機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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今回から新章です。

それと前回のあるキャラの描写について物議を醸し出すことがありました。
ひとえに自分の想像力の至らなさが招いた事態でありますので、今後は同じようなことが起こらないように細心の注意を払って執筆を続けていきたいと思います。


第4章
第112話「新たなる戦場」前編


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南アフリカ ケープタウン基地 ”アークエンジェル”休憩室

 

「見ろ、ケープタウンだ!」

 

「大きな都市に来るのも久しぶりですね」

 

マイケルの声にその場の全員が誘われて窓から覗いた先には、アフリカ大陸屈指の大都市の町並みが広がっていた。

ベントの言ったように、”アークエンジェル”がこのような大規模都市に寄港するというのは初めての事態だ。

現在、”第31独立遊撃部隊”こと”アークエンジェル隊”はアフリカ大陸での任務を終え、激戦の傷を癒やす整備のためにこのケープタウン基地に寄港した。

本来は大西洋連邦派閥の”アークエンジェル隊”が南アフリカ派閥のこの基地に寄港することは考えづらいことだが、元々”アークエンジェル”隊がアフリカに降りたことが南アフリカ大陸からの要請だったため、気兼ねなく寄港出来るのだ。

 

「この間も食糧補充のために街に寄ったりはしたけど、あの時はキラとヒルダしか降りられなかったからなぁ。今回は羽休めが出来ると良いんだが」

 

「あんたは羽休めする暇があるなら訓練でもしてればいいんじゃないの~?」

 

「そっくりそのまま返すぜ、俺達の中で唯一機体をお釈迦にしたお嬢さん」

 

「それ言ったら戦争でしょうが!」

 

「はいはい落ち着いてください2人共」

 

いつものように喧嘩(じゃれ合い)を始めるマイケルとヒルデガルダ。キラはそれをにこやかに見つめていた。

今でこそこのように安全な場所で気楽にいれるが、彼らはつい2日前まで敵地にいたのだ。

失った物もあるが、こうして顔なじみでくつろげているのは幸運なことに違いない。

 

「あはは……残念ながらそうはいかないと思いますよ?」

 

水をさすように休憩室に入室してきたのは、若年15歳ながら”ストライク”地上運用試験のリーダーを務めるアリア・トラスト。

頭にクエスチョンマークを浮かべたマイケル達に、アリアは隈が浮かんだ顔を苦笑いで歪ませながら話し始めた。

 

「たしかに今日は休暇でお休み出来ますけど、明日からは”アークエンジェル”本体の修理が本格的に始まる予定ですからね……それにMS隊の皆さんも駆り出されることになりました」

 

「えぇ~!?」

 

「なんで俺達が駆り出されるんだよぉ!?」

 

「ケープタウン基地も今は大規模作戦の準備で忙しいんです。自分達で出来る所は自分達でやるってことで」

 

各々嘆くMS隊の面々。

そんな中、アリアはキラに向き直る。

 

「あ、キラさんは明日別行動でお願いします」

 

「え?」

 

「うぇぇぇぇぇぇ?なんでキラ君は別なのよ~?」

 

ヒルデガルダからの問いにアリアは、ふっふっふ、と不適な笑いを返す。

その姿を見たキラは直感した。───絶対めんどくさい奴だ。

 

「勿論、テストパイロットの本願として試作ストライカーのテストに付き合って貰うんですよ!」

 

 

 

 

 

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”アークエンジェル”

 

「結局、キラの奴はアリアと一緒にどっかいっちまって、俺達ゃせっせかMSで修理か……軍人は辛いね」

 

<ボヤボヤ言わない、男の子でしょ!>

 

「ポリコレだー、男女差別だー……」

 

<諦めなよマイケル。ヒルダも慣れない機体に苦戦してるみたいだしさ>

 

<あーん、もうっ!この”ダガー”、なんかペダルとか重くてイライラするー!>

 

