機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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お待たせしました、本当に……。
これにて衛星軌道上決戦、終結です。


第140話「Legna」4

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”ペンドラゴン”艦橋

 

「バカな……」

 

リーフの口から、驚愕が漏れ出る。

たしかに『コールブランド』は”ゴンドワナ”に命中した。連合宇宙軍が持てる最大威力の陽電子砲だ、耐えられる筈も無い。

しかし、モニターに映る”ゴンドワナ”には、何らダメージが入っているようには見られなかった。

 

「『コールブランド』を凌いだ……!?」

 

「……いや、ダメージは入っているようだ」

 

隣に座るオルデンドルフは冷静に見極めていた。たしかに、よくよく見れば直撃した箇所に焦げ目のようなものが付いているのが分かる。

しかしそれは、乾坤一擲で放たれた『コールブランド』を防がれたというのが、紛う事なき事実であることも証明していた。

 

「いったい、奴らは何を……!?」

 

 

 

 

 

”ゴンドワナ”艦橋

 

「……とか、考えてくれていれば良いんだがな」

 

アラートが鳴り響く中、クロエは額に付いていた汗を拭った。

虎の子の必殺兵器を防がれて動揺しているだろう連合軍側の動揺ぶりは目にしなくとも伝わってくるが、今のクロエにそれを笑う余裕は無い。

虎の子を引っ張り出したのは、此方も同じだったからだ。

 

(ハインラインの小僧の所から引っ張ってきて正解だったな……『耐熱耐衝撃結晶装甲』……だったか?)

 

この戦いが始まる前に、クロエは()()()()の開発した防御用の装備を準備していた。

アルバート・ハインライン。実力主義の『プラント』においておや、『天才』と評される男から、クロエは試作段階の防御装備を手に入れていたのだ。

もっとも、「手に入れた」というよりは「奪い取ってきた」の方が正しいかもしれないような、乱雑なやり取りの上であったが。

 

 

 

 

 

『承諾できません、この装備は試験は愚か試作したばかりでそれをいきなり実戦で使うなど───』

 

『使えなければそれまでだ。”ゴンドワナ”は沈む、私は死ぬ、多数の宇宙戦力を失ってZAFTも滅びる。誇れよアルバート坊や、お前の作ったオモチャの出来に戦争の行く末が掛かっているぞ?』

 

『アクセルを踏みすぎだ貴方の思考は!?』

 

 

 

 

 

そんなやり取りの後に半ば強制的に持ってきた『耐熱耐衝撃結晶装甲』は、ある程度は期待通りの性能を発揮してくれた。

”ペンドラゴン”の位置と発射角から着弾位置を予測し、その部分にジェル状の装甲を展開。直撃による大破を防ぐことに成功したのだ。

───ただ1つの誤算は、アルバートが想定していた陽電子砲の威力が『ローエングリン』だったことだろう。

 

「第3格納庫、損傷甚大! ダメージコントロールが間に合いません!」

 

「艦内各所で火災が発生……消火急げ!」

 

いずれは十二連装陽電子砲だろうと防げるようになるこのオーバーテクノロジーも、流石に『ローエングリン』の数倍の威力を持つ『コールブランド』を完全に防ぐことは出来なかったようだ。”ゴンドワナ”の艦体をよく見れば、防ぎ切れなかった余波で傷ついているのが誰にも分かるだろう。

もっとも、クロエはその責任をアルバートに押しつけるつもりは無かった。

 

(これらは全て、私の責任だ。そもそも私が、敵の作戦を見抜けていれば、これを使う事も無かった)

 

ふー、と息を吐き、眼を瞑る。

───一瞬の後に、クロエは眼をカッと見開き、高らかに宣言した。

 

「これ以上は被害を増やすだけだ。信号弾撃て、パターンMだ!───全軍、撤退!

 

ザワ、と”ゴンドワナ”の艦橋に動揺が広がっていく。

当然だろう。それは即ち、現在ZAFTが制圧している衛星軌道上を放棄するということ。───戦力差が広がりつつある現状において、地球侵攻の足がかりを捨てるということでもあるからだ。

それでも、クロエは宣言する。しなければならない。

この戦いに参加するZAFT兵達の命を救うために。───そして、遠くないうちに訪れる決戦の時に備えて、兵を残すために。

 

「これ以上の戦闘継続に意味はない。───諸君らの命の使い所は別にある。分かったら撤退だ、撤退!」

 

 

 

 

 

<バカな、撤退だと!?>

 

