機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
アラド「待たせたな!」

ここから、投稿スペースが低下するかもしれません。
たぶん、週1ペースくらいかな?


第12話「苗木の守り手」

10/7 

プラント 「アプリリウス・ワン」コロニー

 

「やつらは、何を考えていると言うのだ!まったく・・・・!」

 

送迎用の車の中で声を荒げるのは、プラント最高評議会議員にしてディセンベル市代表、パトリック・ザラ。彼は今、1週間程前から何度も開催されている臨時会議が中断された後、アプリリウス市に取ったホテルに向かっている最中だった。

 

「連合が我々の剣であるMSを独自開発したばかりか、既に実戦投入されているというのに!奴ら、和平交渉を行うべきだなどとのたまいおって!むしろ軍事費を増やして早急に地上を攻略せねば、やつらは態勢を整えてすぐさま反抗作戦に乗り出してくる。今やらねば、やられるだけなのだぞ!?」

 

そう、彼を苛だたせているのは、ZAFTエースのラウ・ル・クルーゼが隊長を務め、自分の息子が所属しているクルーゼ隊が持ち帰ってきたデータをきっかけとした、和平派の台頭だった。

そのデータには連合軍が独自のMSを開発し、実戦投入までしていることを証明するにふさわしい光景が記録されていた。加えて、複数のバリエーションが確認されたそれらのMSが、”ジン”と同等以上の性能を持っているらしいことも、和平派は押し出してきた。

我々が何年もかけて培ってきたMS技術に、敵はこの短期間で追いつきつつある。このままのペースでは、いずれ敗北することは必至だ。残存する資源もけして余裕がある量ではなく、なにより兵の数が中々そろえられない。それが、和平派の掲げる理論だ。現最高評議会議長であるシーゲル・クラインが和平派に寄っているのも、大きな一因だろう。

まったく、愚かなことこの上ない。ここで和平など結んでも、連中はいつかまた、プラントに核を打ち込んでくるだろう。愚鈍なナチュラルが愚かな歴史を繰り返さない訳がない。そして、その煽りを受けるのは我々コーディネーターなのだ。

なんとか対応せねば。

まずは市民への印象操作によって、次期最高評議会議長への就任への布石。なんとかペースをシーゲルから取り戻す必要がある。

そして、新型MSの性能を見直す必要もあった。新たに敵MSという存在が確認された以上、それはもはや必須な行為だ。

そこまで考えたところで、同じく車に乗り込んでいた秘書官が手に持つ端末から何らかの情報を受け取っているのが見える。その顔には、驚くべき事を聞かされたような表情を浮かべている。いや、実際に何か重大な情報を受け取っているのだろう。

 

「どうした、何があった?」

 

「パトリック様、緊急事態です!先ほど、連合プトレマイオス基地から発進した敵艦隊がL1周辺宙域に向けて進軍、警邏に当たっていた部隊を撃破したのちに、何かを建造し始めたとのことです!おそらく、以前我々の攻撃によって崩壊した『世界樹』に代わる新たな中継拠点を築き、宇宙と地上の連携を強化するつもりです!加えて、敵MSと思われる存在も確認されたとのこと、早急に対処する必要があると思われます!」

 

言ってるそばから、これだ!

パトリックは運転手に命じて、議会会場へとUターンした。敵が新たなる拠点を構えようとしているなど、プラント、否、ZAFTが総力で対処すべき事案なのだ。おそらく、他の議員にも同様の報告が入っているだろう。

程なくして会議は再開されたが、連日発生していた警邏部隊の連続失踪などで戦力が低下している、地上への予算を割きすぎて今から宇宙に予算を回そうとしても間に合わないなど、結局まともに案も出ないまま翌日以降に会議は持ち越された。

パトリックはその夜、怒りを少しでも沈めるために酒をあおって、ふて寝した。次回以降の会議のことなど、考えたくもなかった。

 

 

 

 

「『世界樹再建計画』、ですか?」

 

時は遡り、10/4。連合軍プトレマイオス基地の第三会議室。おなじみの会場となったそこで、マウス隊の面々は次の任務について、ユージから知らされていた。

 