翌日、マイケル達は修理が完了したそれぞれの愛機に乗って、”アークエンジェル”の修復作業に参加していた。

ヒルデガルダだけは既に修復不可能なレベルまで機体が大破していたため、負傷したムウと機体をトレードする形で機体を確保することになっている。

しかし、機体の調整がまだムウのものから変更されていないために操縦には一苦労しているようだ。

 

「にしても酷くねーか?場所と道具は貸すから修理は自分達でやれって、薄情だぜ南アフリカの連中」

 

マイケルの言うとおり、現在”アークエンジェル”の修復作業に参加しているのは”アークエンジェル隊”のメンバーがほとんどで、南アフリカの人員は少ない。

これでも南アフリカの仇敵である『砂漠の虎』を倒した部隊なのだから、もう少し配慮してくれてもいいのではないか。

マイケルがぼやいていると、ベントも苦笑しながら返事をした。

 

<仕方ないよ、今は南アフリカも自分達のことで手一杯なんだから。安全な場所で修理と補給が出来るだけマシと思わなきゃ>

 

<あー、そういえばもう少しでナイロビの奪還作戦が始まるんだっけ?>

 

「そりゃ、まぁ自分達の首都を取り返そうってんだから気合いも入るだろうけどよー」

 

”アークエンジェル隊”がいる『南アフリカ統一機構』は、アフリカの南部と東部の国々による統一国家だ。

その首都にはケニア共和国の首都でもあるナイロビが当てられているのだが、現在ナイロビはZAFTによって占領されてしまっている。

『三月禍戦』の折、防衛体制が不十分だったためである。

ZAFTの自作自演と予測されているこの事件によって首都を奪われた南アフリカの兵士達の怒りと、その奪還作戦におけるモチベーションの高さはマイケルにも容易に想像出来た。

 

「……俺達、次はどこ行くんだろうな」

 

<さぁ……いきなりどうしたの?>

 

マイケルがポツリと漏らした言葉にベントが反応する。

珍しく歯切れの悪い調子で、マイケルは話し始めた。

 

「こうやって見れば、”アークエンジェル”ボロボロだろ?」

 

<それはそうでしょ。アフリカに降りてからちゃんとした修理なんてしてなかったんだし>

 

「そうだけど、そうじゃなくてよ……。俺達もこの艦に乗って、何度も死にそうになりながら戦ってきたじゃねーか。次の戦場も、やっぱりまた激戦地なのかな、ってさ」

 

モニターに映る”アークエンジェル”は、弾痕であったり、爆炎にあぶられた焦げ痕だったり、大小様々な損傷を負っている。

”アークエンジェル”でなければ何度も轟沈していたに違いない。

それはつまり、”アークエンジェル”でなければ耐えられない戦いをくぐり抜けてきたということだ。

 

マイケルは、自分がそこまで腕が良いMSパイロットだとは思っていない。

キラやスノウといった勢力でもトップクラスのパイロットに、MSが戦場に姿を現す前から活躍していた歴戦の兵士であるムウは言うに及ばない。流石にあそこまで自分がやれると思うほど自惚れられない。

しかし、訓練課程からの腐れ縁2人にも水をあけられていると、最近感じられてきたのだ。

ベントは以前から評価されていた射撃能力に磨きが掛かってきたし、ヒルデガルダは先日、『深緑の巨狼』を仕留めるという快挙を達成した。

───なら、自分は?

 

「いつか、どこかで、俺も死んじまうのかなってさ……」

 

<マイケル……>

 

これからも”アークエンジェル”で戦っていくとしても、自分(マイケル)はそこで何が出来るのだろうか。

なんてことは無い場面、なんてことはない攻撃で死んでしまうのではないだろうか。

不安をこぼすマイケル。

 

<───人間、いつかは死ぬわよ>

 

ヒルデガルダが言った。

 

<寿命で死ぬかもしれないし、交通事故で死ぬかもしれない。ひょっとしたらイカレたクソ野郎が乱射した銃に撃たれるかもしれない。そんなこと考えて生きてなんかいけないでしょ、考えても疲れるだけよ>

 

「……」

 

