機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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第134話「オペレーション・ブルースフィア」 8

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ハワイ諸島 オアフ島”アークエンジェル”

 

 

ペンタクル1(イーサン・ブレイク)、発進するぜ!>

 

ペンタクル2(トール・ケーニヒ)、行きます!>

 

ソード2(スノウ・バアル)、出るぞ!>

 

ワンド2(ヒルデガルダ・ミスティル)、行くわよ!>

 

ワンド3(マイケル・ヘンドリー)、行ってくるぜ!>

 

ワンド4(ベント・ディード)、発進します!>

 

降下を完了した”アークエンジェル”から、次々と艦載機が飛び立っていく。

本来ならば一番隙が生まれる瞬間の筈だが、事前に降下していたキラの手によって対空施設が崩壊しているために、妨害は無いも同然だった。

”アークエンジェル”以外の降下ポッドの面々も概ね無事に降下出来たようであり、作戦は順調に進んでいる。

 

<本気ですか、少佐ぁ!?>

 

「いいからやってくれって!」

 

そんな中、晴れて戦線に復帰した”アークエンジェル”のMS隊長ムウ・ラ・フラガはというと、コジロー・マードックと一悶着を起こしていた。

ムウが、乗機の”ダガー”に装備させようとしたストライカーが問題だったのだ。

 

<あの坊主(キラ)が、顔を顰めた代物なんですよ!?>

 

「今必要なんだよ、こいつが!」

 

そのストライカーとは、『マルチプルアサルトストライカー』。言わずと知れた、全部載せストライカーである。

エール、ソード、ランチャーの3つを兼ね備える……と言えば聞こえは良いが、実際は最悪な燃費と武装数・重量増加による操縦性の悪化が原因でこれまで一度だけしか使われていないこの色物を、ムウは使おうとしているのだ。

 

「いつ、何処から敵が来るか分からないんだ。選択肢は多くて良い!」

 

<ですが……ああ、もう、また入院しても知りませんからね!>

 

譲らない姿勢のムウに、遂に折れたコジロー。

カタパルトに接続された”ダガー”に、次々と『マルチプルアサルトストライカー』のパーツが装着されていく。

 

<───ソード1、帰還しました>

 

反対側のカタパルトに、”ストライク”が帰還する。

出撃した時は重装備形態の”コマンドー・ガンダム”だったのだが、あらかた武器弾薬を撃ち切ってからパージして帰還したのだ。

装備をパージするのは元から決まっていたことであり、帰還して新しいストライカーを装備するまでの時間を短縮する目的がある。

 

<うわっ……フラガ隊長、まさかそれで出るつもりですか?>

 

案の定、ムウの“ダガー”の状態を確認して苦言を呈するキラ。一度使ったことがあるキラだからこそ、使いづらさはよく分かっていた。

そもそもキラがこの装備を使ったのも、”バルトフェルド隊”のエース殺し3人組対策としてであり、全領域対応型装備として使ったわけではない。

苦言を呈するのは当然と言えば当然だ。

 

「いいんだよこれで!」

 

<……病み上がりなんですから、無茶はしないでくださいね>

 

「何度も言わなくても分かってるっつーの。……ったく」

 

通信を切ったムウは、溜息を吐く。

 

(こっちの気も知らないで、好き勝手言いやがって……)

 

ムウがこの装備を選択した理由は、もう1つあった。───目立つためだ。

大仰な背負い物をしているムウの”ダガー”は、戦場でそれなりに目立つだろう。そうなれば、戦場で部下達に向かうヘイトはムウの方に向かう。

部下達を侮っているわけではない。しかし、これだけの大規模作戦となると何が起こるかも分からないのだ。

その点、自分(ムウ)は人よりも多少は優れた直感(空間認識能力)を持っており、攻撃を避けやすい。囮になる分には最適だ。

 

(隊長機が目立つなって言われたら、そうなんだけどな……)

 