<そんな……ここで退いたら、地上の同胞達が……>

 

<スプレイグめ、怖じ気づいたか!>

 

”ゴンドワナ”から複数発の信号弾が打ち上げられる。その色が『全軍撤退』を示すとは、ZAFT軍の誰もが知っていた。

敗北に驚愕する者、嘆く者、憤る者。多様に別れた反応は、次の瞬間、等しく驚愕に変わる。

 

<待て、あの信号弾は……>

 

<パターンM!?>

 

早々と後退を始めるZAFT軍の姿を、連合軍側は疑問に思った。

劣勢を悟って撤退を始める、それは分かる。───だとしても、その姿は必死であるように見えた。

傷ついた味方のフォローや追撃を行なおうとするだろう敵への遅滞戦闘のような、戦術的行動を捨てて、ただひたすらに逃げようとしていた。

 

<奴ら、随分と足早に逃げていくぞ?>

 

<いったい何が───!?>

 

───まるで、大嵐が迫ってくることを知っているかのように。

先ほどまで殺し合いが行なわれていた空間を、無数の小隕石が通過していく。

泡を食ったように回避行動を始める連合軍の機動部隊だったが、突如として襲い来る隕石の雨に翻弄されるばかりだ。

 

<まさか、これも奴らの策か!>

 

これこそが、パターンM(メテオ)

戦場から離れた場所に待機させておいた、ロケットエンジンを取り付けた小隕石群を敵艦隊に向けて射出し、撤退の隙を作り出すためにクロエが考えついた策だ。

本来は逃走のためではなく、最初の奇襲で混乱している敵艦隊に対して用いる攻勢のために用意していたものだったが、その効果は絶大だ。

 

<隕石群……くそっ、回避行動行ないつつ迎撃だ!───奴らめ、地球のことなんかお構いなしか!?>

 

ケスラーシンドローム、という言葉をご存じだろうか?

地球周回上のスペースデブリ同士が激突し、新たなデブリを発生させる現象をそう呼ぶのだが、クロエの策はこれを誘発してしまうものだった。

隕石がMSやMA、そして宇宙艦にぶつかればその破片が更に衝突し、更に別の機体にぶつかっていく。加えて、デブリはたとえ数㎝の大きさでも衝突すればトラックの衝突と同程度の破壊力を伴う。

ZAFTの部隊が慌てて後退したのは当然のことだ。モタモタしていれば、それに自分が巻き込まれていたかもしれないのだから。

 

<本当にやりやがったぞ、あの司令官……>

 

<一歩遅ければ、俺達もあの中に……>

 

味方にさえ戦慄されたこの奇策が、ケスラーシンドローム防止の意味でも、後の時代で禁止されることになるのは言うまでもないことだろう───。

 

 

 

 

 

急激に収束しつつある戦場。その片隅で、エース達の戦いも決着を迎えようとしていた。

 

<撤退、撤退だと!?>

 

<兄様、これ以上は……きゃっ!?>

 

<アンネ!>

 

「よそ見は厳禁だぜ!」

 

注意が逸れた一瞬の隙を狙い、“リグレッション”に対艦刀が振り下ろされる。

その一太刀も防がれてしまうが、()()()()の状況にエドワードはニヤリと笑う。

 

(いいぞ、流れは完全にこっちにある!)

 

エドワードとレナはこれまで、徹底的に”リグレッション”と”ファトゥム-0”が合体しようとするのを阻止し続けてきた。

別に合体して強力な単機になるのを恐れたわけではない。それが”リグレッション”の弱点であると見抜いていたからだ。

 

「合体しないとエネルギーが無くなるんだろ、その戦闘機は!?」

 

核動力MSである”リグレッション”と違い、”ファトゥム-0”には核エンジンは積まれていない。

そのため、分離して戦闘を行なった場合はエネルギーが尽きる前に再合体してエネルギーを補給しなければ、戦うどころか動くことすら出来なくなってしまうのだ。

おそらく今の”ファトゥム-0”はエネルギーが尽きかけているのだろう。精彩が欠けた動きと、無理にでも合体しようとする立ち回りを見れば容易く判断出来る。

 

(おそらくZAFT側の策略だが、この隕石群も都合がいい!)