<結局、人間は出来る事少ないんだからさ。悩むならせめて後悔しない生き方について考えたら?>

 

ヒルデガルダの言葉は正論だった。

いつ訪れるかも分からない『死』について延々と怯えているよりも、今を大切にするべきという考え方は、彼女が軍に入隊する前からのものだ。

生来からの確固たる考えを持っているヒルデガルダは、だからこそ強い。

 

「そんなもんか……そんなもんだよな……」

 

マイケルは、確固たる考えを持って生きているわけではない。

特に将来やりたいことがあるわけでもなく、軍に入隊したのも、困窮しかけた家を支えるためでしかない。

そんなマイケルには、ヒルデガルダの言葉はいやに眩しく感じられてしまうのだ。

 

<だいたい、マイケルのくせにシリアスに考え過ぎなのよ。いつもはちょっと考えたらすぐに別のこと考え出すのに>

 

「そういうお前は、ちょっと良いこと言ったら調子乗り出すじゃねぇか。そういうとこだぞお前がモテないの」

 

<別に彼氏とか今は欲しくないしー!ていうか、あたしに釣り合う奴がいないだけだしー!>

 

<だったら過剰なリアクションしなければいいのに……>

 

あっという間にいつもの調子を取り戻す3人。

マイケルは自信家というわけではないが、それでも自信を持って言えることがあった。

───自分(マイケル)は、友人には恵まれてる方だ。

 

<ほら、くっちゃべってないで早く修理済ますわよ!そしたらケープタウンの町並みに繰り出すから、付き合いなさい!>

 

「へーへー、付き合えばいいんだろ付き合えば。ったく……」

 

口調とは裏腹に、マイケルの表情は清々しいものだった。

 

「そういえば、()()()()はどうしてるんだろうな?」

 

 

 

 

 

”アークエンジェル”牢屋

 

「我々はー、捕虜に与えられる正当な権利としてー、早急なる食事の用意を希望するー!」

 

「どうせどっかの基地には着いて補給してるんだろー!飯が無いとは言わせねえぞー!」

 

「働き盛り食べ盛りの兵士の腹なめんな、おらー!」

 

MP隊の若い兵士は、額に大きな歪みを作りながら両耳に人差し指を差し込んで音をシャットアウトしようと試みた。

しかし、10人以上の男性の声を封じるには、余りにも無力な抵抗でしかなかった。

 

ここは”アークエンジェル”艦内の牢屋。今この場所には、30人あまりの兵士達が詰め込まれていた。

先日の戦闘で捕虜とされた”バルトフェルド隊”の生き残りである。

しかし、捕虜とされたにも関わらず、兵士達は落ち込むどころか大きな態度で看守に抜擢されたMPに向かって騒ぎ立てていた。

この図太さも、彼らがトップエース部隊であった所以なのだろうか。

 

「うるっせぇな!もう少しで届くから待ってろって言ってるだろうが!」

 

「『もう少し』っていつだよ!何時何分何秒、地球が何度回った時~!?」

 

「ガキかお前らは!」

 

MPが携帯しているアサルトライフルをカチャリと向ければ、先までの喧噪は何処へやら、口笛を吹いたり隣の兵士と世間話を始めたりと(比較的)静かにくつろぎ始めるではないか。

MPは確信した。───おちょくられている、と。

 

「お前ら、よく敵艦の中でそんな態度出来るもんだな……俺でなかったら銃殺されてるかもしれないぞ」

 

「心配すんな。───相手は見てやってる」

 

「ふざけんなよテメエ!?」

 

思わず格子越しにニヤニヤ笑う兵士の襟首を掴もうとするMP。しかし、なんとかその衝動を抑える。

飄々とした態度に騙されて気軽に手を出せば、あっという間にその手を掴まれて返り討ちに遭うだろう。

牢屋のカギ自体はこの場にいない他のMPが持っているので脱走の心配はないが、MPが人質にされてはその限りではない。

この油断の出来ないところは、流石”バルトフェルド隊”と言ったところか。

 

