機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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第135話「オペレーション・ブルースフィア」 9

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”アークエンジェル”艦橋

 

「くっ……皆、無事!?」

 

不時着の衝撃に耐えたマリューは、すぐさま他の艦橋メンバーの安否を確認する。

可能な限り穏やかな不時着を試みたノイマンの努力もあり、大きな怪我を負った者はいないようだった。───1人を除いて。

 

「う、ぐぅ……」

 

「ミヤムラ司令!」

 

艦長席のすぐ横のゲスト席、そこに座るヘンリー・ミヤムラが苦悶の声を挙げる。

老兵の彼にとってこの衝撃は大きな負担となった筈だ。マリューが心配するのは当然と言えよう。

しかし、ミヤムラは毅然としてマリューを睨みつける。

 

「なにを、している……早く、次の、命令を……」

 

「っ、しかし」

 

「馬鹿者! 今の”アークエンジェル”……それも艦橋は、いい的だ! それが、分からんのか!」

 

そう言われて、気付く。

部隊の最高責任者はたしかにミヤムラだ。しかし、”アークエンジェル”の艦長は自分(マリュー)なのだ。

艦長としてマリューがするべきことは、任務を果たすため、そして船員の命を守るために指示を出すことだ。

 

「───第2艦橋に移動します」

 

「それでいい……」

 

”アークエンジェル”には第2艦橋と呼ばれる、言うなれば予備の艦橋に当たる場所が存在する。

第1艦橋よりも設備は劣るものの、艦の中枢に近い位置に存在するため安全面では上だ。

降下部隊の指揮を取り続けるためにも、そこに移動するしかない。

マリューの命令を受け、艦橋メンバー達は第2艦橋に移るための準備を進めていく。そんな中、ミヤムラは静かにモニターを見つめていた。

そこには、”アークエンジェル”を墜落させた張本人である黒い”ストライク”が、キラの駆る”アクセルストライク”と戦闘を繰り広げている光景が映っていた。

 

(恐ろしいな……子供のような無邪気さで、よくも獰猛に戦うものだ……)

 

 

 

 

 

<アッハハハハハ、早い早い! 流石『完成品』だね!>

 

「なんだ、こいつ……遊んでいるのか!?」

 

突如として現れた闖入者……”ブラックストライク”を相手にして、キラは不快感を露わにした。

右手に持った長大なライフルによる射撃は、たとえPS装甲機であっても命中すれば一撃で大破するだろう恐るべき武装だ。一発を注意深く避けていかなければならない。

それだけではない。”ブラックストライク”は背中に背負ったストライカーには多様な武装が懸架されており、それらを使い分けることでキラを窮地に留め続けているのだ。

これをキラ相手にやれている時点で、尋常な相手ではない。

 

BANG(バーン)っ!>

 

「っ!」

 

先ほどまで左手に握っていたマシンガンをショットガンに持ち替え、スピンコックによる連射を行なう”ブラックストライク”。

散弾を躱しながら、キラは接近戦に持ち込むことを決意した。

 

(右手はあの大型ライフルで埋まってる、実質使えるのは左手だけだ!)

 

不意に散弾が止む。

引き金が引かれているにも関わらず、その銃口から弾丸が発射されることはなかった。

 

<あらら、弾切れ───>

 

「ここ、か!」

 

2本の『フラガラッハ』を構えて突撃する”アクセルストライク”。

”ブラックストライク”は咄嗟にショットガンをその場に捨て───。

 

<えいっ>

 

咄嗟に突撃を止めた”アクセルストライク”。その眼前を、黄色の光条が通り過ぎていく。ビームサーベルだ。

何処から取り出したのかと思えば、左腰のラックが空いているではないか。

本来『アーマーシュナイダー』が格納している場所に、”ブラックストライク”はビームサーベルを格納していたのだと、キラは得心した。

 

「……そこも弄っていたのか」

 

”ストライク”だからと、無意識の内に自分の”アクセルストライク”と同じに考えていたのかもしれない。

キラを悩ませるのは、”ブラックストライク”だけではなかった。

 

<キラっ!>

 

「ぐぅっ……アスラン!」

 

