機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
クルーゼ「来ちゃった(^^)」
マウス隊「こっち来んな」




第11話「A cavalry has come」

「イーゲルシュテルン起動!自動追尾照準、セシルに当てるなよ!」

 

「了解、イーゲルシュテルン起動!」

 

ユージの指示に合わせて、"ヴァスコ・ダ・ガマ"が迎撃態勢に入る。しかし、"ジン"を遠ざける対空兵装のイーゲルシュテルンは、わずかに3基のみ。加えて、相手はザフトレッド。たかがミサイル護衛艦程度の弾幕は容易に突破されるだろう。

 

「セシル、突っ込みすぎるな!"ヴァスコ・ダ・ガマ"を上手く使え!」

 

もはや"ヴァスコ・ダ・ガマ"の命運は、セシル1人に託されたようなものだった。

 

 

 

 

「上手く使えって、言われましても・・・・!」

 

必死に弾幕を張るセシルだったが、2機の"ジン"はすり抜けるようにこちらに迫ってくる。MS戦の経験はなくとも、敵艦の弾幕を掻い潜る訓練はしていたのだろう。積極的に動かないセシルの"テスター"など、対空銃座が1つ増えたようなものだ。

そのままの勢いで、片方の"ジン"は重斬刀を抜き放つ。

 

「初の連合MS撃破の功績は、いただきだ!」

 

「私を、侮らないでくださいよぉ!うおりやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

人は余裕を感じた時に、判断力が低下する。本来、2機で挟撃して確実に敵機を撃破するべき場面で、ディアッカは接近戦を挑もうとする。

そのことに気づいたセシルは、敵に生まれた油断をつくために自分を奮い立たせ、乗機を突撃させる。

この2ヶ月での成長を感じさせる"EWACテスター"の突撃は見事、ディアッカの機体を弾き飛ばす。

 

「うおぁっ!?」

 

「大丈夫か、ディアッカ!」

 

だが、この場に敵は2機。

ディアッカの"ジン"の体勢を崩しても、ラスティがカバーする。

 

「はぁっ、はぁっ、もう、勘弁してくださいよ・・・・」

 

セシルは、他の隊員の援護を期待出来ないこの状況に、少しずつ絶望し始めた。

 

「誰か、来れないんですかぁ・・・・!」

 

 

 

 

「くっ、なんだよこいつ!」

 

「アイク、下がって!・・・・だめ、やっぱり当たらない!」

 

カシンは、突如現れてアイクの機体を攻撃した"シグー"に向けて、ライフルを連射する。

しかし、まるで弾丸が自ら逸れていくと見間違うほどの滑らかなマニューバをする"シグー"には、まるで当たらない。

 

「くっ、あああああああ!」

 

そうしている内に、比較的装甲の薄い後背部に攻撃が命中する。アスランが乗る"ジン"によるものだ。彼は駆けつけた隊長に目を引き付けられたカシンの隙をついて、攻撃を加えたのだ。

敵は、1機ではない。アスラン、ニコル、そして他に2機の”ジン”もまだ健在なのだ。

 

「くそっ、無事かお前ら!」

 

「モーガン、敵艦は!?」

 

「すまん、そいつに邪魔された!その”シグー”はやばい、2人がかりでいくぞレナ!」

 

「それじゃあ、アイクとカシンが!」

 

「そいつを野放しにする方がまずい!アイク、カシン!俺達でこいつを抑える!なんとか踏ん張れ!」

 

数的劣勢に追い込まれ不利な状況にあることなど、高度な戦術眼を持つモーガンが最もわかっている。しかし、それを踏まえてなお、あの”シグー”は2人がかりで挑むべき相手だ。

 

「レナさん、こっちは大丈夫です!」

 

「任せてください、モーガンさん!そっちは任せましたよ!」

 

アイクもカシンも、モーガンの判断には全幅の信頼を置いている。彼らは、2対4の死戦を引き受けることを即決した。それを聞き、レナとモーガンが”シグー”に向かっていく。

こうなった以上、2人で”シグー”を速攻で落とすほかに手は無い。

 

「クルーゼ隊長、援護を・・・・」

 