「ちっ……ところで、奥に転がってる『砂漠の虎』さんは何やってんだ?死んだ蝉の真似?」

 

指を差した先には、虚ろな眼でブツブツと何かを呟いている、アンドリュー・バルトフェルドの姿があった。

牢屋に入れられた直後は「何捕まってんだテメエ!」と同じ独房に入れられた部下達にもみくちゃにされていたかと思えば、今度はあのような姿を見せている。

変人達の親玉はやはり変人ということなのだろうか。同じ変人達の親玉でも、以前MPが『セフィロト』で見た”マウス隊”の隊長は疲れ切った眼を見せながら真面目に働いていたものだが。

 

「あー、気にすんな。どうせカフェインが切れただけだろ」

 

「キリマンジャロ……モカ……グアテマラ……」

 

「ほらな?ちなみに、今みたいにコーヒー豆の種類を呟き始めたらレベル2の禁断症状だ。レベル3になったら仏像みてえな顔になるぜ」

 

「あっ、そう……」

 

相当なコーヒー好きだったのだろう。MPもどちらかと言えばコーヒーが好きな方だが、それでも理解しがたいほどには。

 

「……得用コーヒーで良ければ、少しは都合してもいいが」

 

そんな姿を不憫に思ったのか、あるいは自分達を散々に苦しめた強敵の情けない姿を見たくなかったのか、そんなことを口にするMP。

その言葉を聞いた瞬間にバルトフェルドは勢い良く立ち上がり、鉄格子越しに跪く。

 

「自分の力の及ぶ限り、なんでもすると誓おう」

 

「ざけんなこのクソ隊長!戦士の誇りはどうした誇りは!?」

 

「戦士としてのアンドリュー・バルトフェルドは死んだ。───今の僕はコーヒー好きのアンディだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「ふざけろ!そんな上司、修正してやる!」

 

「ちくしょう、うるさくなっただけじゃねーか!」

 

早く誰か来てくれ、そして自分を解放してくれ!

そんな悲痛な思いを誰かが聞き届けたのか、自動ドアの入り口が開く。

 

「おつか───なんだこの状況は?」

 

「俺が聞きたいですよ……」

 

入室してきたのは、元からいたMPの先輩だった。

彼は牢屋の中で発生している取っ組み合いに困惑しつつ、トレーに乗せていた袋を手に取る。

 

「よく分からんが、こいつらの飯持ってきたぞ」

 

それを聞き、取っ組み合いに参加していたZAFT兵やそれを観戦していたZAFT兵士達がやいのやいのと騒ぎ始める。

敵地であろうともこの自由さを保てることは尊敬するべきなのかそうでないのか、MP達には判別が付かなかった。

MP達が辟易としていると、ZAFT兵達が入っているのとは別の牢屋の中から声が掛けられる。

 

「あっ、今日のご飯来た?ちょうどお腹減ってきてたのよね」

 

スミレ・ヒラサカ。『深緑の巨狼』と呼ばれたZAFTのエースであり、捕虜となった兵士達の紅一点だ。

彼女の入っている牢屋には彼女1人が入っており、彼女は実に伸び伸びとした様子で捕虜生活を送っている。

 

「ちくしょう、広々とした独房で伸び伸び過ごしやがって。ずりーぞスミレ!」

 

「おーほほほ、ごめん遊ばせ~?で、今日のご飯は?」

 

「……ケバブだよ」

 

ガサガサと袋からケバブの包まれた紙を取り出す先輩MP。

このケバブは以前補給に訪れた街で購入した食材を使って作られたものだ。

古くなった食材から使うのは古来からの常識である。

 

「ケバブ~?あたし達、ケバブにはうるさいわよ~?」

 

「文句あるなら食わなくてもいいぞ」

 

「冗談、冗談よ。で、ソースは?」

 

「喜べ、チリソースとヨーグルトソースの2種類選べるぞ」

 

「!……へぇ」

 