降下を完了してから、ムウは常に嫌な感覚に襲われ続けていた。

蛇に睨まれているような、大鷲に睨まれているような。言うなれば、()()()()()()()()()に常に見られているような感覚。

この存在に抗うには、手数を増やしておくに超したことはない。

 

(懸念で終わってくれるなら、それで良いんだが)

 

<進路クリア! ワンド1、発進どうぞ!>

 

そうしている内に、出撃準備が終わったことを、オペレーターのリサ・ハミルトンが伝えてくる。

開いていくハッチ。あらゆる所から戦火が飛び交う地獄のような戦場が、『エンデュミオンの鷹』を待ち構えていた。

 

「考えてても仕方ないか、やることはやったしな───ワンド1(ムウ・ラ・フラガ)、出るぞ!」

 

 

 

 

 

オアフ島 ZAFT軍基地 司令部

 

「”アークエンジェル”、南下を開始しました! 当基地に向かってきていると思われます!」

 

「見れば分かる!」

 

苛立たしげに、ZAFT軍ハワイ基地司令のビル・アンターブは司令席の肘掛けを握りしめる。

現在の戦況は圧倒的にZAFT不利に傾いており、まさかの1日で完全制圧という結末さえビルの視界に入り始めていた。

 

(くそっ……この基地が落ちるのは別にいい、そういう筋書きだからな)

 

ZAFTはこの戦いにおける勝利を最初から捨てていた。集まってくる情報を基に推測した連合軍の総戦力が、圧倒的なものだったからだ。

そのために、ZAFTはハワイ諸島において籠城戦を展開し、限界が見えたところで撤退。

できる限り、敵の戦力を削ぐことを目的としていたのである。

そのために用意したのが移動型陽電子砲台”マルドゥック”だ。本来の計画では、これと水中MS部隊による足止めで一度、敵艦隊を追い返すつもりでいた。

 

「『ガンダム』、『ガンダム』……また『ガンダム』か!」

 

───そして、2機用意された”マルドゥック”はどちらも既に大破していた。

撃破したのはどちらもV字アンテナとツインアイが特徴的な、『ガンダム』と呼ばれるタイプの連合軍のMS。

『カオシュン宇宙港攻防戦』におけるカシン・リーと”バスター”の活躍以来、『ガンダム』はZAFTの頭を悩ませ続けていた。

数で勝る連合軍に質で対抗していたZAFT、そういう構図だった筈なのに、質でも上回られてはたまったものではない。

 

(どうする……こんな短時間に戦線の放棄を命じては私の評価はガタ落ち……だが早く逃げなければ命が危うい!)

 

ビルは、典型的な『プラント』在住のコーディネイター然としたコーディネイターだ。

自らの遺伝子に刻まれた才能を信じ、能力で劣るナチュラルを見下し、そして自分よりも優れた才能を持つコーディネイターに跪いて生きてきた。

部下達の命が掛かっているこの状況でさえ自身の進退を考えているのが、彼の本質を現していると言えよう。

余りにも受け入れがたい現実は、ビルに更なる追撃を加える。

 

「マウイ島より入電、『敵MS隊に上陸された』とのことです!」

 

「くっ……」

 

オアフ島の南東に位置するマウイ島は、東側から攻めてくる連合軍への対処と、ZAFT地上軍の最大拠点である『カーペンタリア』までの撤退路を確保しておくための要衝だ。

そんな重要拠点が陥落すれば、残されたZAFT軍は撤退する術を失い、連合軍に一網打尽にされてしまうだろう。

どうすれば、自らの納得出来る結果にたどり着けるのか。

 

<アンターブ司令、出撃許可を願います。”アークエンジェル”……あの艦は早くに叩かなければ、手遅れになるかと>

 

その時、ビルに天恵と言える通信が届く。

通信主は現在ハワイに存在している全ての戦力の中でも最強格の戦闘力の持ち主であり、状況をひっくり返しうる鬼札(ジョーカー)的存在だ。

これまでは彼が特務隊───独自の指揮系統に属する───に所属しているため命令を下しても従ってくれるかどうか分からないため持て余していたのだが、自分から出撃してくれるというなら問題は無いだろう。