飛来したビームを、右腕のシールドブースターで受け止める。

ビームを放ったのは、スタンミサイルの影響から脱した“ズィージス”。つまり、アスランだ。

”ブラックストライク”と”ズィージス”。これからこの2機を同時に相手にしなければならない。味方が戦っている相手も手練れで、助けは見込めない。

 

「やれるのか?……やるしか!」

 

 

 

 

 

「キラ……くそっ、”ストライク”の偽物め!」

 

眼下で繰り広げられる戦いを見て、トールは悪態を吐く。

せっかく動きを止めることの出来た”ズィージス”も既に復帰しており、素人目から見てもキラが苦戦を強いられているのが分かった。

”アークエンジェル”が墜落したことも、全て、あの黒い”ストライク”のせいだ。

 

「やってやる……!」

 

もう一度、急降下からの奇襲でキラの援護をする。そうすれば、キラならば、窮地から脱してくれる筈だ。

一度成功したという自信が、トールに蛮勇をもたらしていた。

 

「こちらペンタクル2、ソード1の支援を行ないます!」

 

<なっ、バカやめろ! あの黒い”ストライク”はヤバい! それに数は減ったが”アークエンジェル”を狙う敵はまだ……トール、待て!>

 

「少し手助けするくらい、俺だって……!」

 

そのまま機首を下げて、トールの”アームドグラスパー”は地上に向かっていく。

たしかに、キラと戦いながら上空から襲い来る”アームドグラスパー”に対処することは難しいかもしれない。

だが、イーサンは言い様のない不安を”ブラックストライク”に感じていた。

これまでも何度か戦場で感じたことのあるものだ。そして、その戦場では確実に仲間が死んでいる。

 

<トール!>

 

「待ってろ、キラ!」

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ぐぅっ!?」

 

<いい加減に……諦めろキラ!>

 

<あはっ、回避が上手いんだねぇ!>

 

息が乱れていようと、敵は待ってくれない。

”ブラックストライク”と”ズィージス”、2機の強敵を相手にキラは回避に専念せざるを得なかった。

敢えて言うならば、”ズィージス”の方はまだ手心が加わってくれているものの、それでも避け損なえば待っているものは死だ。

 

(誰か、救援には……!)

 

弱音が心の底から漏れてくるが、それが叶わないことはキラ自身が一番理解していた。

「死」という単語が脳裏に過ぎった、その時である。

 

<キラっ、待ってろ!>

 

「っ、トール!? ダメだ、来るな!」

 

通信で聞こえてきた論調から、トールが自分を助けようとしているのだと判断し、キラは慌てて制止しようとする。

先ほどの援護攻撃が決まったのは、自分がアスランを抑えて、意識を向けさせていたからだ。

今はそうではない。有利なのは相手側で、他の場所からの奇襲を警戒するだけの余裕さえあるだろう。

 

<ふふっ……良いお仲間だね?>

 

”ブラックストライク”は背中のウェポンラックから2丁目のショットガンを手に取り───急降下してくる”アームドグラスパー”に、銃口を向けた。

急降下中にいきなり進路を変えることなど出来る筈も無く、トールは、スローになった視界の中、それを見守るしか出来ない。

 

「トール───」

 

なんとかして最悪の事態を止めようとするキラも、横から飛来するビームに遮られて叶わない。

ビームを放ったのは”ズィージス”、アスランだ。

撃たれようとしている友を救おうとして、別の友にそれを妨害される。───なんという皮肉だろうか。

 

<貴方の死は、何をもたらすかな?>

 

<あっ───>

 

引き金が、引かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<トールっ!>

 

突如として”ブラックストライク”の足場が爆発した。ミサイルの着弾によるものだ。

体勢を崩された”ブラックストライク”の放つ弾丸はトールの”アームドグラスパー”を掠めるに留まる。

 

<うわぁぁぁぁぁぁ……>

 

情けない悲鳴を挙げながらもトールは必死に操縦桿を握り、機体を水平に保ち、そのまま地面に墜落した。

軽く見ただけではあるが、大きな損害は無い。───生きている。

咄嗟にイーサンが”ブラックストライク”の足下にミサイルを撃ち込んだのだ。

 

<ったく、世話の焼けるガキ共だ>

 

安堵した声色で、イーサンが溜息を吐く。

 

 

 

 

 

<───邪魔、したな?>

 

冷たい、薄暗い冷凍庫を思わせるような声が響いた。

 

<じゃあ……お前が代わりだ!>

 