「いや、大丈夫だアスラン。それより、ディアッカとラスティはどうした?」

 

「彼らは、敵艦の捜索に向かいました。今頃、接敵している頃でしょう」

 

「そうか、ならば君はこの場の隊員を率いて、あの重砲撃機を撃破してくれ。私がこの高機動機とMAを引き受けよう」

 

「了解!」

 

これらのやり取りは、戦闘機動を行いながらのものである。ラウにとってレナとモーガンの攻撃は片手間に対処できるものであり、戦いながら部下へ指示を出すことなど造作も無い。

残酷なほどの経験差が、それを可能としていた。

 

「こいつ、遊んでいるつもりかよ!」

 

「”シグー”相手にグレネードは当たらない、それなら!」

 

「ふふっ、中々やるが、これ以上は持つまい?」

 

モーガンは残ったガンバレル3機を展開し、レナは残弾1発となってしまったグレネードランチャーに見切りをつけ、ライフルを”ジャガーテスター”に構えさせる。

ラウは彼らの攻撃をよけながらアイザックとカシンへ攻撃する機会を窺う。アスラン達がアイザック達を撃破するか、この2機がそれより先に自分を討つか。

圧倒的にクルーゼ隊に有利な賭けが、始まっていた。

 

「全機、敵を包囲しろ!的を絞らせるな!」

 

「了解!」

 

「カシン、背中合わせに!隙を見せたらやられる!」

 

「わかったわ!」

 

それぞれが生き残るための最善策を選び続けても、この有様。もはや限界が見え始めていた。

 

 

 

 

 

そして、それは訪れる。

セシルが弾切れになったライフルの弾倉を換えようとした隙に、ディアッカの”ジン”が急接近する。

 

「そんな!?」

 

「さっきのお返しだ!」

 

そのままの勢いで2機のMSは激突し、”EWACテスター”が後方に弾き飛ばされる。デブリに激突した”EWACテスター”に、反応は見られない。

激突の衝撃で、セシルは気絶してしまった。目の前には、2機の”ジン”がいるというのに。

それを見た“ヴァスコ・ダ・ガマ”では、セシルの意識を呼び戻すために通信を試みる。

 

「セシルさん、応答を!セシルさん!・・・・反応、ありません!」

 

「呼びかけ続けろ!援護はできるか!?」

 

「ダメです、敵機が”EWACテスター”に接近、今撃ったら、セシルさんに当たります!」

 

エリクの言うように、1機の”ジン”が”EWACテスター”に向かっていく。その手には武器は握られていない。

 

「攻撃しようとしていない・・・・まさか!奴ら、セシルを鹵獲するつもりか!」

 

「そんな!?ああっ、残った敵機がこちらに接近してきます!」

 

”ヴァスコ・ダ・ガマ”に接近する”ジン”。ユージの目には、そのパイロットが「ディアッカ・エルスマン」だということを映し出していた。

 

「ラスティ、そいつは任せた!たっぷり情報を持ってそうだしな!俺はこいつをやる!」

 

「気を付けろ、敵の対空機銃に当たるなよ!」

 

「はん、誰が!」

 

ラスティの警告を一蹴し、”ヴァスコ・ダ・ガマ”に迫る。

彼からしてみれば、もはや敵はデカくてのろまな大物だけ。油断して挑んでもなお、余裕な相手だ。ディアッカはそう思っていたし、実際にそうだった。

 

「敵機、接近!隊長・・・・!」

 

「くっ、南無三!」

 

もはやユージにできるのは、ブリッジに向けてマシンガンを向ける”ジン”を睨むことだけだった。

 

 

 

 

 

 

「中々堅かったが、これまでだなぁ!」

 

「くそっ!増加装甲はほとんど剥がれた、ビームはもうエネルギーが無い、斧は左腕ごと1本消失・・・・!だが、諦めねえぞ!せめてこいつは道連れにしてやるぜ!」

 

ミゲルとエドワードの戦いも、終局を迎えようとしていた。

ミゲルの”ジン”はマシンガンの弾が切れ、ビームがかすめたのか所々の装甲が溶けているのが見える。しかし、行動にはまったく支障はないようだ。武装も、重斬刀がまだ健在している。