 

エドワードに限らず『マウス隊』の面々はデブリ帯での戦闘経験が豊富であり、その動きが制限されることは殆ど無いと言って良い。

対する”リグレッション”は、パイロットが実戦経験の薄いテストパイロット上がりということもあって更に動きがぎこちないものとなっていく。

 

「レナ、仕掛けるぞ!」

 

<ええ!>

 

今更、細かいやり取りなど必要とするわけもない。

数多くの戦いを共に生き残ってきた彼らは、阿吽の呼吸で”リグレッション”に攻撃を加えていく。

エドワードが接近戦を仕掛ければレナがビームキャノンの連射を浴びせ、レナが狙われればエドワードが『パンツァーアイゼン』を射出して妨害する。

先天的才能ではけして会得することの出来ない、たしかな経験に裏打ちされた連係攻撃を浴びせられ、遂に”リグレッション”の右腕を対艦刀が切り裂く。

 

<こんな、この……ナチュラル風情がぁ!>

 

 

 

 

 

<お兄様、危ない!>

 

妹の声を聞く余裕は、すでにアーチボルドの中からは消え去っていた。

 

(あり得ない、あり得てはならない! このアーチボルド・グールドが、こんな無様を……!)

 

ナチュラルの、しかも量産機如きに良いように翻弄された彼のプライドは既にズタズタだ。

彼はこれまで、失敗や挫折を味わったことは殆ど無かった。同世代のライバル達は容易く蹴落としてきたし、威張るだけの大人達も実力で黙らせてきた。

彼にとってそれらの経験は、「負け犬のための物」としか認識されなかったのだ。

自らが負け犬と認められないその激情は、紛れもなく彼が未熟者である証だ。

───そして、戦場は未熟者が育つのをノンビリと待つほど優しくはない。

 

「うおおおおおおおおおっ!」

 

<───アーチボルドっ!>

 

「っ!?」

 

何が起きたのか、アーチボルドは最後まで知ることは無かった。あるいは彼の脳が理解を拒んだのかもしれない。

───横合いから飛んで来た隕石が”リグレッション”に衝突し、眼前の敵に対して致命的な隙を晒していたなどと、分かる筈もない。

”リグレッション”に向けられる、”エールランチャーダガー”の2門のビームキャノン。

そこから放たれた2つの光条が貫いたのは、”リグレッション”ではなかった。

”リグレッション”を庇うように飛び込んできた”ファトゥム-0”。左翼が撃ち抜かれる。

 

<制御が───!>

 

バランスを崩し、あらぬ方向に飛んでいく”ファトゥム-0”。───その眼前に、一際大きな隕石が迫っていた。

 

「アン、ネ」

 

グシャリ、という音が、アーチボルドには聞こえた気がした。

”ファトゥム-0”が隕石に激突し、前方に突き出たコクピットが真っ先に潰れていく。

ヤケにスローモーションなその光景に何か反応を示す間もなく、”ファトゥム-0”……その残骸は、あらぬ方向へと飛んでいった。

その様はまるで、川に滑り落ちた鳥の死骸が、無抵抗に流されていくようで。

 

「───っっっっっ!!!」

 

既にアーチボルドの思考に、人間的なものは存在しなかった。

彼の頭の中にあるのは、殺意であり、妹を失った悲嘆であり、そしてそのどちらでもない、形容しがたい苦しみ。

───ただ、溢れんばかりのどうしようも無さから、どんな方法でも良いから解放して欲しい。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

駄々をこねる子供のように泣きわめきながら、最後の突撃を行なうアーチボルド。

何かを躊躇うような素振りを見せながらも、”エールソードダガー”は対艦刀を両手で構え直し、迎え撃つ姿勢を見せる。

 

「あっ」

 

決着は、あまりにもアッサリとしたものになった。

対艦刀の横一閃が”リグレッション”の胴体を切り裂き、アーチボルドの身体を一瞬で蒸発させたのだ。

だが、それはある意味では慈悲のある決着だったのかもしれない。

死ぬまでの僅かな時間で正気に返り、完全なる敗北という、余りにも惨めな現実を直視せずに済んだのだから……。

 

 

 

 

 

<鹵獲は……無理だったのでしょうね>

 

「ああ。……あんな風に向かってくる奴が大人しくこっちの思い通りに動いたこと、あったか?」

 

爆発する”リグレッション”を見ながら、エドワードは吐き捨てた。

───これだからZAFTとの戦争は嫌になるのだ。まるで自分達が悪者になったような気分にさせられる。

今のように仲間をやられて激昂する手合いは、たとえ手足を捥がれても向かってくるのだということを2人は知っていた。

 

<しょうがないわ。これは戦争で、戦うと決めて向かってきたのは相手なのだもの>

 