”ブラックストライク”が次に何を狙うのか、その場を見ていた誰もが理解出来た。

“ブラックストライク”……ヘキサ・トリアイナは戦士ではない。捕食者(ハンター)だ。

獲物を横取りされた怒りは、イーサンの”アームドグラスパー”を狙っていた。

 

「っ、イーサン中尉!」

 

キラはペダルを踏み込み、ヘキサが次にやろうとしていることを阻止しようとした。

それはおそらく、自分達が今まで味わったことのない衝撃をもたらすだろう。言葉にするのも恐ろしいその予感を、キラは恐れた。

しかし、その目の前をビームが横切った。

 

<キラ!>

 

「アスラ───」

 

キラの都合を今のアスランが気にする理由は無い。

そうして、恐ろしい予感は残酷な現実へと変異した。

 

<私に命を……奪わせろぉっ!>

 

 

 

 

 

(ああ、ついに来たか)

 

下方から迫るビームを尻目に、イーサンはやけにスッキリとした思考を持っていた。

何ということはない。()()()()()()()というだけなのだ。

空を領分とする戦闘機乗りが、大地の戦にちょっかいを掛けるというのはお門違いで、これは出しゃばりに対する罰なのだろう。

 

(とは言え……だ)

 

ワケも分からず死んでいった仲間達もいる中で、自分はマシな方だろう。

なにせ、自分よりも若い仲間の命を救えたのだから。……ああ、だけれども。

 

「もっと飛びたか───」

 

 

 

 

 

中心を撃ち抜かれた”アームドグラスパー”は墜ちることすらなく、その場で爆発する。

───爆炎が、あまりにもあっさりと、イーサン・ブレイクの命が失われたことを証明した。

呆然とそれを見つめるしかないキラ。唐突に動きを止めた”アクセルストライク”を、アスランは訝しげに見る。

 

(死んだ……ブレイク中尉が?)

 

理性は必死に危機が去っていないことを叫び続けているが、それでもキラは動けない。

今までも”アークエンジェル隊”の仲間が死んだことはあるのに、経験したのに。

理由は簡単だ。イーサンは、同じ場所で戦っていた。大地と空とで離れていても、自分と同じように、MSや戦闘機に乗って戦う仲間だった。

そんな彼が死ぬということは、それを見た者達にある事実を突きつける。

自分達も、同じように、あんな風に、あっさりと。───殺されてしまうかもしれない存在なのだと。

 

<あれ……どうかしたの?>

 

ゆっくりと振り返る”ブラックストライク”。

色が違えども、その姿形はキラの”ストライク”と同じもの。

自分のやってきたことと、彼女がやったこと。

───何が違う。

 

<たった1機ぽっち、墜としただけじゃん。ホントにどうかした?>

 

「お前……お前は!」

 

キラは、自分の中で何かが弾けるような感覚を覚えた。

怒り。悲しみ。焦り。───そして恐怖。

混乱の極みにある中、キラはただ1つ、為さねばならない目的のために行動する。

 

「───お前だけは、墜とすっ!」

 

 

 

 

 

「あはは、やっと本気になってくれたんだ!?」

 

目の前に迫る、死の化身と化した”アクセルストライク”。それを見て、なおもヘキサは笑みを絶やさない。

───大丈夫、感覚(センス)はまだ、「逃げろ」と言っていない。

ヘキサは自分の感覚を信じていた。だから、彼女は殺意前回のキラを相手にも引かず、受けて立つ姿勢を見せる。

対艦刀とビームサーベル、当たれば必殺の刃をお互いに振う2機の”ストライク”。

 

<ヘキサの奴、なんて動きだ……!>

 

驚嘆するアスラン。

普通に考えれば、有利なのは2本の対艦刀を使う”アクセルストライク”の方だ。

対する”ブラックストライク”は右腕に長大なビームスマートガンを保持したままであり、近接戦に向いた状態ではない。

しかし”ブラックストライク”はそれらの攻撃をことごとく躱し、逆に左手のビームサーベルで反撃を繰り出してみせている。

まるで”アクセルストライク”の動きを予知しているかのように、攻撃を回避している”ブラックストライク”。

 

「ふぅっ、ふぅっ、ははぁ……やっぱり、()()()()()()()()だ!」

 