対してエドワードの”イーグルテスター”は、何度も攻撃をその身で受け止めたことによって増加装甲はほとんどが破損し、地の装甲が見えている。加えて、左腕は肘から先を破損し、満身創痍といった様子だ。

ミゲルは、重斬刀を構えて愛機を突進させる。このまま一気に勝負を決めるつもりだ。

それにエドワードも答え、愛機を突進させる。その命をかけてでも、ミゲルを倒すつもりだ。

 

「「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」

 

2つの機影が重なる。

そこに残っていたのは、右腕を根元から切り裂かれた”イーグルテスター”と。

肩口に斧を食い込ませながらも、未だ健在なオレンジの”ジン”だった。

 

「負けた・・・・俺が、完全に・・・・」

 

「ここまで追い込まれるとはな・・・・ナチュラルも、侮れないか」

 

そう言いながらミゲルは、無事な左腕で斧を引き抜き、再び”イーグルテスター”に向かって重斬刀を構えさせる。

 

「お前の事は覚えておいてやるぜ、この俺をMSで苦戦させた、初めての敵としてな!」

 

「くそっ・・・・くっそおおおおおおおおお!」

 

もはや、”イーグルテスター”は満足に動くことすらできない。重斬刀が迫る。

 

 

 

 

 

 

「左腕部損傷、メインスラスター出力低下・・・・!ここまでだというの・・・・!?」

 

「ちくしょう、なんなんだよこいつは!?撃っても撃っても、かすりすらしねえ!」

 

モーガンとレナも、もはや余力はない。

”ジャガーテスター”は元々低下していた機体パフォーマンスの隙を突かれ、被弾。

モーガンの”メビウス・ゼロ”もまた、ガンバレルの全てを損失し、まな板の上の鯉といった様相だ。

 

「残弾数、ゼロ・・・・これ以上は・・・・」

 

「アイク、諦めてはダメ・・・・!ここで私達が諦めたら、2人が・・・・!」

 

アイザックとカシンも、”キャノンD”の装甲が破損し、弾も尽きようとしていた。

絶体絶命という言葉がこれほどふさわしい場面も、そうそうないだろう。

そうしている内に、”ジン”の1機が重斬刀を抜き放ち、アイザックに向かって突進する。このまま一気にケリをつけるつもりなのだろう。そして、アイザックの機体ではその突進をよけることはできない。

 

「アイク───!」

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、俺達がいないだけでこの有様なのかよ?」

 

 

 

 

 

 

アイザックに向かって突進していたジンに、数発のミサイルが命中する。

体勢を崩した”ジン”に向かって、更に攻撃が襲いかかる。”ジン”は間もなく、爆散した。

 

「いったい、何が・・・・!?」

 

ニコルがレーダーを見ると、そこに映る複数の反応。それは、MSの反応と言うにはあまりに小さい。それより一回り小さい、それの正体は。

 

「アラド、さん?」

 

「おーう、無事だったか小僧共!?そして、くたばり損なったみたいだなモーガン!騎兵隊の到着だ!デブリの中なら、俺達でも”ジン”と戦えるんだぜ!?」

 

横合いから攻撃を放ったのは、アラド率いる”メビウス”隊。数は10機に満たないほどだが、デブリ帯をすいすいと移動してみせるその機体に、”ジン”は1機とて攻撃を与えられない。

 

「なんだ、こいつら!?まだ、潜んでいたのか!?」

 

「いや、違います!この敵は・・・・!」

 

 

 

 

 

重斬刀が”イーグルテスター”に命中する直前に、ミゲルの”ジン”に銃撃が襲いかかる。

 

「なんだ!?」

 

ミゲルが銃撃の飛んできた方向にメインカメラを向けると、そこに映っているのは、3機のMS。だが、それは”ジン”ではなく。目の前でとどめを刺そうとしていた敵機に似ている。

 

「アスラン達がしくじったのか?いや、違うな。今まで戦っていた割には、あまりに装甲が綺麗だ。・・・・まさか!?」

 

そこまで考えたが、ミゲルの思考は中断される。更なる攻撃が、飛んできたからだ。

 