彼の()()を考えればそれでも引き留める必要があるかもしれないが、どちらにせよこのままでは全滅だ。

精々、英雄として華々しく活躍してもらうこととしよう。ビルは頷いた。

 

「分かった、出撃を許可する」

 

<ありがとうございます>

 

「貴官に天の加護があらんことを。───アスラン・ザラ」

 

 

 

 

 

”アークエンジェル”艦橋

 

「ワンド2、先行し過ぎだ! フォロー出来なくなる!」

 

「左舷より”ディン”接近! ペンタクル2、対処をお願いします」

 

「『サーペントテール』より報告、敵トーチカの無力化に成功したとのことです!」

 

忙しなく各種報告が飛び交う”アークエンジェル”の艦橋。

”アークエンジェル”の副操縦士であるマイケル・ルビカーナは、操縦桿ではなく双眼鏡を片手に各種機器のチェックを行なっていた。

”マウス隊”から移籍してしばらく経つが、その中で彼は、”アークエンジェル”正規操舵士であるアーノルド・ノイマンの操舵手としての力量を感じ取っていた。

自分が下手に補佐をしようとするよりも、できる限り情報を収集してノイマンが操舵に集中出来るようにする方がベストな選択だ。そう考えての行動だった。

 

「ん?」

 

視界の端でキラリと何かが光ったような気がしたマイケルは、そちらに双眼鏡を向けた。

その先にあるのは真珠湾だ。かつて大西洋連邦が保有していた基地は、現在はZAFTに使われてしまっている。

そこから、()()が飛び立った。

双眼鏡を使ってもハッキリとした姿形は分からない。だが、大したサイズではない。

ちょうど、MS1機分くらいの物体だ。

 

「っ、ノイマン少尉! 回───」

 

避、と叫ぼうとしたところで大きく”アークエンジェル”が揺れる。

大きく揺れた視界の中で、マイケルは艦橋のすぐ横を高出力ビームが通り過ぎていくのを見た。

背中に怖気が走る。あと少しでもズレていたら、今頃あのビームは”アークエンジェル”の艦橋を貫いていただろう。

しかし、彼は、ノイマンはそれを回避してみせたのだ。

 

「っ、何事!?」

 

「遠方からの狙撃です!……識別出ました、”ズィージス”です!」

 

「アスラン・ザラ……! 第二射を撃たせるな! 『コリントス』装填、『ヘルダート』もだ!」

 

事態を把握したナタルが迎撃の指示を出すが、マイケルは未だに呆然とした様子でいた。

それもその筈、彼は同じ操縦士として信じられないものを目にしたのだ。

 

(もしも”アークエンジェル”の舵を取っていたのが私だったら、間違い無く今の攻撃は避けられなかった)

 

それを、アーノルド・ノイマンはやってのけたのだ。

思わず力が抜けてしまい、座席の背もたれに体重を預けてしまうマイケル。

そんな彼を見て、ノイマンは心配そうに声を掛ける。

 

「すいませんルビカーナ少尉、咄嗟だったので……」

 

「……いや」

 

違う、そうじゃない。

先ほどの神がかった操艦を「当たり前のこと」とでも認識していそうなノイマンに、顔を引きつらせながら問いかける。

 

「ノイマン少尉って、本当にナチュラルですよね……?」

 

「え、はい。普通のナチュラルですけど……」

 

───普通ってなんだっけ……。

 

 

 

 

 

「外した……いや、避けたのか!?」

 

味方でさえ驚愕するのだから、敵は更に驚愕するのが道理という物だ。

アスランは、必中を確信して放った一射を避けられたことに思わず声を挙げてしまった。

MA形態で高速移動する”ズィージス”を認識し、あまつさえその攻撃を避けるなど予想出来る筈も無い。

 

(まさか大気圏内であれだけの機動性があるとは……それとも操舵士の腕とでも言うのか?)