大量に発汗しながら、ヘキサは笑った。

端から見れば不利な条件下で互角に渡り合っているように見えるだろう。しかし、それは大きな間違いだった。

実際には終始”アクセルストライク”が圧倒し、”ブラックストライク”はそんな中で辛うじて見えた隙を突いてサーベルを振っているに過ぎない。

中長距離で戦うことが前提の”ブラックストライク”。近接戦志向の”アクセルストライク”を相手にするのが無謀であることは、ヘキサも理解していた。

 

「私は、死に近づけば近づくほど、強くなれる!」

 

それでもヘキサが白兵戦を続けているのは、自分を試すため。

自分の中に眠っていた才能が、『最高のコーディネイター』にどれだけ通用するか。ヘキサはそれを知りたかった。

もしも通用しないなら、それまでの話ということだ。道化として死ぬしか無い。

幸運(ふこう)なことに、それは杞憂に終わったようだった。

 

「それっ!」

 

<くっ!?>

 

対艦刀の連撃をバックステップで躱しつつ、ビームスマートガンを”アクセルストライク”の足下に向けて撃つ”ブラックストライク”。

当然それも”アクセルストライク”は躱してみせるが、超ハイレベルな接近戦に手出し出来なかったアスラン───”ズィージス”が追撃を加える。

 

<このまま一気に……!>

 

<邪魔だアスラン、あいつを討たせろ!>

 

戦闘本能が極限まで研ぎ澄まされたキラにとって、今のアスランは敵ではない。

放たれたビームを躱し、両腕のシールドブースターで防ぎながら、“アクセルストライク”は恐るべきスピードで”ズィージス”との距離を詰める。

必死に回避行動を取ったおかげか、”アクセルストライク”の一撃が切り裂いたのは”ズィージス”のビームライフルのみだった。

怒り狂っていようとも、『親友(アスラン)を殺さない』という自らの誓いを、キラは守ったのだ。

 

「あらら、鎧袖一触ってやつかな」

 

<うおぉぉぉぉぉぉぉっ!>

 

”ズィージス”を蹴り飛ばし、再び”アクセルストライク”は”ブラックストライク”に向かっていく。

正に狂戦士といった様相だ。身体に染みついた殺戮技巧と憤怒、その全てがヘキサを狙う。

今のキラは、間違い無く世界最強の戦士だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───此所(ここ)だねっ!」

 

<なっ……>

 

驚愕。それ一色の声が、キラの口から漏れた。

起動した接触回線でそれを聞いたヘキサは、恍惚とした表情を見せる。

ヘキサが何をしたのか。それを説明するにはまずキラが何をしたのかを知らなければならない。

 

キラは”ブラックストライク”を対艦刀で攻撃しようとして、その実、蹴りで体勢を吹き飛ばそうとしていた。

”ブラックストライク”は強い。”アクセルストライク”が得意とする機動戦で決めきれないほどに。

故に、キラはまず先ほど”ズィージス”にそうしたように蹴りを放とうとしていた。

普通のMSパイロットは接近戦において、一撃で自分を仕留められる対艦刀やビームサーベルを警戒する。それが普通だ。

その裏を掻いて、蹴りで体勢を崩してから本命の攻撃を繰り出す。キラの採った戦法はそういうものだった。

 

ブースターを限界まで吹かし、最大まで加速した”アクセルストライク”は、空中で体勢を変えて蹴りを放とうとした。

滑空状態、つまり地面に脚を付けず、機体各所のスラスターを吹かすだけで体勢を変える。

「あり得ない」。おそらく、見る者が見れば誰もが口を揃えてそう言うだろう絶技だ。

しかし、それを迎え撃った”ブラックストライク”の採った行動も、常軌を逸していた。

 

完璧なタイミングで放たれた跳び蹴り*1。ヘキサはそれを、同じく()()()()()()()

少しだけ後ずさって距離を調整し、ハイキックを放つ。これで、ちょうど(すね)と臑がぶつかり合うような体勢になる。

どんな反応速度があれば、そんなことが可能なのか。ましてや、人体を動かすよりも遥かに複雑な動作を要求されるMSの操縦で。

 

「あはっ、ははは、はっはははははぁ!」

 

哄笑。少女の声が甲高く響き、キラの鼓膜を打つ。

あろうことか、ここに至ってようやく、目の前の黒い”ストライク”のパイロットが年端もいかない少女であることを認識した。

 