「くそっ・・・・あと一歩というところで!」

 

ミゲルは半壊した”イーグルテスター”を一瞥してから、母艦に向かって移動し始めた。

腕には自信があるが、消耗した状態での連戦は好ましくない。そして、そこまで自分を追い込んだ敵の肩にペイントされていたマークを思い出す。

 

「ネズミの部隊・・・・次に会ったときは、必ず仕留める!」

 

 

 

 

 

 

「彼らは、援軍か!?しかし、どこから・・・・?」

 

絶体絶命からユージ達を救ったのは、見慣れた、しかし自分達のものでは無い”テスター”3機。彼らは”ヴァスコ・ダ・ガマ”の艦橋に向けて銃撃しようとしていたディアッカの“ジン”に銃撃を浴びせ、彼らの窮地を救ったのだ。

 

「なんだ、どこから・・・・!?」

 

「ディアッカ!っくう!?」

 

そして、ディアッカを心配して視線を新たに現れた敵機に注目したラスティに。

動かないはずの”EWACテスター”が盾から引き抜いたアーマーシュナイダーを突き立てようとする。間一髪で気付いたラスティだったが攻撃をよけきれず、脇腹に攻撃が命中する。

 

「くう~、やってくれましたね!”ヴァスコ・ダ・ガマ”、聞こえますか!セシル・ノマ、復帰しましたぁ!」

 

そう、アミカの呼びかけに応じて、セシルの意識が覚醒したのだ。

思わぬ攻撃を受けたラスティ機に、ディアッカの”ジン”が近づく。

 

「ラスティ、大丈夫か!?」

 

「あ、ああ。なんとかコクピットには!だがこれ以上は!」

 

「くそ、グレイトな展開だったってのに・・・・!」

 

ディアッカ達が、母艦に向けて撤退する。それを見たユージは、しかし肩の力を抜かずに、次の行動に移っていく。

 

「被害状況の確認、怠るなよ。アミカ、彼らに通信をつないでくれ」

 

その声を受けて、モニターに”テスター”のコクピットが映し出される。

 

「救援、感謝する。そちらの所属を答えて欲しい」

 

「はっ、自分達は『第10機械化試験部隊』所属のMS小隊です。自分は小隊長のブラッド少尉であります。そちらの部隊に所属する”コロンブス”からの緊急の要請を受けて、『第09機械化試験部隊』と合同で救援にきました!」

 

彼らは”マウス隊”の戦果を受けて新たに設立され、”マウス隊”パイロット達の教導を受けてから自分達と同じようにデブリ帯での襲撃任務に就いていた部隊だということを思い出す。

今回のデータ収集にアラド達が居なかったのも、彼らの部隊についていったからだ。

 

「”コロンブス”が・・・・彼らは無事か!?」

 

「はい、無事プトレマイオス基地の領域内に入れました!敵艦隊にも、現在攻撃が行われています」

 

「敵艦隊に、攻撃・・・・それだけの戦力が?」

 

「隊長、自分の機体、まだ機材が無事みたいです。通信してみますか?」

 

「セシルか。ああ、頼む」

 

そう言ってしばらく、ノイズ混じりではあるがモニターにある光景が映し出される。

 

『やれやれ、どうやら無事だったようだな少佐?急いで来た甲斐があったというものだ』

 

「ハルバートン提督!?それに、そこは?」

 

『”コロンブス”の救援要請に応えて、私を乗せて試験航行中だったこの”メネラオス”も持ち出してきたのだよ。ホフマンも、”カサンドロス”の艦長として来ている』

 

そういってデブリ帯の外の映像が映し出されると、そこにはZAFT艦隊の横から砲撃を加えている3つの戦艦の姿が確認できる。

そのうち2艦は、連合宇宙軍の主力艦である”ネルソン”級戦艦、それぞれ”モントゴメリ”と”カサンドロス”だ。それぞれ、第09・10部隊の母艦として運用されていたのだろう。モントゴメリの方には、「コープマン」が登録士官として、ユージの目に表示されて見える。

 

コープマン(Cランク) 大佐

指揮 8 魅力 6

射撃 7 格闘 3

耐久 7 反応 5

 