 

アスランが動揺から立ち返った直後、”アークエンジェル”から大量の迎撃ミサイルが飛来する。

1機のMSに対して放つ量ではない。”ズィージス”の、アスランの脅威を正しく認識している証だ。

 

「くっ……!」

 

アスランは操縦桿を大きく動かし、ミサイルの雨に飲まれぬように回避する。

PS装甲があるために当たってもダメージは無いだろうが、高速飛行中にミサイルの衝撃など受けてしまえば墜落は免れない。

しかし、避けた先に向かって更なる攻撃が加えられる。

”アークエンジェル”の甲板に陣取る砲撃(ランチャー)装備の”ダガー”が、”ズィージス”目がけて『アグニ』を放ったのだ。

 

「不安定な足場で、よくやる……!」

 

攻撃を避けながら賞賛の言葉を漏らすアスラン。

揺れる艦上に立っていながら、その”ダガー”の砲撃の精度は高く、パイロットの練度の高さが窺える。

加えて”アークエンジェル”自体の対空迎撃能力も高く、これを掻い潜って再度攻撃することはアスランの技量を以てしても困難であると言わざるを得ない。

加えて、”アークエンジェル”の周囲を飛ぶ2機の”アームドグラスパー”の存在も問題だ。

純粋な航空戦能力では、”ズィージス”よりも”アームドグラスパー”に軍配が挙がる。

 

「下からなら……」

 

”ダガー”の攻撃が届かない”アークエンジェル”の下側に回り込み、MS形態に変形して狙いを定める”ズィージス”。

しかし、彼の動きを予見していたかのように迫る影があった。

 

<アスランっ!>

 

「なにっ……!?」

 

迫る影の正体は、”ストライク”。カタパルトを使わずに発進し、”アークエンジェル”の真下の”ズィージス”の元にやってきたのだ。

否、ただの”ストライク”ではない。

『機体寿命を削ってでも敵エースを仕留める』ことを目的として、天才美少女技術者アリア・トラストが開発した、高機動型短期決戦用装備『アクセルストライカー』を装備した、”アクセルストライク”だ。

これまでのストライクを大きく凌駕する加速力を発揮し、”アクセルストライク”は”ズィージス”に組み付く。

体勢を崩した”ズィージス”は失速し、”アクセルストライク”共々地面に向かっていくことしか出来ない。

 

「キラぁ……!」

 

激しい怒りの感情を露わにするアスラン。

何故、彼は肝心なところで邪魔をしてくるのだろうか。自分の心をかき乱してくるのだろうか。

 

「俺は戦うと決めたんだ……鬱陶しいぞ!」

 

アスランは気付かない。”アークエンジェル”の撃墜に志願したのは、キラと戦わずに済むようにするためだと。

”アークエンジェル”を墜としてしまえば、少なくともキラはそこから動けない。

アスランは気づけない。キラがアスランに付きまとうのと同様に、アスランもキラを意識から追い出し切れていないことに。

───アスラン・ザラは、未だに因縁が絶ちきれない。

 

 

 

 

 

「あの馬鹿、先走った挙げ句に()()か……!」

 

”アークエンジェル”に迫る脅威は、アスランだけではなかった。

SFS(サブフライトシステム)”グゥル”に乗った3機のMSも、先行したアスランを追って迫っている。

 

<仕方ないんじゃないの? なにせ相手は、『砂漠の虎』も退けた大天使様だし>

 

シニカルに言い捨てるのは砲撃戦用のバスターランチャーを装備した”アイアース”に搭乗したディアッカ・エルスマンだ。

射撃精度を上げるために頭部にもバイザー型の追加パーツが取り付けられており、ZAFT特有のモノアイは覆い隠されている。

 

<言っている場合じゃないですよ! いくらアスランでも、”ストライク”と他の敵機に囲まれてしまったら……>

 

焦った様子で話すニコル・アマルフィの”アイアース”は、高機動戦用にカスタムされている。

本来”アイアース”のバックパックにはミサイルが内蔵されているのだが、それを排除し、純粋に機動力を上げた物に換装されているのが最大の特徴だ。

火力は低下しているが、そもそも”アイアース”の胸部には『スキュラ』が内蔵されていることも有り、大した問題にはならない。

 