<なんなんだ……君は、いったい何なんだ!?>

 

一瞬だけ、ヘキサの表情から笑みが消える。

───酷いことを言う物だ。彼は自分が生み出されるまでに、どれだけの()()()があったのかを知らないらしい。

頭を振るヘキサ。

知らないのも無理は無い。彼は一般家庭育ちなのだから。

 

「知らないなら、教えてあげよっか?」

 

───それでも、そうと分かっても腹は立つものだ。

彼ほどの業を背負った存在になれば、『知らない』ということ、それ自体が罪になるようだった。

ならば、裁かなければなるまい。

自分にはその権利がある。無いなどとは、神にも悪魔にも言わせない。

 

「私はヘキサ。ヘキサ・トリアイナ。貴方の……()()()()()()()()()()()()()

 

<!?>

 

ヘキサは多くのものでキラに劣っている。

反応速度、筋力、体力(スタミナ)。おそらく、戦場における経験値さえも。

それでも、ヘキサは負けない。死なない。

 

「初めまして、何にでもなれる特別な(スーパー)コーディネイターさん」

 

彼女は、()()()()()()()()()()()存在している。

他の能力でどれほど劣っていても、その一点だけは。

『殺人』という一点だけでは、彼女はキラ・ヤマトを上回るのだ。

 

「天性の人殺し……『殺人適正者』の力、もっと、もっと、もぉぉぉぉぉぉぉぉぉっと、見せてあげるよ!」

 

 

 

 

 

「トール君、キラ君、ブレイク中尉……ちぃっ!」

 

その頃、ヒルデガルダは苦悶の声を漏らしていた。

母艦が墜ち、仲間達がやられ、追い込まれていくことに対する悔しみは何を以てしても拭いがたいが、それ以上に彼女を苦しめている存在がある。

 

<ふん、ヘキサの奴め……隠していたのか?>

 

目の前の、ヒルデガルダが駆る”ダガー”ではなく”ブラックストライク”の方を見やるMS。イザーク・ジュールの操る”アイアース”だ。

ここまでは隊長のアスランが追い込まれていることから来る焦りと、ヒルデガルダの猛攻によって接戦に持ち込めていたが、遂に地力の差が出始めたのだ。

優れた遺伝子(さいのう)を持ち、軍人としての教練も───コーディネイター基準では───十分に受けており、何より”ダガー”と”アイアース”では機体性能に開きがある。

ヒルデガルダもナチュラルとしては非常に優れた才能を持ち、SEEDの因子もある才女だ。

それでも、この時点での両者間には、残酷な差が存在していた。

 

「それ、でも!」

 

それを分かっていても、ヒルデガルダは圧倒的格上に立ち向かっていく。

何故なら、任されたから。

自分よりも色々な物が優れているのに、何処か気になる少年が、自分を頼ってくれたから。

 

「引けないの、よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

頭の中で、何かが弾けるような感覚。

ヒルデガルダは何度目かになる突撃を実行した。

 

<しつこいぞ!>

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

<こいつ!?>

 

イザークは驚愕した。

何度いなされても懲りずに突っ込んできた”ダガー”は、あろうことかイザークが反撃で繰り出したビームサーベルを、()()()受けたのだ。

たしかに”ダガー”の胴体にはラミネート装甲が搭載されており、ビームにはある程度の耐性を持つ。

しかし装甲面積の問題などから耐ビームシールドほどの効果は無いとされており、実際に現場からも「基本はシールドで」と認識されているものだった。

それでも、一瞬は保つ。その一瞬にヒルデガルダは賭けた。

 

<捨て身っ>

 

「誰が!」

 

ビームサーベルを胴に受けたまま、”ダガー”は対艦刀を手放し、腰のビームサーベルを手に取った。

密着したこの状態ならば、大ぶりな対艦刀よりも確実に仕留められる。

 

「任されたのよ、行かせたりは……!」

 

<───甘い!>

 

覚悟は、差を埋めるには至らなかった。

咄嗟に背部のブースターを吹かした”アイアース”に押し返される”ダガー”が体勢を崩し、仰向けに倒されてしまう。

そのまま復帰する間を与えずに”アイアース”は”ダガー”の下半身を踏みつけて身動きを封じた。

こうなってはどうしようもない。ヒルデガルダが何をするよりも先に”アイアース”はトドメを刺せる。

 

