…、
「「………!?」」
なんとまぁ…これは共鳴だな? トラバントん時と同じではないか。ってことは、コイツ…聖戦士の血筋か? ………ということはシレジアの王族、…じゃあコイツはレヴィン?
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ーレヴィンー
「それではレヴィン様、きちんと課題を終わらせるように。分かりましたね?」
そう言って、俺の家庭教師であるクブリ老師は部屋を出ていく。全く、口うるさい爺様だな! ことある事に、やれ王族が、次期王として、立ち振舞いがどうだとかうるせぇし。亡き父上は勿論…その後の王座を守る母上も口うるさい、お付きのマーニャはなおのこと喧しい。叔父上達も俺を邪魔者扱い。…くそっ! なんて堅苦しいんだ、少しは自由にさせてくれよ。
何が王族の務めだよ、互いに足の引っ張り合いをしている癖に…! こんなんじゃ、この国も先は長くないな。国を想うなら、団結して国の基盤を強固にするべきなのに。いずれこの国は、グランベルに飲み込まれるのがオチだぜ。
…チッ! 気分が悪い。こんな時はフュリーを弄るのが一番なんだが、アイツ…行方不明なんだよな。ペガサス探しに行ったってのが有力だが…、ペガサスの生息地は遠い。まさか…途中で野垂れ死んでないよな? ………あり得るからヤベェ、アイツ…馬鹿だし。
…フュリーの馬鹿のせいで、勉強する気が失せた。こんな時は、軽く運動でもして汗を流せばスッキリするよな? そう思って、あまり行かない調練場へ。今の時間は喧しいマーニャ達はいない、一人で居られる貴重な時間帯だ。
…そう思っていたんだが、先客がいた。見たこともない奴だ、侵入者か? 率直にそう思った。しかし、剣を振るう姿は雄々しく、そして美しさの中に鋭さがあり、俺は視線を外すことが出来なかった。
見事な剣舞を終えた謎の人物、侵入者であればこのままにしておけない。そう思って声を掛けてみた、何故かは分からない。賊であれば、俺は確実に殺されるだろう。あの剣舞を見て、勝てるなどという夢を見る愚か者ではないからな。なのに何故、声を掛けた? 息を殺してこの場を去り、兵を呼んでくるべきではないか?
今更…、もう声を掛けちまったっての! フュリーの馬鹿っぷりが移ったか?
そして、侵入者はこちらに振り向いた。そして思った、コイツは俺の敵だと…! なんなんだこの美形は! 美形で剣の腕が良いとかって、何処の物語の主人公だよ! クソッ…! 俺の唯一、自慢出来る風魔法もかろうじてトルネードってとこなのに! 目の前の奴と比べたら、全然じゃねぇか! フォルセティがまだ使えないってのが痛いぜ!
それに奇妙な感じもするし、…なんなんだよ! グギギ…と歯を食いしばり、嫉妬している俺。侵入者は俺を見て、怪訝な顔をしている。…失礼な奴だな! 仮にも俺は王族だぜ? 文句の一つも言ってやろうと思ったが、
「「………!?」」
侵入者が俺に近付いてこようとした時に、妙な感覚が全身を駆け巡った。
この感覚は知っている、聖戦士の血を強く受け継いでいる者同士の…。この侵入者は聖戦士一族に連なる者! しかも継承者としての力を持つ者…! 父上と俺と同じ立場…。もしそうだとしたら、何故ここにいる? 分からねぇ…、分からねぇよ…。グランベルからの刺客か? 暗殺者か? 悪い方へと思考が流れそうになった時、
「お待たせ致しましたエシャル殿…って、レヴィン王子! 何故こちらに!?」
調練場にパメラが入ってきた。エシャル…? コイツの名か? …ってことは、パメラの客か? そう思ったら、なんだか安心してしまった。敵ではない、そのことにな。つっても美形で強者は俺の敵だ。…嫉妬とも言う。
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ーエシャルー
互いに聖戦士で、めっちゃ敵視されとるし、どうすればいいんかね? 見詰め合って固まっていると、
「お待たせ致しましたエシャル殿…って、レヴィン王子! 何故こちらに!?」
……え? 女神? …っと違った。パメラさんか、焦ったぜ! とはいえ、ナイスタイミングじゃないですか! どうしようかと考え始めたところっすよ! イケメンが敵視しとりましたからね、………レヴィンで合っているようだし。
「パメラの客か? …見知らぬ者がいたからな、侵入者かと思った。…何者なんだ?」
何者って…、やっぱりそこが気になるよな。聖戦士なんざ、そこら辺にゴロゴロいるわけじゃないからな。俺が逆の立場なら、同じように気になると思うし。…ふむ、仕方がないか。