「仮にも俺達の隊長だ、そんな無様を遂げさせるワケにはいかん!」

 

バカにするようでいて心配する感情を隠しきれていない声色のイザーク・ジュールの”アイアース”は、胴体に追加装甲を施した前衛用にカスタムされている。

加えて盾も大型化した物を装備しており、イザーク本人の腕も相まって撃破するのは容易ではないだろう。

この3人とアスラン、そして新入りを1人加えた5人で構成されているのが”ザラ隊”だ。

 

「取り巻きを引き剥がす、仕掛けろディアッカ!───ヘキサはまだ出られんのか!?」

 

<すいませーん、”グゥル”だと少し()()みたいなので、輸送機でいきますねー>

 

おどけた様子で応答する女の声に、イザークは更に苛立つ。

───あれで自分より実力が上というのが、未だに信じられない。

ともあれ、言っていることにおかしな所は見られない。

 

「それなら仕方ないな……だが、急いだ方が良いぞ?───お前が来る前に、俺達で終わらせてしまうかもしれんからな!」

 

 

 

 

 

「やれる……この”アクセルストライク”なら!」

 

混迷極まりつつある戦場の中、それでもキラは確かな手応えを感じていた。

モニターに映る”ズィージス”がビームライフルを射かけてくるが、一発たりとも“アクセルストライク”を捉える事は無い。

四肢に取り付けられたブースターは単純に機動力を向上させるのみならず、一瞬だけ点火することによる変則機動を可能としていた。

空中でも縦横無尽に動き回る”アクセルストライク”を撃ち落とすのは、至難の業だ。

 

「ここだ!」

 

<ぐぅっ!>

 

そして、”アクセルストライク”の両手に握られた剣『フラガラッハ』が”ズィージス”に振り下ろされる。

『フラガラッハ』は対艦刀(シュベルトゲベール)と同じように、高出力のレーザー刃で焼き切った装甲を刀身の重量で更に斬り潰す武器だ。

盾で防げても、その衝撃はビームサーベルより大きい。

実際、盾で『フラガラッハ』二刀流の猛攻を捌く”ズィージス”だが、受け止めた衝撃で体勢を崩されてしまい思うように反撃に移れないでいた。

 

<ごめんキラ君、フォロー出来そうに無い! こいつ、上手い……!>

 

ヒルデガルダが相手をしているのは、増加装甲と大型盾で防御を固めた前衛機(イザーク)の”アイアース”だ。

ヒルデガルダの”ダガー”が勢い良く対艦刀を何度も叩きつけるが、上手く盾でいなされている。

最近になって劇的に実力が向上しているヒルデガルダだが、今の彼女であってもイザークの相手は荷が重すぎる。

それでも勝負が成立しているのは、イザークがアスランをフォローせんとして意識が攻撃的でないからだ。

 

「大丈夫です、ヒルダさんはその”アイアース”をお願いします!」

 

<うぇっ!?>

 

「───信じます!」

 

<~~~っ、んもぅ、あたしってばその言葉に弱い!>

 

キラの発破を受けて、ヒルデガルダは更に攻勢を強める。

無責任に思えるキラの言葉は、しかし、応援を素直に自分の気力に繋げられるヒルデガルダを理解している故のもの───信頼が込められていた。

そして、信頼しているのはヒルデガルダだけではない。

 

「トール、いける!?」

 

<───今ならいけそうだ!>

 

トールの返事を聞き、キラは更に集中を深めていく。

アスランを倒す為に用意したこの策は一度しか通じないだろう。確実に成功させる必要があった。

 

<カウント開始、10、9……>

 

「やぁっ!」

 

トールのカウントが進む中も、アスランへの猛攻の手を止めないキラ。

ロングビームライフルにシールドと、接近戦にあまり向かないスタイルの”ズィージス”では思うように動けないようで、反撃の手はまばらだ。

 

<6、5……>

 

<くっ、これでは……!>

 