「そんなことは分かってる。ただ、スッキリしないってだけだ」

 

そして、2機のMSは母艦に帰投するために踵を返す。

2人が何を思ったところで、顔も知らない敵のために出来ることなど無い。そして、躊躇することも無い。

───次の瞬間には、自分達があのようになっていないと限らないのだ。

 

 

 

 

 

<びえぇぇぇぇぇぇぇんっ!>

 

「ああくそ、喧しいぞ小娘! そんなに死にたくないなら、さっさと機体を捨てて投稿しろ!」

 

<悪いようにはしませんよぉ!? いやホントにぃ!>

 

泣きわめく敵パイロットを一喝するモーガンと、何処か共感を滲ませながら説得を試みるセシル。

『ドラグーンシステム』を擁する”リベレーション”との戦いもまた、終局を迎えつつあった。

 

<出来ないよぉぉぉぉぉぉぉっ、どうして出来ないのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?>

 

「俺が知るかっ!」

 

間違い無く、彼女は錯乱している。モーガンは思わず頭を抱えたくなった。

しかしその全てが妄言というわけでもない。

”リベレーション”を始めとする『レグナ部隊』の全MSには自爆装置が搭載されており、「鹵獲された」とコンピュータが判断すれば、勝手に自爆してしまうのだ。

仮にパイロットが投降して機体を捨てたとしても、コンピュータはそれを『敵前逃亡』と判断する。そして機体の情報を守るために、パイロットを巻き添えにして自爆するのだ。

退くも地獄、進むも地獄。───彼女の明日はどっちだ。

 

<こうなったら無理にでも動きを止めるしかないですよぉ、モーガンさん!>

 

「分かってる!」

 

こうなっては説得は無理だ。モーガンは速やかに、敵機を無力化する算段を立て始めた。

幸い、デブリが漂い始めたこの状況は『マウス隊』にとって有利に働いている一面もあった。

───ここで、詰める。

 

「セシル、ここだ!」

 

<はいっ!>

 

モーガンの作戦を、セシルは一瞬で理解した。

2人の駆るMSはデブリを軽々と避けながら”リベレーション”に迫り、複数の方向からビームを射かける。

 

<怖いこの人達ぃぃぃぃぃぃぃ!>

 

障害物(デブリ)など無いかのように戦闘を続行する2機を恐れ、”リベレーション”は後退し続ける。

───それが2人の狙いだと知らずに。

 

<もう、これでっ!>

 

()()()()()()()()な感情のままに、”リベレーション”は4機の『ドラグーン』を射出する。

 

((来た!))

 

戦いの最中”リグレッション”が何度か見せた攻撃、全ての武装を同時に発射するフルバースト攻撃だ。

加えて、”リベレーション”がいるその場所はデブリの数が少なく、『ドラグーン』の動きを阻害するものも無い。

多重の精密攻撃によって打撃を与え、追撃なり逃走の機会を作り出す。そういう魂胆だった。

 

<私は右をっ!>

 

「じゃあ、左か!」

 

そして、この状況はモーガンとセシルの2人によって作られたものだった。

『ドラグーン』に狙われた2機は、自分が撃たれる前にビームを発射し、それぞれ1機ずつ『ドラグーン』を撃ち落とす。

 

<えぇっ!?>

 

敵機の動揺を余所に、2機は更にビームを連射。残った『ドラグーン』を撃ち落とされ、”リベレーション”は瞬く間に全ての『ドラグーン』を失ってしまった。

 

<モーガンさん、いってください!>

 

「これで、終わりだ!」

 

 

 

 

 

(なんで、この機体の弱点を知っているの!? いやそれより『ドラグーン』が……!)

 

錯乱しつつも生存本能を全開にしていたビティスは、しかし動揺して動きを止めてしまった。

“リベレーション”は『ドラグーンシステム』と『マルチロックオンシステム』、2つの新システムを搭載した革新的な機体だ。

しかし、如何せん高度かつ複雑なシステムを両立させるには時間が足らず、『マルチロックオンシステム』起動時には『ドラグーン』の動きがぎこちなくなってしまう、という弱点を持ってしまっていた。

 

(まさか、誘導されて……!)

 

ビティスは、この状況が目の前の敵機によって仕組まれたものだと悟った。

”リベレーション”の弱点を見抜き、敢えて開けた場所に追い込み、そして『ドラグーン』を使わせた。

そしてビティスは、まんまとその罠に引っかかってしまったのだ。

 

<モーガンさん、いってください!>

 

<これで、終わりだ!>

 

その声が聞こえた時、ビティスの視界には。

───自分に向かって突き出される、鋼鉄の杭が映っていた。

 

 

 

 

 

ドガンっっっっっっ!