先程の共鳴で聖戦士と知られてしまった。これは正体を明かすしかないか? 見た感じこのレヴィンはしつこそうだ。正体を隠そうとすれば、それを何とか知ろうと仕掛けてきそうだし。…聖戦士の血筋同士ってーのは面倒だ、トラバントにも速攻でバレたし。…とにかく、どう明かそうか考えているとパメラさんが、
「レヴィン王子、こちらはエシャル殿です。フュリーを保護し、ペガサス探しにも協力してくれた方です。最近国内にて、問題となっていた賊を傭兵団と協力し捕縛してくれました。」
「あ~…あの馬鹿は生きていたか。まぁ…、良かったってところか。それよりも賊か、…あの凶悪集団を討伐ではなく捕縛。流石は継承者…と言いたいところだが、予想以上じゃないかよ。エシャルと言ったか、お前…人間か?」
コイツ…失礼な奴だな。人間か? …って、そりゃあないだろ。人間だよ人間、聖戦士の血を引くお前と同じ人間だよ! …しかもコイツ、普通に継承者って言いやがったし。
「レヴィン王子! 流石に失礼ですよ! 恩人であるエシャル殿に…。」
パメラさん…、貴女良い人。
継承者であることはもうバレている、隠す必要はない …か。この場で明かさなければ、コイツ…レヴィンはしつこそうだし。それに今は俺とパメラさん、レヴィンしかいない。後で問われるより今の方が良い、さて………、
「レヴィン王子と言われましたか? 貴方は私が継承者であることを感じましたね? …感じたのであれば明かさねばなりません、…しかし私は自由人。行動の自由を認められています、故に今から明かすことは他言無用でお願いします。パメラさんもよろしいですね?」
俺の名は世界に知られている、詳しくは知られていないとは思うが。しかしいずれは継承者として知られていくだろう、それに俺の過去も。知りたいような知りたくないような、…でも知らずに前へは進めない。まぁ今はとにかく名乗るとしよう、トラキア王国所属の継承者であると!
「私の名はエシャル、トラキア王国にて将軍を拝命している者です。私は貴方と同じ聖戦士の血を引く者、魔法戦士ファラと黒騎士ヘズルの二つの血を。…その二つの血を色濃く継いだ継承者、…以後見知りおきを。」
優雅に一礼し、その血筋をぶっちゃける。…それに対してパメラさんは固まり、レヴィンは顔を引きつらせた。
やはり二つの血を色濃く引くっていうのは相当に稀有、原作のことを考えてもそんな人物はいないからな。そんなレアキャラな俺を前に、パメラさんとレヴィンはどう反応する?
「コノート・マンスター連合軍を壊滅させ、トラキア王国に勝利をもたらしたトラキアの英雄! 同姓同名なだけかと思いましたが、まさかトラキアの黒刃と称されるエシャル将軍ご本人だったとは…! わ…私はどうすれば良いのでしょうか…!?」
動いたかと思ったら、頬を上気させて狼狽え始めたパメラさん。トラキアの黒刃って、初めて聞いたんですけど! 炎の英雄じゃなかったのか! …まぁ俺の炎、メティオは隠せと言ったけど。あの戦いで俺の名が世界に広まった、…が遠くシレジアの地まで届いていようとは。これはマジで俺の名が世界中に轟いていそうだな?
それよりもトラバントの奴、カッコいい通り名を付けたんなら教えてくれてもいいだろ! 黒刃とかって心揺さぶるではないか!! 黙っていたトラバントに対して憤っていると、
「いや、トラキアの黒刃ってーのは凄いんだが…。それよりも、ファラとヘズルの方がヤバイだろ! だからあの剣舞、…そして魔法の才も持っている。美形でもあって…、やっぱりお前は人じゃねぇ! クソゥ…!!」
レヴィンは俺の規格外な血筋に驚きつつ、嫉妬を含んだ目で睨んできた。…何なんだよ、ホントに。
とりあえず落ち着いた二人、レヴィンは思い出すように
「…血筋で思い出したんだが、エシャルって名は他でも聞いたことがあるな。たしか…、ヴェルトマー公爵領…。」
それを聞いた俺は、
「レヴィン王子、私は過去の記憶が曖昧なのです。貴方の知ることが、私に繋がるモノかもしれない。ですが、それを知ってしまったらどうなるか? 私は保証しかねますよ? 知ったことによる弊害があったとしても、私自身も曖昧で分からないのですから。」
そう、レヴィン王子に返した。レヴィン王子は黙り込み、何かを考えてから、
「…そうだな。真実がどうなのか分からない以上、この先を知ろうとするのは危険か。…なんだか手遅れな気もするが、俺の蒔いた種だ。そこは諦めるとしよう。」
…それが長生きの秘訣だぜ? 好奇心が過ぎると、自身の首を絞めかねないからね。いずれ、いずれは知ることになるんだ。あの日のことを、モヤの中の曖昧な記憶がさ。つっても、知らないままかもしれないけど…。