アスランも、”アクセルストライク”を対処するにはロングビームライフルを捨て、サーベルで迎え撃つのが最善だと分かっていた。

しかし、キラと戦うことへの躊躇いとは別の理由からアスランは実行出来ないでいる。───”アークエンジェル”だ。

彼らは本来”アークエンジェル”を撃沈し、連合軍降下部隊の基地への進軍を食い止めるために出撃してきていた。ライフルを失った状態でそれを為すことは難しい。

そして、これはアスランの視野が狭まっている証明だった。

 

火力が必要というならば、高火力のバスターランチャーを機体に装備させたディアッカがいる。

防御に優れたイザークであれば、短時間なら時間を稼ぐことも出来るだろう。

あるいは、機動力に優れたニコルに攪乱させれば戦況をリセットして好機を見いだせるかもしれない。

それでもアスランはそうしない、出来ない。───彼の大きすぎる責任感が、仲間に頼るという選択肢を捨てさせてしまっている故に。

ZAFTの英雄として大勢から向けられる期待は、彼を孤独にしていた。

 

<2、1……発射!>

 

だから、この結果は必然だったのかもしれない。

”アクセルストライク”が『フラガラッハ』をシールドに叩きつけた直後、2機の元にミサイルが降り注ぐ。上空から飛来したトールの”アームドグラスパー”が発射したものだ。

瞬時に飛び退いた”アクセルストライク”を尻目に、アスランが選んだ行動は防御だった。

 

(PS装甲に実弾は効かない、ならばここは下手に動かず受け止める!)

 

アスランの選択は真っ当なものだった。回避行動を誘発させ、その隙を突くというのはMSの白兵戦ではよく有ることだ。

しかし、アスランは知らなかった。

”アークエンジェル隊”こと”第31独立遊撃部隊”が、ただの戦闘部隊ではなく、実験部隊であることを。

 

<なにっ!?>

 

ノイズ混じりに驚愕するアスランの声に、キラは作戦が上手くいったことを確信した。

 

<へへっ、どうだ! ”マウス隊”特性スタンミサイルの威力は!>

 

トールの言った通り、先ほどアスランが()()()()()()()ミサイルは”マウス隊”の試作兵装だ。

正式名称は『試作強制放電誘発弾頭ミサイル』といい、その名の通り命中したMSから強制的に放電させることで動きを止めるための武装である。

無論、試作であるが故に問題点もあった。

弾頭が通常のミサイルよりも大型化してしまったために推進装置を小型化せざるを得ず、有効射程距離が短くなってしまったことや、直撃ないし至近に着弾しなければ効果が無いことが挙げられる。

しかし、命中した場合の効果は確かなようで、”ズィージス”はフェイズシフトダウンを起こした上に膝を付いてしまっていた。

 

<今だ、キラ!>

 

「───やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

裂帛の叫びを挙げながら、キラはペダルを踏み込んだ。

スタンミサイルの効果は永続ではない。EMP攻撃のように電装系に直接ダメージを与えるものではなく、暫くしたら再び電力が供給されてしまう。

だが復旧するまでの時間があれば、”ズィージス”の武装や手足を破壊し、無力化することが出来る。

 

『キラの親友なんだろ? だったらきっと、良い奴だよ』

 

トールはそう言って、キラの我が儘に付き合ってスタンミサイルを撃ち込む特訓に付き合ってくれた。他の仲間も、応援すると言ってくれた。

この好機を逃すわけにはいかない───!

 

「アスランっ!」

 

 

 

 

 

(終わるのか、俺は、こんなところで)

 

高速で機動している筈の”アクセルストライク”が、ゆっくりとこちらに向かってきているのが見える。

アスランは何が起こったのかを朧気ながら理解していた。おそらく、あの”アームドグラスパー”が放ったミサイルに何か仕込まれていたのだと。

それでも機体は動かない。機能が復旧するまで、あと数秒は掛かる。

アスランが何をしても、何を思っても、出来ることは無いのだ。

それでも。

 

「俺は……終われない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<その通り、終わりませんよ>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”アクセルストライク”と”ズィージス”の間に割り込むように、高出力ビームが突き刺さった。