 

 

 

 

 

「───」

 

響き渡る轟音。揺れるコクピット。シェイクされる自分の中身。

それらを認識した時、ビティスの中の、何かが切れた。

まるで、限界ギリギリまで引っ張られたゴムが千切れる時のように。金魚すくいで使うポイに張られた紙が、水に濡れて破けるように。

ギリギリで保っていた心に罅が入り、そして。

 

「あっ……」

 

ビティスは自分の股間に、気持ち悪い温もりを感じた。

 

 

 

 

 

<ぴゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!>

 

<うおっ!?>

 

───仕留めた。

モーガンの機体が装備したパイルバンカー───パイロットを気絶させるために敢えてPS装甲製の敵機に撃ち込んだ───が直撃を確認したセシルの予想を裏切り、”リベレーション”は未だに動いていた。

もっとも、それは自分達に害をもたらすものではなかった。

”リベレーション”は、先ほどまで激戦を繰り広げていた2機を無視するように、()()()()()()()

デブリや戦艦の残骸に身を掠めたり、時にはぶつかったりしながらも全速力で逃げる”リベレーション”。

その姿は、敵であるモーガンやセシルであっても憐憫を感じざるを得ないものだった。

 

「……やりすぎちゃい、ました?」

 

<知らん。……頭が痛くなる相手だった、二度と戦いたくない>

 

「同感ですぅ……」

 

どちらにせよ、今からでは追いつくことは出来まい。

戦闘も終息しつつあるようであったので、帰投しようとする2人。

そこで、セシルは奇妙な胸騒ぎを感じた。

 

「……アイクさん?」

 

 

 

 

 

<がぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!>

 

「う゛ぁああああああああああっ!」

 

猿叫を挙げながら、アイザックはスロットルを押し込む。

持ち主の闘志に従って”デュエル”がビームサーベルを”オーサム”に押し込み、その度に敵パイロットの悲鳴が響いた。

規格外のパワーを持つ『ヒーツ』の直撃を受けた”オーサム”の装甲には大きな傷痕が作られており、もはや鉄壁の装甲は機能していなかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……うおらぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

アイザックの目に理性は残っていなかった。

あるのは、何処までも曇り無い殺意だけ。自分の大切なものを奪おうとする害敵を排除する。その為だけに、今の彼は動いている。

 

<ご、ぢぐじょうがぁぁぁぁぁぁぁっ!>

 

だが、”オーサム”もやられっぱなしではなかった。

懸命に”デュエル”から逃れようと殴打し、PS装甲をオフにした灰色の”デュエル”を打ち据えていく。

”オーサム”の巨大な拳に撃ち抜かれ、”デュエル”の頭部がひしゃげながら胴体から千切れ飛ぶが、それでもアイザックは止まらない。

 

「ちぃっ、まだまだぁ!」

 

ビームサーベルを突き込んでいた左腕が破壊されたのを理解したアイザックは、すかさず右腕にビームサーベルを持たせ、傷口にナイフをねじ込むように更に突き込む。

更なる敵の悲鳴が聞こえてくるが、アイザックの精神は別の物にかき乱されていた。

 

(あとどれだけ刺せばいい!?)

 

敵が死ぬまで。

 

(どれだけ続ければいい!?)

 

敵が滅ぶまで。

 

(くそ、くそ、くそ……!)

 

これこそが人の宿命。

 

「───黙れよぉ!」

 

自分の中から聞こえる、危険な『声』。

これいじょうはいけない、と分かっていても止めることが出来ない。───その声は、自分の激情を肯定しているだけだから。

止めるべきはこの『声』ではなく、自分自身の激情だ。

 

「なにっ!?」

 

アイザックが葛藤している間にも事態は変化していく。

何処か重要な回路が破壊されたのだろうか、”オーサム”の赤いPS装甲が、たちまち灰色に色あせていく。───フェイズシフトダウンだ。

それだけならむしろ朗報だが、なんとここで”オーサム”は、”デュエル”の両肩を掴んで動きを止めたのだ。

 

<ぎひ、ひひひひひ……お前は、お前が、死ぬんだぁ!>

 

「自爆か!?」

 

なんとか脱出を試みて身体を捩る、あるいは”オーサム”を蹴りつけるが、拘束は揺るがない。

”オーサム”の自爆がどれだけの破壊力を持つかは分からないが、今の”デュエル”が耐えられないだろうことは簡単に予想が付いた。

 