得意分野 無し

 

そして、最後の1艦。それは、自分達にはあまりなじみの無い姿だった。

連合宇宙軍次期主力艦艇、”アガメムノン”級戦艦。その船の個別名は”メネラオス”、原作においてもハルバートンが第8艦隊の旗艦として用いていた戦艦だ。

その船体には主砲として、後に”アークエンジェル”にも採用されるゴッドフリートMark71が備えられており、今まさに、その脅威をZAFT艦隊に浴びせている。

 

「今まで、よく耐えてくれた!あとは任せろ!手負いの艦隊に負けるような第8艦隊ではないと、奴らに教えてやる!」

 

 

 

 

 

 

「隊長、これでは・・・・!」

 

アスランの、焦った声が聞こえてくる。

どこからか現れた敵の増援、いずれ他の場所からも続々とやってくるだろう。

サブモニターに、母艦が攻撃されているのも見える。どうやら、時間をかけすぎたようだ。

 

「全機、撤退だ。アデス、撤退信号を放て。これより、本宙域を離脱する」

 

その声を聞いて、残存していた”ジン”が母艦に戻っていく。

アラド達は、追撃しようとはしなかった。今は、ボロボロの”マウス隊”各機を救援する方が優先だ。遠目に、第09部隊の”テスター”が”イーグルテスター”を支えながら母艦に向かっていくのが見えた。

 

「しかし、お前らがここまで追い込まれるなんてな。相当、腕の立つやつらだったのか?」

 

「ああ、かなり、やばい奴だった・・・・アラド、すまねえ」

 

「いいってことよ」

 

歴戦の男達の間に交わされる言葉は、少ない。

戦いの直後は、そっとして欲しい。乾杯は、落ち着いてからだ。

そういった不文律が、彼らの中にあった。

言葉少なく、撤収作業が進んでいく。

 

 

 

 

 

彼らは無事、プトレマイオス基地に帰投した。しかし、彼らの顔は暗い。

今の今まで、いつ死んでもおかしくない戦いを繰り広げていたのだから当然だ。ハルバートンは”マウス隊”に明日までの休息を与えた。戦士には、休息が必要だということが、彼はわかっていた。

 

 

 

 

 

ここは、プトレマイオス基地内に存在するBARスペース。主に非番の兵士達が酒を飲む場所として使うここに、2人の兵士の姿があった。

エドワード・ハレルソンとモーガン・シュバリエ。

2人は、ぽつりぽつりと話し始める。

 

「初めてだ。あんなに攻撃が当たらなかったのは。確実に当たると思った攻撃でも、かすらせるだけが精一杯でな」

 

「なんだ、そっちはかすりはしたのか?こっちはレナと2人がかりでもかすりもしなかったぜ」

 

「おっさんも、ずいぶんきつい相手と当たったみたいだな・・・・」

 

「ああ・・・・」

 

そこでモーガンは、酒の入ったグラスをあおる。

 

「だが、次こそは必ず勝つ。やつの動きは大体把握できた、こっちのMSの性能もドンドン上がっていく。やつらに、俺達をあそこで仕留められなかったことを後悔させてやるさ」

 

「俺もだ。ミゲル・アイマン、『黄昏の魔弾』か・・・・堂々とZAFTが宣伝してやがった。今度あったら、絶対にぶっ飛ばす。そして、やつらに教えてやるさ。『切り裂きエド』は、魔弾すらも切り伏せるってことをな・・・・!」

 

エドワードも、決意と共にグラスをあおる。その目には、純粋な闘志が映っている。

 

「なあ、ところでよ・・・・」

 

「なんだよおっさん?」

 

モーガンは、怪訝そうな顔をしながら、エドワードに質問する。

 

「その『切り裂きエド』ってのは、なんだ?この前からお前が自称してるのは聞いたが、他では聞かねえぞ?」

 

「そりゃそうだろ、今は俺が自称してるだけだからな」

 

「はあ?」

 

そういうと、エドワードは気さくな笑みをモーガンに向ける。

 

「いずれ、ZAFTの奴らにそう呼ばせてやるのさ。『切り裂きエド』を倒さなければ、勝利は無いってな!」

 