「あ、ぐぅ……」

 

<……ナチュラルにしては、良い腕だったぞ>

 

賞賛を告げ、“アイアース”はビームサーベルを”ダガー”に突きつける。装甲は二度もビームサーベルを受け止めてくれないだろう。

恐怖と悔恨の念と共に、ヒルデガルダの閉じた目端から涙が(にじ)み出る。

 

(マイケル、ベント、兄弟達、パパ、ママ……キラ君、ごめんっ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<なんだとっ!?>

 

しかし、彼女の終わりは訪れなかった。

何処からか飛んで来たビームが”アイアース”を掠め、飛び退かせる。

どうやら、神はまだ彼女の退場を望んでいないようだ。

 

<聞こえるか、”アークエンジェル隊”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───こちらは”第442戦闘団”、ジャン・キャリーだ。これより貴隊を援護する!>

*1
イメージはスザクキック




あと一ヶ月ほどしたら、更新ペースを少しずつ上げていくように努力していく所存です。
決算処理とかいうクソオブクソイベントさえ無ければ……!

ブラックストライクとヘキサの簡単な解説をやっていきます。
興味の無い方はブラウザバックしても大丈夫なようにしていますので、気楽にお楽しみください。

○GAT-X105ZC ブラックストライクガンダム
ZAFTが奪取した”ストライク”の2号機をヘキサ・トリアイナ専用機として改修したMS。
機体名の由来となった黒いPS装甲は試験的に開発されたVPS装甲の試作品であり、強度が低下する代わりにエネルギーの多くを武装やフレームに回すことが出来るようになっている。

C.Eにおいて高い有用性を見せたストライカーシステムだが、今から研究を始めても連合に追いつけないことが予想されたこと、そして「ナチュラルの後追いをする」ことに対する抵抗感から、早々に本機はデータを吸い出された後に実戦に回されることが決定された。

本機の最強の武装は試作ビームスマートガン『ヴァサヴィ・シャクティ』であり、これは高出力・高収束のビームを高精度で発射する武装であり、その威力は『アグニ』を凌駕するほどだが、要求されるエネルギーも多く、”ブラックストライク”本体の右腰のアーマーシュナイダーを専用のバッテリーに換装しなければならなかった。
本武装最大の特徴は銃口に搭載されたギミックであり、発射時に高性能観測システムが銃口を補正し、長距離の的への命中率を飛躍的に上昇させるとされている。
しかし、パイロットのヘキサが白兵戦を好んでいるためにこの機能が活かされる機会は少ない。

背中に装着された『アーセナルストライカー』はその名の通り武器庫としての役割を持っており、合計で5つまでMS用の手持ち武器を懸架することが可能となっている。
これらは自分で使うだけでなく僚機に使わせることも可能であり、開発者としては本機を中長距離支援機として調整する意図があったのだろうが……。
ちなみにストライカー下部には大型ブースターが内蔵されており、低下した機動力を補う意図がある。
見た目のイメージとしてはターンXが背負っているあれ。

総じて、「攻撃力は目を見張るが、防御力が低めかつ重武装=機動力が低い機体を、大型ブースターで無理矢理に動かす」というピーキー機体。
これを乗りこなすことが、パイロットであるヘキサ・トリアイナの技量を証明している。



ヘキサ・トリアイナ(ランクA)
指揮 11 魅力 5
射撃 14(+2) 格闘 16
耐久 13 反応 15(+2)
SEED 1
空間認識能力

得意分野
・射撃 ・格闘 ・耐久 ・反応

出生地
コロニー『メンデル』

『殺人適正者』。
詳細は不明なれど、「より多くの人類を、より長く殺し続ける」ための才能の持ち主とされており、誕生確率は1億分の1とも言われている。才能が開花する確率は更に下がる。
曰く、「人類の自滅スイッチ」「神からの最後の贈り物(呪い)」。

詳細は今後明かしていく予定ですが、まぁ原作がアコードとか出してきた以上、これくらいやらないと脅威感でないかなと……。
色々な意味で、最近めっきり影が薄い主人公ユージの宿敵です。



誤字・記述ミス指摘は随時受け付けて下ります。
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