(これが、結末か)

 

アイザックは、目の前に迫る死を前に、心が急速に冷えていくのを自覚していた。いつの間にかあの『声』は聞こえなくなっていたが、そんなものはどうでもいい。

敵を排すること、殺すことだけを望み、その果てに道連れにされる。獣畜生の方がまだ立派に死ねるだろう。

彼の胸を占めているのは、自分の帰還を待っているだろう仲間達への謝意と、愛する人への想いだけ。

 

「セシル、ごめん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<───アイクさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……!?」

 

バーバルは、身体中に激痛が走る中、信じられない物を見た。

”オーサム”の装甲を過信し、更に(ナチュラル)を見下した彼はパイロットスーツを身につけておらず、爆発した機材に身体をズタズタにされていたのだ。

だが、その痛みを忘れる光景が広がっていたのだ。

 

「待で、よぉ……!」

 

手を伸ばした先には、頭部と両腕を失った”デュエル”が、”イージス”に抱えられて離れていく姿が映っていた。

駆けつけた“イージス”が”オーサム”の両腕をサーベルで切り裂き、道連れにされる寸前の”デュエル”を救ったのだ。

だが、肝心なのはそんなことではない。元より、今のバーバルにそこまでの思考を働かせる力は残っていない。

 

「うぞだ……おれが、ごんな……」

 

既に自爆装置のカウントは始まっており、止めることは出来ない。そして、”オーサム”のメインシステムは既にダウンしているため動くことも出来ない。

つまり、バーバル・ブレーという男は、ここで1人で死ぬのだ。

そんなことがあってはならない。自分は優れた存在であるのに、最高であるはずなのに。

こうなった原因はなんだ? そうだ、こんな鈍亀(オーサム)に乗っていたからだ。

何が『最高(オーサム)』だ。こんな、こんな、こんな───!

 

最悪(ざいあぐ)だぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁっ!?」

 

 

 

 

 

<バカ、バカ、バカ……アイクさんの、バカぁ……!>

 

「……セシル」

 

”オーサム”の爆発に照らされながら、”デュエル”は”イージス”に抱えられて”コロンブスⅡ”に向かっていた。

そのコクピットで、アイザックはモニターに映る恋人を見つめる。

彼女は、荒い画質のモニター越しでも分かるほど、涙を溢れさせていた。

 

<わた、わだし、アイクさんが、死んじゃう、かと>

 

「……ごめん」

 

泣きじゃくるセシルに謝罪しながら、アイザックは眼を瞑り、溜息を吐いた。

突如として現れた強大な新型MSや、戦いの中で聞こえてきた声など、考えるべき事は多い。

だが、今はそんなことはどうでも良かった。

───ただ、セシルを、その柔らかな身体を、思い切り抱きしめたかった。

 

 

 

 

 

斯くして、戦いは終わった。

しかしその結末は、何処か寒々しい物に終わってしまったと言わざるを得ない。

 

ZAFTはこれで衛星軌道上の支配権を失い、地球上への干渉力を大きく減らしてしまった。

しかし対する連合軍側も、けして少なくない損害と、ZAFT側の奇策によるケスラーシンドロームの後始末という問題を抱えることになった。

また、敵旗艦である”ゴンドワナ”の撃沈にも失敗し、ZAFT宇宙軍がある程度の戦力を保持したままでの撤退も許してしまっている。

 

果たして、この戦いの勝者は誰だったのか。

その答えを持つ者は、この時、何処にも存在しなかった……。




Q,スッキリと戦いを終わらせられないんですか?
A.スッキリ終わる戦いなんてあるわけないだろ、いい加減にしろ!

というわけで、作者の性癖というか悪癖を拗らせた決着です。
どっちかだけが圧勝する戦いがどうしても苦手で……。

この後、2話ほど書いたら新章に突入予定です。
気長にお待ちください。

感想、心よりお待ちしております。
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総合評価:3776/評価:7.99/短編:7話/更新日時:2026年02月27日(金) 19:30 小説情報

やめてよね。俺が准将に転生しても同じように戦えるわけないだろ!(作者:よみや)(原作:ガンダム)

気がついたらキラ・ヤマトになっていた主人公が、地獄のようなコズミック・イラ世界で頑張る話。▼


総合評価:20413/評価:8.59/連載:21話/更新日時:2026年02月24日(火) 15:30 小説情報


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