「はっ、大言壮語にならねえといいがな」

 

「んだとお!」

 

男達は酒をあおりながら、疲れを癒やしていく。生き残った幸運をかみしめ、次の戦場でも戦い抜く活力を蓄えるために。

 

 

 

 

 

 

「あれは、ただ速いだけじゃなかった・・・・。私達の動きが完全に見切られていた。もっと腕を磨いて、『やつ』に追いつかないと・・・・」

 

レナは、先ほどまでの戦闘を思い出しながら通路を歩いていた。

これまでの戦いで、自分も力を付けてきていた。そう思っていた自信は、たった1機のMSに打ち砕かれた。あの中であの”シグー”にもっとも太刀打ちできるのは、自分だった。自分が1人でも”シグー”を抑えられていれば、モーガン達が連携して”ジン”を撃破して、4人で立ち向かえたかも知れない。既に過ぎたことではあったが、そう考えずにはいられない。

もっと、力が必要だ。仲間達を守るための力が。

そう考えたところで、休憩スペースのベンチに1人の女性が座っているのが見える。

カシンだ。それに気付いたレナは、近づいて声を掛ける。

 

「どうしたのカシン、こんな時間に?」

 

「あ、レナさん・・・・。えっと、眠れなくて・・・・」

 

「無理も無いわ、あんな戦いの後だもの」

 

そう言いながら、同じベンチに腰掛ける。

しばらく無言が続くが、カシンが話し始める。

 

「考えていたんです。もし、あそこで負けてたらって」

 

「カシン」

 

レナが諫めるが、カシンは止まらない。

 

「もし、あそこで死んでたら。皆死んでしまって。そうしたら、もしかしたら。地球の家族の『保護』が外れちゃうんじゃ無いかなって。私の肩には、いつの間にかいろんな人たちの命がかかっていたんだって気付いて、それで、それで」

 

「カシン、もういいの」

 

そういって、レナはやさしくカシンを抱きしめる。ビクッと震えるが、抵抗はない。

 

「戦いは終わったわ。今はそんなこと考えないで休んで」

 

「レナさん、私・・・・」

 

「泣いたって、いいのよ。軍人だって、私だって、泣きたいときがあるのだから。泣けるときに、泣いておきなさい」

 

「ううっ、ああっ・・・・。ああああああああああああああああ・・・・・」

 

そこまで言うと、カシンは泣き始めた。

これまでのコミュニケーションの中で、わかっていたはずなのに。慣れとは、恐ろしいものだ。

彼女が軍人になって、まだ半年も経っていないというのに。彼女は、生来の真面目さでそれを押し隠していたのだ。和解のきっかけになったシャワールームでの一件以来、そういった話は聞けなかったものだから。ついつい、忘れてしまっていたのだ。そして、気付く。自分は一人ではないのだと。

今は休む。そして明日から、仲間達と一緒に強くなっていこう。

その後しばらく、休憩スペースには泣き声が響き続けた。

 

 

 

 

 

 

「セシル、大丈夫かい・・・・?」

 

アイザックは、セシルの部屋のドアの前に立っていた。

食事の時間に、彼女の姿が見えなかったからだ。彼女の気持ちはわからないでも無いが、何か食べなければ体に悪い。そう思い、ここまでサンドイッチやゼリーなど、食べやすいものを運んできたのだ。

しかし、反応はない。もう寝てしまったのだろうか?そう思っていると、ドアが開く。

そこには、目を腫らし、しわくちゃなピンクの制服を着たセシルが立っていた。今まで、その格好でベッドに潜り込んでいたのだろう。

いきなりのことにアイザックは動揺するが、セシルに軽く引っ張られて部屋の中に入る。

 

「セシっ・・・・!?」

 

「・・・・このままで、お願いしますぅ」

 

そのまま、アイザックの胸に顔を埋める。一般的成人男性の身長のアイザックと、いささか小柄なセシルの身長だからこそ、自然とその体勢となる。

 

「・・・・怖かったんです。あのまま、死ぬことが。まだ、いっぱいやりたいこともあるのに。死んだらそれ全部、できなくなってた。それに気付いたら、怖くて、怖くて。ベッドに潜り込んでも、消えなくてぇ」

