ーエシャルー
次の日、マーファ城城下にて情報収集をしてみる。殆んどの情報は知っていることや関係のないものであったが一つだけ、精霊の森付近には化物熊がいるという話を聞いた。何でもその化物熊はたまに人里へと下りてきては人を襲う、家畜がいれば全てを食い散らかす等好き放題するらしいんだわ。この城の城主も何度か討伐隊を組み挑んでいるらしいけど、返り討ちにされているとのこと。
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『赤腕』と呼ばれている化物熊を討伐、実力を試しつつ懸賞金を手に入れようと思い森の中へ。一石二鳥じゃないか! とテンション高めで勇んでみたところ、…森の奥にて冷静となり気付く。
「…炎魔法を使ったら、大火災まっしぐら。…俺の進むべき道が閉ざされた!」
一番確かめたかった炎魔法が、一番駄目なヤツであることに気付いてしまったのだ。これは痛い、痛すぎるぜ! 自由に生きると決めた俺だが、流石に大火災は駄目だろ! 絶対!
…でそうなるとだ、炎魔法とは違う手段が必要となる。ならば仕方なしということで、代わりに剣を使いましょう。我が身に流れる黒騎士ヘズルの血よ、その力を見せて貰うぞ!
「解き放て! 我がキルソード」
腰に差してある鞘から黒き刃の剣を抜き掲げる俺、黒騎士ヘズルの再来と言えるぐらいカッコいい。…とは言ったものの、ノディオンのエルトシャンがいるからねぇ。獅子王の勇名には敵いませんわ、…そういえば俺って獅子王と面識があるんかね?
…うーん、記憶の中を探ってもよく分からんな。まぁモヤモヤしている記憶の何処かに、もしかしたら出会った記憶があったりするかもね。…それよりもだ、俺の剣の方が重要だろう。ヘズルの血がピッカピカだから、なまくらな筈がないと思う。ふははははは! 噂の『赤腕』とやら、何処からでも掛かって来い!!
そんな感じで調子に乗っていたら、馬鹿デカイ熊に襲われたよ! 流石の俺もビックリしましたわ、熊ってあんなにデカくなるものなんですね! 4m以上はあったぞ絶対、ここって聖戦の世界ですよね!?
めっちゃビビったけれど、キルソードと必殺のスキル効果で攻撃が全て必殺の一撃に! 追撃と連続で熊は為す術もなく瞬殺、俺ってば強いじゃないの! 攻撃こそが最大の防御、それ故に無傷で倒しました! 流石はヘズルの申し子、俺様カッコいい! 血濡れたキルソードを天へ掲げ、倒した熊の上にて片手で顔を覆い瞑想。
……………自己陶酔中。
…熊殺しのエシャル、今日からそう名乗っ…ダサいからやめよう。
自己陶酔中のエシャルを木の影から見詰める者がいた、その人物にエシャルは気付かず。…ご機嫌なエシャルを見詰める者、それはとても美しい一人の少女だった。
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ーディアドラー
人の気配を感じて、私はその場所へ向かった。ここは深い深い森の奥、人々から精霊の森と呼ばれている場所。このような奥深い森の中に、普通の人ならば入ってくることはない筈。
予想するに、…たぶん迷い人だと思う。もしそうであるとしたら、私の魔法で惑わせなくてはならない。私達の住む場所へ近付けてはならない、お婆様にきつく言われているから…。私はその掟に従い、何人もの人を惑わせてきた。中にはそのせいで亡くなってしまった者もいるだろう、嫌だけど…掟に従わなければ私とてどうなるか。…だから私は向かう、森に迷い込んだ哀れな人の下に…。
そして私は見てしまった、夢にまで見た憧れの騎士様のようなお方を…。そのお方は赤みがかった金色の長髪に切れ長の目と高い鼻、そして口元には薄く笑みを浮かべている。真紅のマントに、見事な装飾が施されている漆黒の騎士服を身に纏っている。
「……素敵。」
無意識に言葉を口に出してしまった私は、慌てて口元を押さえて周囲を窺う。騎士様へ視線を向けてみれば、キョロキョロと周囲を見回して首を傾げている。…危なかった、…ホッと一息吐いた所に、
『グルオァァァァァッ!!』
大きな雄叫びが森の中に響き渡った。
…………!?
あれは『赤腕』と呼ばれている人食い熊! そんな化物がどうして…! 今の時期はもっと森の奥、そこで大人しくしている筈なのに…!
ヴェルダン王国第一王子様の討伐隊を何度も破った化物…。ああ…騎士様が殺されてしまう! 掟を破ることになるけれど、騎士様を助けるには私が…。そう決意をして、私は騎士様を逃す為に助太刀を…と。そう思った矢先、
「巨大熊が相手か…、不足はない。さぁ…俺の糧となるがいい!」
剣を構えて化物に…、『赤腕』に立ち向かってしまった! …目にも止まらぬ速さで騎士様へと向かい、『赤腕』が腕を振り下ろして…、
「……ああ!?」
私は手で顔を覆い目を背けた、悲惨な光景を見たくはなかったから。
…しかし、
『ガァァァァァァァァァッ!!』
騎士様の悲鳴ではなく、獣…『赤腕』の悲鳴? が響く。何が起きたの!? そう思った瞬間、
ズゥゥゥゥゥンッ!!
大きな地響きが森に広がる。私は戸惑いながらも、恐る恐る視線を騎士様の方へ向けてみた。そこには『赤腕』と呼ばれている人食い熊が地に伏しており、騎士様は剣を天に掲げて黙祷を捧げていた…。
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ーエシャルー
…ふひぃ~、自分自身に酔うとは俺もまだまだだな。もう少しクールにならなければ…と思いながら、剣を軽く振って血を払い…鞘に納める。そして悩む俺、…この熊をどうするか。このまま捨て置くには勿体ない、…う~む。
…あ! ワープがあるじゃないか。ワープだったらこの巨大熊を運べる筈、原作では無理だけどこの世界では可能。何せ杖ではなく全てが魔法に分類されている、杖と魔道書は飾りなのさ! …そうと決まれば直ぐ実行、高まれ俺の魔力よ! ぬぬぬ…ワープ!!
エシャルの姿は巨大熊と共に魔法陣の中へと消えた。しかしエシャルはドジを踏む、母の形見であるペンダント。彼自身もその存在を忘れていたが故に気付かない、そのペンダントを落としたことに。
そしてそのペンダントを拾う少女、彼女はそれを胸に抱き締めて…、
「………騎士様。」
初めて抱いた感情に戸惑いながら、少女は何を想うのか…。
この一つの出来事が運命の歯車を動かす。