その言葉を聞いたスミレは何故か隣の牢屋に視線を移す。ドネルケバブのソースに何か含みでもあるのだろうか。

鉄格子の一部を開き、注意深く中にドネルケバブと飲料を入れてゆく。

軍用の得用コーヒーをまるで天からの恵みのように恍惚とした表情で受け取るバルトフェルドに若干引きつつも、2人は食事を配り終える。

 

「隊長、ソース何にします?たぶん人数分ありますけど」

 

「ばっかお前、隊長はヨーグルトソースなんて常識───」

 

「……いや、チリソースを貰えるかな?」

 

『なにぃ!?』

 

ZAFT兵達の間でざわめきが広がっていく。

このアンドリュー・バルトフェルドという男、コーヒーもそうだが食全般に関する拘りが強いのである。

そんな男が普段と趣向を変えることを疑問に思ったのだろう。カフェイン不足の後遺症か何かを疑われるバルトフェルド。

 

「隊長、正気か!?」

 

「カフェインが足りていなかったせいで……くっ!」

 

「ケバブに何のソース掛けるかで正気を疑われるのは僕くらいかな……ちょっとした気まぐれだよ」

 

苦笑いしつつもバルトフェルドは受け取ったケバブにチリソースを掛け、かぶりつく。

モグモグと咀嚼しているバルトフェルドにスミレが声を掛ける。

 

「チリソースのお味はいかがー、隊長?」

 

「……偶には、いいんじゃない?」

 

そのやり取りの意味を知るのは、この場に2人だけだった。

 

 

 

 

 

ケープタウン基地 第4格納庫

 

「あっ、キラさーん!こっちですー!」

 

一方その頃、キラは”アークエンジェル”を離れて基地の格納庫の前までやってきていた。

既に“ストライク”は”アークエンジェル”から搬出され、格納庫の中で試作ストライカーを装備した状態で待機しているという。

 

「アリア、試験はここで?」

 

「はい。”ストライク”の調整は既に終わってるので、後は実際に動かしてみせるだけですよ」

 

そう言ってアリアはキラに試作ストライカーの説明書を手渡す。

そこに書いてある内容を見たキラは、僅かに目を見開いた。

そのストライカーは、これまでとは根本的に異なる代物だったからだ。

 

「水中戦闘用のストライカー?いや、まあ、理解出来ないわけじゃないけど……なんで?」

 

「ま、そこについては移動しながら説明しましょう」

 

キラが疑問に感じたのは、「既に”ポセイドン”が存在するのに、わざわざ水中用ストライカーを作る意味があるのか?」という点だ。

”ポセイドン”は”デュエル”をベースとして開発された水中戦用MSであり、GATシリーズとしての高い基本性能を有する傑作機として評価されている。

多少コストはかさむという弱点があるが、旧式化した”メビウス”を水中戦用に改修した”メビウスフィッシュ”とのハイローミックス*1によって補うことで、ZAFT水中部隊と渡り合っているこの機体で十分ではないのだろうか。

 

「それはその通りです。正直にいうと、このストライカーは大量生産するような物ではありません」

 

アリアの説明によれば、このストライカーは”アークエンジェル”級で運用するからこそ活きる装備とのことだった。

”アークエンジェル”級はその万能性と特異生により、単艦による任務が多くなる。

そうなれば運用出来るMSの数は”アークエンジェル”に搭載出来るだけに限られてしまい、その内の1機を水中戦用の”ポセイドン”で埋めてしまうのは余りにも無駄が多い。

 

「単艦で出来ることが多い”アークエンジェル”だからこそ、その搭載MSにも万能性が求められる、ということですよ」

 

「なるほど……」

 

「っと、着きましたよ」

 

アリアの視線に釣られて目を向けた方向には、説明書で見た通りの姿の”ストライク”が屹立していた。

 

「これが、試作ストライカーであるアクアストライカーを装備した、”アクアストライク”です」

 

”アクアストライク”は、これまでのストライカーの中ではもっとも『全身を使った装備』だった。

背中のコネクターには水中を快足で進むための水中ジェットが接続されている。しかし、それだけに留まらず四肢にも何らかの装置が搭載されているのが分かった。

 