 

「セシル・・・・」

 

「もう少し、このままで。明日になったら、元通りの、私ですから。コミュ障で、慌てん坊で、機械いじりが趣味の私ですからぁ・・・・」

 

それを聞いて、アイザックは優しく腕をセシルの後ろに回す。恋人とかそういう仲ではなかったが、不思議と、アイザックもぬくもりを欲していた。お互いに人肌の暖かさ、『命』を感じていたかった。

そのままの姿勢で、しばらく二人は立ち尽くした。

その翌日から、二人は顔を見合わせると赤面する光景が見られ始めたが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

「隊長」

 

ジョンの声がする。そちらに顔を向けると、彼が珍しく顔をしかめているのがユージの目に映った。

 

「ん、ジョンか。どうした?」

 

「どうした、ではありません。そろそろお休みになってください」

 

そう言われ壁の時計を見てみると、既に夜の12時を回っている。

ユージは今、第4開発実験室の観測スペースにて、昼間の戦闘のデータを整理していた。そして、気付けばこの時間だったというわけだ。

 

「ああ、そうだな。続きは、また別の時にしよう」

 

「そうしてください。・・・・隊長」

 

「ん?」

 

ジョンは、絞り出すように声を出す。

 

「次は、私に逃げろなどと言わないでください」

 

「・・・・」

 

「これで、二度目です」

 

「・・・・すまなかった。そして、ありがとう」

 

「いえ・・・・」

 

彼らの間に、言葉は少なかった。だが、彼らには長年の付き合いによって言わずとも伝わっていた。お互いの言いたいことが。

戦士達の夜が、更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とんだ、試験航行になってしまったな」

 

ハルバートンは、昼間の戦闘をそう振り返る。”メネラオス”の初めての戦闘があんなものになるとは、誰も想像していなかっただろう。

しかし、それで彼らを救えたのなら。おつりが来るというものだ。

だが。机の上の資料を見ながらハルバートンは嘆息する。

 

「彼らには、もはや長き安息は許されない・・・・こんな戦争は、やはり早く終わらせねばな」

 

資料のタイトルには、こう記されていた。

 

 

 

 

 

『世界樹再生計画』、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督、地上本部から、「世界樹再生計画」について参加を打診されています!

ZAFTの攻撃で失われたL1コロニーの宇宙拠点、「世界樹」に代わる新たな中継拠点を設置し、月と地上の連携を強化するのが目的とのことです。予算の投入をご検討ください。

 

 

特別プラン「世界樹再生計画」必要資金 5000

 

・月と地球を結ぶ中継点として、失われた「世界樹」に代わる新たな拠点を設置する。予定作戦期間の短さから仮設拠点のような形にはなるが、これによって宇宙と地球の行き来を現在より容易なものとする。

 

成功条件 

「宇宙ー5」を一定ターン制圧する。これにより、「宇宙ー5」が重要拠点「セフィロト」へと変化する。




と、いうことで。
VSクルーゼ隊、終了となります。

いやあ、ネタバレすると実は、この戦いで戦死者を出すつもりは最初から無かったんですよね。やっぱり、自分で作ったキャラクター達があっさり死ぬ姿って、見たくは無いじゃ無いですか。TRPGのキャラに愛着を持つのと同じですよ。
そう考えると、富野御大ってすげーよな!必要な場面とみれば、躊躇無くメインキャラだろうと死亡させてくんだもん!しかも、それ全部が無駄な死とかでは無く、視聴者の心に刻み込んでいくんだ!

次回以降も、マウス隊の激闘が続く事になります。
果たして、ハルバートンはこの特別プランを成功へと導くことができるのか!?


ついでに、ユージ達一部のキャラは成長してランクが上がってます。次回以降に本格的に描写しますが、ユージ本人のステータスは本人の目に映らないので、ここで。最初のステータスは、「オリキャラ紹介」のところにまとめて載っけてます。

ユージ・ムラマツ(Bランク)

指揮 11 魅力 11
射撃 9 格闘 7
耐久 8 反応 8


誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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