予想だにしない方向からの奇襲にキラは驚きつつも回避する。

 

「これは!?」

 

攻撃が飛来したのは、上方からだ。つまり、敵は空に居る。

見上げた”アクセルストライク”に、再びビームが飛来した。

『アグニ』に匹敵するか、それ以上の威力だ。命中したらMSはひとたまりも無い。

しかし、恐るべきはビームの威力よりも射手の技量だ。

パッと見える範囲では姿が見えないということは、それなりの高度から、正確にキラの乗る”アクセルストライク”を狙い撃ってきているということになる。

 

「いったい、何者なんだ……!?」

 

 

 

 

 

<まぁ、終わらせないんですけどね、あたしが。アッハハハハハ!>

 

「っ、ヘキサか!?」

 

通信越しに響く少女の笑い声に、アスランは最後の仲間の存在を思い出す。

彼女、ヘキサ・トリアイナの機体はある事情から輸送機に載せられて出撃していたため、参戦するのが遅れた。

そしてヘキサは上空の輸送機から”アクセルストライク”を狙い撃ち、アスランの窮地を救ってみせたのである。

 

<ヘキサ、貴様遅いぞ!>

 

<いやー、この機体()ってば色々と重いものですから。でも、まぁ……>

 

イザークの叱責を聞き流し、ヘキサは別の対象に狙いを定めたようだ。

彼女の視線の先には、”アクセルストライク”よりも動きが鈍く、それでいて重要度の高い敵……”アークエンジェル”の姿があった。

三度放たれたビームが、正確に”アークエンジェル”左舷の『バリアントMK.8』を撃ち抜く。

エンジンに近い『バリアントMK.8』が破損したことで誘爆でも起こしたのか、“アークエンジェル”はゆっくりと高度を落としていった。

 

<遅刻した分は働きますから、ね?>

 

 

 

 

 

<『バリアント』2番、使用不能!>

 

<隔壁閉鎖、誘爆を防いで! ノイマン少尉、どう!?>

 

<ダメです、エンジンの出力低下!───不時着します!>

 

黒煙を吹き出しながら、白亜の巨艦(アークエンジェル)が、キラの帰る所が墜落していく。

通信で聞こえる内容から致命傷とまではいかないことが分かるが、そんなことは問題ではない。

空からの襲撃者はアスランを捉える絶好の機会を台無しにしただけでなく、自分達の母艦にも牙を剥いた。───危険な相手だ。

 

「あれ……は……」

 

そうして見上げた先、陰惨な戦場には似つかわしくない青空を、その機体は降下してきた。

右腕に保持した長大なライフル───あれでキラ達をこうげきしたのだろう───が特徴的なその機体は、想像以上の精神的ショックをキラにもたらした。

 

「ガン、ダム」

 

灰色の装甲が色づいていく。

黒く、暗く、あらゆる希望(ひかり)を飲み込んで、絶望(やみ)をもたらす為と言わんばかりに。

漆黒に姿を染めた、その姿は。

 

「黒い……”ストライク”……」

 

黒い『ガンダム』、”ブラックストライク”。

その金のカメラアイが、キラを嘲笑して(わらって)いた───。




生きてました。詳しくは活動報告を更新したのでそちらで。

ブラックストライクとヘキサのデータを載せておきます。



ブラックストライクガンダム
移動:6
索敵:C
限界:190%
耐久:300
運動:45
PS装甲

武装
ビームスマートガン:200 命中 80 間接攻撃可能
ショットガン:100 命中 60
マシンガン:80 命中 50
バルカン:30 命中 50
ビームサーベル:180 命中 70



ヘキサ・トリアイナ(ランクA)
指揮 11 魅力 5
射撃 14(+2) 格闘 15
耐久 13 反応 14(+2)
SEED 1
空間認識能力



ヘキサは「キラより明確に劣るが、キラが持っていない才能を持ってしまった人物」として設定しました。
きちんと説明出来る所まで、更新することを目指して頑張りたいと思います。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。
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