「そうだ。かつてL1宙域に存在していた、我が軍の軍事拠点『世界樹』。これを再建するのが我々、この場合は第八艦隊だな、の次の任務になる」

 

ざわざわ、とした声が部屋全体から発せられ始める。

今までは部隊ごとに小規模な任務が連続していたのが、一つの艦隊総出で作戦を遂行するというのだ。この隊で初の、中規模ないし大規模作戦。緊張するなという方が難しいだろう。

 

「隊長、よろしいでしょうか?」

 

「レナ中尉、どうした?」

 

挙手したレナに、質問の許可が与えられる。すっくと立ち上がったレナは、疑問をぶつけ始める。

 

「新たなる『世界樹』、たしかに必要なものかもしれません。しかし、なぜ『今』なのです?拙速を尊ぶならもっと早くに行うべきですし、確実に成し遂げるなら正式な量産MSの配備を待ってから行うべきでしょう」

 

「たしかに、普通に考えればそうだ。しかし、それにもワケがある。複数な」

 

そう言ってから、ユージは会議室のモニターを起動する。

そこに映されていたのは、地球。正確には、青と赤の二色に分けられた地球だ。

 

「これが、現在の地上の勢力圏図だ」

 

「これは・・・・」

 

言葉に詰まるモーガン。

そう、それは。彼が以前見た時よりも。

 

「わかった人間もいると思うが、着実にZAFTの勢力圏は広がっている。なんでも、敵戦力が見るからに増強されているそうだ。やつら、速攻を決めたいらしい。このままでは、新型MSの配備を待たずして戦争が終わってしまうやも、と地上本部はお考えだ。そこで、少しでも敵の思考・戦力を宇宙に向けさせて、地上戦線の維持を図りたいらしい」

 

「それは、なんとまぁ・・・・」

 

苦々しげなセシル。

正直に言ってしまえば、囮になれ、と言われているようなものだ。少なくともこの場の何人かはそう考えた。

 

「それにこの計画に成功すれば、月と地上の連携が強化される。宇宙からは苦しい地上戦線にMSを増援として送りやすくなるし、地上からは資源が打ち出される、というわけだ」

 

「なるほど、それならこのタイミングで決行するのがちょうどいいのか・・・・」

 

アイザックが相づちを打つなか、更にユージは続ける。

 

「ついでに、ヘリオポリスからZAFTの目を引き付けることも、出来るかもしれん。危険な作戦ではあるが、その分の価値はある」

 

「ハイリスク・ハイリターン・・・・」

 

「そういうことだカシン曹長。さてここからは、マヤ中尉、頼む」

 

マヤが立ち上がり、モニターの前までやってくる。

 

「はい、それでは全員、特にパイロットの皆さんは注意して聞いてくださいね。皆さんの機体について大事なことなので」

 

それを聞いて、パイロットの面々が姿勢を改める。皆、先日の大苦戦の影響が尾を引いているのだろう。

 

「まず、モーガン中尉。あなたの機体が用意できました。不肖、バカ共が失礼しました」

 

「まったくだぜ。あんなのには、金もらっても乗りたかねえ」

 

一部のバカ共がブーたれようとしたが、レナが一睨みするとすぐに収まる。レナは先日、基地に帰還した途端に変態共の元へすっ飛んでいき、肉体言語も交えて自らの機体についての総評を突きつけたのだ。そのときの経験が生きて、変態共はしばらくおとなしくすることを決めたのだった。

 

「機体は”キャノンD”の仕様となっています。これまでのデータで、中尉は射砲撃戦を得意としていることが判明していますので、こちらで判断してセッティングしました」

 

「おう、大当たりだぜ。俺もそれを言おうと思ってたんだ」

 

「何よりです。そして、モーガン中尉の機体も含めて皆さんの機体には中規模改修が行われています。作戦の発動に伴い、ハルバートン提督が予算を増額してくれました。それを用いて我々開発チームは、皆さんの機体の各部モーターなどの主要部品を交換しました。この改装により、総合的に10%の性能向上が見込めます」

 