「四肢のそれがスケイル・システムですね。魚の(スケイル)に見立てた機器を操作して推力を発生させるものです。オーブから流れてきた技術ですよ」

 

「他国の技術使っていいの……?」

 

「今更ですよ。……ぶっちゃけると、オーブもGATシリーズ開発に協力する時、いくつかこっちから技術盗ってますから。”M1アストレイ”、ご存じでしょう?」

 

アリアの言葉を聞いて、キラは若干母国に対して呆れを抱いた。

現在の世界情勢で中立を貫くのには多少は後ろ暗いことも必要なのだろうが、そんな調子でいるから『ヘリオポリス』が襲撃されたのではないだろうかと思わざるを得ない。

なお、実際には一部氏族の独断に基づいていたり、ハルバートンを疎んだ上層部の当てつけ混じりで『ヘリオポリス』が選ばれたり、代表首長が胃を痛めながら責任を取って辞任したりなど混沌とした背景があるのだが、それをキラが知る由は無かった。

 

「基本性能は”ポセイドン”と同等ですが、あくまでカタログスペックでの話です。キラさんにはこれより、水中で実働試験を行なってもらってから、インターバルを挟んだ後に”ポセイドン”との()()()を行なってもらいます」

 

「模擬戦?」

 

キラが驚きを示したのは、これまでのストライカーの試験は大体が慣し運転の後に実戦試験に移行していたからだ。

ZAFT領での攪乱という”アークエンジェル隊”の任務との兼ね合いもあったためだが、それにしても珍しいことだとキラは思う。

 

「はい。やはり、いくらキラさんでも水中戦の経験はありませんからね。いつもよりは念入りに、というわけです」

 

「いつもは実戦で使いながら調整しろとか無茶振りしてくるもんね」

 

「出来てるでしょう?」

 

どうやら、これからも彼女(アリア)の無茶振りは続いていくようだと察したキラは苦笑いを浮かべた。

すると突然背後から何者かに飛びつかれる。

 

「なになになに、ひょっとしてこの子がこの機体のパイロット?」

 

「えっ、若っ!ちょっと君何歳?お姉さんに教えてみなさい」

 

「……はぁ」

 

何事かと後ろを見ると、金髪をポニーテールに纏めた女性と青いメッシュを入れた短い黒髪の女性が自分の体をペタペタと触っているのが分かった。

彼女達から若干距離を置いて、長い黒髪の女性が呆れた眼で見つめているが、その反応から察するに、彼女達の行動はよくあることなのだろう。

そして、彼女達は全員、連合軍女性士官の制服を身に纏っていた。

 

「えと、貴方達は……」

 

「ああ、お待ちしていました。”マーメイズ”の皆さんですよね?」

 

「おっと、こっちも可愛いお嬢さんが。貴方がアリア・トラスト少尉?」

 

「はい。キラさん、この方々は───」

 

「───大西洋連邦管轄”第1海戦小隊”、通称”マーメイズ”。あんたの模擬戦相手を務めるのは、あたし達さ」

 

ツカツカと1人の女性が歩いてくる。

襟元に着いた階級章は中尉のものであり、それを見たキラは敬礼を行なう。

 

「”第31独立遊撃部隊”所属、キラ・ヤマト少尉です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「整った敬礼じゃないか、嫌いじゃないよ。───ジェーン・ヒューストン中尉だ。『白鯨』なんて呼ばれてる。よろしく頼むよ」

*1
高額高性能な兵器と低額低性能な兵器を組み合わせて戦力を構成する構想




2週間ぶりの更新、お待たせして申し訳ありませんでした。
ここからしばらく、またキラ達の物語に戻ります。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。



P.S 今回やろうとして出来なかったネタ

マイケル「ところで、なんかこのMS用工具ゴツくないか?」

ベント「組み替えたら実体剣になりそうですよね……」

ヒルダ「『カレトブルッフ』とかいう名前だし、確信犯でしょ」

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