「おいおい、たった10%かよ?」

 

「エド少尉、『たった』とは言いますがね、それは技術者からしてみればかなりの苦行なんですよ?旧世紀の歴史上でも、発明王と謳われたトーマス・エジソンは何千回も失敗してようやく民間に普及させられるレベルの白熱電球の開発に成功しているんです。我々も日夜努力してMSの性能向上に努めてはいますけど、そんなホイホイと性能を上げられるんだったら戦争はとっくに終わっていますよ?我々の敗北という形で」

 

「お、おう。すまん」

 

「それに、これ以上の性能向上は難しいでしょう。そうなると、フレームを変更する必要がありますから」

 

「だったら、換えりゃ良いんじゃねえの?」

 

「そんなことするくらいなら、新しいフレームを使って新しくMSを作る方が効率的です。この際ですから改めて説明しますか」

 

モニターに、二種類のデータが映し出される。それは、”テスター”のデータと『G』の基本データようだ。

 

「”テスター”に使われている機体フレームは、現在『G計画』で製造されている『X-100型』から機構を簡略化して、急遽くみ上げられた『X-0型』です。言い方は悪いですけど、突貫工事で作ったような物です。整備性は高いですけど、拡張性は低く、限界性能はたかが知れています。『G』兵器が完成するのを待って、そちらに乗り換える方が効率的なんですよ」

 

「はーん、なるほどね・・・・そういうことなら、仕方ないか」

 

エドワードは、理解を示した顔をする。さすがに無理難題を押しつけようとは思っていないので、不満はあっても押し隠す。よほど、ミゲル・アイマンに敗北したことが気に掛かっているようだ。

 

「その代わりといってはなんですが、“イーグル”並びに”ジャガー”は、前回の戦闘のデータをフィードバックして、以前よりお二人に合わせたセッティングに仕上がっています。作戦開始までにはまだ数日の余裕がありますので、皆さんは性能の変化した乗機の習熟に努めてください。ですよね、隊長?」

 

話を振られたユージが、続く。

 

「マヤ中尉の言うとおりだ。作戦の開始は3日後、10月7日の1300から。それまで、各自で用いる機材の調整に取り組んでくれ。何か、質問はあるか?・・・・ないようだな。では、解散」

 

ユージの号令に併せて、それぞれの仕事場に向かっていく。

勝負は3日後から。作戦を成功させるために、それぞれのできることを成し遂げていく”マウス隊”。

 

 

 

 

 

そして、時が来た。

10月7日、プトレマイオス基地から艦隊が発進した。

智将デュエイン・ハルバートン率いるその艦隊は、現在連合軍で唯一、独自のMSを擁する第8艦隊。彼らはこれから、相応の期間の持久戦に出向くのだ。

艦隊全体に、通信が開かれる。

 

「第8艦隊司令、デュエイン・ハルバートンだ。これより我々は、ZAFTの攻撃によって崩壊した『世界樹』に代わる新たな拠点を築くまでの防衛任務に就く。この任務は、独自のMS隊と、連戦によって練度を高めたMA隊をも擁する我々にしかできないことだ。他の艦隊はプトレマイオス基地の防衛に専念するため、実質ここに集っているのが全戦力と言って良いだろう。だが、私は確信している。君たち、歴戦の勇士が集ったこの艦隊ならきっと、この任務を果たせると。この作戦に成功すれば、地上との連携が強化され、全面反抗作戦を開始するきっかけともなるだろう。我々が、地球連合軍の逆転の兆しとなるのだ!各員の健闘を期待する!」

 

その演説の後、艦隊はL1周辺宙域に向けて前進を始めた。この戦いは時間との勝負だ。ここから1ヶ月もの間、彼らは戦い続けるのだ。だが、それによって得られる物は多い。艦隊は戦意を大きく向上させながら、戦場へ赴いた。その戦力の内訳は、このようになっている。

 

”アガメムノン級”航宙母艦 1(メネラオス)

”ネルソン級”戦艦 4

”ドレイク級”ミサイル護衛艦 6(ヴァスコ・ダ・ガマ含)

”マルセイユ3世級”輸送艦 6(”コロンブス”含)

 

”イーグルテスター” 1

”ジャガーテスター” 1

”キャノンD” 3

”EWACテスター” 1

”テスター” 9

”メビウス” 30

 

他、拠点建造のための工業用機械多数

 

 

 

 

 

 

「どけどけどけええええええええ!死にたくなけりゃ下がりな!」

 

「今更、その程度の艦隊など!」

 

目標宙域に到達してすぐに、エドワードとレナが発進、突撃する。加速力に優れた2機が前に出るのは当たり前だが、その装備は前回より異なっている。

まず”イーグルテスター”は、両手で構えたガトリング砲を連射しながら突撃する。装甲が厚く、加速性にも優れた突撃機である”イーグルテスター”に合わせて作られた本装備は、弾規格こそアサルトライフルと同じ物だが、連射速度はその比ではなく、瞬間火力で大きく上回る。それはあっという間に警備隊の”ジン”を蜂の巣にする。

”ジャガーテスター”は、グレネードランチャーを右肩背部に背負い、右手にアサルトライフルを装備している。また、左手にはドリルではなく、”テスター”のものと同型のシールドが装備されており、その裏側にしっかりとアーマーシュナイダーが装備されている。レナとマヤが、特に注意を払った箇所だ。またあんな物を付けられてはたまらない。そう感じた二人は、変態共の動向を厳しくチェックした。結果、”ジャガー”はごくごくまともな機体に変化したのだ。変態共が不満気だったのは、言うまでもない。軽快な動きで”ジン”を打ち落とし、敵艦にグレネードランチャーを撃ち込んでいる。

加えて、彼らのステータスが上昇しているのが、ユージの目に映る。

 

エドワード・ハレルソン(Bランク)

指揮 6 魅力 12

射撃 9 格闘 13

耐久 12 反応 10

 

レナ・イメリア(Bランク)

指揮 9 魅力 10

射撃 12 格闘 11

耐久 10 反応 12

 

先日の敵エースとの戦闘が大きな経験となったのだろう、以前よりも良い意味で動きが違っている。性能向上した機体も、乗りこなしているようだ。

他の4人も、じきに成長することだろう。

そうこうしている内に、敵部隊が壊滅したようだ。所詮は警邏隊、中艦隊規模のこちらにはまったくかなわない。

緒戦の滑り出しは好調、だが、ここからドンドンと苦しくなるのだ。

ユージ達”マウス隊”は、一層気を引き締め、警戒レベルを上げながら警備任務を開始し始めた。

 

 

 

 

 

ここより始まった1ヶ月間の戦いのことを、後の人々はこう称している。

”植樹戦役”と。




と、いうわけで。
”マウス隊”は更なる戦いに放り込まれましたとさ。

感想でも時々言われるのですが、”テスター”が正式量産機になることはありえません。それは本文中でも触れてますが、性能の底が浅いからです。”テスター”等のMSの存在が露見した以上、ZAFTも更なる新型を投入してくることは容易に考えられます。そんな中で性能頭打ちの”テスター”を大量生産しても、大した効果は出ないでしょう。
たぶん、そこそこの生産数に収まると思います。後に本命の"ダガー"が控えていますし、"テスター"と"ダガー"ではフレームなどの様々な点で規格が異なって、兵器工場から悲鳴が響きますから。もちろん、流用できる部分もありますけど。
あと、野望シリーズのネタはフレーバーです。本作独自の要素として突っ込んでるだけですので、特に本筋には絡みません。なので、登場人物のステータスの変化とかはそんなに深く考えないで大丈夫です。成長したよってことを明らかにするだけなので。どうしても気になるという方は、過去話を遡るなど独自で調べてください。
ぶっちゃけ、そこまで書くの面倒くさい(ぼそっ)。

この『世界樹再建計画』完了で、「パトリックの野望」序盤戦が終了といったところです。一区切り付くので、そこで今まで描写を忘れてた戦艦とかのステータスでも載っけてみましょうかね。区切りの付いた段階で、設定集などを載せていくことになると思います。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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